手に入らないもの(中等部生徒会時代捏造)

非CPものですが元中等部生徒会組に男男男巨大感情の気配を察知した人間が書いています。
3期5幕放送直後に書いた幻覚です。

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「コウちゃんはこれでいいわけ?」
 冬沢が生徒会室にいないタイミングを見計らって優秀な後輩の副会長にそう尋ねると、天使のような笑顔を浮かべた少年が書類から顔を上げた。
「何がですか?」
 その笑顔の裏にある底知れない物を感じながら、千秋はテーブル越しに身を乗り出した。
「何がって……色々だよ。亮との事」
 南條は不思議そうに瞬きをした後、得心がいったかのように頷いて肩を竦めた。
「ああ、もしかしてまだ心配してくれてたんですか。千秋さんが勝手に思い込んでるほど俺はダメージとか受けてないですし、気にしなくていいですよ」
「……そう」
 千秋が思うに、目の前にいるこの後輩はあの捻くれた腐れ縁の幼馴染が珍しく目を掛けている数少ない存在だ。ただ、その目の掛け方も掛けられ方も、奇妙に屈折しているように千秋の目には映っていた。
「あんま無理すんなよ、四六時中あんな奴と一緒にいたらお前まで性格悪くなっちまう」
「ええー?千秋さんがそれ言います?」
「ノーセンス。俺は距離の取り方分かってるし、そもそも期待なんてされてないからいいんだよ」
 冬沢は南條の事を、優秀な右腕としてだけでなく役者の才を持つ者として買っている。普通科在籍の彼に高等部進学を勧める場面も何度か見た事がある。
 だが冬沢は、南條に対して心を許そうとはしていない。右腕として傍に置きながら、決して信頼してはいなかった。少なくとも、千秋にはそう見えていた。
 更に南條は恐らく、その事に早い段階から気付いていた。あるいは、冬沢本人に直接言われたのか。だとしたら相変わらず最悪なヤツだ。だがそんな私情は一旦脇に置くとして。
「別にあいつとの事に限った話じゃねえよ。信用されずに期待だけ掛けられんのもしんどいんじゃねえのって話。今は平気でもそういうちょっとしたしんどさは積もってくからな」
「大丈夫ですよ。俺こういう性格だし、鋭い人から信用されないのは慣れてるんで。ついでに言うと期待されるのも割と慣れっこです」
「あのなあー……」
 確かに付き合いの浅い千秋の目から見てもこの後輩は性格が良くはない。いい性格をしている、とは言えるかもしれない。のらりくらりとした言動の一方で、常に己を有利なポジションに置くことを第一に考えて動いている。計算高く、狡猾ですらある。
 それでもこの賢い後輩を冬沢とは違った視点で気に掛けてしまうのは長男としての習性ゆえか、近くにいる先輩としての義務感か。それとも。
「……でもお前、割と好きだったりするだろ。亮のこと」
「……」
 南條の表情が陰る。それはまるで、天使とかお人形とか彫刻とか、外野からそう評される顔立ちに僅かに温度が灯ったかのようで。
 だがそれは一瞬のことで、南條はすぐにまた天使のような笑みを浮かべた。
「頭のいい人は好きですよ」
「……そう」
 これ以上突っ込んでも相手のガードを頑なにするだけだ。千秋は話を切り上げようと、自分の前にある書類を一枚掴みながら一言、もう一度と念を押した。
「無理すんなよ」
 だが南條は涼しい顔をして肩を竦める。
「無理なんてした事ないですし、これからもしませんよ」
 だといいけどな。
 また書類に目を落とした南條を見て、俺はいったい何に首を突っ込もうとしているのやら、と千秋は内心深深と溜息をついた。

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これを書いたのは3期5幕の放送5日後なんですが5幕を何回も見ていたらだんだん中等部生徒会時代周りの見えないものが見えてきたので鉄を熱い内に打ちました。