彦星についてのエトセトラ(廉聖)

「彦星の野郎牛車持ってんなら七夕にかこつけず自力で天の川渡ってみやがれってんだ、お前もそう思うだろ聖」
「は?」
 土曜日だからと北原の期末テストの勉強の面倒を見てやっていたら急に意味不明な事を言い出した。
 正直北原が何を言いたいのか特に理解する気もない南條は、適当に首肯する。
「うん、まあ、廉がそう思うならそれでもいいんじゃない?」
「なんだその適当な返事は、有罪だ」
「廉が勉強途中で急に意味不明な事言い出すのが悪いんですけど?」
「今日は七夕だからな、昔から思ってた事を言っただけだ」
 わし座のアルタイル。彦星──牽牛星。牛車の図案で表されるそれを見てそう思ったのだろうか、と南條は何となく当たりを付ける。しかし牛車があるなら川を自力で渡れ、というのはどんないちゃもんの付け方だろう。そもそも牛車で渡れる程度の川なら大した恋の障害にはならないのでは、とも思う。
「……ま、昔から想像力豊かなのはよろしいし、牛車なんて廉が知ってたのも驚きだけど。今は勉強しようか?廉、今度のテストの範囲やばいって言ってたよね?」
「いちいち一言多いぞ聖」
 北原は不服そうな顔をして、シャーペンを手の上でくるくると回す。そしてすぐにニヤリと笑った。
「まあ安心しろ、オレが彦星だったら天の川くらい泳いで渡ってやる。出不精なお前の分まで頑張ってお前に会いに行ってやるよ」
「……なんでこの流れで俺のこと口説こうとしてるわけ?」
「は?今のどこが口説きだ」
「うっわ……」
 無自覚とか、よっぽど有罪だと思うんですけど。
 南條は勝手に熱くなってきた顔を天井に向けた。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

北原が雑にイメージしているのは沖縄の離島などで観光資源として行われている水牛の牛車のやつです。

[戻る]