私の知る君、知らない君(タロウ視点のギンガ+ゾフィー)

※ギンガS本編の後くらい

 そうか。ダークルギエルとギンガはかつて、ひとつの存在だったのか。
 ヒカルに憑依する形で地球に滞在していた期間の報告書を提出する羽目になった(人形やらブレスレットやらから元に戻ったばかりで体も凝ってるというのにゾフィー兄さんは人使いが荒い、とぼやきながらも)タロウは、端末の画面に表示されたまっさらな報告書フォーマットと向き合いながらギンガの正体について思い返していた。
 可能性の一つとして予測はしていたのだ。
 いくらギンガとルギエルが宿敵と言えど、その成り立ちが無関係な者同士であれば、全く同じ形状の武器を用いることはまずないであろう。体の同じ場所に光るクリスタルを宿すこともないであろう。
 その所有者達がかつて同一存在であったというならば、ギンガスパークとダークスパークが対を成して存在する事は頷ける。分かたれた陰と陽、その端的な象徴なのだから。
 そしてギンガの体に輝くクリスタルと対応するかのように、ダークルギエルの体にもまた、禍々しい赤い光が宿っている。
 ギンガは未来から来たウルトラマンである。だがダークスパークウォーズ当時の光の国に一度飛来して、そこでルギエルを封じるために力の全てを使い果たし、長い時をあの神社で眠って「選ばれし者」を待ち続けていたのだ……ギンガスパークの中で。
 ギンガの過去への来訪はルギエルを追ってのことであり、となると遥か未来の時間の中でギンガとルギエルは二つに分かたれたのであろう。
 世代から世代へ受け継がれる光を肯定した者と、生命の時間を止めることで死から救済しようとした者として。
 ──何を切っ掛けに、君達は命のあり方と向き合うようになったのだ?
 同一存在からの分裂という結果をもたらす程に衝撃的な何かが、あったのだろうか。そう、例えば……かつての彼らにとって誰よりも大切であった者の死、など。
 となるとどうしても思い浮かぶのが、あの青年……ヒカルのことだ。ウルトラマンに選ばれたとしても、彼はどこまでもただの地球人で、人間だ。
 ヒカルがいなくなった時、取り残されたギンガが何を思うのか。例えば、過去に遡りあらゆる生命体から「死」の概念を奪う為にあらゆる生命体の時を止めよう、などと極端な発想に至るなど。
 ──まさか、とは言い切れないのがギンガの恐ろしいところなのだが……。
 一度の分離を経てはいるものの、再会して以降のギンガはヒカルから離れようという意思を全く見せていない。
 多くのウルトラマンがそうして来たように、やがて変身者とは分離してこの広い宇宙を守るために地球を去って行く……そんな物は我関せずと言った風である。
 おまけにギンガが拘っているのはあくまでヒカルであって、地球ではない。それは彼らと過ごした時間の中で何となく分かってしまった。
 これが宇宙警備隊員のしていることなら大事になりかねないのだが、ギンガは宇宙警備隊員でもなんでもないのであった。
 どこから来たのか、どこへ行くのか、ギンガは黙して語らず。
 ──長く共に戦ったつもりでいたが、私は君についてはほとんど何も知らないのだな。
 思わず苦笑いがこぼれた。タロウがあの地球で過ごした期間で得たギンガについて知った事の殆どは、「ギンガ」ではなく「ヒカル」について。「ギンガ」がどのような存在かなのかすら、おぼろげにしか掴めていない。タロウですらそうなのだから、これから彼と共に戦うことになる者達は「ギンガ」の存在など気付きもしないのだろう。
 本当にヒカルがいなくなった時、ギンガは、ギンガを取り巻く環境は、我々は、どのように変わるのか。タロウは考えた。 
 それがいつになるのかは分からない。なにしろヒカルの住む宇宙は、このM78星雲を擁する宇宙とは時間の流れが大きく異なっているのだから。
 憂鬱な話だ、体感でほんの数日前まで共に過ごしていた青年がいなくなる瞬間について今から考えることになるとは。タロウは眉間を押さえて一つ溜息を吐き出した。光の国に帰ってきた途端に脳が己を宇宙警備隊の筆頭教官としての立場へと切り替えた。ヒカルと共にいた時の方が自分の立場を意識した振る舞いをする必要が無かった分気楽だったかもしれない、早く大きくなりたいと嘆いたりはしたが。
 考えたくない話だが、宇宙警備隊としては、今現在のギンガが将来的にルギエルを生み出す、あるいはルギエルそのものに「成る」可能性があるのならば、ギンガを監視し続けなければならない。それほどにルギエルは危険な存在だ。
「……それでも。私は、君たちの光を信じているよ。ヒカル、ギンガ」
 願うようにして呟く。
 未来は変えられる、それを何よりも信じているのはきっとギンガだ。だから彼はヒカルの持つ未来を求める力を信じて、彼を選んだのだ。
 どうか君の戦う理由が、未来を変える為であってほしい。
 口数少ない友人のことをも思いながら、タロウは端末に指を滑らせる。文字入力デバイスを呼び出し、報告書を書き始めた。
 書き出しは、そう。『これは、未来を変える為に戦った者の記録である』──

 ◆◆◆

「あのな、タロウ」
「はい、ゾフィー兄さん」
「確かに報告書を書いてほしいとは言ったけどね。長編小説を書けとは言ってない」
「私の滞在期間を考えればどうしてもこれくらいのボリュームにはなります」
「いやしかしこれ……なかなかの大作だぞ? 今すぐ印刷所に持っていってハードカバー製本出来るぞ?」
「でも全部読んだんでしょう?」
「読んだよ、面白かったさ。しかしここまでなっっっ……がい報告書書いて寄越してきたの地球赴任終えた時のメビウス以来だな……」
「知ってますよ、あれを最初に読んだの私ですから。それに地球滞在後の報告書提出がルールになったのはメビウスが赴任した頃からでは?」
「それはそうだが一旦置いておくとして。さてどうしようかこれ……一応ウルトラ兄弟全員読まないといけないが何しろとんでもなく長い……」
「読んでもらうしかないでしょう、メビウスの時みたいに」
「まあそれはね、でもこれを書いたのはお前だからね」
「……ゾフィー兄さんはどう思いました、ギンガとルギエルのことは」
「ああ……無論、気にはなったがね。だが、その時が来なければ何もわからない、そうだろう? 私達の中では最も彼らと近しい君が彼らを信じているのであれば、私から言うべきことは何もないさ」
「……ありがとうございます」
「ヒカリには何か小言くらいは言われるかもしれないがね、ははは」
「はは……」
「どうした、ヒカリがかつてハンターナイト・ツルギとやらを名乗っていた事でも思い出したか? それともベリアル、あるいはお前の友人のことか?」
「……わざと聞いているのでしょうが、ゾフィー兄さん。無神経と言われたことは?」
「時々ね。お前の気持ちも分からんでもないさ、『そうなった』実例を知っている以上、新しい友人の行く末を案じることは何もおかしいことではない。だが、そんな実例をいくつも知り、迷いながらも彼を信じる方を選ぶ事が出来る、それこそがお前の美徳であり、もしかしたら彼の……彼らの心の救いにもなり得る。私はそう思うよ」
「……ありがとうございます、ゾフィー兄さん」
「どういたしまして。しかしこれを読む限り、ギンガが選んだ青年はなかなか気持ちの良い性格をしているな。一度会ってみたいものだ」
「それはどうも。実際いい性格……もとい、心根真っ直ぐな青年です。時が来たら、光の国に呼ぼうかと考えています」
「いつ頃になるんだい、それは」
「まあ……そうですね」

「彼が更に戦士としての経験を積み……何人か後輩が出来る頃になったら、考えますよ」

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CVたけうちくんのゾフィーはこれくらのいい性格したこと言いそうだな……と思って書いた記憶がある。
声に引っ張られすぎでは