【WT】香取葉子と隊長会議

 隊長会議。
 会議と言っても連絡事項の共有程度なことがほとんどで、週に一回のB級隊長会議と月に一回の全体隊長会議の二種類がある。
 正直、死ぬほどめんどくさい。
 これアタシが出る必要ある? と思う。
 別に連絡事項の共有とかそんなの支給端末でいいじゃん。というか太刀川さんがしょちゅう出水先輩を代理に立てて会議さぼってるのになんでアタシはダメなわけ? ……ということを華に素直に愚痴ったら、「あれは太刀川さんがA級一位部隊隊長かつ総合一位だから許されている蛮行よ」「でも総合二位の二宮さんと三位の風間さんはちゃんと会議に出ているでしょう、隊長たちに示しを付ける担当はあの人たちであって太刀川さんじゃないから」と淡々と諭された。それはそれでムカつく。なんだこの組織。
 「めんどくさいを連呼しながら毎回会議にちゃんと出てるのは葉子の良いところだと思う」とも言われたので、アタシは今日も仕方なく隊長会議に向かう。
 今日は全体会議の日だから、会議も席が階段状に並んでる一番大きい部屋を使う。あと全体会議の日は、ペットボトルのお茶が出る。B級隊長会議の時も出せっての。
 開始五分前に会議室に入ると、まだちらほら空席はあるがほとんどの人は来ているようだった。
 部屋の入口の近くだと諏訪さんの隣が空いていたので仕方なくそこに座る。諏訪さんは私が座るなり声を掛けて来た。
「おう香取、今日はずいぶん機嫌悪いな」
「は? 何藪から棒に」
「お、そこまで機嫌最悪なわけじゃなさそうだな」
「おっさんしつこ……」
「誰がおっさんだコラまだ二往復しか会話してねーだろうが」
「ふふ。カトリーヌと諏訪さん、今日も仲良しだね」
 諏訪さんを挟んで私の反対側に座っている王子先輩が、当然のように会話に入って来た。この人が急に会話に入って来るのはいつものことなのでアタシも諏訪さんも特に気にしない。
「王子先輩それマジで言ってんの?」
「僕の目にはそう見えるからね」
「おーおー、勝手に言ってろ」
「そう言えば諏訪さん、風間さんや二宮さんがまだ来ていないのが珍しいですが、何かご存じで?」
 言われてみれば、太刀川さんはともかくとして会議にはちゃんと来る人達がまだ来ていない。あと一分で会議が始まる時間なのに。
 諏訪さんはボリボリと頭を掻いて、特に気にした様子もなく答える。
「あ? あー……あいつらな。会議の前にやることあるんだ。でももうすぐ来るぞ」
 その言葉がやけに確信を伴っているものだったので、アタシだけでなく王子先輩も少し怪訝な顔になる。
「諏訪さんなんか知ってるの?」
「何してるのかくらいはな」
「そう言えば木崎さんも来ていないね。太刀川さんがいないのはいつものこととして……」
 その時、入口のドアが開く音がした。アタシ達三人がそちらを見ると入って来たのは、縄か何かでぐるぐるに縛られた太刀川さんを片腕で米俵のように担いだ木崎さんだった。その後ろから風間さんと二宮さんが入室して来る。
「……は?」
 思わず声が上がる。
 異変に気付いた他の隊長達もざわつき始めた。
 正直笑いたいけど笑っていいのかこれ、という空気が会議室内に漂い、一方で加古さん・東さん・冬島さんは事情を知っていたのか戸惑うでもなく普通に笑っている。来馬先輩は苦笑していた。
 そんな空気の中を木崎さんはのしのしと進み、一番前の席に太刀川さんを放り込んで自分はその隣にどすんと腰掛けた。木崎さんとの間に太刀川さんを挟んで風間さんが座り。そして太刀川さんの後ろの席は二宮さん。
「こんなのってねえよ……」
「こんな目に遭いたくなかったら講義に出てレポートを出して隊長会議にもちゃんと出ろ」「嵐山や柿崎にレポートを手伝ってもらおうとするな出水に隊長会議の代返をさせるな」「恥ずかしくないのか人間として」
 太刀川さんはさめざめと泣いていたが、清々しいくらい三方向からボコボコにされていた。
 ここまで同情心が湧かない多対一も無い。
 諏訪さんはニヤニヤ笑いながらペットボトルのお茶を開ける。
「お前ら、あんな大人になるなよ」
「っふふ……ふ、はい、気を付けます」
 王子先輩は必死で爆笑を堪えている風だったが、アタシは笑えなかった。
 太刀川さんのダメダメっぷりを見て思い出されるのは、まず雄太の「太刀川さんっていつもランク戦してるんだけど、いつ大学行ってるんだろうって攻撃手界隈で噂なんだ~」というのほほんとした言葉。隊室に置いてあるアタシが持ち込んだゲームのソフトとハードの数々。そしてちょっと前……いや何年か前だった気もするけど、とにかく麓郎に以前言われた、『お前このままだとただバトルが強いだけのダメ人間になるぞ!』なる言葉。
 忍田本部長が会議室に入って来て、何事もなかったかのように隊長会議が始まる。
 ……せめて隊室のゲームを、全部片付けよう。
 縄でぐるぐる巻きにされたまま最前列で晒し者にされている太刀川さんを見て、アタシはそう心に決めるのだった。

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ワートリの女子だと香取が一番好きです。