この顔見たら(ゼット)

 宇宙警備隊に所属する者が覚えるべきことは多い。
 派遣先の星で使用される言語、怪獣の生態、効率的な戦闘術、その他諸々。その内の一つに「特定警戒対象リスト」なるものがあった。
 一般の警備隊員一人では到底対処しきれないレベルの怪獣や星人の顔写真と名前が掲載されたリストである。その内容は定期的に更新される。かつて最重要警戒レベルであったキングジョーやバードンは効率的な対処法が確立されて訓練カリキュラムに組み込まれるようになったことで要注意レベルに落とされ、「亜種やら新種やらがどんどん出てくる」という理由でゼットンは常に最重要警戒レベルに君臨し続けている。また、ギャラクトロンやルーゴサイトと言った光の国出身ではない戦士が戦った怪獣も最重要警戒レベルに掲載されるようになった。
 無論、そのリストの内容は一通り頭に叩き込んでおく必要がある。そして更新されればまた再度頭に叩き込まねばならない。その度に多くの宇宙警備隊員達は頭を抱える羽目になるのだが、ここにもそんな隊員……正確には宇宙警備隊候補生が、一人。
「くあーーーーっ、それにしても宇宙には危険なヤツがウルトラ多すぎるぜ……」
 ゼットは寮の自室でリストを眺めながら、そう嘆息した。
 悲しいかな、ゼットは記憶力が弱かった。度重なる補習と再試を繰り返してようやく座学の単位を取得した(人格者で知られるマン教授の眉間には皺が寄っていた)ことからもそれは伺える。
 そしてそうした経験の中でゼットが得た知見の一つが、「声に出して読むと割と覚えられる」であった。絶対に覚えられるというわけではないが、声に出さないよりはまし。そういうわけで今日もゼットはリストを声に出して読む。覚えられるかどうかは別の話だが、これでも根は真面目なのである。
 ただし声がでかすぎてうるさい、と先日に隣室から苦情が出たので、ボリュームは控えめである。
「最重要警戒レベル、『万が一復活した場合一般隊員ではどうにもならんのでまずはウルトラマンタロウを呼ぶこと。ちなみにこの手のやつは割と復活しがち』、えっなんでタロウ教官名指し⁉ 誰が書いてるんだろうなーこの説明文……ノリがウルトラ軽い……登録名『ダークルギエル』。怖そうな顔してんなー」
 何故タロウ教官名指しなのか、とは多くの警備隊員が突っ込むところなのだが、理由は簡単で、どういうわけかダークルギエルはフィジカル面でタロウに手も足も出ないからである。そしてそれを知っているのはタロウ本人とウルトラ兄弟の面々だけだったりする。だがゼットはそんな事情知る由もなく、また細かいことに長時間囚われない性格をしていたので、さっさと次のページをめくる。
「えーっと次は……要注意、『今のところ敵であるとは言い切れないがぶっちゃけ味方とも言い切れない』……ざっくりしてんなー。こんなやつもいるのか……えーっと、登録名『ジャグラス・ジャグラー』……トゲトゲしてるしそれに目付きも悪い……おっかねー!」
 ちなみにこの文章を書いたのは彼が師匠と(一方的に)崇めるゼロである。
 そんな事情も、そう遠くない未来にそのおっかない奴と自分……正確には自分と一つになる人間との間に浅からぬ因縁のようなものが生まれることになることも露知らず、ゼットは今日も元気にリストの音読に励むのだった。

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