小学生和愁の吸血鬼パロです。
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俺は吸血鬼なんだ。
淡々とそう言われたのは、つるむようになってから一年くらい経った頃。愁の家で、一緒に宿題を終えた時だった。
別に毎日人を襲って血を吸ってるわけじゃねえ。鉄分の多い食事を心がけて月一回輸血パック買って飲むくらいだな。あと日光とにんにくが苦手ってのは迷信だし、十字架が苦手ってのもキリスト教社会じゃない日本産の吸血鬼にとっちゃほぼ迷信だ。それから吸血鬼でもそこそこ年は取る。いつか成長は止まるらしいけどな。牙は出したりしまったりできる。だから俺が吸血鬼な理由は牙くらいしかお前に見せられねえ。でも俺は吸血鬼だ。
そうマシンガンのような怒濤の勢いのカミングアウトをされ、オレはただ目を白黒させるしかなかった。
他のダチなら冗談だろ、で笑って済ますところだが、愁の目は真剣そのもので、とても冗談を言っている風には見えなかった。
牙、あるのか?なんて、聞いた気がする。見るか?と愁はオレの方に身を乗り出した。とっくに見慣れたはずのやたらと綺麗な顔が近付いてきて、何故だかどきりと心臓が高鳴った。愁がそっと開いた小さな口の中、犬歯にあたる部分には、普通の歯よりも長く、鋭い牙が確かに生えていた。
なんで、オレに打ち明けたわけ。
ふと、その牙がオレの首筋に噛み付き、体内の血を吸出す様を想像して背筋が震えた。でもそれは恐怖ではない別の何か。
お前には、隠したくねえって思ったから。
そう、長い睫毛を伏せて呟く愁に、どくどくと全身を血が巡るような心地がした。血は下半身に集まっていき、下半身がずんと重くなる。
言ったぞ、俺は吸血鬼だって。嫌だって思ったら帰りたきゃ帰ればいいし、別に俺とつるむのやめたっていい。
そう言いながら離れていく愁を、惜しいと感じてしまった。もっと近くで見ていたい、触りたい。そんな欲はぐるぐると体の中を巡る。
オレ、愁になら血吸われてもいいぜ。
そんな言葉が、突然に口をついて出た。愁はオレの言葉に目を見開き、すぐに呆れたように溜め息を吐いた。
俺がお前の血を吸ったら、お前も吸血鬼になるぞ。吸血鬼の寿命は普通の人間よりずっとなげえし……。
悪くねえかも。愁も一緒だし。
……ったく。絶対吸わねえからな。第一、最近の吸血鬼は人から直に血を吸ったりしねえし俺もやったことねえ。
そう釘を刺すように言いながら、でも愁の瞳が揺れていたのを、オレは見逃さなかった。