死神の夢(再録)(和愁)(※パロ)

公式ツイッター2016年ハロウィン企画の空閑が命を刈り取りそうだったので書きました。

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 その時空から、不思議な光が降りてきたのです。

「……? なんだ……?」
 夜六時過ぎ。学園と寮の間の短い道を歩いている途中だった虎石は、思わず足を止めて空を見上げた。
 濃紺の空を白い何かが不自然に強い光を放ちながら、否、不自然に強く白い光が地面に向かってゆっくりと降りてきているように見えたのだ。しかもそれはなんだか、こちらに向かってきているようで。
 現実離れした現象が唐突に目の前で起こっていることに唖然とするしかない虎石。
 やがてその光は地面に降り立ち、パッと眩い光を四方八方に放った。
 光の中から現れたそれは、

「……俺だ」
「って愁かよっ?!」
 光の中から現れたのは、空閑だった。小中高と同じ学校に通い、腐れ縁でもある親友の顔を見て思わずほっとし、異常な登場であったことも忘れて虎石は空閑に近付く。
「びっくりさせんなよな~……ってか、なんだよその変なカッコ」
 空閑は、虎石には見覚えのない格好をしていた。やけに裾がボロボロな黒い着物を着て血のように赤い頭巾をかぶり、頭には髑髏のような仮面を着けていた。おまけにその手には、禍々しく光る刃も鋭い大きな鎌。そう、その姿はまるで……
「死神……のコスプレか?」
 漫画に出てくる死神を思い出しながらそう言うと、愁は「何言ってんだお前」と怪訝な顔をした。
「コスプレじゃねえ。俺は死神だろ」
「……は?」
「今更どうしたんだ、二年前からそうだっただろ」
「え、いや、はぁ? 何言ってんだよ愁?」
 空閑の突飛な発言に思わず聞き返すと、空閑は呆れたように溜め息を吐いた。
「二年前、俺は人間でありながら死神を始めた。親父が死神だったからな、その力を受け継いでだ……お前だけには話しただろ、忘れたのか」
「全っ然覚えがねえんだけど……」
 夢でも見てるのか、と虎石は思い始めた。どっきりにしては大掛かりすぎるし、目の前の空閑の顔は嘘を言っているようには見えない。
 夢なら夢で良いか、と開き直り、虎石は空閑の格好をまじまじと見た。
「えっなに愁、マジで死神なわけ?」
「そうだ。本当何も覚えてねえんだな……」
「死神って、何すんの?」
「死んだ人の魂を、安全に天に送り届けたり、たまに地獄に落としたりする。まあ、交通整理みたいなもんだな」
「へえ、じゃ、オレが死んだら愁が天国まで送ってくれるわけ?」
「……そう、なるな」
 急に歯切れが悪くなる愁に違和感を感じる。なあ愁、とその肩に手を伸ばした瞬間、目の前が真っ白になった。

「……し。おい、虎石」
「……ん?」
 目の前にあるのは、よく見慣れた空閑の顔。妙に背筋が痛いと思ったら、どうやら机に突っ伏して眠っていたらしい。がばりと体を起こすと、夕暮れのオレンジの光に染まった教室が目に飛び込んできた。
「……教科書返すから、っつってわざわざ教室まで呼び出しておいて居眠りか?」
 空閑が着ているのは、ブレザーにスラックスの綾薙学園の冬制服。胸ポケットにはスター枠のエンブレム。手にしているのは鎌などではなく、通学鞄。
 さっきまで見ていたのは夢だったらしい、と虎石が気付くのにそう時間はかからなかった。
「悪い……オレ寝てた?」
「ああ」
「えーっと教科書……だよな? あったあった、ほら」
 机の中に入れていた空閑の教科書を渡すと、「いい加減忘れ物癖治せよ」とちくり。
「なあ愁、オレ変な夢見たんだけどさ」
「ん?」
「愁が死神やってて、オレのところに来る夢」
「なんだそりゃ」
「変な夢だよなあ」
 でもなんか、愁ならいいかって。だって、オレが死んで天国に行く前に、最後に絶対愁に会えるんだろ。
 そう、喉まで出掛かった言葉は、そっと奥にしまう。こんなことを言われて喜ぶ空閑ではないことくらい、虎石には分かっていた。
「ま、夢のことなんかどうでもいいからさ。帰ろうぜ」
 立ち上がりながら言うと、空閑は悪い、と前置きした上で、
「俺はバイトだ」
 と素っ気ない一言。その素っ気なさが、どういうわけか胸に刺さる。
「なんだバイトかよ~、せっかく一緒に帰れるかと思ったのになぁ~」
 大袈裟に肩を落とすと、「また今度な」と空閑は呆れながらも言ってくれた。その優しさがなんだか痛くなる。
 せめて玄関口までは一緒に、と、虎石は通学鞄を掴むと空閑の肩にじゃれるようにして手を掛けた。
 空閑がその手を振り払わなかったことに僅かに安堵しながら、虎石は空閑と共に玄関口を目指したのだった。

 廊下の窓から橙から紺に変わりつつある空を見て、ふと虎石は考える。なんであんな夢見たんだろう、と。なんで愁が死神だったんだろう、と。

 虎石は預かり知らぬ事だが、実は別の世界にちゃんと、死神をやっている空閑が存在していたりするのだが。
 それはまた、別の話。

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