【WT】二宮と加古が防衛任務しながら来馬の話をするだけ

「二宮くん、私時々不思議に思うんだけどあなた高校の方に友達いたの?」
「は? 友人くらいいたが」
「そこで喧嘩腰に返して来るから学校に友達いなさそうって印象が真っ先に来るのよね~」
 二宮と加古の会話は暢気なものだが、二人の後ろには蜂の巣になったトリオン兵が積み重なっていた。
 ここは三門市警戒区域内。今日は高校生隊員の多くが二学期の中間試験で防衛任務に参加出来ないため、高校生ではない隊員達による臨時合同部隊が編成されている。そして二宮と加古は二人で警戒区域の南側を担当しているのだった。
 二宮と加古は担当区域を見回りながら、世間話を続ける。
「だって私、あなたが高校の休み時間とかでまともに会話をしてるの、私以外には来馬くんくらいしか見たことないわよ」
「……」
「あ、高校時代に来馬くんしか友達がいなかったっていう話は本当なのね。卒アルも二宮くんの写ってる写真は絶対来馬くんか私が一緒に写ってたものねー」
「……それがどうかしたのか。もう高校生でもあるまいし」
「いいえ~? ただ今の高校生の子達は、同じボーダー同士での友達も多くてちょっと羨ましいなって思っただけよ」
 夕暮れ時の警戒区域内は静かで、二人の話し声と風以外は何も音を立てない。加古は一つ伸びをした。
「ボーダー隊員になっちゃったら、どうしても周りと壁が出来るじゃない。皆勤賞は貰えない、クラスメイトは守る対象、学校行事だって参加は出来るけど緊急招集が掛かれば途中から不参加。その上二宮くんは二宮くんだし」
「おい、最後のはどういう意味だ」
「その点、今の子達は同じ学校に何人もボーダー隊員がいる。それって結構心強いんじゃない?」
 自分の言葉を思い切り無視されて何か言いたげな顔をしながらも、加古の言葉に二宮は渋々頷く。
「……それはあるだろうな。現高二以下は特に人数が多い」
「ま、そう考えたら入隊前からずっと二宮くんが友達認定出来てた来馬くんってやっぱりすごい子なのよね。来馬くんがボーダーに入隊するつもりだって聞いた時、ちょっと納得しちゃったもの」
 その時臨時部隊オペレーターの月見から、トリオン兵反応のアラートが送られて来た。二人は会話を続けながら、アラートの方角に意識を向ける。
「……一つ言わせろ」
「何かしら?」
 モールモッドが地面に腹を擦る音を立てながら道の向こうから迫って来る。
 二宮はメイントリガーでアステロイドを起動し、弾速に振った108分割の弾丸をモールモッドに向けて雨のように発射する。モールモッドが足を止めている隙に加古が宙に躍り出ると、右手のスコーピオンであっさりとモールモッドの首を落としてしまった。
「あの時期の来馬は、誰に対してもそうだった」
「あら。じゃあ来馬くんにとって二宮くんは友達と言えるほど仲良くもなかったってわけ?」
 山と積まれた荷物が崩れるような音を立てながら道路上に転がったモールモッドはもうピクリとも動かない。モールモッドの活動停止を確認した二人は、既にモールモッドを視界から外していた。
「そういうわけではない、中学から高校にかけて四回も同じクラスになっていればあいつにとって俺は友人扱いするに十分だ」
「それを自分で言える自信も凄いわよあなた」
 加古の呆れながらの突っ込みを意に介せず、二宮は周囲を警戒しながらも淡々と自分の話を続ける。
「そしてあの頃のあいつからすれば、あいつの視界に映る人間全てが等しく尊重すべき存在だった。友人であろうとそうでなかろうと同じように扱っていた」
「それは今でも変わってない気がするけど」
「俺にはその程度が度を越して見えたという話だ。少なくとも、ボーダーに入隊して鈴鳴第一に配属されるまではな」
 防衛任務終了まで残り十分を切ったと月見のオペレーションが入る。
 二人は基地の方角へと足を向けた。
「それじゃ二宮くんから見たら、あの頃と今の来馬くんは違うってこと?」
「他人や友人よりも隊員を優先するようになった。人間関係に明確な優先順位を付けられるようになったのは成長と言うべきだろう」
「……そう」
 加古は首を傾げ、横を歩く二宮の愛想のない顔を覗き込んだ。そしてくすくすと笑いながら肩を揺らす。
「二宮くん、来馬くんがボーダーに入るって言い出した時に来馬くんのいないところで心の底から嫌そうな顔してたっていうのにねえ」
「いつの話をしている……」
 二宮が僅かに顔をしかめたのを見て、加古は肩をすくめる。
「それでまた本人のいないところでこういう話をするじゃない。本当にそういうところよあなた」
「何がだ?」
「教えてあげない。それくらい自分で考えなさいな」
 加古はもう一度大きく伸びをした。薄暗くなり始めたかつての住宅街に、影が長く伸びる。二宮は眉間に皺を寄せたが、それ以上何も言わなかった。
 ああそうだ、と加古が声を上げる。
「二宮くん、今日の日替わり定食何か知ってる?」
「……知らん」

others作品一覧へ戻る
作品一覧ページへ戻る

□□□□□□□□□□

↓以下、会話の流れを考えて書かなかったりした諸々の補足です。ほとんど全部根拠の薄い妄想なので読んでも読まなくてもいいです。

・来馬が同じ高校出身の二宮&加古よりボーダー入隊時期がかなり遅いことを考えると、来馬の入隊は二人の影響があったのでは?という妄想

・二宮と加古の入隊時期はBBFの表から「彼らが十七歳になる年の前半」であると考えられるので高一の三学期~高二の一学期頃

・一方で来馬はボーダーに入る頃には既に大学に上がっていたのでは……?大学一年次前期頃?三門市立大学のトリガー研究室はボーダーに興味のある人をスカウトする窓口でもあるので、研究室経由で入って来た初めての大学生が来馬だったりするのでは(他の現状の大学生正隊員は全員高校以前から入隊してる)

・BBFで来馬と二宮の成績が横並びだったので中高で同じクラスになったこと何回もありそう

・小中高という若い子しかいない極小コミュニティの中で来馬のあの菩薩ぶりはあらゆる人に好かれると同時に一定の距離を置かれていてもおかしくない。その上で来馬は友人にもそうでない相手にも対等に接する。二宮はその頃の来馬のことを知っているので彼が鈴鳴第一の隊長になって隊員達を優先するようになって良かったと思っている

・加古もその時期の来馬のことは知っているが、二宮ほど深刻に捉えてはいなかった。ただ、あの二宮くんと普通に仲良くなれるのは才能なのでは?とは当時から思っていた

・二宮はあの性格なので友達は別にいてもいなくてもいいけど好きな人達のことは大事にする(ただし主な愛情表現が焼肉)人に見えるので来馬がボーダーに入りたいと言い出した時流石に渋い顔はしたんじゃなかろうか

・高校の方に、と加古が言ってるのはボーダーの同年齢組である太刀川・堤は別に普通に二宮の友達だろうと思っているため。

・関係ないけど二宮はあの自己肯定感の高さと高そうな私服と素直な向上心とまあまあ傍若無人な性格から「この人良いとこの家庭で親に可愛がられて甘やかされて育ったんだろうな」と勝手に思ってる

・なおこの話での二宮と加古の会話は全部月見さんに筒抜けだが、二人とも「まあ聞かれても良いか」と思っている