幸せの唄(再録)(和愁)

和愁未来捏造。
一人でブロードウェーを目指し渡米した空閑を虎石が訪ねる話。

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 するり、と腕の中の温もりが動いたのを感じて、夢うつつの中を漂いながら思わずぎゅっと抱き締める。すると腕の中の虎石がもぞもぞと寝返りを打ってきた。うっすら目を開けると、日が登り始めているのか、部屋に差し込み始める光が目に沁みた。目が慣れるに連れ、にやにや笑いながら俺の顔を覗き込む虎石の顔が見えてきた。
「なーに愁ちゃん、おねむ? それとも甘えた期?」
 何か下らないことを言っているが、耳から脳へと響くその声が心地好くて、虎石を抱き寄せながら俺は目を閉じた。頭を撫でられる感触がふわふわした眠気を誘い、俺は躊躇わずにその眠気に身を任せることにした。だが虎石はお構いなしに話しかけてくる。
「なあ愁」
「……」
「愁、こっち来てからずっとここに一人で暮らしてるんだよな?」
「……」
「寂しくねえの?」
 答えるのも面倒なので、俺は返事の代わりに腕に力を込めた。すると虎石の心底嬉しそうな笑い声が、ぼんやりした意識の中でぱちぱちと弾ける。
「……そっか」
 ぎゅう、と強い力に抱き寄せられるので、俺はその温かさに黙って身を委ねることにした。どうせ俺しか住まないのだからと適当に買ったパイプのシングルベッドは二人で並んで寝るには狭くて、でも抱き合って眠るのにはちょうどいい広さということを、今日初めて知った。

 NY・ブルックリン、AM7:12。
 半年ぶりの恋人同士の夜に朝が訪れるまで、あと数分。

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