カテゴリー: WT

ワートリ

【WT】荒船隊隊室にて(映画「ミスト」の話)

※「ミスト」の軽いネタバレがある
※ 荒船隊は全員見ている、「ミスト」を
※ オチはない

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「聞いてくれ、俺は恐ろしいもんを見ちまった」
「急」
「あったのか、何か」
「この前たまたま俺以外全員防衛任務入れない時あっただろ、その時に空き時間使って俺と王子、水上、二宮さん、三雲で『ミスト』を見たんだが」
「何すかその面子」
「王子と水上は分かるがそこに二宮さんと三雲」
「しかも何でその面子でミストを見ようと思ったの?」
「分からないな、チョイスが……」
「王子がそこの棚から最初に抜いたのがミストのDVDだったんだが俺もなんで止めなかったんだろうな……とにかく見たんだ、ミストを。俺以外は全員初見だった」
「メンバーと映画のチョイスの時点で嫌な予感しかしないのよ」
「加賀美の予感は正しいぞ。見てる間全員真顔だった」
「怖っ」
「こう言った非常事態下の措置や対処法についてずっと真顔で話し合ってたな」
「うわダル……まあでもそれくらいはボーダー隊員なら考えるでしょ」
「怪獣映画とか小さい頃みたいに素直に見れなくなったもんねー」
「それはそうだが全員真顔というところだな、一番怖いのは」
「穂刈の言う通りだ、実際映画より怖かったぞ。まあ俺も参加してたけどな」
「ですよね」「それでこそよ荒船君」
「真顔だったのか、荒船も」
「いや俺にはまず『ミスト』を真顔で見るのは無理だ。まあそれはいいんだが……ほら、途中で出てくるだろ。宗教おばさんが」
「いたな、そういえば」
「三門の駅前とかに一時期めっちゃ立ってたタイプっすよね、ああいうの」
「まさしくそれを王子が言い出して……」
「言いそう……」
「二宮さんと三雲も『言われてみれば』と同意してだな」
「真顔で?」
「真顔だ」
「怖いな」
「そしたら水上がふわっと食いついた」
「ふわっと食いつくって何?」
「それほど前のめりでもないが興味はある、みたいな……大阪でもその辺は百パー無縁ってわけじゃないらしいからな。それで俺も含めて三門市の人間達で水上に色々その……話したんだな、一時期の三門市の駅前の話とかを」
「ミストを見ながら『本物』の話をしてる状況怖すぎません?」
「現実が強すぎて霞み始めたな、ミストが……」
「それでだな……だんだんやけに水上の食いつきが良くなってきて……」
「何が触れたんだ、水上の琴線に……」
「そして王子と水上の間の話題が非常事態下の人心掌握術になっていった」
「ッス……」
「半崎くんが引いてるわよ荒船くん?!」
「俺はあった事を話してるだけだぞ?!」
「そっちの二人はともかくどうだったんだ、二宮さんと三雲の方は」
「二人はそっちの方は興味なさそうだったな、まああの状況下における民衆の動き方とかは話してたが……その辺りで思った、見る映画間違えたなと」
「遅いな、気付くのが」
「『キャビン』とか『来る』とかにしとけば良かった」
「なんでチョイスがホラーばっかりなんすか」
「でもその面子で映画鑑賞会をやった荒船君の度胸は評価に値するわ……」
「しかもその後その面子で防衛任務したんすよね……?」
「したぞ。玉狛第2と二宮隊が合流して、俺と王子と水上は三人の臨時部隊で、細井のオペでな」
「防衛任務か……あの結末を見た後に……」
「にしても犬飼くんとか呼べるなら呼べばよかったのに、二宮さんや三雲くんだって内心気まずかったかもよ」
「犬飼と空閑とあの新入りはなんかもっと怖い反応が出て来そうだし辻とちびちゃんに見せるのは普通に良心が咎めるだろうが」
「辻と雨取以外は咎めないのか、良心が……」
「二宮さんと三雲にしても普通に会話には参加してたぞ、まあ三雲は最初こそ『何故自分がここに?』みたいな顔してたがミスト見てる間は真顔だったし二宮さんとの話も弾んでたしな、出水の弟子同士ちょっと仲良くなれたんじゃないか」
「出水くんも自分の弟子がミストを真顔で見ることで仲良くなってるとは思わないと思う」
「いっそ出水にもミスト見せるか……ちょうど射手訓練用メソッドを考えてるところだしな……」
「新手の拷問か?」
「A級1位部隊の隊員にミストを見せながら考え出される射手訓練用メソッドって何よ」
「それなら二宮さんにも聞けば良かったんじゃないすか?」
「そうだよなー、真顔ミスト鑑賞に驚きすぎて忘れてたぜ……」
「……荒船の話を聞いていると見たくなってきたな、ミストを……」
「俺も話しながらちょっと見たくなってきた」
「うわダル……」
「絶対に嫌だからね」

終。

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【WT】香取葉子と隊長会議

 隊長会議。
 会議と言っても連絡事項の共有程度なことがほとんどで、週に一回のB級隊長会議と月に一回の全体隊長会議の二種類がある。
 正直、死ぬほどめんどくさい。
 これアタシが出る必要ある? と思う。
 別に連絡事項の共有とかそんなの支給端末でいいじゃん。というか太刀川さんがしょちゅう出水先輩を代理に立てて会議さぼってるのになんでアタシはダメなわけ? ……ということを華に素直に愚痴ったら、「あれは太刀川さんがA級一位部隊隊長かつ総合一位だから許されている蛮行よ」「でも総合二位の二宮さんと三位の風間さんはちゃんと会議に出ているでしょう、隊長たちに示しを付ける担当はあの人たちであって太刀川さんじゃないから」と淡々と諭された。それはそれでムカつく。なんだこの組織。
 「めんどくさいを連呼しながら毎回会議にちゃんと出てるのは葉子の良いところだと思う」とも言われたので、アタシは今日も仕方なく隊長会議に向かう。
 今日は全体会議の日だから、会議も席が階段状に並んでる一番大きい部屋を使う。あと全体会議の日は、ペットボトルのお茶が出る。B級隊長会議の時も出せっての。
 開始五分前に会議室に入ると、まだちらほら空席はあるがほとんどの人は来ているようだった。
 部屋の入口の近くだと諏訪さんの隣が空いていたので仕方なくそこに座る。諏訪さんは私が座るなり声を掛けて来た。
「おう香取、今日はずいぶん機嫌悪いな」
「は? 何藪から棒に」
「お、そこまで機嫌最悪なわけじゃなさそうだな」
「おっさんしつこ……」
「誰がおっさんだコラまだ二往復しか会話してねーだろうが」
「ふふ。カトリーヌと諏訪さん、今日も仲良しだね」
 諏訪さんを挟んで私の反対側に座っている王子先輩が、当然のように会話に入って来た。この人が急に会話に入って来るのはいつものことなのでアタシも諏訪さんも特に気にしない。
「王子先輩それマジで言ってんの?」
「僕の目にはそう見えるからね」
「おーおー、勝手に言ってろ」
「そう言えば諏訪さん、風間さんや二宮さんがまだ来ていないのが珍しいですが、何かご存じで?」
 言われてみれば、太刀川さんはともかくとして会議にはちゃんと来る人達がまだ来ていない。あと一分で会議が始まる時間なのに。
 諏訪さんはボリボリと頭を掻いて、特に気にした様子もなく答える。
「あ? あー……あいつらな。会議の前にやることあるんだ。でももうすぐ来るぞ」
 その言葉がやけに確信を伴っているものだったので、アタシだけでなく王子先輩も少し怪訝な顔になる。
「諏訪さんなんか知ってるの?」
「何してるのかくらいはな」
「そう言えば木崎さんも来ていないね。太刀川さんがいないのはいつものこととして……」
 その時、入口のドアが開く音がした。アタシ達三人がそちらを見ると入って来たのは、縄か何かでぐるぐるに縛られた太刀川さんを片腕で米俵のように担いだ木崎さんだった。その後ろから風間さんと二宮さんが入室して来る。
「……は?」
 思わず声が上がる。
 異変に気付いた他の隊長達もざわつき始めた。
 正直笑いたいけど笑っていいのかこれ、という空気が会議室内に漂い、一方で加古さん・東さん・冬島さんは事情を知っていたのか戸惑うでもなく普通に笑っている。来馬先輩は苦笑していた。
 そんな空気の中を木崎さんはのしのしと進み、一番前の席に太刀川さんを放り込んで自分はその隣にどすんと腰掛けた。木崎さんとの間に太刀川さんを挟んで風間さんが座り。そして太刀川さんの後ろの席は二宮さん。
「こんなのってねえよ……」
「こんな目に遭いたくなかったら講義に出てレポートを出して隊長会議にもちゃんと出ろ」「嵐山や柿崎にレポートを手伝ってもらおうとするな出水に隊長会議の代返をさせるな」「恥ずかしくないのか人間として」
 太刀川さんはさめざめと泣いていたが、清々しいくらい三方向からボコボコにされていた。
 ここまで同情心が湧かない多対一も無い。
 諏訪さんはニヤニヤ笑いながらペットボトルのお茶を開ける。
「お前ら、あんな大人になるなよ」
「っふふ……ふ、はい、気を付けます」
 王子先輩は必死で爆笑を堪えている風だったが、アタシは笑えなかった。
 太刀川さんのダメダメっぷりを見て思い出されるのは、まず雄太の「太刀川さんっていつもランク戦してるんだけど、いつ大学行ってるんだろうって攻撃手界隈で噂なんだ~」というのほほんとした言葉。隊室に置いてあるアタシが持ち込んだゲームのソフトとハードの数々。そしてちょっと前……いや何年か前だった気もするけど、とにかく麓郎に以前言われた、『お前このままだとただバトルが強いだけのダメ人間になるぞ!』なる言葉。
 忍田本部長が会議室に入って来て、何事もなかったかのように隊長会議が始まる。
 ……せめて隊室のゲームを、全部片付けよう。
 縄でぐるぐる巻きにされたまま最前列で晒し者にされている太刀川さんを見て、アタシはそう心に決めるのだった。

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ワートリの女子だと香取が一番好きです。

【WT】二宮と加古が防衛任務しながら来馬の話をするだけ

「二宮くん、私時々不思議に思うんだけどあなた高校の方に友達いたの?」
「は? 友人くらいいたが」
「そこで喧嘩腰に返して来るから学校に友達いなさそうって印象が真っ先に来るのよね~」
 二宮と加古の会話は暢気なものだが、二人の後ろには蜂の巣になったトリオン兵が積み重なっていた。
 ここは三門市警戒区域内。今日は高校生隊員の多くが二学期の中間試験で防衛任務に参加出来ないため、高校生ではない隊員達による臨時合同部隊が編成されている。そして二宮と加古は二人で警戒区域の南側を担当しているのだった。
 二宮と加古は担当区域を見回りながら、世間話を続ける。
「だって私、あなたが高校の休み時間とかでまともに会話をしてるの、私以外には来馬くんくらいしか見たことないわよ」
「……」
「あ、高校時代に来馬くんしか友達がいなかったっていう話は本当なのね。卒アルも二宮くんの写ってる写真は絶対来馬くんか私が一緒に写ってたものねー」
「……それがどうかしたのか。もう高校生でもあるまいし」
「いいえ~? ただ今の高校生の子達は、同じボーダー同士での友達も多くてちょっと羨ましいなって思っただけよ」
 夕暮れ時の警戒区域内は静かで、二人の話し声と風以外は何も音を立てない。加古は一つ伸びをした。
「ボーダー隊員になっちゃったら、どうしても周りと壁が出来るじゃない。皆勤賞は貰えない、クラスメイトは守る対象、学校行事だって参加は出来るけど緊急招集が掛かれば途中から不参加。その上二宮くんは二宮くんだし」
「おい、最後のはどういう意味だ」
「その点、今の子達は同じ学校に何人もボーダー隊員がいる。それって結構心強いんじゃない?」
 自分の言葉を思い切り無視されて何か言いたげな顔をしながらも、加古の言葉に二宮は渋々頷く。
「……それはあるだろうな。現高二以下は特に人数が多い」
「ま、そう考えたら入隊前からずっと二宮くんが友達認定出来てた来馬くんってやっぱりすごい子なのよね。来馬くんがボーダーに入隊するつもりだって聞いた時、ちょっと納得しちゃったもの」
 その時臨時部隊オペレーターの月見から、トリオン兵反応のアラートが送られて来た。二人は会話を続けながら、アラートの方角に意識を向ける。
「……一つ言わせろ」
「何かしら?」
 モールモッドが地面に腹を擦る音を立てながら道の向こうから迫って来る。
 二宮はメイントリガーでアステロイドを起動し、弾速に振った108分割の弾丸をモールモッドに向けて雨のように発射する。モールモッドが足を止めている隙に加古が宙に躍り出ると、右手のスコーピオンであっさりとモールモッドの首を落としてしまった。
「あの時期の来馬は、誰に対してもそうだった」
「あら。じゃあ来馬くんにとって二宮くんは友達と言えるほど仲良くもなかったってわけ?」
 山と積まれた荷物が崩れるような音を立てながら道路上に転がったモールモッドはもうピクリとも動かない。モールモッドの活動停止を確認した二人は、既にモールモッドを視界から外していた。
「そういうわけではない、中学から高校にかけて四回も同じクラスになっていればあいつにとって俺は友人扱いするに十分だ」
「それを自分で言える自信も凄いわよあなた」
 加古の呆れながらの突っ込みを意に介せず、二宮は周囲を警戒しながらも淡々と自分の話を続ける。
「そしてあの頃のあいつからすれば、あいつの視界に映る人間全てが等しく尊重すべき存在だった。友人であろうとそうでなかろうと同じように扱っていた」
「それは今でも変わってない気がするけど」
「俺にはその程度が度を越して見えたという話だ。少なくとも、ボーダーに入隊して鈴鳴第一に配属されるまではな」
 防衛任務終了まで残り十分を切ったと月見のオペレーションが入る。
 二人は基地の方角へと足を向けた。
「それじゃ二宮くんから見たら、あの頃と今の来馬くんは違うってこと?」
「他人や友人よりも隊員を優先するようになった。人間関係に明確な優先順位を付けられるようになったのは成長と言うべきだろう」
「……そう」
 加古は首を傾げ、横を歩く二宮の愛想のない顔を覗き込んだ。そしてくすくすと笑いながら肩を揺らす。
「二宮くん、来馬くんがボーダーに入るって言い出した時に来馬くんのいないところで心の底から嫌そうな顔してたっていうのにねえ」
「いつの話をしている……」
 二宮が僅かに顔をしかめたのを見て、加古は肩をすくめる。
「それでまた本人のいないところでこういう話をするじゃない。本当にそういうところよあなた」
「何がだ?」
「教えてあげない。それくらい自分で考えなさいな」
 加古はもう一度大きく伸びをした。薄暗くなり始めたかつての住宅街に、影が長く伸びる。二宮は眉間に皺を寄せたが、それ以上何も言わなかった。
 ああそうだ、と加古が声を上げる。
「二宮くん、今日の日替わり定食何か知ってる?」
「……知らん」

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↓以下、会話の流れを考えて書かなかったりした諸々の補足です。ほとんど全部根拠の薄い妄想なので読んでも読まなくてもいいです。

・来馬が同じ高校出身の二宮&加古よりボーダー入隊時期がかなり遅いことを考えると、来馬の入隊は二人の影響があったのでは?という妄想

・二宮と加古の入隊時期はBBFの表から「彼らが十七歳になる年の前半」であると考えられるので高一の三学期~高二の一学期頃

・一方で来馬はボーダーに入る頃には既に大学に上がっていたのでは……?大学一年次前期頃?三門市立大学のトリガー研究室はボーダーに興味のある人をスカウトする窓口でもあるので、研究室経由で入って来た初めての大学生が来馬だったりするのでは(他の現状の大学生正隊員は全員高校以前から入隊してる)

・BBFで来馬と二宮の成績が横並びだったので中高で同じクラスになったこと何回もありそう

・小中高という若い子しかいない極小コミュニティの中で来馬のあの菩薩ぶりはあらゆる人に好かれると同時に一定の距離を置かれていてもおかしくない。その上で来馬は友人にもそうでない相手にも対等に接する。二宮はその頃の来馬のことを知っているので彼が鈴鳴第一の隊長になって隊員達を優先するようになって良かったと思っている

・加古もその時期の来馬のことは知っているが、二宮ほど深刻に捉えてはいなかった。ただ、あの二宮くんと普通に仲良くなれるのは才能なのでは?とは当時から思っていた

・二宮はあの性格なので友達は別にいてもいなくてもいいけど好きな人達のことは大事にする(ただし主な愛情表現が焼肉)人に見えるので来馬がボーダーに入りたいと言い出した時流石に渋い顔はしたんじゃなかろうか

・高校の方に、と加古が言ってるのはボーダーの同年齢組である太刀川・堤は別に普通に二宮の友達だろうと思っているため。

・関係ないけど二宮はあの自己肯定感の高さと高そうな私服と素直な向上心とまあまあ傍若無人な性格から「この人良いとこの家庭で親に可愛がられて甘やかされて育ったんだろうな」と勝手に思ってる

・なおこの話での二宮と加古の会話は全部月見さんに筒抜けだが、二人とも「まあ聞かれても良いか」と思っている

【WT】二宮隊と恐竜チョコの話

 それは、学校の帰りに直接隊室を訪れた辻の言葉から始まった。

「ひゃみさん、犬飼先輩。二宮さんが発掘恐竜チョコを発掘して食べるか発掘せずに食べるか賭けませんか」
「たまに鬼みたいな発想するよね辻ちゃん。俺は発掘しない方に賭けるよ」
 最初に反応したのは、制服を着たまま隊室のテーブルに参考書を広げていた犬飼。次いで、既にトリオン体に換装してオペレーター室でパソコンの前に座っていた氷見が反応する。
「賭けとか良くないよ辻くん。私も発掘しない方で」
「賭けにならない……」
 隊室のテーブル上に、手に持っていた黄色のビニール袋をからちょうど四つの発掘恐竜チョコを出して置いていきながら、辻が呟く。ちなみにビニール袋の中身は発掘恐竜チョコがまだいくつも詰まっている。
 犬飼はそんな辻を見てニヤニヤ笑いながらテーブルに膝をついた。
「え〜何、辻ちゃんもひゃみさんも二宮さんはそんな血も涙もない人だと思ってるわけ?」
「引いた恐竜の確認すらせず丸ごと食べそうな犬飼先輩に言われたくないです」
「辻ちゃん酷い」
「血も涙もあるかないかで言ったらある方ですけど……発掘はしなさそうですよね。どの恐竜かくらいは見ると思いますけど」
 デスクから立ち上がって作戦室の方まで来た氷見の言葉に、辻は「そう」と頷いた。
「二宮さんはあれでコアラのマーチの絵柄を毎回見ながら食べてる。その点犬飼先輩はコアラのマーチを袋から直に流し込むようにして食べる」
「辻ちゃん今日当たり強くない? 俺なんかした?」
「当たりが強いも何も荒船先輩から聞いたことをそのまま話してるだけですが……」
「あいつ辻ちゃんに何話してんの」
「王子先輩も同じようなことを言っていたので、事実だと判断しました」
「犬飼先輩、それはちょっとないです」
「ひゃみちゃんまで……弧月使いのコミュニティ怖ぁ……」
 犬飼はいじけながら発掘恐竜チョコのパッケージを指先でつまんだ。そしてはあ、とため息を一つ吐き出しながら摘まんだチョコのパッケージを揺らす。
「いやでもさ……言うても、結局ただのお菓子じゃん?」
 身も蓋もないその発言に、辻と氷見はじっとりとした目を犬飼に向けた。
「そういうところですよ犬飼先輩……」
「そこで否定しないから荒船先輩や王子先輩から根も葉もある話を流されるのでは……?」
 違う違う、と犬飼は首を横に振る。
「根も葉もあるから否定したところですぐにまた広まるんだなこれが」
「自覚あるんじゃないですか……」
「まあそこまで言われたら今回くらいはちゃんと見るからさ、恐竜」
「『今回くらいは』って……」「やっぱり普段は見ないんだ……」
 好き勝手言っている後輩二名をよそに、犬飼はぺりぺりとパッケージを開ける。そして中から出て来た板状のチョコを見た。茶色のチョコの中に埋まるように、白いチョコで恐竜の骨格が描かれている。
 辻と氷見は肩越しに恐竜チョコを覗き込み、犬飼はその絵柄を見て首を傾げた。
「えーっと……この恐竜は……ティラノサウルス?」
「……トリケラトプスです」

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ワールドトリガーにハマりました。