in虎石家など虎石家の情報が出る前に書いたものなので虎石パパのキャラが若干おかしいです注意。
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愁が寝そうだ。
実家のリビングのソファの上。すぐ隣に座っている幼馴染みの、今にも意識が飛びそうなぽやぽやした面を見て、俺は思わず今の時間を確認した。
23:40。
「お~い愁、しっかりしろ~」
手を伸ばして肩を掴んで軽く揺すると、愁は「ん……」と声を漏らし、目をごしごし擦った。
「愁君、もしかして相当疲れてる?」
ローテーブル前に座ってアイドルのカウントダウンコンサートを見ていたお袋が俺達を見て言うと、「そうみたい」と愁のお袋さんが苦笑い。
「和泉くん、愁起こしてあげて。これで年越しの瞬間に起きてられなかったら、この子多分気にしちゃうから」
「了解っす」
俺と愁の付き合いは長い。そして、俺のお袋と愁のお袋さんは仲が良い。だからこうやって季節のイベントを家族ぐるみで一緒に過ごすのは当たり前になっていた。
年越しも、俺の家族と愁の家族の五人で過ごす。年越しそばを食べながら年末特番を見て、年が変わる瞬間に新年の挨拶をするのが昔からの定番だ。
「愁君、アルバイト大変なんだって?」
「そうなの、今日も朝バイトしてから帰って来たみたいで」
「うちのドラ息子とは大違いだなあ……」
おううるせえぞ親父。
「愁~起きろ~」
大人三人のお喋りを適当に聞き流しつつ、俺は愁の意識を繋ぎ止めるべくあの手この手で愁の気を引こうとしていた。軽く頬をつねってみたり、耳元で手を叩いてみたり。
愁も頑張って起きていようとしているのだろう、目を何度もしばたかせたり擦ったりしている。
だけど愁の眠気は相当強いみたいで、一度覚醒したと思ってもすぐ船を漕ぎ始める。
……俺なんかよりずっと苦労してるんだよな、こいつ。少し胸が苦しい。せめて正月休みくらいはゆっくり休んでほしいけど、新年を迎える瞬間までは頑張ろうな。あとちょっとだけだから。
気が付けば新年を迎える5分前。
「おい愁! もうちょっとだから頑張れって!」
「ん~とらいし……」
「ど、どした?」
むにゃむにゃという音が聞こえてきそうな愁の喋り方。気が抜けきっているのが一目瞭然だ。
ごしごし目を擦る姿は、俺と同い年の高校生というよりは無理に夜更かししている子供みたいだ。
「……眠い」
「見れば分かる!」
「愁、頑張って~もうちょっとだから~」
愁のお袋さんに応援され、愁はこくこく……というよりがくがく頷く。
あと3分。
ここまで来ると無理に起こす必要はない気がしてきた。でも毎年の恒例行事を逃したら多分こいつは少し凹む。それが分かっているので、俺は愁に話しかけ続ける。言ってる言葉の意味はこの際どうでもいい。
「愁~もうちょっとだなら頑張れよ~、今年も色々ありがとな~」
「……消しゴム返せ、あと現国のノート」
「お前実は起きてるだろ?!」
愁の肩が揺れる。でもこれは眠いとかじゃない、笑ってるんだ。
おもむろに、眠気で蕩けた愁の目が俺を見た。細められた菫の瞳が楽しそうに、幸せそうに揺れる。
「……俺こそ今年もありがとうな、和泉」
「は……」
滅多に呼ばれない下の名前を呼ばれ。
唖然としていると、テレビからカウントダウンの声が聞こえてきた。
『54、53、52……』
「あんた達、カウントダウン始まったよ」
俺はお袋の声で我に返り、愁もまだ眠そうな目を擦りながら身を乗り出した。
「お、おう」
「ん……」
『40、39、38……』
次第に場にいる全員で声を揃えてカウントダウンを始める。
20、19、18、
もうすぐ新たな年を迎える興奮で、胸が高鳴る。ちらりと隣の幼馴染みを見ると、(物凄く眠そうなのに変わりはないけど)いつもの大晦日より少し明るい顔でカウントダウンをしている。
今年は別々にいる時間が長かったけど、お互いに今年も良い年だったよ。なっ、愁。
10、9、8、
すると愁も俺を見た。
目が合う。どちらからともなく吹き出してしまい、俺達は笑い合いながらカウントダウンを続ける。
5、4、3、2、1、
テレビの中で「2016」の文字が踊る。
「あけましておめでとー!」
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
俺達も口々に新年の挨拶を交わす。
「あけましておめでとっ」
愁の肩目掛けて飛び付くと、愁はいつもと変わらない低い声で
「あけましておめでとう」
と言い、俺に押し倒されてぼふっとソファに沈んだ。穏やかな笑みを湛えたその瞳が眼下でゆっくり閉じられ、僅かに開いた形の良い唇から呼気が漏れる。
「……すぅ……」
「えっ」
俺は愁の目の前で手を振ってみるが、反応はない。愁の上からどいてみると、胸がゆっくり上下しているのが服の上からでも分かる。
「寝たの?!」
「あらあら、頑張ったわね愁」
「頑張ったねえ愁君」
愁のお袋さんも俺の両親も流石に笑ってる。
「ごめんね、愁のこと朝まで泊めてもらってもいい? 朝ごはんの時間にはうちに帰しちゃっていいから」
「いいよー。和泉、部屋まで愁君運んでやんな」
「はいよ」
とは言え俺とほぼ同じ体格の気持ち良さそうに寝ている男を、階段上ってリビングから部屋まで運ぶのは流石にきついので、俺はまた愁を起こす羽目になるのだった。
「愁ー! 起きろー! ベッドで寝んぞー!」