ピエールの使い魔の都築編
「さあ、カエル達。歌を、奏でよう」
ケイが指揮者のように腕を振ると、ケイが自身の周りに呼び出したカエル型の魔力達が一斉に口を開いた。
始まったのは、カエル達の大合唱。
ケイもまた、カエル達と共に歌い出す。
どこまでも楽しそうに高らかに歌いながら、ケイはカエルの合唱団を指揮でリードする。
すると歌は虹色に煌めく魔力の渦となり、音符の形をしてピエールの周りをくるくると舞い始めた。
「僕の魔法はマスターのサポートに特化しているので、攻撃にはほとんど向いていないのですが」
「サポート……?この魔法には、どんな力があるの?」
「今の魔法自体はお試しなので、あまり大した効果では。夜ぐっすり眠れて、転んだ怪我が治りやすくなる。そのくらいです。本気を出せば、マスターの魔力を更に強くしたり、マスターの身体能力を向上させることも出来ますよ。あの山を、マスターがジャンプで飛び越えられるくらい」
「わあ、すごい……!あ、でも、だったらやっぱりボクじゃケイのマスターには相応しくないよ……」
「何故です?」
「だって強力なサポート魔法って、元から強い人にかけた方がメッチャークを倒す時に有利になれるでしょ?学校でそう習ったよ。ボクは弱っちいし、勇気もないし……」
「ふむ」
最近の魔法学校ではそういった教え方もしているのか、とケイは考える。ピエールの故郷は既に闇の魔法使いに支配されているそうだし、そういった実践的な教えが中心になるのも致し方なしか、と思うと同時に。
「その考えはある意味正しいですが、二つ間違いがありますよ、マスター」
カエル達の合唱は続けさせたまま、ケイはピエールの前に指を二本立てた。
「え?」
「一つ。サポート魔法は、元々は『何かしたいのに出来ない』方を助ける為に生まれた物。メッチャークを倒す為に生まれた物ではありません。元から強い方に掛ければそれは確かにメッチャーク退治にも大いに有効ですが……少し、本来の用途とは違います。少なくとも僕の魔法の場合はね」
「ええと……それじゃあ、もう一つは?」
「二つ。カエルの精霊なのに池で溺れていた僕を助けてくれた時のマスターは、強さと勇気に溢れていましたよ」
「あ、あの時は、助けなきゃって必死で……!」
「それで良いのです。困っている人の為に頑張れる。それがきっと、あなたの勇気なのです」
幼いマスターの前に、ケイは膝を突いた。
「だから僕は、あなたと使い魔契約を結びたいと思ったのです。……僕の魔法はあなたの為に。あなたの道行きを、カエル達と共に彩ってみせましょう」
「あ、ありがとう……」
ピエールは目を白黒させている。
まだ戸惑っているのだろう、と内心苦笑しながらも、己の強さに無自覚なマスターの成長を見守ろうとケイは固く心に誓った。
最後にもう一つ。
ケイは、ピエールにあえて告げなかった事がある。
あなたは確かに気弱で、魔法も安定していない。それでも、秘めている才能には底知れない物がある。
あなたであれば、本当にあの闇の魔法使いをも……。
そう思う度に何故だか胸の奥底がちくりと痛む。
何か大切な事を忘れているような感覚に首を傾げながら、ケイは今日もマスターと共に旅を続けている。