【ぐだ+ダビデとオベロン】夢を見るもの

 藤丸がマイルームに戻ると、オベロンがベッドの上で大の字になっていた。
 まあ最近いつものこと、と藤丸は特に気にせず備え付けの冷蔵庫からボトルを出す。ベッドの端に腰を下ろしながら、オベロンの方を向いた。
「オベロン、なんでさっき出て来なかったの? 多分ダビデもエミヤも気付いてたよ」
「出て行かなきゃいけない理由とかあるわけ?」
「一応あの場にいたんだしちょっとくらいはさ」
「やだね」
「ですよね」
 想像通りの返答に納得しながら、ボトルの中の水をひと口飲んだ。冷たい水が喉を潤す感覚が気持ち良い。
「……まあ言うまでもないと思うけど、ダビデのあれは全部本音だと思うよ」
「ああホント、気持ち悪いヤツだった。生きてる間にも死んだ後にもどれだけ利用されてもまだ尽きず、何かに尽くすことをやめず、その上でキレイすぎて、あまりに言葉に嘘が無くて気持ち悪い。汎人類史の聖者サマってのは皆あんななのかい?」
「それは……」
 そもそもダビデって聖者だったっけ? と一瞬思ってしまった藤丸であるが、彼が神の加護をその身に直接受けており、神を深く信じていることに疑いの余地はない……そう、彼は預言者の一人に数えられる者だ。故に傍から見ればその精神性が凄まじく屈強というところはあるわけで。
「そうかも」
「うっわ……」
 オベロンは明らかに引いていた。こんなのが何人もいるのかよ汎人類史キッツ、とはっきり顔に書いてある。
 まあダビデほど自由に生きてる人は少ないけど……と言いかけた藤丸だったが、水着のジャンヌや天草四郎を思い出してしまったので一旦考えるのはやめた。
 ダビデと言えば、とふと思い出す。この前、アイスを何個かくれたような。食べていないものが2個か3個残っているはずだ。
「そうだオベロン、アイス食べる? この前ダビデから貰ったやつがあるんだけど」
「……チッ」
 舌打ちはしたがノーとは言わず、代わりにずいと右手を差し出すオベロン。藤丸はまた立ち上がって冷蔵庫の中の小さな冷凍庫からカップアイスを2つ出した。スプーンと一緒にオベロンに渡して、自分はベッドの端に腰掛ける。
 アイスの蓋を開けて、白いアイスのまだ硬い表面をスプーンで削り口に運ぶ。
 アイスクリームの心地よい冷たさと牛乳の自然な甘みが口いっぱいに広がり、頬が緩んだ。
「やっぱダビデ印のアイス美味いなー……どうオベロン?」
「……まあ」
 オベロンはもごもごと口を動かし、小さく頷いた。
「まあ……悪くはない」
「ダビデ印だとコーヒー牛乳も美味しいよ」
「ふーん……」
 オベロンのリアクションは薄いが、興味がないという訳でもないらしい。
「あ、コーヒー牛乳とかならブランカも一緒に飲めるね。フルーツ牛乳とかジュースの方がいいかな?」
「……」
 オベロンは何も言わないが、アイスを食べる手は止めない。今度差し入れにフルーツ牛乳持って行こうかな、と考えつつ藤丸もアイスを食べ進める。
 やがてほとんど食べ終わった頃、オベロンがぽつりと呟いた。
「あのアーチャー」
「ん? あ、ダビデのこと?」
「そう、そいつ。結局、どんなに自由に生きてるポーズをしたとしても、サーヴァントである限り、現界している限り、自分の責務からは何も解放されてないじゃないか」
 藤丸が思うに、オベロンの言うことはあながち的外れでもない。
 ダビデは忙しい商売の合間に、『契約の箱』を置いてる部屋で毎日朝晩欠かすことなく神に祈りを捧げている。その部屋の警備システムだって旧カルデア時代から聖杯保管庫並のレベルで設定してある。いや、その部屋の鍵はダビデでなければ開けられないよう設定しているという点では、聖杯保管庫以上かもしれない。
 オケアノスの時のように四六時中箱のそばから離れられない、という状況よりかはマシなのであろうが。それでも箱の管理者としての責務はダビデという英霊と切り離すことは出来ない。『契約の箱』がある限り、ダビデが真に「自由」な時間など無いのかもしれなかった。
「それに自覚的なくせに、自分は自由だと心の底から抜かしていた。全く反吐が出る」
「……オベロン、もしかしてダビデのこと心配してる?」
「頭沸いてるのかなあマスター?」
 オベロンがダビデを気に掛けるとは少し意外だった。気に掛けるとは少し異なるニュアンスなのかもしれないが。
「でもダビデ自身がそうだと思っている限り、やっぱりダビデは自由なんだと思うよ」
「……ふん」
 オベロンは口元を歪めて笑う。
「何それ。自分に嘘を付き続けて無理矢理真実にしたってこと?」
「そういうことじゃなくて、考え方とか視点の話。自分にはいつも正直に生きてるよ、あいつ」
 藤丸がそう返すとオベロンは黙り込み、やがて小さく舌を打つ。
「……ああ、やっぱり気持ち悪い」
 吐き捨てるように呟いて、藤丸に空になったアイスのカップとスプーンを差し出すオベロン。片付けろ、ということなのだろう。苦笑しながら藤丸が受け取ると、そのままオベロンはごろりと寝返りを打って藤丸に背を向けた。
「もう疲れた、寝る」
「そこ俺のベッドなんですが?」
「知るかよ」
「じゃあもうちょっと詰めてよ、俺も歯磨いたら横になりたいから」
 オベロンはずるずると、ベッドの隅の方へと少しだけ体をずらした。
 藤丸は空になったアイスのカップはゴミ箱に捨てて、スプーンは食堂の回収コーナーに持って行く。自分の部屋で飲食しようと、使用済み食器は基本的にそこに持って行ってまとめて洗ってもらうのが決まりだ。
 スプーンを片付けると、食堂のカウンターにちょうど立っていたエミヤが手招きして来たのでそちらに足を向ける。
「マスター、先程アイスティーを入れたのだが、部屋に持って行ってはどうかね」
「ありがと、貰うよ」
 アイスティーの入ったピッチャーをカウンター越しに藤丸に差し出しながら、エミヤが「ところでマスター」と尋ねて来た。
「オベロンの様子はどうだね」
「まあいつも通り」
 重いピッチャーを難なく受け取りながら、藤丸は答える。
「ダビデと仲良くなるのはもうちょっと先かなあ」
「何故そこの二人を仲良くさせたがるのかねマスター……」
 二人とも相手を選ぶタイプだろう、と言外に語るエミヤ。
 だが、「別に」と、藤丸は笑ってこう返すのであった。
「結構波長合うんじゃないかって、なんとなく。多分外れてないと思うよ」

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