能ある鷹はなんとやら(ゼロ師弟)

「お前すっげえ歌上手いな……」
 光の国のとあるカラオケボックス。その一室で、ゼロは静かにそう呟いた。
「そ、そっすか⁉ いやあ、ゼロ師匠ほどでは!」
 片手にマイクを握りしめて照れながら頭を掻くのは、ゼロの自称弟子・ゼットである。
 俺今度の同期会の余興で歌う事になっちゃったんすよ! 宇宙警備隊随一の歌唱力を誇るゼロ師匠に是非! 是非ご指導ご鞭撻を! などと押しに押されて気が付けばカラオケボックスの中である。
「いや、俺の歌が上手いのは認めるけどよ。お前も相当上手いよ。俺が指導する必要多分無いよ」
「歌が上手いのはしっかり認めるゼロ師匠流石っす!」
「まあな上手いのは事実だしな? いやそういう事じゃなくて。お前その歌唱力どこに隠してたんだよ」
「隠してなんか〜! えへ、えへへ、まあ、ほら。能ある鷹は爪を隠すって、言うじゃないスか」
「いやあほんとごめんな……隠すほどの能はまだ無いと思ってたよ」
「ウルトラショック⁉」
 胸を押えて蹲るゼット。だがゼロとしては忌憚なき感想であった。
 ゼットは、驚くほど歌が美味かった。やや荒削りではあるが抜群の発声に遠くまで伸びるビブラート、正確な音程。
 しかもゼット、そのとんでもないクオリティの歌唱を踊りながらやるのである。なかなか激しいダンスであった。普通のウルトラマンは歌いながら踊れない。踊れるウルトラマンだってそんなにいない(ウルトラマンキングの誕生日をウルトラ戦士や怪獣総出で踊って祝ったことはあるらしいが、ゼロが生まれる前の話だ)。それも歌いながら踊れるとなるとなかなかいない。
 ただしゼロは歌いながら踊れる方だ。あとタイガも歌いながら踊れるかもしれない。まあそれはともかく。
 詰まる所、繰り返しになるが、これ歌に関しては俺から教えること特にねえだろ、というのがゼロの率直な所感である。
「大丈夫だよ、お前の歌唱力ならどこに出しても恥ずかしくねえって」
「そ、そうですかー!」
 ゼットはこれでもかと照れている。自分の才能に自覚が無いというのはそれはそれで恐ろしいな、とゼロは思った。
「ところでその余興とやらでは何を歌うんだ? 今の、その……お前の持ち歌か?」
「いえ、せっかくなので、当日リクエスト制にしようかと! 先輩方の勇姿を称える曲縛りで! 一通り歌えますよ俺、TAKE ME HIGHERも踊れます!」
「怖いもの無しかよ」
「あと色んなバルタン星人の物真似も出来るんで。初代とかJr.とかの! それもぶちかまして来ようかと!」
「同期会なのに気合い入りすぎだろお前……」
 自分の弟子になろうと毎日のように押し掛けてくるこの後輩、実は俺のキャパを越えているのでは……などと思ってしまうゼロであった。

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