※ショウと友也(+ずっと寝てるヒカル)です
※ニュージェネクライマックス後
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「こんばんはショウ君。遅番お疲れ様でした」
「友也か。どうした? お前はとっくに時間外だろう」
「僕の部屋で礼堂君が潰れたので、自分の部屋に帰るついでに回収してくれないかなと……」
「ああ……」
UPG隊員である礼堂ヒカルは、酒に強いわけではない。
だが特別弱いということもない。人並みに飲めるし、人並みに飲めない。
酒が回ると平時より少し陽気になって、ある境を過ぎると急に静かになって、そして糸が切れたように寝る。そのまま朝まで起きない。彼は自分がそういう酔い方をする人間であると自覚はしているし、とある「貴重品」を常時携帯している都合もあり、外出先で酒をほぼ飲まない。
ただ、信頼する友人の家に上がり込んでいる時は話が別なのである。
「珍しいな、最近はここまで飲むことも無かったが」
「ええまあ……久しぶりなので驚きました……」
地球防衛機構のとある寮棟。その自室にUPGの隊員であるショウを招き入れつつ、友也は部屋の隅で丸まっているヒカルを見て深々溜息を吐いた。
部屋に上がったショウは、床に転がっているヒカルを覗き込む。
「今日はどうだった?」
「今日ですか? 概ねいつも通りですが……久しぶりに一緒に飲みたがってたので呼んだらこれです」
友也の言葉にショウは首を傾げた。
「こっちに帰って来て糸が切れたか……?」
ほんの二週間ほど前まで、ヒカルとショウはとある別の宇宙に滞在していた。それも数ヶ月という、初めて体験するようなそれなりの長期間だ。
友也側の感覚ではひと月ほどしか経過していないのだが、長期間に渡るその宇宙への滞在でヒカルが常時気を張っているような状態だった事はショウから聞いているし、それなりの付き合いがある友也としても想像にも難くない。
ただ、彼はとても器用な人間である。五年ほど前ならともかく、今の彼は自分の感情や精神状態のコントロールが非常に上手い。いくら気を張っていたからと、帰って来た途端にあっさり酔い潰れるほどにまでなるとは考え難く。
友也の想定を超えるような事態だったと言えばそれまでなのだが、常に近くにいるショウが異変に気付かないほどに「燃え尽きる」ものなのかと、友也にはいささか信じ難かった。
「礼堂君に限ってそんなことありますか……?」
友也が呟くと、ショウは押黙る。二人はしばし沈黙し、各々にここ数ヶ月のヒカルのことを考える。そして、
「……無いとは言えないな……」
「タロウ絡みならこうもなるかもしれないですね……」
「そうだろうな……」
当人が聞いていたら全力で否定しそうな納得と共に、ショウは丸まったヒカルの背中を揺すぶった。
「おいヒカル、起きろ」
「…………」
だがその程度ではヒカルは起きない。ただその長身を丸めてすやすやと眠っている。友也は感心しながら言う。
「一回り大きくなって帰ってきたような気がしていたのですが、相変わらず寝付きの良さと眠りの深さは一級ですね。これで昔と比べて朝ちゃんと起きることが出来るようになったんだから驚きです」
「感心している場合か、運ぶのは俺だぞ……」
「君は運べるからいいじゃないですか」
「意識の有る無しで運びやすさがまるで違う」
ヒカルの部屋は友也の部屋と同じ階の三軒向こう、そしてショウの部屋はその更に向こう、ヒカルの部屋の隣である。この部屋の物理的な近さも彼らが頻繁に互いの部屋を行き来している理由であり、友也がヒカルが潰れた時にとりあえずショウを呼んでいる最大の理由とも言えた。ちなみに彼らの先輩にあたるゴウキ(本日は当直につき不在)もこの階に入居している。
「……ヒカルの部屋の鍵は……」
「いつものポケットでは?」
「……あった」
「今更ですが、なんで僕達礼堂君が部屋の鍵持ち歩く時に使うポケット知ってるんでしょうね」
「全くだな」
ショウは革のキーケースをヒカルのジャケットの内ポケットから引っ張り出して友也に渡す。そしてヒカルをどう担ぐか、ああでもないこうでもないと考えた末に、シンプルに横抱きすることにしたらしい。ヒカルの膝下と背中に手を差し入れてひょいと抱え上げて立ち上がる。
身長が190cmを超えるヒカルを彼よりも背の低い(それでも友也から見れば十分に背は高い)ショウが簡単に抱えてしまうというのはなかなか迫力のある光景なのだが、友也はすっかり見慣れてしまった。ショウが言うにはヒカルは痩せているので見た目より軽いらしい。
「ほら、さっさと行くぞ」
いくらショウでもヒカルを抱えたままではドアの開け閉めが難しい。友也はショウの先を行く形で部屋のドアを開ける。夜の寮の廊下は薄暗く、常夜灯だけがぼんやりと廊下を照らしていた。黙って廊下を数十秒歩けば、あっという間に「礼堂」と表札の掛かったドアの前だ。友也は迷いなくドアの錠に鍵を差し込んだ。
「そう言えば礼堂君、帰ってきてすぐの頃に模様替えしたって言ってましたよね」
「ベッドの位置変わってたりしないだろうな」
「変わってるでしょうね」
もっとも寮の部屋は基本的に1Kなので、ベッドの位置が変わったところで特に問題があるわけではないのだが。
ヒカルの部屋の鍵を開け、部屋の中に足を踏み入れる。友也が照明のスイッチを入れると、ヒカルの部屋が露わになる。あちこちに世界各地の民芸品が並べられ、壁のコルクボードには写真が何枚も飾られている。物が多く雑然とした印象を受けるが散らかっているわけではない、そんな部屋であった。
記憶の中の二ヶ月ほど前のヒカルの部屋を思い出して、やはり、と友也は頷く。
「家具全般の配置が変わってますね、あとコルクボードの場所も」
「相変わらず物が多いな……」
ショウは窮屈そうに部屋の中を通り抜けて、ベッドの上にそっとヒカルを横たえた。時間にして二分ほどショウによって運ばれていたが、ヒカルは相変わらず眠ったままだ。
ショウはヒカルに掛け布団を掛けてやりつつ、やれやれと零す。
「後輩の数も増えたっていうのにいつまでも相変わらずだな……」
「礼堂君らしくていいんじゃないですか、こういう時くらい肩の力を抜いていてもらわないと」
ヒカルがUPGに入隊してから数年になるが、UPGの隊員の人数はヒカルの入隊当初から遥かに増えていた。世界各地に支部が設立され、ここ日本支部のメンバーも増えている。ヒカルは二十代前半という若さながら、日本支部の古株として多くの隊員から尊敬を集める立場にあったさ。
別の宇宙にも、「ウルトラマンギンガ」であるヒカルには何人かの後輩がいる。そちらでのヒカルがどうなのか、友也は直接見てはいないが、ショウの話を聞く限りではこちらにいる時とそう変わりはないらしい。
彼の立場はウルトラマンになったばかりの頃や入隊当時からは様変わりしていて、友也やショウの目から見ても彼は「立派な先輩」なのだろうと思える。だが同時に、友也はこうも思うのだ。
「……礼堂君は器用すぎて、強すぎて、背負えるだけの物を背負えるだけ背負ってしまいますから。僕らから見たらとっくに潰れていてもおかしくないだけの物を一人で背負って、それでも自然体で笑っているのが礼堂君です。だけどもしかしたら、こういう酔い方をするのは、実は自覚してないだけで背負い切れてない、もしくは重さを負担に感じてる時があるからなんじゃないかって、僕は今日の礼堂君を見て思いました」
友也の言葉に、ショウは黙り込む。思い当たる節は大いにあるのだろう。今日潰れたことだって、帰って来て彼の中で何かの糸が切れたからではないかと分析していたばかりだ。
「ですからまあ、たまにこうやってダメになってる所を僕らが面倒見るくらいでちょうどいいんですよ、きっと。それは多分僕らでないと出来ないことです。それでも背負い切れないような時になれば自分で気付けますし、辛い時は辛いと自己申告出来ますから、礼堂君は」
「……そうだといいんだがな」
「まだ何か不安でも?」
「いや、俺もお前とだいたいは同意見なんだが、この寝顔は何も考えてなさそうに見えるからな……こちらの考えすぎじゃないかと思う時もある」
「それはそれで礼堂君らしい気もしますけどね……」
無いとは言えないから困る、と友也は苦笑する。そして、さて、と話を切り替える。
「今日はどっちが鍵の番します?」
「ああ、そう言えばそうか……」
彼らはヒカルが鍵を持ち歩く時に使うポケットは知っているが、合鍵を持っている訳では無い。外から鍵を閉めることが出来ない以上、どちらかが中に残るしかないのだった。
そしてヒカルは自分の酔い方を自覚して以降、自分が酔い潰れた時の為に寝袋を部屋の隅の分かりやすい場所に置いておくようになった。申し訳なく思う心はありつつも信用している人間に対して甘えるのがやたらに上手い、とは友也とショウの共通の見解である。
「……まあ、ショウ君は上がったばかりで疲れているでしょうから。僕が見てますよ。寝る準備だけして来るので、少し待っていてください」
「俺の方が部屋が近いのに悪いな」
「大して変わりませんよ、同じ階なんですから」
寝る準備とは言えヒカルが潰れた時点で晩酌の片付けはしている。寝巻きと持ち出し用の洗面用具だけ持って自分の部屋の戸締りさえすればあとは一晩ヒカルの部屋の寝袋の中にいればいいだけだ。今日に限らず、ヒカルが潰れた時は友也かショウがそうするのがいつの間にやら当たり前になっていた。
なお、この辺りの事情をヒカルをよく知る友人達に何気なく話したところ「二人して甘やかしすぎ」などと言われた。
そうして友也はヒカルの部屋と自分の部屋を往復する。
朝食の用意くらいはして貰わないと割に合わない。ヒカルはこれまで同様の酔い方をしても二日酔いをした事はないので大丈夫だろう。
「全く……いつまでもこんな事じゃ困りますよ」
そう呟きながらも、困った気はしない。ただ後輩には見せられたものじゃないな、とは思う友也であった。
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最近は強度高めの頼れるお兄さん像が定着してるヒカルさんですが、元の世界での人間関係内では基本的に世話焼かれる側の人だと思ってます。
思ってるんですけど、これ書いたの2021年くらいだったと記憶してるんですが元の世界にちゃんと帰ってない疑惑が2022年末辺りから浮上してきている。どうして