アスランの手下の都築編
人形でしかない私が自我と知識を与えられて最初に見た物は、銀河のように光るマントを身に纏う主のどこか泣き出しそうな顔でした。
はて、今にして思えば何故私は主のその顔を『泣き出しそう』と認識したのでしょうか。もしかしたら、私の核となっているという『ケイ』なる魔術師の心臓のせいなのやもしれません。ケイは主にとって無二の友であったと知識データベースは語っていますし、ケイもきっと主を最良の友としていたのでしょうから、何か数値化出来ない機微を感知させる物が主のその顔にはあったのです。
主がその『泣き出しそう』な顔をしていたのは一瞬の事で、すぐにその瞳には闇の色が宿りました。
──よく目覚めた。我が新たなる傀儡よ。幸福に思え、これよりお前は我が覇道を誰よりも近くで見る事が出来るのだ!
実際、私は主が生み出した人形達の中でも最も『幸運』であったようです。主は私を誰よりも傍に置きました。私に戦う事を命じ、何よりも強くあれと望みました。そう望まれる事で私は確かに満たされましたが、同時に痛みもしました。ですがその痛みは、私の痛みではありませんでした。
どうやら私は、私自身の自我だけでなく、ケイの心臓に残留していたケイの自我をも僅かに継承していたようなのです。
ケイの自我の継承を認識して、私は悩みました。
私の自我は真に私の物なのか、私ではなくケイの物なのではないか、と。
しかし幸いにも私は人形ゆえ、答えを出すのは簡単でした。
主が私の戦う姿をお褒めになった時、私は満たされます。ケイは悲しみます。
主が私の顔を見て時折見せる悲しげな顔に、私は苦しみを覚えます。ケイは主に手を伸ばそうとします。そこにある私とケイの感情の種別は間違いなく異なる物でしたから、私はケイの人格を継承しているとはいえど、全く異なる人格であると再認識する事が出来ました。
しかし、感情の種別は異なれど、私もケイも、主《アスラン》に、悲しい顔をして欲しくないと、その指向性は同じなのでした。
では、どうすれば主は悲しい顔をしなくなるのか。それは私では導き出せない解でした。
ケイがいない事、私がケイによく似ている事。それが主の悲しい顔の原因です。ですが、原因を私が理解した所で私は何も出来ないのです。主の為に戦う事でしか、主に笑ってもらう事が出来ないのです。
ああ、もしかしたら主に戦いを挑むあの魔法使い達のような光の魔法ならば主に手を伸ばせるのだろうか。
何度戦っても勝てない、けれどその魔法の光が暖かいから何度戦っても苦しくない、あのカエルの魔法使いなら。
そう思った時、確かに私の中のケイは頷きました。
──そう。そこが本来、アスランの居るべき場所だ。
ああそうか。だから私は、あの魔法をあんなに暖かいと感じるのか。……主の魔法と、同じように。
故に私は、稼働限界を迎えた己が躯体が停止する前に。
あの光と虹を纏ったカエルの魔術師に、手を伸ばしたのです。
「どウ、か……アスラン《あるじ》を……助ケ……」