抱き枕(再録)(和愁)

 何かを抱き締めながら眠ると、ひどく安心する。
 オレも愁もそういうタイプだから抱き枕は欠かせなかったりするわけだが、一緒に暮らして一緒のベッドで寝るようになったら、そんな抱き枕に頼る必要なんてない……とか、余裕ぶっこいてたわけだけど。
 愁は力が強い。知ってた。
 体格もちょっとだけオレより良い。ほんとにちょっとだけどな。
 ただ、寝てる時すらこんなに強く抱き締めてくるなんて思ってもいなかった。
 
 率直に言おう。
 オレは今、爆睡中の恋人に抱き締め殺されかけている。
 
 ぎりぎりと万力のようにオレを締め付ける両腕はしっかりオレの体に巻き付いていて、脱出なんて到底不可能だ。オレの腰には愁の脚が絡まっていたりするから体を動かすこともほぼできない。肝心の愁は両目を閉じてすやすや寝息を立てている。そう、長い睫や形のいい唇が目の前にある。
 無駄に可愛い寝顔しやがって。オレは今おまえのせいで命の危機なんだけど。
 しかも一度眠りについたら愁はなかなか起きない。
 締め付けられている体が軽い痛みを訴え始めている。ヤバいんじゃねーかなこれ。
 恋人同士一つ屋根の下ってもうちょっと甘いものだと思ってた。まさか初日の夜に命の危機を感じることになるとは思ってなかった。
 ああ、早く朝になんねーかなあ……。
 ……まあでも、こんなに必死で愁がしがみついてくるのは悪くねえかもな。全身に愁の体温を感じて、いい気分になれるし。
「虎石……」
 名前を呼ばれて心臓が跳ねる。寝言だと分かっていてもドキドキするな、こういうの。愁の夢の中にもオレがいる。最高。
 ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。
 締め付ける力が一段と強くなって内臓が悲鳴を上げ始めた。
 
「待った! 待て愁! おい起きろ! このままだと死ぬ! オレが!」
 
 早く朝になんねえかなあ……。

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