疲れ切った顔で帰宅した父に花束を渡したら、どんな顔をするのだろうか。
おかしな点はない、筈だ。
今日は父の誕生日で、いつもより少しだけ豪勢な料理を作って、テーブルメイクも張り切って、プレゼントとちょっとしたケーキなんかも用意したりして、そこまでは昨年もやった。
でも今年はそこに花束を追加した。追加してしまった。
息子が父の誕生日に花束を送るというのが何かおかしいかと言えばおかしくはない、と思う。家族が家族に花を送るのはごく普通の事だ。少なくとも母さんが生きていた頃の僕の家はそうだった。他の家庭はどうだか知らないが。
それに今年……いや昨年、今年度の僕の誕生日には成人を迎えたからと色々して貰った。その恩に報いる程の金銭的価値がこの花束にある訳ではない。第一、あの父と金銭面で釣り合おうなど到底無理な話だ。
それでも、どうしても気持ちでは報いたいと。そうして辿り着いた結論が、花だった。
白い花を中心に選んだらホワイトデー用ですか、と花屋の店員さんに聞かれたので違います、と慌てて否定して、父の誕生日に、とそれから続けた時の奇妙な気まずさを思い出すと顔が熱くなりそうだ。
それにしても少し大きすぎただろうか……薔薇は本数で花言葉が変わると店員さんに教えて貰って、それで束ねたい花との兼ね合いとか色々相談していたらいつの間にかそれなりの花束になってしまって……ああ、もうすぐ帰ってくる。
渡す時はきっと固い表情になってしまう。それでもこの花達に込めた何かが伝わればいい、伝わって欲しい。もう既に顔から火が出そうだけれど、心臓の鼓動もやたらうるさいけれど、緊張で喉も固いけれど、それでもきっと、ちゃんと渡せる。大丈夫。
リビングを何周も歩き回って呼吸を落ち着かせながら、何度も何度も渡す瞬間をシミュレートする。それでも、受け取った時に竜弦がどんな顔をするのかだけは想像もつかない。
……喜んでくれれば、良いんだけど。
僅かな杞憂を振り払い、大きく深呼吸をして腹を据える。
竜弦の霊圧が、自宅のガレージに到達した。
花束を手に、玄関へ。
ドアが開くのを待ちながら、手の内にある花達にそっと願いを込める。
どうか少しでも。
この花が、父を優しく暖めてくれますように。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
この話と少しだけ繋がってます。
当サイトはこれからも不器用に少しずつ歩み寄ろうとする石田親子を応援していきます。