気まぐれで乗った時空流の先に繋がっていた宇宙で、トレギアは幼い子供を見付けた。
小さな星の片隅で空を見上げていたその子供の体は、刺々しく黒い鎧に似ていた。声を掛けてみても赤い十字の瞳で静かにこちらを見るだけのその子供の胸には、ウルトラマンのカラータイマーによく似た赤い光が宿っている。
その身に宿した邪神の力で、子供の持つ因果の糸を手繰り寄せて覗いてみる。見えたのは、光る槍を掲げた巨人。そしてその巨人が二つに分かたれ、片割れからこの子供が生まれる、奇妙なイメージであった。
トレギアはその子供に興味を抱いた。もしあの光の巨人がウルトラマンなのだとしたら──少なくともトレギアは初めて見る存在であった──、この子供は一体何者なのだ? ウルトラマンから生まれたにしては、あまりに禍々しい赤い光をその身に宿しているではないか。
「君は何者だい?」
尋ねると、子供は首を傾げた。まるで、何者、という言葉の意味を考えるかのように。いや、それは子供の仕草からそのような印象を受けるというだけの話なのかもしれなかった。兎も角トレギアは、子供の反応を待ってみた。やがて子供は静かに答えた。
「……我が名は、ダークルギエル」
きっかけは、その程度のものだった。
偶然出会った一人ぼっちの子供を拾って、なんとなく自分の旅に連れて行ってはどうかと考えた。トレギアがルギエルを誘うと、ルギエルは静かに頷いた。こうして、一人旅は二人旅になった。旅と言っても大したことをするわけじゃない、ただあちこちの宇宙でちょっとした運命への悪戯をするだけだ。その先で何が起きようとトレギアは知ったことではない。そしてそれを、ルギエルはただ見ていた。ルギエルはトレギアに干渉せず、トレギアもまたルギエルに干渉しなかった。
それでもその旅は常に順風満帆というわけでもないから、旅の中でトレギアがルギエルの持つ力を知るのに、そう時間は掛からなかった。ルギエルは、生命体の時を止めて人形にするという力を持っていた。初めのうちは一つの対象を一時的に人形に変えるに留まっていたが、次第に一度に人形化させる事が出来る対象数も、時間も、増加していった。成長したルギエルであればこの力で宇宙警備隊ですら一蹴出来るであろうことは想像に難くなかった。
ルギエルは基本的に何も言わない子供であった。それでもトレギアは、ルギエルと旅を共にするにつれて、彼が存外強情な意思の持ち主であることに気付いていたから、ルギエルが付いて来るということはあちらにも何か思惑があるのだろうと考えていた。
しかしそれを探るのは困難であった。ルギエル自身が喋らない上に、相当に複雑に絡まった因果の持ち主であった為である。どこから来たのか、何者なのか、それを追う事も叶わず、ただ「ウルトラマンから生まれた者なのではないか」、そんな曖昧な直感だけがトレギアがルギエルの正体について知り得たほとんど全てであった。
そうしてどれほどの期間を共に旅していたのかは忘れたが、いつの間にかルギエルはいなくなっていた。私と共に旅をする理由はなくなったのだろう、とトレギアは思い、ルギエルを探すこともせず放っておくことにした。二人旅と言えたものなのか怪しい二人旅はまた一人旅になり、トレギアは何に構うこともなくあちこちでちょっとした運命の悪戯を続けた。
そんなある時、トレギアはとある惑星に降り立った。小さな惑星であったが繁栄しているようで、大きな街があった。背の高い建造物が整然と立ち並び、市場には多くの店が軒を連ねていた。
だが、トレギアがその惑星の住民とすれ違うことはなかった。理由は簡単であった。その惑星の住民は皆小さな人形と成り果て、路地や建物の床、土の上に無造作に転がっていたのだ。その惑星に最早動く生命の気配はなく、トレギアはつま先で人形を蹴りながら呟いた。
つまらない星だ、と。
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ギンガとルギエルって多分トレギアがめちゃめちゃ好きなパターンなのにトレギアが知らない(知りようもない)のもったいないなーと思って書きかけたやつ。
この後成長したルギエルとギンガとトレギアでなんやかんやするんだと思います。
そのうちもうちょっとちゃんとした形にしたい。