タグ: ギンガ

【要再検討】「神の降りた地?!降星町の謎を追う!」

 この地域の民間伝承を研究しているというその男は、石堀と名乗った。
「少し前の話になりますけどね。この町にあった古い神社の辺りで、子供が行方不明になる
事件が起きたんですよ」
 個室居酒屋の広いテーブル上に広げた地図のある地点をとんとんと叩きながら、石堀はそう語り出す。
「と言っても、もう十八年経ってます。当時九歳の男の子がその神社の近くの森で友達と遊んでて、突然姿を消したんですよ」
 石堀は今度はテーブルに、やや年季の入った地図を広げる。
「これは、十五年前の地図です。ほらここ、あるでしょう。鳥居のマーク」
 二つの地図の同じ地点を石堀は指差す。なるほど、最新の地図には描かれていない鳥居のマークが、十五年前の地図には描かれていた。
「その男の子は、神社の神主のお孫さんだった。かくれんぼか何かしてたのかな、いくら探してもその子が出て来ないから一緒に遊んでた友達が神主にそれを言って、そこから警察の出動ですよ。警察犬も何頭か出動して、山を大捜索。それでもその子は見付からなかった。場所が場所なもんだから、神隠しにあったんじゃないかって噂が経ちました」
「まさか、その子は今も?」
「それがね、二、三日経った頃に戻って来たんですよ。自分の足で歩いて山を降りてきた。怪我もなく、服なんかも、いなくなった時そのままでね。ただ何があったのかは何も覚えてなかったらしくて。結局戻ってきたから良しってことなのか捜査も終わり、何で行方不明になってたのかは迷宮入り」
 石堀は机の上に置いていたファイルから、当時の新聞記事のスクラップを引っ張り出して見せてくれた。『行方不明男児発見』、との見出しが全国紙の紙面に踊っている。
「マスコミも一時騒ぎ立てたようですが、ご両親の仕事だかでその男の子は両親と共に海外に移住して、神社側も家族のことだからと取材を受け付けなかった。それからすぐに別の大きな事件が起きて、時の流れと共に事件のことはほとんど忘れられました。一部の事件マニアやオカルトマニアが覚えていたくらいでね」
「それで、その神社が廃社になったのはその失踪事件が関連していると……?」
「いいや、それは直接は関係ない。また別の事件が起きたんですよ」
「別の事件……?」
「事件というか、事故かもしれないけど……十年前、隕石が落ちた。神社の真上にね」
「……え、隕石?」
 あまりに突飛な話に、思わず聞き返す。
「はい、隕石です」
 石堀は大真面目に頷きながら、またファイルから別のスクラップを出す。今度は十年前の地方紙が出て来た。
「神社の本殿は火事で全焼しましたが、神主と御神体は運良く無事だったそうです。その後は神社を廃校となった小学校の校舎に移転しました」
「廃校となった小学校……」
 石堀は十五年前の地図でその小学校の場所を指し示してくれた。神社からは少し距離があるものの、廃校予定の小学校校舎の間借りはこの小さな町ではそう難しくなかったのだろうと推測する。
 そこで私は、小学校の名前を見て声を上げた。
「なるほど、ここが降星小学校……」
「そうです。やはり、この地域に着目したオカルトライターさんならご存知ですか」
「ええ、『闇の支配者』が初めてこの地球上に姿を表したのは確か、降星小学校校舎跡だと……」
「正確には、闇の支配者が降星小学校の校舎を破壊しました。その後ウルトラマンが現れ支配者を退けた……それからは、あなたもご存知でしょう?この地球の各所に怪獣や宇宙人が現出するようになった」
 やれやれ、と言わんばかりに石堀は肩を竦めてから話を続けた。
「降星小学校が破壊された後しばくしてから、神社は正式に廃社となりました。神主がご高齢という事情もあったようですが……神様には天にお帰りいただいた、ということになっているようです」
「つまり、廃社の直接のきっかけは闇の支配者の降臨かもしれない、と?」
「ああ、そう捉えましたか。まあいいでしょう。実はこの降星小学校、失踪した男の子が通っていた小学校でもあるんですよ。私立の小学校ではありましたがとても評判が良く、この地域の小学生の多くがここに通学することを選択していたと」
「へえ、私立なのにそれは珍しい……となると、失踪事件と隕石落下、そして闇の支配者降臨という二つの事件と一つの事故、あるいは三つの事件を繋ぐのが降星小学校ということになるのでしょうか」
「……ここからは、私の勝手な推測なんですが」
 石堀は、失踪事件のスクラップをとんとんと指先で叩いた。
「本当に鍵になるのは、失踪していた男の子かもしれません」
「え……?」
 石堀の言葉に私は思わず眉をひそめた。
「その子、海外に移住したんですよね?もう降星小学校にも関係無いはずでは?」
「いやあ、海外移住したからと言って降星町と関係が途切れたなんてことはないでしょう。数年に一度は帰ってきていてもおかしくはない。ご実家自体は神社として存在していたわけですから」
「それは、そうかもしれませんが……」
「もしかしたらその子はその神社に祀られていた神に愛されていて、神はその子と一緒にいるから一つの場所で祀る必要もなくなったのかもしれない、だから神社は廃社となった、なんて想像も出来てしまうでしょう?」
「ははは、流石に飛躍し過ぎでは……」
 石堀の語る想像は読者が喜びそうなネタではあるし、実際モキュメンタリーのオチにするならウケが良いだろう。だが流石に、今現在も存命であろう人の話をそうやって書き立てるわけにもいかない。
 しかしその神は十分ネタになりそうだ。石堀なら詳しく知っているだろうと私は前のめりになる。
「ですが、その神については気になりますね。詳しく聞かせていただけますか」
「何、この地域の土着神ですよ。神社の名前にも冠されていた」
 そこで私はもう一度、十五年前の地図、そして十年前の地方紙の記事を見る。
「『銀河神社』……」
 神社の名前を口に出した時、ハッとして私は顔を上げた。私の顔を見た石堀は、ニヤリと笑う。
「ね、闇の支配者と戦ったウルトラマンと同じ名前でしょう」
 そう語る石堀は、店の照明のせいなのか、赤い光を宿した昏い目をしていた。

「怪しい事件が複数起きた神社に祀られていた神と、この地球を守るウルトラマンが同じ名前……とてもとても、不思議な『偶然』だと思いませんか?」

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

ゲント隊長、冒険野郎と出会う(ゲントとヒカル)

※ブレーザーのギンガ客演回の幻覚。思いついたところだけ。

◆◆◆

「待て!」
 光の収束する先に、ゲントは手を伸ばした。初めて目にした、ブレーザー以外の「ウルトラマン」。
 彼が何者なのか、知りたかった。
 自分以外にも「ウルトラマン」と共に戦う者がいるのではないかというこれまで思いつきもしなかった可能性に、自身の変身が解除されたことも気付かず走っていた。
「なんだ、気付かれるの早いな」
 光の中から笑い混じりの声が聞こえ、やがて光が弾けて人影が現れる。
 オレンジ色を基調とした派手なジャケットを羽織った背中が見える。背の高さと体格から恐らく男……そう検討を付けたゲントは、その背中に声を掛ける。
「君は、何者だ」
 男はゲントの問いにすぐには答えず、質問で返してきた。
「あんたがこの世界のウルトラマン……いや、その相棒だろ?」
「……」
 ゲントは黙り込む。ブレーザーのことは誰にも──SKaRDの部下達にも話していない。それを見抜くということはやはりこの男は……
「俺は礼堂ヒカル」
 男は振り向きながら、そう名乗った。
「あのウルトラマン……ギンガと一緒に戦ってる。よろしく」
 笑顔を浮かべたその立ち姿は緩く自然体に見えるが、全く隙がない。特殊部隊か諜報活動の経験があるのだろうか、エミとはまた違ったタイプだろうが……警戒と共にそう思考を巡らせながらも、ゲントは名乗るために口を開いた。
「……俺は、ヒルマ・ゲント。ブレーザーと共に戦っている」
「ふうん、ゲントとブレーザー……」
 ヒカルと名乗ったその男はゲントをじっと見てから首を傾げた。
「いや、ゲントさんかな?あんた俺より歳上みたいだし」
「どちらでも構わないが……俺も、君のことはヒカルでいいのかな」
「いいぜ、ヒカルで」
 ヒカルは右手を差し出してきた。
「改めて、よろしくな」
 敵意があるようには見えず、ポケットの中のブレーザーも大人しい。ゲントは自身も右手を差し出し、握手に応じた。
「ああ、よろしく」
 互いにしっかりと手を握ったその時、ヒカルの手に確かな体温があることに、どういうわけかゲントはひどく安堵した。

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

ヒカルさんとゲント隊長の絡み無限に見たいと思ってるんでこのネタでまたなんか書くかもしれないし書かないかもしれない。

冒険野郎と風来坊(ヒカルとガイ)

※タイガ本編と劇場版の間、ニュージェネメンバーがタイガ世界に滞在していた頃のヒカルとガイの話。

◆◆◆

「ちょっと話をしないか」
「……何だよ急に」
 一人で高台のベンチから見知らぬ街をぼんやり見下ろしていると、いつの間にか背後を取られていた。
 ヒカルが振り向くと、背後を取ったその男──クレナイ・ガイは、手に二本持っていたラムネ瓶のうち一本を差し出してきた。
 ヒカルがそれを受け取ると、ガイは当然のようにヒカルの隣に腰を下ろしてから自分のラムネをぐいと飲んだ。
「ショウのいるところで話すのも気が引けてな」
「別にあいつは気にしないと思うぜ」
「何、俺の心持ちの問題だ」
 だとしても人に気を使うとは、この男にしては珍しい……ヒカルはそう思いながらも口には出さず、ラムネの栓を開けた。
「あんた今、諸先輩方同様に防衛隊で働いてるだろ」
「そうだけど」
「防衛隊として地球で働くのと、ウルトラマンとして地球を飛び出すの、あんたとしてはどっちが楽しい?」
 ガイの問いかけに、ラムネを飲もうとしていた手が止まる。
「……やなこと聞くなあ……」
 そこを突かれると弱い、という自覚があった。
 UPGで仲間と共に平和を守る仕事には無論やりがいを感じている。
 だが、それ以上に、ギンガとなって地球を飛び出して宇宙を冒険するのが、たまらなく楽しいのは事実であった。
 それは今現在やウルトラダークキラー事件のような非常事態時に限った話ではなく。
「……俺には宇宙を旅する方が向いてるって言いたいわけ?」
「まあな。俺は、あんたはどこか一つの地球に留まり続けるよりは宇宙を気ままに旅するほうが向いていると思う。ここ最近で、そう思ったよ」
 ガイの言うことは正解の一つなのだろう……と、ヒカルは思う。
 自分の向かうべき場所は地球の外にある──そんな確信が、ウルトラダークキラーとの戦い以降、静かに膨れ上がっていた。これまでにないほどの長い期間を、地球の外でウルトラマンとして、星々を巡り、仲間達と出会い、共に戦い……そんな時間が、どうしようもない程に楽しかったのだ。
 自分はこんな冒険を求めていたのだと、魂が焦がれるほどに。
「ビクトリーさんは元々、地球にいることを良しとする、地球を守護するために在るウルトラマンだ。ショウも意識としてはそっちだろう。ギンガさんとあんたがそうじゃないのは、見てれば分かる」
「……だからわざわざショウのいないところで、ってことか」
「あんたは元々地球人で、ショウはあんたの相棒とはいえ地球を守護するための存在だ。……それでヒカルは地球外を飛び回ってる方が向いてる、なんて言えると思うか?」
「俺に言うのはいいんだ?」
「一応自覚がありそうだからな」
「ガイはそういうの気にしないと思ってた」
「気にしていたら言わないさ」
「それはそうか」
 手付かずのままであったラムネを一口飲む。爽やかな甘味が喉を抜けていくが、この季節に飲むには少しばかり冷たかった。
「……ギンガと一緒にウルトラマンとして生きて、誰も見たことのない世界を見て、それで宇宙の果ての、ギンガしか俺を見てないような場所で寿命を迎えるのもそれはそれで有りかなって思うんだ。地球には大事な仲間も家族もいるのにさ。変かな」
 自然と、誰にも──ショウにすら明かしたことのない言葉がこぼれた。ギンガの後輩を自称してはいるが、ウルトラマンになった者としては自分より先輩……そんなガイにこそ、尋ねるべきだと。
 そしてヒカルの言葉を聞いたガイは、どこかニヒルに笑う。
「……やっぱりあんたは、ただの地球人にしちゃあまりにウルトラマンに向いている」
「それって褒め言葉?」
「何だ、そう聞こえなかったか?」
 いつの間にかラムネを飲み終えたガイは立ち上がる。
「あとは、あんた自身がどうありたいかを選びな。あんたはウルトラマンとしても地球人としても若いんだ、俺から言えるのはそれだけさ……あばよ」
 ジャケットの裾を翻し、ガイは立ち去る。
 俺こっちでのあいつの寝床知ってるんだけどな……と思いながら、ヒカルは残っていたラムネを飲み干した。
 肌寒い季節に飲むラムネはやはり冷たかったが、それを不快には思わなかった。

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

あとがき的な

最近の「どうも自分の地球にろくに帰らずあちこち飛び回ってるらしいヒカル≒ギンガ」のきっかけってギャラファイにあると思ってて、そこでニュージェネ唯一の先輩変身者であるガイさんが背中を押していたらなんかいいなあと思っています。

ヒカルは自ら望んでそうしてはいますが、ショウやタロウやギンガ本人がどう思ってるかについてもそのうち考えたいですね

トレギアとルギエル(完成版)

この話の完成版です。
元の話は2020年にpixivに掲載したものです。
未完成版の文章に若干の修正は加えてあります。

◆◆◆

 気まぐれで乗った時空流の先に繋がっていた宇宙で、トレギアは幼い子供を見付けた。
 小さな星の片隅で空を見上げていをたその子供の体は刺々しく、黒い鎧に似ていた。声を掛けてみても赤い十字の両目で静かにこちらを見るだけのその子供の胸には、ウルトラマンのカラータイマーによく似た赤い光が宿っている。
 その身に宿した邪神の力で、子供の持つ因果の糸を手繰り寄せて覗いてみる。見えたのは、光る槍を掲げた巨人。そしてその巨人が二つに分かたれ、片割れからこの子供が生まれる、奇妙なイメージであった。
 トレギアはその子供に興味を抱いた。もしあの光の巨人がウルトラマンなのだとしたら──少なくともトレギアは初めて見る存在であった──、この子供は一体何者なのだ? ウルトラマンから生まれたにしては、あまりに禍々しい赤い光をその身に宿しているではないか。
「君は何者だい?」
 尋ねると、子供は首を傾げた。まるで、何者、という言葉の意味を考えるかのように。いや、それは子供の仕草からそのような印象を受けるというだけの話なのかもしれなかった。
 兎も角トレギアは、子供の反応を待ってみた。やがて子供は静かに答えた。
「……我が名は、ダークルギエル」

◆◆◆

 きっかけは、その程度のものだった。
 偶然出会った一人ぼっちの子供を拾って、なんとなく自分の旅に連れて行ってはどうかと考えた。トレギアがルギエルを誘うと、ルギエルは静かに頷いた。こうして、一人旅は二人旅になった。旅と言っても大したことをするわけじゃない、ただあちこちの宇宙でちょっとした運命への悪戯をするだけだ。
 その先で何が起きようとトレギアは知ったことではない。そしてそれを、ルギエルはただ見ていた。
 ルギエルはトレギアに干渉せず、トレギアもまたルギエルに干渉しなかった。
 それでもその旅は常に順風満帆というわけでもないから、旅の中でトレギアがルギエルの持つ力を知るのに、そう時間は掛からなかった。
 ルギエルは、生命体の時を止めて人形にするという力を持っていた。初めのうちは一つの対象を一時的に人形に変えるに留まっていたが、次第に一度に人形化させる事が出来る対象数も、時間も、増加していった。
 成長したルギエルであればこの力で宇宙警備隊ですら一蹴出来るであろうことは想像に難くなかった。
 ルギエルは基本的に何も言わない子供であった。それでもトレギアは、ルギエルと旅を共にするにつれて、彼が存外強情な意思の持ち主であることに気付いていたから、ルギエルが付いて来るということはあちらにも何か思惑があるのだろうと考えていた。
 しかしそれを探るのは困難であった。ルギエル自身が喋らない上に、相当に複雑に絡まった因果の持ち主であった為である。
 いつどこで生まれたのか、どこから来たのか、何者なのか、それを追おうと幾度か試みたが、必ずどこかでそれらの糸はトレギアに知覚できる領域から溢れ出し、追跡を不可能とする。
 結局、「ウルトラマンから生まれた者なのではないか」、そんな曖昧な直感だけがトレギアがルギエルの正体について知り得たほとんど全てであった。
 そうしてどれほどの期間を共に旅していたのかは忘れたが、いつの間にかルギエルはいなくなっていた。
 私と共に旅をする理由はなくなったのだろう、とトレギアは思い、ルギエルを探すこともせず放っておくことにした。
 二人旅と言えたものなのか怪しい二人旅はまた一人旅になり、トレギアは何に構うこともなくあちこちでちょっとした運命の悪戯を続けた。
 ある時、トレギアはとある惑星に降り立った。小さな惑星であったが繁栄しているようで、大きな街があった。背の高い建造物が整然と立ち並び、市場には多くの店が軒を連ねていた。
 だが、トレギアがその惑星の住民とすれ違うことはなかった。理由は簡単であった。その惑星の住民は皆小さな人形と成り果て、路地や建物の床、土の上に無造作に転がっていたのだ。その惑星に最早動く生命の気配はなく、トレギアはつま先で人形を蹴りながら呟いた。
 つまらない星だ、と。
 そんなこともありながら、トレギアはまたそれまでと変わらずに旅を続けた。
 そしてある時、面白い噂を耳にした。
『ウルトラマンに似た漆黒の巨人が星を滅ぼして回っている』『滅んだ星の生命は全て人形に成り果てる』──なるほど、あいつはいつの間にやらそんな存在になったか。
 やっている事自体はさして面白みもないが、何故そう成ったのかは興味がある。トレギアは宇宙を旅するがてら、その漆黒の巨人を探してみることにした。
 そして、長年の探索の結果……ということもなく。
 退廃に満ちていると噂に聞いたとある惑星で、その再会は偶然訪れた。
 当然と言うべきか、その惑星の住民達は皆物言わぬ人形となって地面に転がっている。
 たった一つの命の気配を追って、やがてトレギアはその実行犯の下へ辿り着いた。
「全く、つまらないことをしてくれたものだ」
 風の音だけが鳴る湖のほとりに佇んでいたその漆黒の巨人に、声を掛ける。
「久しぶりだねダークルギエル。ざっくり数えて500年か1000年か……それとも3000年だったかな?」
 トレギアの言葉を聞いた漆黒の巨人はゆっくり振り返る。
「……来たか、ウルトラマントレギア」
 その反応は、まるでトレギアの来訪をそこで待っていたかのようだった。
 漆黒の巨人──ダークルギエルの手には、黒い短刀のような武器が握られている。それに込められた暗黒の力を感じ、トレギアはくすくすと笑った。
「その面白い力で、ずいぶんつまらないことをして回っているようだね」
「……限りある命に、永遠の楽園を与えているだけのこと」
「へえ、随分お喋りになったものじゃないか」
 結果はつまらないが、発想は面白い。大方、命を人形として標本化することでその命を永遠のものとしているとでも言いたいのだろう。
 何故そのような発想になったのかと、更なる興味が湧いてくる。
「君は救世主にでもなりたいのかい?」
「我は、遍く全ての生命を救うのみ」
 その言葉にトレギアは「へえ」と笑みを深めた。
 やっていることはともかく、言っていることはあの光の国の連中と同じと来た!
 愉快でたまらない。
 光の国の連中からは悪と断じられるであろうその行動が、光の国の連中と同じような「正義」から生じているのだから。
「それでは君は、私も人形にするつもりなのかい?」
「それも一つの選択肢であろうが……」
 ルギエルの持つ武器から、黒い光が伸びる。短剣から長い柄が伸びたそれは、さながら槍のようである。
 おやおや、とトレギアも掌の内にエネルギーを込める。
「我は思い出したのだ、トレギア。貴様は、我がかつて抱いたいっそう激しい怒りの源泉」
 その言葉に込められた激しい憎悪。
 何かと恨みを買うような事はしているものの、それでもルギエルから向けられるそれに覚えはない。
 だが、その激しい感情を受けた瞬間だけ、身に宿した混沌を通して流れ込んでくるイメージがあった。
 その体の随所を漆黒に侵されながらもがく光の巨人。漆黒をどうにか自らより切り離した光の巨人は光の槍を振りかぶり、漆黒を完全に消滅させようと試みる。だが漆黒は辛うじてその槍の穂先を逃れ、時空流に乗り……
「……は、はは」
 そしてまず唇から漏れたのは、哄笑であった。やがて腹の底から笑いがこみ上げてきた。
「っはははははは‼ ああそうか、ようやく見えたぞ、ダークルギエル。お前はかつてウルトラマンだった者! ウルトラマン自身が光を否定したが故に生まれ、ウルトラマンによって切り捨てられた闇の半身! そしてその感情は、ウルトラマンだった頃のもの!」
 愉快で愉快で堪らない。
 切り捨てねば存在を保てないほどの漆黒をその身に抱えたウルトラマンがいたことも、切り捨てられた漆黒が自我を持ちこうして手の付けられない程の強い力を手にしていることも。そして漆黒そのものである筈のルギエルが、かつてそのウルトラマンが抱いた感情に任せて自分を憎悪していることも!
「ああ、君は間違いなく面白い!」
「……貴様は、必ず我が手で殺す」
 トレギアの言葉を、ルギエルは否定も肯定もしなかった。
 ただ膨大な殺意と共に槍を振りかざしてきたので、トレギアはそれをひらりと躱した。
 なかなか本気のようで、あちらに人形化の術がある以上本気で応戦するのはあまり得策ではないだろう。ここで殺されてはたまったものではない。
 トレギアは足元に転移の魔法陣を呼び出した。ついでに大量の怪獣も召喚して、ルギエルの方に向けてばら撒いておく。
「またどこかで会おうじゃないか。ばいばい、ルギエル」
 ひらりと手を降って、魔法陣の中に落ちる。ワームホールに似せたその空間の奥から、元いた場所でルギエルの槍がトレギアのいた空間をひと薙ぎしたのが見えた。
 それから少しばかり空間を跳躍して、何億光年か離れた場所に出る。
 偶然とは言えなかなかの収穫であった、今後どんなアプローチを仕掛けてやるのが良いか……と珍しく浮かれた心地を覚えながら考え始めたその時、背後から高速で何かが近付いてくる気配を感じた。
 振り向こうとしたその瞬間、ドス、と。
 腹に強烈な衝撃が加わった。
 強い衝撃で吹き飛ぶはずの体はしかし、空中に固定されている。
 見下ろすと、腹から何かが突き抜けていた。トレギアにはそれは、ダークルギエルが持っていた三叉の槍の穂先とよく似ているように見えた。
 油断していたか、それとも襲撃者が速すぎたのか。この際どちらでも構わない。腹を貫かれたまま、ゆっくりと振り返る。
 その槍の持ち主は、『ウルトラマンらしい』赤と銀の体をしていた。胸の中心には光るカラータイマー。その額と胸には、青いクリスタルが光り輝いていた。トレギアは「なるほど」と思わず唇を歪めた。
「君が、ダークルギエルの半身か」
「その力でそこまで見えたか」
 無造作に槍が引き抜かれ、その痛みに思わず呻く。そのウルトラマンはよろけたトレギアを容赦なく蹴り倒した。仰向けに倒れたところで肩を足で押さえつけられ、身動きが取れなくなる。
「随分粗暴だね……ウルトラマンらしくないと言われたことは?」
「さて、お前にはこれで十分だろう」
 そのウルトラマンはトレギアを見下ろしたまま淡々と語る。その声も、表情も、ダークルギエルのそれによく似ていた。
「私とてお前は殺しても構わないと思っているが、今は殺さずにいよう。今のお前をここで殺せば、私達の辿る道程に大きなずれが生じる」
 私『達』?
 このウルトラマン自身と他の誰のことを指しているのか。気になるが、恐らくそれはルギエルの事ではないであろう。トレギアはそう予感した。
「その代わり、記憶は消させてもらう。これ以上お前があれに干渉すると厄介なことになる」
「……ほう、私から記憶を奪えると?」
 邪神をその身に宿した者の記憶と精神に干渉するほどの力がこのウルトラマンにあるのか、興味が湧いた。だがそのウルトラマンは、表情一つ変えずに石突でトレギアの額をコツンとつついた。
「たかだか混沌をその身に宿した程度で思い上がらないことだ」
 やはり、とトレギアは次第に霞みがかり始めた意識の隅で思う。
 このウルトラマンは間違いなく強い。異常なほどに。ルギエルの半身、いや、原型なだけの事はあると言うべきか。
 そしてこの恐るべき力を持ったウルトラマンが光を否定した事で、ルギエルは生まれたのだ。
「……お前は、何者だ?」
「お前が知る必要はない。それと、最後に一つ。あれはお前を、私が抱いた怒りの元凶の一つと看做したようだが。それは間違いだ。あの怒りは、私のものでは無い」
「……大方、君と一つになった人間の物とでも言いたいのだろう?」
 カマをかけてみると、意外にもそのウルトラマンは反応した。
「鋭いな」
「へえ、図星だったか。なに、よくある話じゃないか。ルギエルは、君と、君と一つになった人間の区別が付いていない……同一視している、と言った方が正しいのかな?」
「嘆かわしい」
 そう言いながらも、そのウルトラマンは表情一つ変えない。そしてゆっくりと、光の槍を振りかぶる。
「私の光と、彼の光の区別が付かないなどと。今回のあれは、随分と不出来なようだ」
 「今回の」? その言葉に引っ掛かりを覚えたトレギアが何かを言う前に、その胸を光の槍が真っ直ぐに貫いた。

◆◆◆

 トレギアは、小さな星の片隅で目を覚ました。
 命が根付かないような荒れ果てた惑星で、何故こんな場所に自分がいるのかと考えた。
 だが考えても答えは出なかったので、考えることをやめてまた当て所無く宇宙を旅することにした。
 ただ、遠い昔の子供の頃、お気に入りのおもちゃをなくした時に覚えた寂寥感に似たものだけが、小さく胸の奥に残り続けた。

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

次ページに補足(妄想)がある。


トレギアがルギエルの成り立ち知らんのマジで勿体ねえ……と思い続けているので、じゃあ、たまたまでいいので知ってもらうにはどうする?知ったら知ったでどうなる?というのを考えて、文字に起こした。

Here comes The SUN(ヒカルとヒロユキ+トラスク)

ヒカルさんがヒロユキのいる地球にひょっこり現れてヒロユキとサシ飲みしたりする話。
捏造多め。
2022年末のEXPOギャラファイナイトSPステージとツブコン2023ニュージェネTHE LIVEタイガ編の内容を踏まえています。
台詞だけ出てくる人→大地、ソラ、アスカ

◆◆◆

それは、念の為ヒロユキの検査した方が良いんじゃないかなあ……トレギアは完全に分離したとは言え、ヒロユキはただの人間だからね。グリムドの細胞片を取り込んで悪影響が無いとも限らないから。
ああ、待って待って。そんなに慌てなくても、君達のそのタイガスパークに、ヒロユキの危険を知らせるサインなんかは来てないんだろ。だったらそんなに焦らなくても、念の為の検査だよ。ウルトラマンに変身する人間には必要だと思うんだ……人間ドックみたいな……あっごめん、こっちの話。
とにかく、検査はそう遠くないうちにしておきなよ。俺が行けたらいいんだけど、俺はそろそろ俺の地球に戻らないと。そうだなあ……ギャラクシーレスキューフォースならこういう時頼れるかも。……うん、それじゃあ三人とも、またね!
……なに、X。タイガ達相手に先輩みたいな顔してたって?いいだろ、別に。

◆◆◆

なるほど、地球人の検査……事情は分かりました。グリムドのデータはうちにもありますし、検査用マシーンはすぐに用意できると思いますよ。
ただ困ったことに今、人間態になれる隊員が出払っていて……トライスクワッドの皆さん、人間態にはなれます?……タイガさんとタイタスさんはなれるけどフーマさんはなりたくない、と。そういうこともありますよね。
でもどうせなら三人揃ってお会いしたいですもんね、どうしましょうか……あ、そうだ!ヘルプお願い出来そうな方を呼んでみます!皆さん、お知り合いですよね?この方なんですけど……

◆◆◆

「で、来る途中で怪獣が暴れ回ってる星があったからあの三人はそっちに行って、結局俺だけ先に来たってわけ」
「な、なるほど……」
「俺も加勢すればすぐ終わっただろうし、一緒に来れば良かったのになあ。いつでも繋がってるから大丈夫、だって」
ここは席のほとんどが半個室になっている、とある大衆居酒屋。
僕の向かいの席に座るその人は、そこまで話してからジョッキに入ったビールをぐいと飲んだ。
「ともあれ、ヒロユキには何の異常もなし。大地やソラちゃんにもデータ送って見てもらったけど問題ないだろうってよ、良かったな」
言葉をそう続けてからジョッキが空になっている事に気づいたらしく、その人──ヒカルさんは、注文用タブレットに手を伸ばした。
「ビール追加で頼むけどヒロユキは?」
「あ、僕は大丈夫です」
半分以上残ったウーロン茶のグラスを指しながら僕がそう言うと、ヒカルさんは注文用のタブレットに慣れた手つきでビールのおかわりを注文した。
「来て検査までしていただいたのはありがたいですし、呑みに誘ってくれたのも嬉しいんですけど……ヒカルさん、こっちの地球のお金持ってます?」
僕が全額奢る可能性も一応考慮して誘いに応じているのだが、ヒカルさんは「気にすんなって」と手をひらひら振った。
「心配しなくても結構あるぜ、前来た時少し稼いだのが残ってるし。今日で使い切れるくらいにはある」
「何してたんですか……?」
「移住とか旅行で来てる宇宙人のボディガードとか用心棒してた。ちゃんと相手は選んだぜ」
「それを聞いて安心しました……」
色んな意味で。
「はは、悪い事なんてするわけないし後輩に奢らせたりもしねーよ。ほらヒロユキ、さっきから全然食べてないぞ」
「ヒカルさんこそビールばっかりじゃないですか」
「食べてたら喋れないだろ」
ヒカルさんはそう言ってから、唐揚げとだし巻き卵を自分の小皿によそった。
すぐにヒカルさんの注文したビールが運ばれて来る。入れ替わりに空のジョッキを下げた店員に軽く会釈してから、ヒカルさんは割り箸を割った。
「結構楽しみにしてたんだぜ、こうやって食事すんの久々だから」
「久々って……」
僕もシーザーサラダをよそう。
「誰かと……ってことですか? お仕事忙しいんですか?」
「あっ、いや」
しまった、とでも言いたげな顔になるヒカルさん。気まずそうな顔をしながらも唐揚げを一つ口に放り込んだが、すぐに目を輝かせた。
仕事柄、そのリアクションには見覚えがある。
長い事まともに食事をしていなかった宇宙人が、久し振りに食べ物を口にした時のそれとよく似ていた。
嫌な予感がするので、僕は取り分けたサラダには手を付けずヒカルさんの言葉を待つ。
ヒカルさんは観念したように唐揚げを咀嚼して飲み込み、またビールを一口飲んでから口を開く。
「誰かとっていうか、食事すること自体が久々。体感で二年ぶりくらいかも」
「……はい?」
耳を疑う。
ヒカルさんは人間のはずだ、人間が二年も食事をせず生きていけるわけがない。
「それは、どうやって……?」
「……ギンガになってるとな、宇宙空間だと光の力だけで生きていけるんだよ。光合成みたいな。あとたまに光の国でプラズマスパーク浴びればまあ、エネルギーはだいたい事足りるし」
「……もしかしてヒカルさん、ずっと変身したまま……?」
「まあ、そういうこと。宇宙から宇宙をあちこち飛び回ってるからさ」
「…………」
僕が何を返せば良いのか分からず黙り込んでいると、ヒカルさんは苦笑いした。
「前にも一回そういう事があってさ、その時は三ヶ月くらい変身しっぱなしで地球にも帰ってなくて、それはショウにしっかり怒られた。それが二年前」
「全然反省してないし悪化してるじゃないですか」
思わずそう突っ込むと、「やっぱそう見えるよなあ」とヒカルさんは嘆息した。
「帰りたくないわけじゃないんだけど……なんか呼ばれてるなーって気がしたら体がそっちに動くんだよな。それに宇宙を冒険するの、楽しいし。それを繰り返してたらいつの間に二年経ってた」
助けを求める声に応えずにはいられない、という気持ちは分かる。
だが僕の眼の前で唐揚げやだし巻き卵や枝豆をぱくぱくと食べている人はそれを二年間、ほとんど人間に戻ることなく家にも帰らず、宇宙規模で続けていたのだという。
凄い人だ、と改めて畏敬の念を抱くと同時に、底知れぬ恐怖も覚える。
この人はそれを、この先も続けていくつもりなのだろうか。
そんなことを考えながらようやく自分のサラダに手を付けるが、味がよく分からないくらいには僕は混乱しているようだった。
「なんか悪いな、びっくりさせちまって」
「いえ……」
僕にも、何年か前にタイガ達と共にウルトラマンとして戦っていた時期がある。そしてほんの数週間前に、久し振りにタイガ達と力を合わせて戦った。けれど、ヒカルさんはそんな僕よりずっと長い期間と密度で、ウルトラマンとして戦っている。
そんなヒカルさんに僕がなにか言う資格があるのかは分からない、けれど……
「……ヒカルさんは、それで大丈夫なんですか?」
「え?」
「上手く言えないんですけど……」
ウーロン茶を飲んで口の中を湿らす。
「ショウさんが怒るのも分かる気がして。半年とか二年とか、そんな長い事家に帰らないで人間にも戻らないでウルトラマンでいるのは……僕は、心配になります。ヒカルさん自身の生活はどこにあるんだろう、って」
「……」
僕の言葉に、ヒカルさんは少しだけ黙り込んだ。だがすぐに、人好きのする笑顔を浮かべる。
「そっか、ありがとな」
何かはぐらかされたような気がしてならなかったが、それ以上深く突っ込むことも出来そうになかった。
それからは互いの近況とか、他のウルトラマンの人達の話をした。
どうやら少し前まで宇宙が色々騒がしかったようで、ヒカルさんもタイガ達には今回の件より更に前に会っていたらしい。先輩の皆さんも基本的に相変わらずなようだった。
居酒屋には日付が変わるぎりぎりまで、およそ三時間近くいたが、ヒカルさんはジョッキ何杯ビールを飲んでも全く酔う気配がない。会計の時には奢ると言われたが固辞して、そっちは酒飲んでないだろと言われ押し切られそうになったがこちらも払わせて欲しいと突っぱね、最終的に微妙に傾斜を付けた割り勘で手を打ってもらった。
「ヒカルさん、この後どうするんですか?僕の家、ソファでよければ泊まれますよ」
居酒屋を出てからそう尋ねると、
「え、いいの?じゃあ邪魔しようかな」
野宿するから大丈夫、などと言われたらどうしようかと思ったけど断られなくて良かった。
自宅までのおよそ一駅分を、歩きながら話す。
「人間に戻ってなかったってことは、お風呂にもしっかり浸かってないってことですよね。僕の家今日風呂沸かしてないんで、近所の早朝までやってるスーパー銭湯行きましょう」
「はいはい」
肩を竦めながらも、ヒカルさんはどこか嬉しそうに見えた。
「ヒロユキは明日の仕事大丈夫なのか?」
「社長が特別に休みにしてくれました」
「お、良かったな理解ある職場で」
「僕のこと以外でも弊社は色々あるので……あっ」
ふと、それなりに重大なことに気が付く。
「そういえばヒカルさんお酒飲んでましたよね、お風呂大丈夫ですか?」
「あ、別に気にしなくていーよ。俺、酒に酔わない……っていうか、酔えなくなってるらしいから」
「酔えない?お酒に…ですか?」
「おう」
ヒカルさんは長い腕を広げ、それから大きく伸びをしつつ空を仰いだ。
「アルコールが人間の体に毒になるからじゃねーかな?全然効かなくなってるっていうか……分解が異常に早くなってるらしい。いくら呑んでも肝臓への負担ナシ。前に一回元の世界に戻った時に検査で分かってさ。ずっとギンガになり続けてたのが多分原因。ウルトラマンの先輩にもそういう人いて、そういうことだろうってその人に教えてもらった。俺はちょっと極端な方らしいけど」
ヒカルさんはそれを、何でもないことのように話した。
重大なことを、ヒカルさんはさっきからあまりに呆気からんと話す。酔っていると言われる方が納得するくらいだ。
……僕に聞いて欲しいのか?
「あの、ヒカルさん」
「何?」
「……ヒカルさんとしては、お酒に酔えないのはどう、なんですか」
ホマレ先輩も地球人の僕と比べれば、お酒にはかなり強い方ではあるけど。それはホマレ先輩が元々宇宙人だからであって……
「その、僕はヒカルさんが元々どれくらいお酒に強いのかは知りませんけど」
「……人並みって感じかな。仕事柄もあるしギンガスパークもあるし、出先では飲まないようにしてた」
それなら僕より少し強いくらいか。それでも全くお酒に酔わなくなったということは、結構大きな変化のはずだ。
「だからまあどうかってのは……外でも飲めるようになって嬉しいぜ?酒の味が分かるようになってからで良かった。ノンアル飲んでるのと変わんねーよ」
「そう……なんですか」
本人がそう言うのなら、僕にはこれ以上何も言えない。
ヒカルさんは「人間」から遠ざかりつつあるんじゃないか……そんな予感を、僕は飲み込むことしか出来ない。
「……ヒカルさんが酔わなくなったの、ショウさんは知ってるんですよね」
「そりゃまあ。……流石に渋い顔された」
「……でしょうね……」
もう少し踏み込むべきなんだろうか。きっと僕は今すぐにでも考えないといけない、ヒカルさんがわざわざ僕に今の状況を正直すぎるくらいに明かしたその意味を。
夜が明ければ、ヒカルさんはまた宇宙へと飛び立ってしまうのだから。
「……あの、ヒカルさん」
「何?」
なので僕は、とてもずるいことであると承知の上で。
「銭湯の後で、僕の家で呑み直しませんか」
アルコールの力を借りることにした。

◆◆◆

酒に酔えなくなった?カフェインも効かない?それは多分、ずっとウルトラマンになってるからだと思うが……ヒカルって今ウルトラマンになって何年目だ?……最初に変身してからは十年くらい、連続でギンガになってるのはそろそろ二年か……短……いや人間基準なら長いのか……?俺も効かなくなって長いけどヒカルはそうなるのちょっと早すぎるんじゃないかって気が……前例があんまないからなあ。ムサシや我夢だっていつも変身してるわけじゃないしガイはそもそも地球人じゃないし…………ま、とりあえずだ。たまには帰って元気な顔見せてやれよ。俺なんか帰れなくなってた間に地元で地球を救った英雄扱いされてたらしいからな。帰れるなら帰れる時に帰って、元気な顔見せてやれ。君の相棒は、地球の方にいるんだろ?

◆◆◆

『ヒロユキ!ヒーローユーキー!』
『ふむ……随分深く眠っているな』
『もう少し寝かしてやった方がいいんじゃねーの?』
僕を呼ぶ三人分の声で意識が引き上げられる。懐かしいけどすっかり聞き馴染んだ声。
「おはよう、三人共……」
『おはよう、ヒロユキ!』
『おはよ、あんちゃん!』
『おはよう、ヒロユキ。ギンガから聞いているぞ。何事も無かったようで何よりだ』
ほんの数年前まで当たり前だったけど、とても久し振りな、トライスクワッド三人からの朝の挨拶だ。
少しだけ頭痛のする頭を起こしたところで、自分がローテーブルの上に突っ伏して眠っていたことに気付いた。
そう言えば昨晩は帰って来てからヒカルさんと晩酌をしていたような……それにしてはローテーブルの上には広げていたはずの缶やおつまみも無く、やけに綺麗だ。ヒカルさんが片付けてくれたのだろうか……と、ここで部屋にいる人間が僕一人であることに気付く。
「……あれ?!ヒカルさんは?!」
『先輩なら、ちょっと野暮用があるってさっき出て行ったけど……』
「野暮用……?!」
まさかもう出発してしまったのでは、と焦って部屋を見渡すと、ソファの上にヒカルさんのジャケットが放ってあった。
ベランダに繋がる窓はよく見れば鍵が開いている。
どこに行ったんだろうと思いながら立ち上がると、卓袱台の上に置いていたスマートフォンが震えた。それと同時に鳴り響く怪獣警報のサイレンの音。
急いでスマートフォンの画面を見ると、出現地区は隣の県だ。速報が出ているはずだとテレビを付けると、防災用ライブカメラのものだという映像が流れていた。
あまり画質の良くないカメラの向こうに、遠くので暴れる怪獣の姿が映っている。
『あれはベムラー……!行くぞヒロユキ!』
タイガの声に、テレビも消さずベランダに駆け出した。
「光の勇者、タイガ──」
『あー待った待った!俺一人で大丈夫だから!』
「えっ」
変身しようとした瞬間、唐突に頭の中に響く声。
「ヒカルさん?!」
『先輩?!』
『テレビで見とけって。ライブカメラくらいならそっちの世界にもあんだろ?』
「確かにありますけど……えっどうやって話しかけて来てるんですか?!」
『タイガに聞いて!』
「タイガ?!」
『ウルトラマンのテレパシーだ!俺達がいるからヒロユキにも聞こえてるんだと思う!』
似たような感じでタロウさんと対面で話したことはあるけど、遠距離でもテレパシー使えるんだ……そんな驚きを覚えながら、ひとまずベランダからリビングに戻って、付けっぱなしのテレビに視線を向ける。
現在怪獣出現地点に向けて自衛隊が出動中、近隣住民はただちに避難を、とキャスターが呼びかけるさなかで、ベムラーの隣に銀色の影が降り立った。
赤と銀の体に、光り輝くクリスタル──ウルトラマンギンガだ。
ギンガは颯爽と立ち、戦闘開始の構えを取ってベムラーに立ち向かっていく。
唖然としてタイガが呟いた。
『ほんとに先輩だ……』
『ベムラーの出現を予測してたってのか?』
『何かしらの予兆があったのかもしれん』
『一応解説しとくと、遊星に乗ったベムラーが地球の周りを飛んでるのが来る時に見えてさ。そろそろ落ちそうだったから……あー、ちょっとこっち集中するから後でな!』
後でと言われても、もうほぼ説明されてしまっている。
あれは三年前に一度だけ目撃されたタイプのウルトラマンでは、とキャスターが興奮気味に語る中、ヒカルさん──ギンガは的確にベムラーの攻撃をいなし、ダメージを与えて行く。
『やっぱり先輩はすげえ……』
『まさしく歴戦の勇者といった戦いぶりだな』
『おおっ、見たか今の流れるような連携技!』
タイガ達はもうすっかりギンガに任せて大丈夫という判断らしい。
本当に大丈夫なのかなあ……とは思うものの、実際ギンガの戦いぶりには迷いも不安もない。
ベムラーの動きが少しずつ弱って行き、やがてギンガはベムラーを頭上に抱えると地上から飛び立ってしまった。
それから間もなくヒカルさんのテレパシーが脳内に響く。
『侵略目的じゃなさそうだし、ちょっと外に放って来る!』
「外?……あっ宇宙にってことですか!」
『そういうこと!すぐ戻る!』
そうしてライブカメラから怪獣が消え、十分ほどの間に警報は注意報に変わり、朝のワイドショーはL字型の注意報画面と共に商店街の名物グルメを紹介し始め、
「ただいまっ!」
ヒカルさんは、颯爽とベランダに降り立って来た。
「ヒカルさん、本当にいつもこんな感じなんですね……」
窓を開けてヒカルさんを部屋に上げると、ヒカルさんは「まあなー」と笑いながらソファに寝転がった。
「ちょっと早起きしたから、一時間くらい寝てから帰るわ」
「えっと……起きたら朝ご飯食べます?良ければ作りますけど」
「食べる!それじゃお休みー」
ヒカルさんは頭からジャケットを被って体を丸めると、あっという間に寝息を立て始めた。
「あのさタイガ……」
そっとソファから距離を取って、以前から薄々予感していたことを、タイガに聞いてみる。
「ヒカルさんってもしかして、人の懐に入るのが物凄く上手い……?」
『それ俺も思った……だってヒロユキと会うのは二回目だろ今回……』
『あー……そういえば昔、父さんが言ってたな。人に好かれる才能は一級品の少年だった、って』
「子供にまで伝えるくらいなんだ……」
『だがこれはこれで、宇宙を旅する者に必要な才能かもしれないな』
「なるほど……」
ヒカルさん本人の性分が、宇宙を旅するのに向きすぎているのかもしれない……そんなことを思いながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見る。トーストとハムエッグくらいは作れそうだ……そう思いつつ自分の分の朝の支度をしている中で、ふと気が付いた。
──そう言えば僕、寝る前にヒカルさんとどんな話したんだっけ?

◆◆◆

「ご馳走様!」
きっちり一時間寝て目を覚ましたヒカルさんは、僕の用意したハムエッグとトーストをあっという間に平らげてインスタントコーヒーも飲み干したかと思うと、こんなことを言った。
「出発の前にちょっと散歩したいんだけど、付き合ってもらっていいか?タイガ達も」
林とかあるところがいい、というヒカルさんの漠然としたリクエストを受けて、カーシェアの車で雑木林や植物園のある近場の大きな公園へと向かった。
「うーーーーん……やっぱ上から見下ろすのとはだいぶ違うなあ」
木漏れ日の降り注ぐ雑木林の小道を歩きながら、ヒカルさんは大きく伸びをした。
「やっぱたまには戻んねーと駄目だな。俺、夕べヒロユキに言われたこと結構嬉しかったんだぜ」
「僕に……ですか?」
「おう。たまには地球に帰れ、お前は人間だろ、ってやつ」
「……えっ僕そんなこと言ってました?!」
まるで記憶にない。全身からどっと汗が噴き出した。僕の反応に、ヒカルさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「あはは、忘れてたのか。明らかに酔っ払ってたもんな〜ヒロユキ」
『おいおいヒロユキまさか、酔っ払ってギンガに説教したのか……?!』
『酔っ払って自分の先輩に説教……なかなかの度胸だな……』
『酔っ払……?』
「フーマもタイタスもちょっと待って、タイガには後で説明するから」
酒に酔えないと僕に明かしてくれたヒカルさん相手に記憶を失うまで酔っ払って説教だなんて、僕はとんでもないことをしでかしていたらしい。
確かにアルコールの力を借りようと決意した記憶はあるにはある、あるけど。そこまでやる気はなかった、なんて言い訳にもならない。
「本当に失礼なことを……!」
「いいっていいって。ま、確かに忘れてたかもって気付いたよ。俺自身は普通の人間でしかないって」
そう言いながらヒカルさんは雑木林の隙間から空を見上げて、少しだけ遠い目をした。その目はどこか寂しそうにも見えたけど、夜空の星を見上げるかのように輝いていた。
「ただギンガと一緒にいるのも、宇宙から宇宙へと冒険するのも、行く先々で色んな出会いがあるのも、タロウから頼りにされるのも、後輩達に会うのも……そういうの全部が楽しくって、嬉しくってさ。夢中になって、他の大切なものを見落とすかもしれないって思った。だからちょっと帰ろうと思う。次の冒険に行くのは、それからだ」
そう言って僕の方を見て笑うヒカルさんの笑顔は、とても眩しく見えた。
僕はヒカルさんと何回も会ったことがあるわけじゃないけど、こうやって笑うヒカルさんは、きっと凄く自然体なんだろうと思った。
「そこでやめるって言わないの、ヒカルさんらしいなと思いました。今回で会ったの二回目なのに」
「ありがとな」
僕の言葉に、ヒカルさんは少し照れくさそうに笑う。
「ヒカルさんは、なんでそこまで僕に話してくれるんですか。人によっては結構デリケートな話になりそうな部分まで話してくれましたよね」
「なんでって……」
ヒカルさんは少しだけ考え込んでから、首を傾げた。自分にもよく分からない、と言いたげだ。
「……ヒロユキには話しときたいって、思ったんじゃねーかな。別の世界にいる滅多に会えない仲間に、礼堂ヒカルは今こんな感じでやってるし、これからもきっとこんな感じ、って、覚えてて貰えればさ」
「覚えてます、絶対に」
ヒカルさん自身ですら気付かないほどの無意識な何かのサインを、受け取るのが僕で良かったのだろうか。
そう思いはするが、受け取ることが出来て良かったとも思う。
「それで次にあった時にはまた一緒に呑んで、ご飯食べましょうね、絶対ですよ。その代わり、また帰らなすぎてショウさんに怒られた報告とかはしないでくださいね」
「……最後のはちょっと約束出来ねえかもなー」
すると、僕とヒカルさんの会話を黙って聞いていたタイガが我慢出来ないと言った風に口を挟んできた。
『ダメですよ先輩、先輩が故郷にあんまり帰らなかったら父さんも心配します。というかこの前ザ・キングダムと戦った後、帰れる時に帰りなさい休みなさいで解散しましたよね?君が一番帰らなさそうで心配だって父さんに言われてましたよね、俺見てましたよ』
そこまで言われてたんだ、そしてしっかりタイガに見られてたんだ……。
「そいつはそうだけど……そこでタロウ持ち出すのはずるいだろタイガ……」
ヒカルさんが珍しく気まずそうな顔をする。やっぱりヒカルさんの弱点はタロウさんみたいだ、薄々察してはいたけど。
「じゃあ、ショウさんにもタロウさんにも怒られない程度には帰る、という約束で」
「お前らなあ〜」
ヒカルさんはほんの一瞬むくれるが、すぐに堪えきれないといった風に笑い始めた。
あんまり笑い事じゃないんですからね!本当に分かってますか先輩!あはは悪い悪い、なんて騒ぐうちに小道は雑木林を抜けて、街全体を見下ろす開けた高台に出た。
空には一点の曇りもなく、僕は眩しさに思わず目を細めたが、ヒカルさんはむしろ全身で太陽の光を浴びるように腕を広げて深呼吸した。
「……よし、帰るか」
そしてヒカルさんは呟いて、僕達の方に振り返った。
「それじゃ、俺は帰るわ。タイガ達は俺より到着遅れた分くらいゆっくりしてけよ」
「ヒカルさんこそ、なるべく寄り道とかしないで帰ってくださいね」
「小学生か、俺は」
軽口を叩きながらも、ヒカルさんは懐から変身アイテムを取り出した。
変身アイテムを力強く天に掲げて高らかにその名を呼べば、ヒカルさんの姿は瞬く間に光に包まれ、巨人──ウルトラマンギンガへと姿を変える。ヒカルさん──ギンガが僕達を見下ろすと、太陽の光を浴びて、その身に宿したクリスタルが煌めいた。
「今回はありがとうございました!他の皆さんにも、よろしくって伝えておいてくださいね!」
僕が声を張り上げると、ギンガは力強く頷いた。
『任せとけ、ヒロユキも元気でな。タイガ達は……ま、そのうちどっかで会えんだろ』
『なんで俺達にはちょっと適当なんですかー!』
タイガが軽く憤慨すると、タイタスとフーマが小さな声で僕に囁いた。
『あれはギンガなりの親しみだ』
『タイガのやつギンガに可愛がられてる自覚なくってなあ〜……』
「そうなんだ……」
『な、なんだよ三人共!』
『あはは、実際なんか困った時はいつでも呼んでいいからな、タイガ。すぐ駆け付けるぜ』
「ほら、ああ言ってるよ」
呼ばれなくても駆け付けてやる、くらいの勢いはあるような気がするけど。
『ぐぬ……それは、ありがとうございます……』
良いように言いくるめられたタイガは少し悔しそうで、なんだか仲の良い親戚同士みたいなやり取りだ。
『それじゃあな!楽しかったぜ!』
ギンガが地表から飛び立つ。
光を宿したその姿が青空に溶けて見えなくなるまで、僕らは何度も手を振った。
急に現れたかと思えばあっという間に懐に入り込んできてついでにサクッと宇宙からの危機を一つ解決して……振り回されたというわけではないけど、今回の件は思い出としては十分に強烈なものになった。時間としてはたった一日にも満たないと言うのに。
「……凄いね、僕達の先輩はさ」
思わずそう呟くと、タイガが反応した。
『そりゃあそうさ、だって先輩は、俺達のリーダーだぜ?』
「それもあるけどさ」
きっとそれだけではない。
あの太陽のような星のような先輩は、地球を飛び出して宇宙から宇宙へと飛び回る冒険をやめたりはしないのだろう。
その姿に危うさは感じるけど、やっぱりどうしようもないくらい眩しい。
だからこそ、その姿を、ヒカルさんが立ち寄った先にいた僕が覚えている事にはきっと意味がある。
「ヒカルさんと沢山話して、僕も僕の場所で頑張ろうって、改めて思ったよ。久し振りに会えて良かった」
『……先輩に手伝ってもらったのは偶然というか、成り行きなんだけどさ。ヒロユキがそう言うなら、手伝ってくれたのが先輩で良かったぜ』
「うん。タイガ達も、ありがとう」
そして、この僅かな時間の滞在を嬉しかったと、楽しかったとヒカルさんが言ってくれたことが、僕は結構嬉しかったのだ。

◆◆◆

……あっショウ?えっうわっちょ……分かった、俺が悪かったって!流石にやばいと思ったから今から帰る!時間どんくらい経ってる?……そっか。なるべく急いで帰るから、隊長達に伝えといてくれ。
ああ、うん、ヒロユキに怒られてさ。元気だったぜ、ヒロユキ。……え、怒られたことのほうが気になる?なんでだよ別にいいだろ……わーったよ話す!帰ったらちゃんと話すから!
嬉しそうって……そうだな、かなり嬉しいかも。帰ったらお前の説教もちゃんと聞きたいからよろしく。いや、気味悪いってなんだよ!思ったこと正直に言ってるだけだからな!

◆◆◆

だから僕思うんですよ、ヒカルさんはちゃんと自分の世界にたまにでも帰ったほうが良いです!僕だって正月にはちゃんと地元に帰ってるんですからましてやヒカルさんは家に帰ってないってことで相当ですからね!もしタイガ達が地元に全く帰って無いって聞いたら流石に心配になりますよ……まあ12年僕と一緒にいたからその時期は帰ってなかったんでしょうけど……。
……な、何笑ってるんですか。僕の他にもいるんじゃないですか、僕と同じようなこと言う人。ショウさんだってヒカルさんが全く帰らなかったら怒ったんでしょ。
それに……体質まで変わって、食事をしなくても大丈夫で……それじゃヒカルさん、人間じゃない時間のほうが長くなってるみたいじゃないですか……失礼なこと言ってるかもしれないけど、ヒカルさん自身は人間なのに……。
……ごめんなさい。ヒカルさんはウルトラマンでありたいと思ってるから、ウルトラマンギンガになってるんですよね。僕よりずっと長くウルトラマンやってる人にこんな事言うのは失礼ですよね……え、そんなことないって?
そんな僕に遠慮し……てるわけないですね、ヒカルさん僕に遠慮してたことないですもんね!だからなんで笑うんですかそこで!
まあ……僕の余計なお節介で笑ってくれたなら、それでいいです。心配してる人がいるってたまに思い出してくれれば……。
僕が言いたいのはそれだけなので……すみません、ちょっと眠くなってきました……ヒカルさんもちゃんと寝てくださいね……

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

◆◆◆

次ページ、ヒロユキ視点のために反映しきれてなかったり話とは直接関係ないけど想定してた部分などの補足。
だいたい捏造妄想だし蛇足かもしれないので別に読まなくてもいい。

トレギアとルギエル(※書きかけ未完の一部)

 気まぐれで乗った時空流の先に繋がっていた宇宙で、トレギアは幼い子供を見付けた。
 小さな星の片隅で空を見上げていたその子供の体は、刺々しく黒い鎧に似ていた。声を掛けてみても赤い十字の瞳で静かにこちらを見るだけのその子供の胸には、ウルトラマンのカラータイマーによく似た赤い光が宿っている。
 その身に宿した邪神の力で、子供の持つ因果の糸を手繰り寄せて覗いてみる。見えたのは、光る槍を掲げた巨人。そしてその巨人が二つに分かたれ、片割れからこの子供が生まれる、奇妙なイメージであった。
 トレギアはその子供に興味を抱いた。もしあの光の巨人がウルトラマンなのだとしたら──少なくともトレギアは初めて見る存在であった──、この子供は一体何者なのだ? ウルトラマンから生まれたにしては、あまりに禍々しい赤い光をその身に宿しているではないか。
「君は何者だい?」
 尋ねると、子供は首を傾げた。まるで、何者、という言葉の意味を考えるかのように。いや、それは子供の仕草からそのような印象を受けるというだけの話なのかもしれなかった。兎も角トレギアは、子供の反応を待ってみた。やがて子供は静かに答えた。
「……我が名は、ダークルギエル」
 
 きっかけは、その程度のものだった。
 偶然出会った一人ぼっちの子供を拾って、なんとなく自分の旅に連れて行ってはどうかと考えた。トレギアがルギエルを誘うと、ルギエルは静かに頷いた。こうして、一人旅は二人旅になった。旅と言っても大したことをするわけじゃない、ただあちこちの宇宙でちょっとした運命への悪戯をするだけだ。その先で何が起きようとトレギアは知ったことではない。そしてそれを、ルギエルはただ見ていた。ルギエルはトレギアに干渉せず、トレギアもまたルギエルに干渉しなかった。
 それでもその旅は常に順風満帆というわけでもないから、旅の中でトレギアがルギエルの持つ力を知るのに、そう時間は掛からなかった。ルギエルは、生命体の時を止めて人形にするという力を持っていた。初めのうちは一つの対象を一時的に人形に変えるに留まっていたが、次第に一度に人形化させる事が出来る対象数も、時間も、増加していった。成長したルギエルであればこの力で宇宙警備隊ですら一蹴出来るであろうことは想像に難くなかった。
 ルギエルは基本的に何も言わない子供であった。それでもトレギアは、ルギエルと旅を共にするにつれて、彼が存外強情な意思の持ち主であることに気付いていたから、ルギエルが付いて来るということはあちらにも何か思惑があるのだろうと考えていた。
 しかしそれを探るのは困難であった。ルギエル自身が喋らない上に、相当に複雑に絡まった因果の持ち主であった為である。どこから来たのか、何者なのか、それを追う事も叶わず、ただ「ウルトラマンから生まれた者なのではないか」、そんな曖昧な直感だけがトレギアがルギエルの正体について知り得たほとんど全てであった。
 そうしてどれほどの期間を共に旅していたのかは忘れたが、いつの間にかルギエルはいなくなっていた。私と共に旅をする理由はなくなったのだろう、とトレギアは思い、ルギエルを探すこともせず放っておくことにした。二人旅と言えたものなのか怪しい二人旅はまた一人旅になり、トレギアは何に構うこともなくあちこちでちょっとした運命の悪戯を続けた。
 そんなある時、トレギアはとある惑星に降り立った。小さな惑星であったが繁栄しているようで、大きな街があった。背の高い建造物が整然と立ち並び、市場には多くの店が軒を連ねていた。
 だが、トレギアがその惑星の住民とすれ違うことはなかった。理由は簡単であった。その惑星の住民は皆小さな人形と成り果て、路地や建物の床、土の上に無造作に転がっていたのだ。その惑星に最早動く生命の気配はなく、トレギアはつま先で人形を蹴りながら呟いた。
 つまらない星だ、と。
 
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

ギンガとルギエルって多分トレギアがめちゃめちゃ好きなパターンなのにトレギアが知らない(知りようもない)のもったいないなーと思って書きかけたやつ。
この後成長したルギエルとギンガとトレギアでなんやかんやするんだと思います。
そのうちもうちょっとちゃんとした形にしたい。

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

後輩には見せられない(ギンガS組)

※ショウと友也(+ずっと寝てるヒカル)です
※ニュージェネクライマックス後

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

「こんばんはショウ君。遅番お疲れ様でした」
「友也か。どうした? お前はとっくに時間外だろう」
「僕の部屋で礼堂君が潰れたので、自分の部屋に帰るついでに回収してくれないかなと……」
「ああ……」

 UPG隊員である礼堂ヒカルは、酒に強いわけではない。
 だが特別弱いということもない。人並みに飲めるし、人並みに飲めない。
 酒が回ると平時より少し陽気になって、ある境を過ぎると急に静かになって、そして糸が切れたように寝る。そのまま朝まで起きない。彼は自分がそういう酔い方をする人間であると自覚はしているし、とある「貴重品」を常時携帯している都合もあり、外出先で酒をほぼ飲まない。
 ただ、信頼する友人の家に上がり込んでいる時は話が別なのである。
「珍しいな、最近はここまで飲むことも無かったが」
「ええまあ……久しぶりなので驚きました……」
 地球防衛機構のとある寮棟。その自室にUPGの隊員であるショウを招き入れつつ、友也は部屋の隅で丸まっているヒカルを見て深々溜息を吐いた。
 部屋に上がったショウは、床に転がっているヒカルを覗き込む。
「今日はどうだった?」
「今日ですか? 概ねいつも通りですが……久しぶりに一緒に飲みたがってたので呼んだらこれです」
 友也の言葉にショウは首を傾げた。
「こっちに帰って来て糸が切れたか……?」
 ほんの二週間ほど前まで、ヒカルとショウはとある別の宇宙に滞在していた。それも数ヶ月という、初めて体験するようなそれなりの長期間だ。
 友也側の感覚ではひと月ほどしか経過していないのだが、長期間に渡るその宇宙への滞在でヒカルが常時気を張っているような状態だった事はショウから聞いているし、それなりの付き合いがある友也としても想像にも難くない。
 ただ、彼はとても器用な人間である。五年ほど前ならともかく、今の彼は自分の感情や精神状態のコントロールが非常に上手い。いくら気を張っていたからと、帰って来た途端にあっさり酔い潰れるほどにまでなるとは考え難く。
 友也の想定を超えるような事態だったと言えばそれまでなのだが、常に近くにいるショウが異変に気付かないほどに「燃え尽きる」ものなのかと、友也にはいささか信じ難かった。
「礼堂君に限ってそんなことありますか……?」
 友也が呟くと、ショウは押黙る。二人はしばし沈黙し、各々にここ数ヶ月のヒカルのことを考える。そして、
「……無いとは言えないな……」
「タロウ絡みならこうもなるかもしれないですね……」
「そうだろうな……」
 当人が聞いていたら全力で否定しそうな納得と共に、ショウは丸まったヒカルの背中を揺すぶった。
「おいヒカル、起きろ」
「…………」
 だがその程度ではヒカルは起きない。ただその長身を丸めてすやすやと眠っている。友也は感心しながら言う。
「一回り大きくなって帰ってきたような気がしていたのですが、相変わらず寝付きの良さと眠りの深さは一級ですね。これで昔と比べて朝ちゃんと起きることが出来るようになったんだから驚きです」
「感心している場合か、運ぶのは俺だぞ……」
「君は運べるからいいじゃないですか」
「意識の有る無しで運びやすさがまるで違う」
 ヒカルの部屋は友也の部屋と同じ階の三軒向こう、そしてショウの部屋はその更に向こう、ヒカルの部屋の隣である。この部屋の物理的な近さも彼らが頻繁に互いの部屋を行き来している理由であり、友也がヒカルが潰れた時にとりあえずショウを呼んでいる最大の理由とも言えた。ちなみに彼らの先輩にあたるゴウキ(本日は当直につき不在)もこの階に入居している。
「……ヒカルの部屋の鍵は……」
「いつものポケットでは?」
「……あった」
「今更ですが、なんで僕達礼堂君が部屋の鍵持ち歩く時に使うポケット知ってるんでしょうね」
「全くだな」
 ショウは革のキーケースをヒカルのジャケットの内ポケットから引っ張り出して友也に渡す。そしてヒカルをどう担ぐか、ああでもないこうでもないと考えた末に、シンプルに横抱きすることにしたらしい。ヒカルの膝下と背中に手を差し入れてひょいと抱え上げて立ち上がる。
 身長が190cmを超えるヒカルを彼よりも背の低い(それでも友也から見れば十分に背は高い)ショウが簡単に抱えてしまうというのはなかなか迫力のある光景なのだが、友也はすっかり見慣れてしまった。ショウが言うにはヒカルは痩せているので見た目より軽いらしい。
「ほら、さっさと行くぞ」
 いくらショウでもヒカルを抱えたままではドアの開け閉めが難しい。友也はショウの先を行く形で部屋のドアを開ける。夜の寮の廊下は薄暗く、常夜灯だけがぼんやりと廊下を照らしていた。黙って廊下を数十秒歩けば、あっという間に「礼堂」と表札の掛かったドアの前だ。友也は迷いなくドアの錠に鍵を差し込んだ。
「そう言えば礼堂君、帰ってきてすぐの頃に模様替えしたって言ってましたよね」
「ベッドの位置変わってたりしないだろうな」
「変わってるでしょうね」
 もっとも寮の部屋は基本的に1Kなので、ベッドの位置が変わったところで特に問題があるわけではないのだが。
 ヒカルの部屋の鍵を開け、部屋の中に足を踏み入れる。友也が照明のスイッチを入れると、ヒカルの部屋が露わになる。あちこちに世界各地の民芸品が並べられ、壁のコルクボードには写真が何枚も飾られている。物が多く雑然とした印象を受けるが散らかっているわけではない、そんな部屋であった。
 記憶の中の二ヶ月ほど前のヒカルの部屋を思い出して、やはり、と友也は頷く。
「家具全般の配置が変わってますね、あとコルクボードの場所も」
「相変わらず物が多いな……」
 ショウは窮屈そうに部屋の中を通り抜けて、ベッドの上にそっとヒカルを横たえた。時間にして二分ほどショウによって運ばれていたが、ヒカルは相変わらず眠ったままだ。
 ショウはヒカルに掛け布団を掛けてやりつつ、やれやれと零す。
「後輩の数も増えたっていうのにいつまでも相変わらずだな……」
「礼堂君らしくていいんじゃないですか、こういう時くらい肩の力を抜いていてもらわないと」
 ヒカルがUPGに入隊してから数年になるが、UPGの隊員の人数はヒカルの入隊当初から遥かに増えていた。世界各地に支部が設立され、ここ日本支部のメンバーも増えている。ヒカルは二十代前半という若さながら、日本支部の古株として多くの隊員から尊敬を集める立場にあったさ。
 別の宇宙にも、「ウルトラマンギンガ」であるヒカルには何人かの後輩がいる。そちらでのヒカルがどうなのか、友也は直接見てはいないが、ショウの話を聞く限りではこちらにいる時とそう変わりはないらしい。
 彼の立場はウルトラマンになったばかりの頃や入隊当時からは様変わりしていて、友也やショウの目から見ても彼は「立派な先輩」なのだろうと思える。だが同時に、友也はこうも思うのだ。
「……礼堂君は器用すぎて、強すぎて、背負えるだけの物を背負えるだけ背負ってしまいますから。僕らから見たらとっくに潰れていてもおかしくないだけの物を一人で背負って、それでも自然体で笑っているのが礼堂君です。だけどもしかしたら、こういう酔い方をするのは、実は自覚してないだけで背負い切れてない、もしくは重さを負担に感じてる時があるからなんじゃないかって、僕は今日の礼堂君を見て思いました」
 友也の言葉に、ショウは黙り込む。思い当たる節は大いにあるのだろう。今日潰れたことだって、帰って来て彼の中で何かの糸が切れたからではないかと分析していたばかりだ。
「ですからまあ、たまにこうやってダメになってる所を僕らが面倒見るくらいでちょうどいいんですよ、きっと。それは多分僕らでないと出来ないことです。それでも背負い切れないような時になれば自分で気付けますし、辛い時は辛いと自己申告出来ますから、礼堂君は」 
「……そうだといいんだがな」
「まだ何か不安でも?」 
「いや、俺もお前とだいたいは同意見なんだが、この寝顔は何も考えてなさそうに見えるからな……こちらの考えすぎじゃないかと思う時もある」
「それはそれで礼堂君らしい気もしますけどね……」
 無いとは言えないから困る、と友也は苦笑する。そして、さて、と話を切り替える。
「今日はどっちが鍵の番します?」
「ああ、そう言えばそうか……」
 彼らはヒカルが鍵を持ち歩く時に使うポケットは知っているが、合鍵を持っている訳では無い。外から鍵を閉めることが出来ない以上、どちらかが中に残るしかないのだった。
 そしてヒカルは自分の酔い方を自覚して以降、自分が酔い潰れた時の為に寝袋を部屋の隅の分かりやすい場所に置いておくようになった。申し訳なく思う心はありつつも信用している人間に対して甘えるのがやたらに上手い、とは友也とショウの共通の見解である。
「……まあ、ショウ君は上がったばかりで疲れているでしょうから。僕が見てますよ。寝る準備だけして来るので、少し待っていてください」
「俺の方が部屋が近いのに悪いな」
「大して変わりませんよ、同じ階なんですから」
 寝る準備とは言えヒカルが潰れた時点で晩酌の片付けはしている。寝巻きと持ち出し用の洗面用具だけ持って自分の部屋の戸締りさえすればあとは一晩ヒカルの部屋の寝袋の中にいればいいだけだ。今日に限らず、ヒカルが潰れた時は友也かショウがそうするのがいつの間にやら当たり前になっていた。
 なお、この辺りの事情をヒカルをよく知る友人達に何気なく話したところ「二人して甘やかしすぎ」などと言われた。
 そうして友也はヒカルの部屋と自分の部屋を往復する。
 朝食の用意くらいはして貰わないと割に合わない。ヒカルはこれまで同様の酔い方をしても二日酔いをした事はないので大丈夫だろう。
「全く……いつまでもこんな事じゃ困りますよ」
 そう呟きながらも、困った気はしない。ただ後輩には見せられたものじゃないな、とは思う友也であった。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

最近は強度高めの頼れるお兄さん像が定着してるヒカルさんですが、元の世界での人間関係内では基本的に世話焼かれる側の人だと思ってます。
思ってるんですけど、これ書いたの2021年くらいだったと記憶してるんですが元の世界にちゃんと帰ってない疑惑が2022年末辺りから浮上してきている。どうして

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

私の知る君、知らない君(タロウ視点のギンガ+ゾフィー)

※ギンガS本編の後くらい

 そうか。ダークルギエルとギンガはかつて、ひとつの存在だったのか。
 ヒカルに憑依する形で地球に滞在していた期間の報告書を提出する羽目になった(人形やらブレスレットやらから元に戻ったばかりで体も凝ってるというのにゾフィー兄さんは人使いが荒い、とぼやきながらも)タロウは、端末の画面に表示されたまっさらな報告書フォーマットと向き合いながらギンガの正体について思い返していた。
 可能性の一つとして予測はしていたのだ。
 いくらギンガとルギエルが宿敵と言えど、その成り立ちが無関係な者同士であれば、全く同じ形状の武器を用いることはまずないであろう。体の同じ場所に光るクリスタルを宿すこともないであろう。
 その所有者達がかつて同一存在であったというならば、ギンガスパークとダークスパークが対を成して存在する事は頷ける。分かたれた陰と陽、その端的な象徴なのだから。
 そしてギンガの体に輝くクリスタルと対応するかのように、ダークルギエルの体にもまた、禍々しい赤い光が宿っている。
 ギンガは未来から来たウルトラマンである。だがダークスパークウォーズ当時の光の国に一度飛来して、そこでルギエルを封じるために力の全てを使い果たし、長い時をあの神社で眠って「選ばれし者」を待ち続けていたのだ……ギンガスパークの中で。
 ギンガの過去への来訪はルギエルを追ってのことであり、となると遥か未来の時間の中でギンガとルギエルは二つに分かたれたのであろう。
 世代から世代へ受け継がれる光を肯定した者と、生命の時間を止めることで死から救済しようとした者として。
 ──何を切っ掛けに、君達は命のあり方と向き合うようになったのだ?
 同一存在からの分裂という結果をもたらす程に衝撃的な何かが、あったのだろうか。そう、例えば……かつての彼らにとって誰よりも大切であった者の死、など。
 となるとどうしても思い浮かぶのが、あの青年……ヒカルのことだ。ウルトラマンに選ばれたとしても、彼はどこまでもただの地球人で、人間だ。
 ヒカルがいなくなった時、取り残されたギンガが何を思うのか。例えば、過去に遡りあらゆる生命体から「死」の概念を奪う為にあらゆる生命体の時を止めよう、などと極端な発想に至るなど。
 ──まさか、とは言い切れないのがギンガの恐ろしいところなのだが……。
 一度の分離を経てはいるものの、再会して以降のギンガはヒカルから離れようという意思を全く見せていない。
 多くのウルトラマンがそうして来たように、やがて変身者とは分離してこの広い宇宙を守るために地球を去って行く……そんな物は我関せずと言った風である。
 おまけにギンガが拘っているのはあくまでヒカルであって、地球ではない。それは彼らと過ごした時間の中で何となく分かってしまった。
 これが宇宙警備隊員のしていることなら大事になりかねないのだが、ギンガは宇宙警備隊員でもなんでもないのであった。
 どこから来たのか、どこへ行くのか、ギンガは黙して語らず。
 ──長く共に戦ったつもりでいたが、私は君についてはほとんど何も知らないのだな。
 思わず苦笑いがこぼれた。タロウがあの地球で過ごした期間で得たギンガについて知った事の殆どは、「ギンガ」ではなく「ヒカル」について。「ギンガ」がどのような存在かなのかすら、おぼろげにしか掴めていない。タロウですらそうなのだから、これから彼と共に戦うことになる者達は「ギンガ」の存在など気付きもしないのだろう。
 本当にヒカルがいなくなった時、ギンガは、ギンガを取り巻く環境は、我々は、どのように変わるのか。タロウは考えた。 
 それがいつになるのかは分からない。なにしろヒカルの住む宇宙は、このM78星雲を擁する宇宙とは時間の流れが大きく異なっているのだから。
 憂鬱な話だ、体感でほんの数日前まで共に過ごしていた青年がいなくなる瞬間について今から考えることになるとは。タロウは眉間を押さえて一つ溜息を吐き出した。光の国に帰ってきた途端に脳が己を宇宙警備隊の筆頭教官としての立場へと切り替えた。ヒカルと共にいた時の方が自分の立場を意識した振る舞いをする必要が無かった分気楽だったかもしれない、早く大きくなりたいと嘆いたりはしたが。
 考えたくない話だが、宇宙警備隊としては、今現在のギンガが将来的にルギエルを生み出す、あるいはルギエルそのものに「成る」可能性があるのならば、ギンガを監視し続けなければならない。それほどにルギエルは危険な存在だ。
「……それでも。私は、君たちの光を信じているよ。ヒカル、ギンガ」
 願うようにして呟く。
 未来は変えられる、それを何よりも信じているのはきっとギンガだ。だから彼はヒカルの持つ未来を求める力を信じて、彼を選んだのだ。
 どうか君の戦う理由が、未来を変える為であってほしい。
 口数少ない友人のことをも思いながら、タロウは端末に指を滑らせる。文字入力デバイスを呼び出し、報告書を書き始めた。
 書き出しは、そう。『これは、未来を変える為に戦った者の記録である』──

 ◆◆◆

「あのな、タロウ」
「はい、ゾフィー兄さん」
「確かに報告書を書いてほしいとは言ったけどね。長編小説を書けとは言ってない」
「私の滞在期間を考えればどうしてもこれくらいのボリュームにはなります」
「いやしかしこれ……なかなかの大作だぞ? 今すぐ印刷所に持っていってハードカバー製本出来るぞ?」
「でも全部読んだんでしょう?」
「読んだよ、面白かったさ。しかしここまでなっっっ……がい報告書書いて寄越してきたの地球赴任終えた時のメビウス以来だな……」
「知ってますよ、あれを最初に読んだの私ですから。それに地球滞在後の報告書提出がルールになったのはメビウスが赴任した頃からでは?」
「それはそうだが一旦置いておくとして。さてどうしようかこれ……一応ウルトラ兄弟全員読まないといけないが何しろとんでもなく長い……」
「読んでもらうしかないでしょう、メビウスの時みたいに」
「まあそれはね、でもこれを書いたのはお前だからね」
「……ゾフィー兄さんはどう思いました、ギンガとルギエルのことは」
「ああ……無論、気にはなったがね。だが、その時が来なければ何もわからない、そうだろう? 私達の中では最も彼らと近しい君が彼らを信じているのであれば、私から言うべきことは何もないさ」
「……ありがとうございます」
「ヒカリには何か小言くらいは言われるかもしれないがね、ははは」
「はは……」
「どうした、ヒカリがかつてハンターナイト・ツルギとやらを名乗っていた事でも思い出したか? それともベリアル、あるいはお前の友人のことか?」
「……わざと聞いているのでしょうが、ゾフィー兄さん。無神経と言われたことは?」
「時々ね。お前の気持ちも分からんでもないさ、『そうなった』実例を知っている以上、新しい友人の行く末を案じることは何もおかしいことではない。だが、そんな実例をいくつも知り、迷いながらも彼を信じる方を選ぶ事が出来る、それこそがお前の美徳であり、もしかしたら彼の……彼らの心の救いにもなり得る。私はそう思うよ」
「……ありがとうございます、ゾフィー兄さん」
「どういたしまして。しかしこれを読む限り、ギンガが選んだ青年はなかなか気持ちの良い性格をしているな。一度会ってみたいものだ」
「それはどうも。実際いい性格……もとい、心根真っ直ぐな青年です。時が来たら、光の国に呼ぼうかと考えています」
「いつ頃になるんだい、それは」
「まあ……そうですね」

「彼が更に戦士としての経験を積み……何人か後輩が出来る頃になったら、考えますよ」

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

CVたけうちくんのゾフィーはこれくらのいい性格したこと言いそうだな……と思って書いた記憶がある。
声に引っ張られすぎでは

約二百倍年上の弟弟子(ギンガ&ジードもといヒカル&リク)

「ゼロに、弟子が出来たんですよ」
「へえ」
「ウルトラマンZっていうんですよ、宇宙警備隊の新人らしくて」
「はあ」
「素直でいい子なんですよ、いい子すぎて若干心配になりますけど」
「ふむ」
「で……その。Zが、僕のこと兄弟子って呼んで来るんですよね」
「……兄弟子。あ、Zから見ればジードは兄弟子って事か」
「まあ、はい。それで……その、Zの歳が」
「……もしかして。何千歳とかいう」
「そうなんですよー! 五千歳! だいたい五千歳なんですよZ!」
「ああーそれ俺がタイガに先輩って呼ばれた時と同じやつー!」
「僕まだ二十一ですよ! 元々ウルトラマンとして活動してる時は周りが年上ばっかりだったしそんなに気にしたことなかったですけど二百倍以上年上のZに兄弟子って呼ばれてどんな反応すればいいのかよく分かんないんですよ! いやほんと……こんなことギンガ……ヒカルさんにしか相談出来なくて……」
「お前と同じような状況になったことあるの俺しかいなさそうだもんな……複雑なのは分かるぜ……しかもゼロの弟子ですらないだろジード」
「ゼロのことは尊敬してますけど、弟子になった覚えはないですからね僕!」
「ゼロは俺とショウのこと弟子だと思ってるらしいけどな」
「ギンガ的にはどうなんですかそれ」
「否定するのも面倒だし別にいいかなって……でもジードのこと弟子だとは思ってないだろ、ゼロは」
「だと思いますけど……」
「それはそれとしてZはジードのこと」
「兄弟子だと思ってるんですよねえ……」
「それもう放っとくしかないだろ……」
「そうなんでしょうか……呼ばれる僕はどうしても年齢のこと考えちゃって複雑なんですけど……」
「あっちがこっちを兄とか先輩扱いしたらそれはもうそうなんだよ。ウルトラマンってそういうもんなんだよ」
「ゆるゆるですよね」
「ゆるゆる言うな」
「いやあ……でもやっぱりZの歳を考えると……それを言ったらタイガ達も僕よりはずっと年上ですけど……」
「こればっかりはなあ……」
「複雑です……」
「……なんか、頑張れよ」
「はい……」

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

ジードの、ゼロのことは大好きだし尊敬もしてるけどゼロの弟子扱いされると「弟子ではない」ってすぐに否定するところ好きです。

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

あなたが痛みを背負わず済むなら(ヒカル)

 タロウをトレギアと戦わせたくない。
 トレギアの話を最初にタロウから聞いた時、胸に過ぎったのはその思いだった。
 トレギアがやろうとしている事も、トレギアがやった事で俺達が被った害も、そういうの全部すっ飛ばして、タロウとトレギアを戦う事を考えた時に、拒否反応に近いものが胸中に沸き起こってくるのを感じた。
 タロウはきっと、必要となればトレギアと戦う覚悟をとうに決めている。宇宙警備隊筆頭教官……だっけ? タロウは光の国の重鎮で、盾で、必要となれば身を呈して光の国を守る覚悟だってある。
 それでも、嫌だった。
 トレギアと戦う事でタロウが苦しむのが嫌だった。タロウにそんな思いをさせるくらいなら俺がトレギアと戦う。
 俺がそんなことを思っても、タロウは俺より強いからそんなの余計なお世話だ。
 だからこれは、多分俺のワガママ。
 だって俺の知ってるタロウは、タイガが萎縮してしまうような、そんな近寄り難い肩書きを持つ偉い人とかじゃなくて。
 早く大きくなりたいと嘆いて、俺に夜な夜なウルトラマンや怪獣の話をしてくれて、偉大な父親の存在に悩んだ事だってある、そういう、温かくて優しい、もう一人の父親のようでうんと年上の友達のようでもある人だから。
 そんな人が悲しい気持ちや自分の痛みを押し殺してかつての親友と戦うだなんて、俺には耐えられない。
 だから、タロウに戦わせる位なら、俺がトレギアを…… 

「……なんてお前は考えてるのかもしれないが、一人で抱え込むなよ。トレギアを倒すのは『俺達』だ」
「……ほんっと、ショウは俺の考えることなんてお見通しだよなあ」

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

「普通の人」(ヒカルさんとカツ兄)

※タイガ本編~劇場版タイガの間、一部は当時のTwitter掲載のE.G.I.S業務報告書のネタを拾っています。

 ウルトラマンと言えど、変身していない時は基本的にただのヒトだ。
 まあ地底人とか宇宙人とか俺達の中にはいるけど、それでも変身してなければ俺達は人間の姿形をして人間のサイズで町を歩く。
 多分七人の中で一番「普通の人」なのが俺だ。地球を守る防衛隊、なんて概念、俺はヒカルさん達に出会って初めて知ったし、運動神経には自信あるけど宇宙人と戦うことに関しては多分ヒカルさんほどじゃないし、大地さんやイサミみたいに頭が良くて特別メカに強いなんて事もない。
 タイガに変身するっていう工藤ヒロユキ君はどうなんだろう。民間の警備会社で働いている、くらいの事しかまだ知らない。
 ウルトラマンじゃない俺、湊カツミにある特別な技能と言ったら多分デザイナーの卵としてのデザイン知識全般。あとちょっと数字に強い。日常会話レベルのイタリア語。それくらいだ。
 ヒカルさんから聞いた話だと、ウルトラマンに変身する人の多くが地球を守る防衛隊に所属していたとかなんとか。じゃあ俺達って珍しい方なんですか?と聞いてみたら、「多分」と頷き返された。
 そうか、ウルトラマンになる「普通の人」も、ウルトラマンになってからも「普通の人」でいる人も、珍しいのか。それは俺やイサミからしたら目から鱗の話だった。
 で、なんで急に自分が普通の人だって事に思いを馳せ始めたかっていうとだ。
「そっかあ、この地球は防衛隊がないから怪獣が出たらいきなりタイガ達が出て来るのか」
「あの、ヒカルさん」
「なに?」
「ここにいるのはまずいですって、逃げましょう」
「ゴメスならこれくらい距離取ってれば大丈夫。あの三人が長時間手こずるような怪獣でもないし」
「ヒカルさんがそう言うならそうなのかもしれませんけど!」
 昼下がりの、とある雑居ビルの屋上。
 その柵に凭れる背の高い人影が一つ。視線の先には、ビル群の合間で怪獣……ゴメスが、この地球を守るウルトラマンの一人・タイガと取っ組み合っていた。
「お、今のパンチはなかなか良かった。やるじゃんタイガ」
 タイガの戦いを見守るヒカルさんは随分楽しそうに見える。これは梃子でも動かないだろうな……。
 俺の心配をよそに、タイガとゴメスの戦いの決着はあっという間に付いた。タイガがストリウムブラスターを撃って、ゴメスは爆散して。そういう「ウルトラマンらしい」決着。そこまでをしっかり見届けたヒカルさんは、笑顔で振り向いた。
「よっし! 帰ろうぜ!」
 ヒカルさんの言った通り、タイガとゴメスの戦いの余波は、俺達のいるビルまで届くことはなかった。
 戦いを見届けたヒカルさんはすたすたと下の階へ降りて行ってしまう。俺は慌てて後を追った。ビル五階分を建物の外にある非常階段を下りて地上へ向かう。
 俺達がいた雑居ビルは、近くでタイガとゴメスの戦闘が始まったのを見たヒカルさんがそこにちょうどビルがあるからと駆け上がった場所だ。出掛けた先から帰って来る途中だったわけだから、ここは目的地でもなんでもない。
 ヒカルさんはギンガとしての大人びた頼り甲斐のあるイメージがどうしてもあったけど、素のヒカルさんはよく笑うし結構フィーリングで動く人なんだということがここ数日で分かった。それでもそのフィーリングと行動はヒカルさんの経験と知識に裏打ちされたものだから、悪いことにはならないのだ。
 ヒカルさんってカツ兄と歳そんなに変わらないのにカツ兄よりずっと貫禄あるよね、とはイサミの言。やかましいわ。
「……なんていうかヒカルさん、肝が据わってますよね」
「そうか?」
「今の俺達には変身能力が無いんですよ、普通もうちょっと遠くまで逃げますよ」
「大丈夫だって、俺はタイガを信じてる。カツミだってそうだろ」
 いや、それもそうだけど。俺が言いたいのは危機管理能力的な話で。それともやっぱり、ヒカルさんと比べれば俺の感覚はどこまでも一般人寄りということなんだろうか。
「……ヒカルさん、タイガが戦ってる時は絶対見に行きますよね」
「ん、まあな。だって弟弟子の活躍は見たいだろ?」
「弟弟子、ですか」
「まあタイガの方が俺よりずっと年上だけどさ、タイガは俺のこと先輩だって思ってるからそういうことにしてるし、やっぱ弟って感じがするんだよなータイガは」
 緩いなあ。でもそうか、ヒカルさんはタロウの弟子でタイガはヒカルさんを先輩と呼んでるから、タイガは弟弟子になるのか。年上の弟弟子。それって不思議な感覚なんじゃないだろうか。
「……俺まだピンと来てないんですけど、ウルトラマンって何千歳生きるのが基本なんですか」
「まあ……だいたいそうなんじゃないか? ガイだってあれで千歳はとうに越えてるみたいだし、タロウも一万年以上は生きてる筈だし……俺達地球人よりはずっとずっと長生きだぜ」
 そう言った時のヒカルさんの横顔は少しだけ寂しげに見えた。だけどそれは一瞬のことで、すぐにいつものような人を安心させる笑顔を浮かべた。
「ウルトラマンである以上、年齢ってそんなに関係ないけどな。宇宙によって時間の流れも全く違うし。弟だと思えば弟だし、兄だと思えば兄。タロウだってウルトラ兄弟の六男だけど、十一男のウルトラマンヒカリの方がタロウよりずっと年上らしいぜ。あっいや、ウルトラ兄弟は本当の兄弟ってよりは称号みたいなもんだけどさ」
「へえ……」
 ウルトラ兄弟って十一人もいたのか……。
「あーなんか腹減ったなー。やっぱ苦手な事すると疲れるぜ」
 ウルトラ兄弟の人数に驚く俺をよそに、ヒカルさんはうんと伸びをした。本当に疲れているような顔をしていたから、俺は驚いてしまう。
「え、凄く上手く交渉してるように見えましたけど」
「苦手だよ、俺はこういう事は仕事でもそんなにやんないし俺より得意な人がいるし……見よう見まね」
「へえー……だとしたら今日は本当にありがとうございました、ヒカルさん」 
「いいって。こういう時は助け合いだろ」
 そもそも今日の目的は、この辺りを仕切る宇宙人に会って、露店を経営する場所を決めること。なんでもヒカルさん、ここに来たばかりの頃にショウさんと一緒に賽銭泥棒の宇宙人をとっ捕まえたり、他にもちょっとした悪事を働いた宇宙人を捕まえて警察に突き出したりしていたら、宇宙人相手に随分顔が効くようなってしまったらしい。
 使えるものは使っとけ、とヒカルさんがそれを活かして、俺達はそれぞれが住む場所に加えてお金を稼ぐ為の場所も手に入れてしまった。
 ヴィラン・ギルドが何か目立つ悪事を働いても俺達なら対処出来る、俺達はウルトラマンだから……それが、ヒカルさんのほとんど唯一の、でも効果抜群の手札だった。そこに俺やイサミは含まれているのだろうか。含まれているんだろうな、ウルトラマンだし。 
「ヒカルさん、初めて変身した時って高校生なんですよね」
「そうだよ。て言ってもあの時は休学して日本来てた状態だったしな……。その時に俺はギンガとタロウに出会った」
「……その、ウルトラマンにならなかったら、とか、防衛隊に入らなかったら、とか。考えたことありますか?」
「うーん……無くはない、けど。ギンガとタロウに会わなかったら、多分全然違う俺になってたと思うし、考えても仕方ないから考えてない」
「……じゃあ、その。変身出来ないウルトラマンって、なんだと思います?」
「ん……?」
 ヒカルさんは空を見上げながら首を傾げた。
「なんでそんな事が気になるわけ?」
「なんか……俺って普通だなあって……ヒカルさん達見てたら思いました」
「……普通、か」
 ヒカルさんはからりとした笑顔を浮かべた。
「普通でも、別にいいと思うけどな。カツミの気にしてる事がなんなのか、俺には分かんないけど。例え普通でもカツミはウルトラマンで、一緒に戦う仲間だろ? 俺達にはそれだけでいいんだよ」
 気にしてるのかなあ、俺。それすらもよく分からないけど、かつてトレギアに言われたことが俺の中にまだ残っているのかもしれない。
 ウルトラマンは、全宇宙の秩序と生命を守る存在。それがどういうことなのか、俺はウルトラダークキラーとの戦いや、ヒカルさん達を通してようやく理解し始めているのかもしれなかった。
 ヒカルさんは変身していない時でも真っ直ぐ立って前を見ていて、まるでヒーローみたいだと思う。いや、本物のヒーローなんだと思う。変身してからヒーローになるんじゃない、変身する前からヒーローなんだ。ウルトラマンに求められる物を持っているんじゃないかって、なんとなく思える人。まあ、ニュージェネレーションの皆と会うまで俺達兄妹はジード以外のウルトラマンに会ったこと無かったけど。あれ、そういやオーブダークってウルトラマンか? まあいっか。
「んー……まあでも、お前たち兄弟みたいなやつが一人や二人いてもいいんじゃないか? この先いるかもしれないぜ、いきなりウルトラマンになっちゃった普通の、一般人が。まあ俺も最初の戦いの時はそうだったけどさ。そういうウルトラマンが出てきた時に助けてあげられるのはお前達だけかも。だってウルトラマンの使命って、重たいと思って当たり前なくらいには重いじゃん? 基本、負けちゃいけないんだから。そういうのは、戦いと無縁で生きてる人が背負うには重すぎる」
「……それは、そうですね」
 負けることが許されない。ウルトラマンになりたての頃の俺が一番気にしていたことだ。俺は隣にイサミがいたから乗り越えられたと言ってもいい。でも、
「俺はそれを乗り越えましたけど……ヒカルさんはどうやって乗り越えたんですか?」
 今は地球を守る防衛隊として、そしてウルトラマンとして、ニュージェネレーションのリーダーとして俺達を引っ張るヒカルさんが「一般人だった頃」はどうだったのか、少し気になった。
「乗り越えたっていうか……うーん、大切な人達を守ろうとして必死だったからそんなに重さを感じたこともないっていたっていうか……むしろわくわくしてたっていうか……がむしゃらに走ってたらいつの間にか世界を救ってた、みたいな……」
「やっぱり大物ですね、ヒカルさん……」
 この人、実は割とイサミに似てるんじゃないのか。
「まあ、とにかくさ。カツミはちゃんとウルトラマンやってる。自分の持つ力から逃げてないし、自分の力の大きさへの自覚だってある。それは立派な事だと思うぜ。だから胸張っとけよ」
「……ありがとうございます」
 ヒカルさんにそう言われると、心の底から真っ直ぐに背筋を伸ばせるような気がするんだから、本当に不思議な人だ。自分も元々は普通の一般人だった、なんて言ってるけど、それでもウルトラマンから選ばれるだけの生まれ持った才能とかそういう物がある人なんだと思う。
 かっこいいよなあ、なんて思ってしまう。
「……なんかヒカルさんにそう言ってもらえると、勇気もらえます。水のルーブクリスタルにギンガの絵が描かれてるから、勝手にお守りみたいな存在だと思ってて。こうやって会って普通に話が出来る日が来るとは思ってもいなくて」
「そ、そっか……そう言われると照れるな……」
 ヒカルさんはむず痒そうな笑みを浮かべた。
「ま、まあ、俺もびっくりしたけどな! お前たち兄弟が俺とタロウの力を借りて変身するって聞いた時は。俺とタロウなんだ……って」
「俺達は納得しましたけどね、タロウとギンガが師弟って聞いて。そういうコンビなんだーって」
「コンビ……そっか、コンビか……コンビかなあー? あはは」
 ヒカルさんの声がどんどん明るくなる。なんていうか、浮かれているような。
「……ヒカルさん、タロウのこと相当大好きですよね」
「ん゛っ……」
 何気なく聞いてみると、ヒカルさんは呻きながら空を扇いだ。
「ごめん、それ言われるとめっちゃ恥ずかしい……」
「えっすいません……でもヒカルさんがタロウ大好きなのはだいぶ漏れてますし……」
「漏れてる!?」
 ぎょっとしたのか、ヒカルさんが目を見開いて俺を見た。
「そんなに!?」
 これは、もしかして。面と向かって指摘されたら物凄く恥ずかしくなるレベルのことを隠せていると思っていた、ということか。
 タロウの話をする時のヒカルさんはいつも楽しそうで、ダークキラー事件の時だって当時ギンガともタロウとも初対面の俺でも分かるくらい心の底から嬉しそうだったのに。
「はい。割と、バレバレです」
「言うなよ!? それタロウには絶対言うなよ!?」
 ぐい、と詰め寄られた。ヒカルさんは俺より背が高いので見下ろされる形になる。迫力が凄い。
「い、言いません。はい、絶対に言いません!」
「絶対だからな!」
 念を押されてしまった。
 なんだかこういう時のヒカルさんは、案外俺と変わらないのかも、なんて思う。別に隠す必要なんて多分何もないのに、照れくさいからって隠している(隠せているわけではない)。そういうところは、なんていうか凄く、俺と同じくらいと言われて納得してしまう。意外と子供っぽいというか。
 俺達以外のウルトラマンだって、ヒーローとして戦っていない時は、意外と俺達とそう変わらない。ヒカルさんを見てたら、そう思えるようになってきた。
 ウルトラマンだからどうとか関係なく、得意不得意があって、人間らしく悩んだり隠し事もしてて。
 今は俺も俺なりに、俺に出来ることを頑張るしかない。いつだってそうしてきたんだから。
「……ヒカルさん、今度俺達のお店来てくださいよ。あやか星饅頭、ご馳走します」
「おっ、いいの? 俺和菓子にはちょっとうるさいけど」
「どうぞどうぞ。俺達の地元の味を教えてあげますよ」
 その時はヒカルさんだけじゃなくて、ショウさんも大地さんもガイさんも呼ぼう。皆からそれぞれの話を聞いてみたいし、色んなことを知ってみたい。
 ウルトラマンにならないと出会えなかった人達と一緒に大好きなお饅頭を囲んで食べるのは、きっと楽しいだろうな。
 そう考えると、俺みたいな普通の人がこうやって他所の宇宙の地球までやってきて、他所の宇宙のウルトラマン達と一緒にいるっていうのは普通じゃなくて、でもその中で俺はどこまでも普通の人で……それはそれで、凄く俺らしいんだろうな、なんてことを思ってしまうのだった。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

特に自覚無く双方のツボを押さえているヒカルさんとカツ兄みたいなやつです。
西暦の生年設定を基準にするとカツ兄の方がヒカルさんより年上だったりするんですが、カツ兄は年齢関係なく先輩扱いしてると思います。

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

星の光が届くまで(ヒカル中心)

ギャラファイ1直前くらいのヒカルさん視点のギンガS世界の話。
捏造と妄想が多い。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 「丹葉」と表札のかかったアパートの扉を開ける。
 視界に飛び込んできたのは、眩しい程の橙の夕日に染められた雑然とした四畳半。壁を埋め尽くすようにして貼られた大判のポスター。その中では幼馴染みが満面の笑顔を見せていた。
 そんな空間の真ん中に置かれたちゃぶ台の前にあぐらをかいたメトロン星人がひょいと手を上げた。
「やあ、よく来たねヒカル隊員。私は君が来るのを待っていたのだ」
「……あのさ」
「なんならアリサ隊員も呼んだらどうだい」
「このやり取り何回目?」
「正味七回目かな」
「よく飽きないよな」
「メトロン星人と言えばこれ、みたいなところあるからね。ほら座りなさいよ。あ、お土産もそこに置いちゃっていいからね。今日は何かな?」
「ゴマまんじゅう。試作品だってさ」
「お!いいね、ゴマ」
 かさ、と小さな音を立ててちゃぶ台の上に持ってきた袋を置いて、その中からまんじゅうの箱を出して開けると袋の上に置く。
 するとジェイスがどこからともなく取り出したアルミ缶をちゃぶ台の上に置いた。
「はい、眼兎龍茶」
「ロゴの色が前のと違うな」
「新作なんだよ。黒豆茶」
「この前は柚子茶じゃなかったか?その前は梅昆布茶」
「ほら、定番商品の他にも色々作らないとだからね、お茶にも流行り廃りはあるし」
「ほんとかよ……」
「君ほんと流行には興味薄いんだねえ、若いのに」
「関係ないだろ」
「あるよ~だって私がこの地球でビジネスをするにあたって頼れる数少ない地球人の友人?みたいな?人間だしね」
「地球で友達いっぱい出来たんだろ」
「仕事と趣味は別なの!君あれでしょ、SNS本名でやる系でしょ。やめときなよ~危険だよ~」
「こっちが何の仕事してると思ってんだ、ネットで本名は出してねえよ」
「そうかそうか、それを聞いて安心したよ。あっこれ美味しいね」
「直接買いに行った時に言ってやれよ」
 俺はどうしてこんなところでこいつに説教されてるんだ。そう思うのも最早何度目になるか。七回目だ、さっきこいつが言ってた。痛む頭を押さえながら、ヒカルは「それで?」と話を促す。
「今日は何の用だ?」
「いやあそれなんだけど」
 ジェイスは立ち上がると、部屋の隅に置いてある冷蔵庫を開ける。そして紙で出来た箱をちゃぶ台の上に置いた。
「これね、次の季節限定商品なんだけど。味の感想教えて?」
 メトロン星人ジェイスとUPG隊員であるヒカルが知り合ったのは、およそ四年前の事である。
 ジェイスはアイドル──久野千草のファンをやっていた。
 その頃のジェイスは地球侵略の為のエージェントという使命を完全放棄している状態だったのだが、その辺りの細かいあらましは割愛するとして、ジェイスを巡る騒動に雫ヶ丘をライブのため訪れていた千草が巻き込まれた。その時ヒカルとジェイスは知り合った。知り合っただけ、の筈だった。
 次にヒカルとジェイスが会ったのは、その二年後。千草がとある有名なライブハウスでライブをする事になり、友人として招待されたヒカルは当然のように現場にいたジェイスとたまたま顔を合わせた。
 そして何気なくジェイスに声を掛け、何故ここに、いや俺実は千草とは友達で、なんて話をした所、こう言われたのだった。
 ──君、ちょっとだけ私の仕事手伝う気ない?
 ジェイスの仕事とは、スイーツスタンドの経営であった。なんでも同じように地球に住む宇宙人と共に季節のスイーツとタピオカドリンクを売っているのだという。
 ほら、スイーツスタンドね。特にタピオカは元手少なく土地がほとんどなくても始められて、我々のような宇宙人でも手軽に始められてビジネスを拡大させやすいのさ。タピオカだけじゃ飽きられるからスイーツなんかも提供してね。
 それ多分、反社会的勢力もフロント企業とか経営する時に同じこと言う。
 防衛隊の一角に名を連ねる人間としてそう突っ込むべきかヒカルは迷った。入隊したての頃の自分ならまず思い浮かばなかったであろう言葉である。
 とは言え今のジェイスは悪人ではない。過去には地球侵略のエージェントをしていたようだが、千草がアイドルとして活動し続ける限り今現在の彼が悪事を行う事は決して無い。千草を守るために巨大化し、夕陽の中でペンライトを振り決死でゾアムルチを誘き寄せた姿はヒカルにもそう忘れられるものではない。
 今現在の宇宙人達が地球でどのようなネットワークを築いているのかは知る必要があるような気がしたし、それは彼らを守る事にも繋がるだろう。そう判断し、怪しい事じゃなくて俺が休みの日に出来ることなら、とヒカルは承諾することにした。
 そうしてジェイスは今日と同じように、ちゃぶ台で向き合ったヒカルに紙の箱を差し出して来たのだった。新作スイーツの試食をして、普通の地球人の若者視点での忌憚なき感想を聞かせて欲しいのだという。
 まあそれくらいなら、と試食をし、感想を伝えた。美味しいけどちょっと甘すぎる気がする、こっちはあまりフルーツっぽさがない、等々。
 そうして軽い気持ちでアドバイスをした結果生まれたスティックケーキは、飛ぶように売れてしまった。
 そして当然のように、ジェイスは次も次もとヒカルに新作スイーツの試食を頼むようになってきた。始めこそは断る理由も無いしジェイスからそれなりに有益な話も引き出せるしと、他に用事が無い限りは引き受けていたのだった。
 箱の中から差し出されたのは、二種類のスティックケーキだけであった。
「そっちはラムレーズン。これは和栗ね」
「あ、和栗美味い」
「そうそう。君和菓子系の味好きだよね〜」
「『系』っていうか和菓子が好き」
「なるほどね。あ、そうそう。この前聞かれた某組とメフィラス星人ギルドの繋がりね、直接聞けたよ。ほら」
 卓上に無造作に投げ出された太いボールペンを手に取る。新聞の通販ページにも載っているような、よくあるペン型ボイスレコーダーだ。スイッチを押して音声を流すと、低い男の声と目の前にいるメトロン星人の声が流れてきた。
「……ありがとう」
「いつもの事だ、気にするな」
 ヒカルがジェイスの試作品モニターをやる代わりに、ジェイスは度々侵略宇宙人の情報をヒカルに寄越してくるようになった。私が持っててもしょうがない物だからね、君の方が余程有益に使えるだろう、と。
 やれやれ、とジェイスは人間の姿になって胡麻まんじゅうを食べながら嘆息する。
「こっちは千草ちゃんを推しながら平和に暮らしたいだけなのにねえ、あっちは私がメトロン星人ってだけで声を掛けてくる」
「有名だからだろ、メトロン星人とウルトラセブンの対決は」
「だからって私も同じと思われちゃ困る。うちの社員のエンペラー星人も何かと迷惑してるんだよ。地球侵略を企んでるテンペラー星人に追い回されるって」
「大変なんだな……」
 個人的にその組み合わせに思うところないわけではないが、ジェイスの手前言葉を濁す。
「私だって全部を知ってるわけじゃないけどね、この宇宙の地球は人気物件。変だよねえ、ウルトラマンが二人常駐してるのにだよ?一人常駐してるってだけで侵略リスクが跳ね上がるのに」
「侵略リスク、ね」
 その概念は度々ジェイスの口から出てくる。
 曰く、侵略目的で活動をしたとしても失敗するリスク。その土地の原住民が所持する防衛力、土地そのものの危険性、そしてウルトラマン滞在歴の有無。それらで以て判断されているという。
「……他と比べてそんなに魅力的なのか、この地球」
「うん?」
「七年前までは、この地球は……少なくとも地上に住む人間たちは、宇宙人も怪獣も誰も知らなかった。国際防衛機構も、元々は国際テロ組織に対抗する為に設立された組織で、その頃は宇宙人の存在なんて考えてもいなかった。そんな長いこと侵略されてなかった星が、なんで今更狙われてるんだ?」
「そりゃね、ここを狙う理由はまあ色々あるだろうけど、この地球の存在を皆が知るようになった理由なんて簡単だよ。『気付かれた』からさ」
「……気付かれた?」
「UPG隊員なら知ってるよね。七年前、降星町でウルトラマンと闇の支配者が対決したこと」
「……それは、まあ。俺の地元だし」
「うんうん、千草ちゃんの地元だしね。そもそもあの時ウルトラマンが現れなければあの神曲は生まれなかった訳だが」
 話が長くなりそうなので遮る。
「それで?」
「まあそれが原因さ。あの時多くの怪獣や宇宙人がこの星で目覚めた。目覚め、この星の外にいる仲間達にコンタクトを取った。やがてこの星は非常に豊富なエネルギー資源を有している事が明らかになった。この星の価値を皆が知った」
「……それが、『気付かれた』って事か」
 当たり前で、とっくに分かりきっていた筈の事を改めて噛み締める。
 それはUPGのみならず地球防衛機構内でも一つの定説であった。侵略者が地球を狙うようになったのは、ウルトラマンと闇の巨人の出現がきっかけであると。
「全ての宇宙人が侵略目的でこの星にいる訳じゃない。私みたいにこの星をそれなりに気に入った者もいる。そういった者達の居場所、そして何より千草ちゃんの生きるこの星とステージを守る為ならば、私は私を同胞と呼ぶ者達を売ってでも君達に協力するとも」
「……なんか、悪いな」
「はは、気にするな。それくらいドライじゃないと侵略宇宙人の相手なんて出来ないさ。君と僕は友人だけど、あくまで利用し合う関係で行こうじゃないか。そもそも僕の所に回って来る情報を君に提供しようと思ったのも、君の人柄は信用出来ると思ったからさ」
 赤い貝のような姿に戻り、カラカラとジェイスは笑った。
「この星の文明は、宇宙から来たもの達に対応するノウハウを学び始めたばかりだ。宇宙開発も途上。何もかもが過渡期にある。少しのバランスが崩れればあっという間に悪い方に転びかねない。私は異邦人としてこの星の文明を、そして千草ちゃんのステージを陰ながら支えたいのさ」

◆◆◆

「くっ、どうしてここがあっ……!」
 この仕事をしているとよく聞く捨て台詞と共に、前線部隊に引っ張られてメフィラス星人が収容車両に入っていく。
 ジェイスからの情報提供を元にしつつ捜査を行った結果、メフィラス星人のグループが地球人の犯罪グループと繋がりを持っている事が判明した。警察と共同で更に操作を進め、やがて兵器取引の現場を押さえる事に成功。現行犯逮捕と相成ったのだった。
「捜査協力、誠に感謝致します」
 メフィラスギルドと犯罪グループのメンバー達を一通り輸送車に押し込み、走り去って行くのを見送った後、警察官が敬礼をしてきた。ヒカルも背筋を伸ばして敬礼を返す。
「こちらこそ、協力感謝します。私は暫くこちらに残り鑑識に協力します。署にはうちの隊員を向かわせておりますが、私どもも後ほど合流致します」
「了解しました。では後ほど、署にてお会いしましょう」
 パトカーに乗って去って行く警察官を見送る。仕事で警察官なんかを相手に「私」という一人称を使うようになったのはいつからだったか。UPGが警察と協力する事が当たり前になってから先輩に言われてそうしたのがきっかけだった気がする。これが大人になるという事かもしれない。
 そんな事をふと考えつつヒカルは踵を返すと、犯行現場となっていた地下のバーに戻って行く。バーの扉を開けると、数人の鑑識員が部屋の全体を探査機でスキャンしていたサクヤが振り向いた。
「あ、ヒカルさん。連行終わりました?」
「終わったよ。署ではゴウキさんに待ってて貰ってる。こっちも早く片付けて合流しよう」
「ですね!」
 降星町でのダークルギエルとの決戦から六年。
 雫ヶ丘でのビクトルギエルとの決戦から四年。
 時空城でのエタルガーとの決戦から三年。
 礼堂ヒカルは変わらずにUPGの隊員として職務に励む日々を送っていた。
「あ、ヒカルさん。そこのカウンターの下見てもらっていいですか?地球外金属の反応アリです」
「えーと……この辺?」
「もうちょっと右の方ですね」
「あった、これだな」
 宇宙人犯罪の現場から地球外物質で出来たオブジェクトを押収し、分析する。それもまたUPGの重要な仕事であった。
 バーカウンターの下から出てきたのは、金色のハンドガンであった。無骨な外見ながらやけに軽い。
「これ……なんか見た事あるな」
「ペダン星の銃ですね。去年ババルウ星人の麻薬カルテルを摘発した時押収した覚えがあります」
「ああーショウ相手に為す術なく壊滅させられたっていうあの……」
 他愛ない会話をしながらも集中力は切らさずに、銃を回収用のボックスにそっと収めて立ち上がる。
「後は?」
「クリアでーす」
「それじゃ、これは基地に送って貰って俺達は滝鳴署に行こうぜ」
「ヒカルさん、もう基地か寮に戻った方がいいんじゃないですか?署には私が行きますよ」
「なんで?」
「なんでって……最近あんまり寝てないんじゃないかって噂ですよ、ヒカルさん。ショウも友也さんもそう言ってるんだから間違いないです」
「まじか」
 やっぱあの二人には見抜かれてるなあ……とむず痒くなるが、指摘されると途端に先まで自覚のなかった筈の眠気が忍び寄ってくる。
「それじゃ俺輸送班の車両に乗せてもらう事にするわ、ちょっと眠くなってきた……」
「ガレット!あ、それじゃボックスは私にください。私が輸送班に渡しておきます」
「おう、よろしく」
 サクヤが手を差し出して来たので、回収用ボックスを手渡す。サクヤが鑑識員達と事務的なやり取りをしているのを背に聞きながら先に地上に戻ると、道路に停めていた輸送用車両の人間用スペースに倒れ込むようにして乗り込んだ。
 基地への到着は一瞬だった。道中完全に眠っていたのだから当然である。
「全く、何やってるんですか……」
 出迎えてくれたのは、心底呆れ果てた顔の友也だった。

◆◆◆

 ほとんど眠れなかった。
 寮のベッドで体を起こし、靄のかかった意識のまま窓からぼんやりと朝の空を見る。
 夢を伴う浅い眠りと覚醒の繰り返し。夢の内容はほとんど覚えていない。
 この所ずっとこれの繰り返しだ。
 夜眠ろうとしても眠れない。疲労からくる眠気が限界に達してようやくぐっすり眠る事が出来る。つまり今回の分の睡眠は現場から戻ってくる途中の輸送車の中で使い果たしてしまったという事だ。
「意地でも起きてりゃ良かったな……」
 そろそろベッドの上で気持ちよく眠りたい。ぼんやりとした頭を押さえてサイドボードの上に置いてあるペットボトルから水を飲む。
 始まりは、ジェイスの家に行った七回目の日の夜だった。
 ──この星が狙われるようになったきっかけは、ウルトラマンが現れた事で『気付かれた』から。
 何気ない問答の中で改めて突き付けられたその一つの事実は、帰る間も帰って来てからもずっとヒカルの頭の中を巡り続けた。
(だって、間違っちゃいないんだから)
 分かっていた筈の事だ。
 降星山に……この地球にスパークドールズが降り注いだ事は、半ば不可抗力。ダークルギエルが目を覚まし、ギンガもまた目覚めた。そして目覚めたギンガがヒカルを呼んで、ヒカルはその声に応えた。ヒカルとギンガが戦わなければ誰もルギエルを止められなかった。だから、ヒカルはギンガと共に戦った。友達を、生まれた町を、守るために。
 そしてその戦いの結果、宇宙人達はこの星に気付いた。侵略を望む者も、平和裏な移住を望む者も現れた。
 分かっているからこそ、ギンガと共に戦う事を選び続けている。その筈だ。
 だが、そんな自覚済みの事がどういう訳か心の重石になっていた。
 いつの間にか二十代も半ば。怪獣の出現はかつてほど多くはないが、その代わりUPGの隊員として出動する事は増えた。怪獣災害や宇宙人犯罪の現実が、見えていなかった物が見えるようになった。
 その始まりの地点に自分がいる事が、ふと空恐ろしくなる。自分が進めば進むほど、自分の大切な人がいつか傷付く事になるのではないかと、がむしゃらに突き進んでいた頃は思いもしなかった事を考え始める。
「……なあギンガ。本当にこのままでいいのかな、俺」
 眠る時も肌身離さず携帯しているギンガスパークを窓から射す光に翳して語りかける。だがギンガはいつもの様に、何も言わない。
 この状態のギンガは、喋る事も意思表示も出来ない。それはいつでも変わらない。それでも確かに自分の声を聞いて、見守ってくれている。心の底からそう信じられるだけの時間を、ギンガと一緒に歩いてきた。
 ギンガがいてくれるなら、俺は大丈夫。
「……分かんないけど。分かんないなら、今は進んでみるしかないよな」
 自分に言い聞かせるようにして呟き、ヒカルは立ち上がった。
 そして隊員服に袖を通し、寮の食堂で朝食を食べ、寮から基地へ移動。そして職場であるUPG司令室に足を踏み入れたのだった。
「おはようございまーす」
「おはよ……えっちょっと、ヒカルっ……あなた顔色最悪よ?!どうしたの?!」
「へ?」
 司令室に入るなり、先に来ていたアリサがヒカルの顔を見てぎょっとして声を上げた。そして手に持っていた分厚いファイルをデスクに放り出したかと思うと、ヒカルを無理矢理司令室から押し出そうとしてきた。
「医務室行きなさい医務室!」
「えっちょっと俺まだ来たばっか」
「あんたみたいな体力馬鹿が風邪ひいて悪化でもさせたら全体の士気に関わるの士気に!ほらさっさと医務室行く!それで今日は休む!隊長には私から行っとくから!」
「だから俺何ともないですってば!」
「何ともないわけ無いでしょっ……!」
「おいおい、朝から何騒いでるんだー?」
 タイミング良く、いや悪く。ゴウキが入室して来た。そしてヒカルの顔を見るなり、
「医務室だ医務室!」
「ほらゴウキちょっとこいつ連れてってよ!」
「ゴウキさんまで?!うわちょっと離してくださいよ!」
 そうしてヒカルは、進んでみるしかないと決意を固た矢先、勤務を開始する前に先輩二名によって医務室に連行され検査を受け、隊長命令で一日休みを取る運びとなった。
『で、検査の結果はどうだったんだ』
 寮に戻って来ると、真っ先にショウから通話が掛かってきた。今日は遅番でヒカルより二時間ほど出勤が遅かったため、ついさっき友也から事情を聞いたらしい。
 とりあえず隊服から部屋着に着替え、ベッドの上に座りながら意外と心配性な相棒の声を聞く事にする。
「睡眠不足と慢性的な疲労だってさ。特に異常は無いけど大事を取って今日は休めって」
『……そうか。ゆっくり休めよ』
「うん、そうする。……なあ、ショウ」
『なんだ?』
「もし俺がウルトラマンになってなかったとしても、いつかこの地球は狙われていたと思うか?」
『どうした、急に?』
「……ちょっと、気になっただけ」
 ショウに聞いてどうするんだ、と一抹の自己嫌悪を覚えながら窓の外を見る。初めて見る正午前の中庭は、鮮やかな光に溢れていた。
「ウルトラマンが現れたから宇宙人がこの地球を狙うようになった、って説があるだろ。じゃあ今起きてる宇宙人犯罪は俺とギンガが出会って、ルギエルが目覚めて……それがなければ防げたんじゃないかって」
『……何があったのかは今度聞いてやるが、先にお前の質問に答える。お前はあくまで守ろうとした物を守っただけ、それが結果的にスタート地点になっただけだと俺は思う』
 俺はその場にはいなかったがな、と置きつつ。そうだな、とショウは言葉を続けた。
『遅かれ早かれ、ギンガとルギエルが落ちて来ようと来まいとこの地球はいずれ狙われていただろうな。ビクトリウム・コアがある限り。それに宇宙はとんでもなく広い、何をやらかすか分からん連中はいくらでもいる』
「……まあ、そうだな」
『少なくとも、お前とギンガの存在はこの地球に必要だ。この宇宙にも。……仮にギンガとルギエルの因縁がきっかけでこの地球が狙われるようになったとしても、ギンガがこの宇宙に与えたのは厄災ではない、希望の光だ。お前がそれを信じないでどうする』
「……希望の光、か」
 胸につかえていた重石が、その言葉で少し軽くなったような心地がした。
「俺はちゃんと皆の希望の光になれてる、よな」
『今更何を言ってるんだ……まあ、俺の言葉だけじゃ足りないならいっそ光の国に行ってタロウに鍛え直してもらった方がいいんじゃないか?』
 タロウ。その名前に、胸が小さく締め付けられるような感慨を覚える。名前を聞くだけで、懐かしさに胸がいっぱいになる。
「……それもいいかもな」
『なんだ、足りなかったか?』
「そうじゃない。ただ、俺にウルトラマンとしてのあり方を教えてくれたのはタロウで……導いてくれたのはタロウだから、久々に会いたくなった。それだけ」
 ビクトルギエルとの決戦後にタロウはヒカルから分離した。それからは一度も会っていない。元気にしているとはゼロから聞いたが、今頃何をしているのだろう。
 訳もなく無性に会いたくなる事が未だにある程度には、ヒカルにとってタロウの存在は大きい。
『……そうだな。お前を導けるのはいつだってタロウだ』
「呆れられるかもしれないけどな、今の俺見たら」
 むしろ目の前で呆れてくれた方がもっと早く楽になれたのだろう。
 だがそんな訳にもいかない。だから今は自分で歩くしかない。時々周りの手も借りつつ、だが。今のように。
『お前が成長して視野が広くなったからこその悩みだ、タロウならむしろ喜ぶんじゃないか』
「喜ぶかあ……?もう少しカッコいいとこ見せて喜ばれたいんだけど」
『じゃあ今はしっかり休んで早く元気になることだな』
「分かってるよ」
 それは全くショウの言う通り。
『そろそろパトロールに行く、切るぞ』
「おう。行ってらっしゃい」
 通話が切れる。端末をサイドボードに置いて、それから窓を開ける。部屋に吹き込んできた初夏の空気で肺を満たし、深く深く呼吸する。
 少し楽になったような気がして、心地よい風を感じながらベッドに横になる。そのまま目を閉じれば心地よい微睡みが訪れ、あっという間に眠りの中に引き込まれて行った。
 
◆◆◆

「ヒカル。君が真に気に病んでいたのは、私と奴がかつて一つの存在であったからだろう」
「……ああ。もしかしたら、俺とギンガが出会わなければルギエルは生まれないんじゃないか、そうしたらこの地球はもっと平和だったんじゃないかとか、そんなこと考えるようになってた。ごめん……でもショウに言われて思い出した。やっぱり俺は、ウルトラマンという希望の光なんだって、そうでありたいって」
「私の影から奴が生まれるのは、変えようのない私の宿命だ。……そして、君が私の声を聞くのもまた、変えようがない君の宿命だ」
「分かってる。でもやっぱり、何度ギンガの声を聞いても、俺はギンガの声に応えると思う。ギンガが何回未来と過去からやって来ても。どんなに辛くてどんなに苦しくても、俺は俺の守りたいものの為に、光を求めて戦う方を選ぶと思う。もし俺とギンガが出会った事で、この地球が狙われるようになったんだとしても」
「それでは、君自身が磨り減ってしまうばかりだ」
「平気だよ。俺は、俺達は、一人きりじゃない。そうだろ?」
「……君は、強いな」
「ギンガがいたから俺は強くなれた、沢山の大切な人達に出会えたんだ」
「……やはり私ではない。君のその有り様こそが光なのだ。この地球にとっても、私にとっても」
「……?」
「今の君になら、私から告げるべきだろう。……奴が、目覚めた」
「えっ……?!」
「遠き宇宙で、何者かが奴を復活させた。気を付けろ」
「早く何とかしないと!」
「だが今の君には、君も未だ知らぬ仲間達がいる。君が負ける事は決して無い」
「未だ知らぬ仲間達……?」
「導きを待て、ヒカル。君を導くのは、今回は私の役目ではない」
「え、それって……おい、ギンガ!待てって!」

◆◆◆

 どんな夢を見たのかはよく覚えていない。
 ただ、昨日と違って今日は随分寝覚めが良かったし、体も軽い。何となく、今日は昨日までより楽になれそうな気がする。そんな予感と共に司令室に足を踏み入れた瞬間。
 勢いよく襟首を捕まれた。
「そこに止まれ」
「へ?!」
 止まれ、と言われてもこのまま歩いていては首が絞まるだけなので足を止める。
 小さなモーターの駆動音が三秒ほど響いた後、襟首を掴んでいた手がパッと離れた。
「ヒカル隊員のバイタルをスキャン。隊長、マスター。ヒカル隊員の健康状態に問題はありません」
「ありがとうございます、マナさん」
 友也が苦笑しながら奥から歩いてきた。マナはヒカルの背後からするりと抜け出ると友也の隣に立った。
「おはよう、ヒカル隊員」
「お、おう……おはよう」
「おはようございます。調子はどうですか、礼堂君」
「おう、もうばっちり!」
 親指を立てて見せると、友也は「大丈夫そうでふね」と笑う。そしてデスクの前に立っていた陣野隊長がハーブティーのカップを掲げながら温厚な笑みを浮かべた。
「君が体調不良と聞いたときは雪でも降るのかと思ったけどね、元気なようで安心したよ」
「ご心配お掛けしました、隊長」
「だが今後もくれぐれも無理はしないように」
「はい!」
「おうヒカル!今日は元気そうだな!」
「もう、あんまり先輩に心配掛けるんじゃないわよ」
「あっヒカルさん!すっかり元気そうで安心しましたー!」
 少しずつ司令室が賑やかになっていく。いつもの光景、大事な光景。そして残る最後の一人が、司令室に入ってきた。
 ヒカルの顔を見ると、いつもの仏頂面が少し和らいだ。
「今日は随分顔色がいいな。よく眠れたか?」
「うん。久々にな」
「そいつは良かった」
 もう一つ、新しい予感がした。
 何か新しい事が始まりそうな、そんな微かで不確かな、だがわくわくする予感が。

◆◆◆

PM 00:01
昨日お仕事休んだって友也君から聞いたよ。体調は大丈夫?

PM 00:03
もうすっかり大丈夫

PM 00:06
良かった!
今度またどこか遊びに行こうね。健太達も誘って

PM 00:08
おう!

◆◆◆

「……随分締まらない顔だな」
 夜の七時を過ぎた頃。
 司令室で昼に美鈴と交わしたショートメールを読み返していると、背後から声が掛かった。
 首だけを声のした方へ向けると、ショウが呆れた顔で立っていた。
「そんな顔してた?」
「してた。大方幼馴染と連絡でもしてたんだろ」
「げ、なんで分かるの」
「顔を見れば分かる。今日はもう何も無いだろ、お前はそろそろ帰ってろ」
「んー……そうするか」
 大きく伸びをしながら立ち上がったその時。
 夜空で一等星がひときわ強く閃くような光が、ヒカルの意識を貫いた。

 呼ばれてる。

 第六感を強烈に刺激するそれに、弾かれるように司令室を飛び出す。ショウの制止の声も聞かず、一心不乱に走る。空が見える所まで。エレベーターを待つ時間すら惜しく、階段を駆け上がる。
 屋上に続く扉を開けて、空を見る。
 夜空一面に光り輝く、限られた者にしか見えないそれは、ウルトラサイン。宇宙の彼方、遠き星から届いた、新しい冒険への誘い。
 応えるように、こちらを招く手を取るように手を伸ばす。
 自然、その名前が口をついた。

「……タロウ……!」

ウルトラ作品一覧へ戻る
小説作品一覧へ戻る

次ページにこの話を書くに至った言い訳とギンガ周りの私の思想の話があります。
別に読まなくてもいいです。