冒険野郎と風来坊(ヒカルとガイ)

※タイガ本編と劇場版の間、ニュージェネメンバーがタイガ世界に滞在していた頃のヒカルとガイの話。

◆◆◆

「ちょっと話をしないか」
「……何だよ急に」
 一人で高台のベンチから見知らぬ街をぼんやり見下ろしていると、いつの間にか背後を取られていた。
 ヒカルが振り向くと、背後を取ったその男──クレナイ・ガイは、手に二本持っていたラムネ瓶のうち一本を差し出してきた。
 ヒカルがそれを受け取ると、ガイは当然のようにヒカルの隣に腰を下ろしてから自分のラムネをぐいと飲んだ。
「ショウのいるところで話すのも気が引けてな」
「別にあいつは気にしないと思うぜ」
「何、俺の心持ちの問題だ」
 だとしても人に気を使うとは、この男にしては珍しい……ヒカルはそう思いながらも口には出さず、ラムネの栓を開けた。
「あんた今、諸先輩方同様に防衛隊で働いてるだろ」
「そうだけど」
「防衛隊として地球で働くのと、ウルトラマンとして地球を飛び出すの、あんたとしてはどっちが楽しい?」
 ガイの問いかけに、ラムネを飲もうとしていた手が止まる。
「……やなこと聞くなあ……」
 そこを突かれると弱い、という自覚があった。
 UPGで仲間と共に平和を守る仕事には無論やりがいを感じている。
 だが、それ以上に、ギンガとなって地球を飛び出して宇宙を冒険するのが、たまらなく楽しいのは事実であった。
 それは今現在やウルトラダークキラー事件のような非常事態時に限った話ではなく。
「……俺には宇宙を旅する方が向いてるって言いたいわけ?」
「まあな。俺は、あんたはどこか一つの地球に留まり続けるよりは宇宙を気ままに旅するほうが向いていると思う。ここ最近で、そう思ったよ」
 ガイの言うことは正解の一つなのだろう……と、ヒカルは思う。
 自分の向かうべき場所は地球の外にある──そんな確信が、ウルトラダークキラーとの戦い以降、静かに膨れ上がっていた。これまでにないほどの長い期間を、地球の外でウルトラマンとして、星々を巡り、仲間達と出会い、共に戦い……そんな時間が、どうしようもない程に楽しかったのだ。
 自分はこんな冒険を求めていたのだと、魂が焦がれるほどに。
「ビクトリーさんは元々、地球にいることを良しとする、地球を守護するために在るウルトラマンだ。ショウも意識としてはそっちだろう。ギンガさんとあんたがそうじゃないのは、見てれば分かる」
「……だからわざわざショウのいないところで、ってことか」
「あんたは元々地球人で、ショウはあんたの相棒とはいえ地球を守護するための存在だ。……それでヒカルは地球外を飛び回ってる方が向いてる、なんて言えると思うか?」
「俺に言うのはいいんだ?」
「一応自覚がありそうだからな」
「ガイはそういうの気にしないと思ってた」
「気にしていたら言わないさ」
「それはそうか」
 手付かずのままであったラムネを一口飲む。爽やかな甘味が喉を抜けていくが、この季節に飲むには少しばかり冷たかった。
「……ギンガと一緒にウルトラマンとして生きて、誰も見たことのない世界を見て、それで宇宙の果ての、ギンガしか俺を見てないような場所で寿命を迎えるのもそれはそれで有りかなって思うんだ。地球には大事な仲間も家族もいるのにさ。変かな」
 自然と、誰にも──ショウにすら明かしたことのない言葉がこぼれた。ギンガの後輩を自称してはいるが、ウルトラマンになった者としては自分より先輩……そんなガイにこそ、尋ねるべきだと。
 そしてヒカルの言葉を聞いたガイは、どこかニヒルに笑う。
「……やっぱりあんたは、ただの地球人にしちゃあまりにウルトラマンに向いている」
「それって褒め言葉?」
「何だ、そう聞こえなかったか?」
 いつの間にかラムネを飲み終えたガイは立ち上がる。
「あとは、あんた自身がどうありたいかを選びな。あんたはウルトラマンとしても地球人としても若いんだ、俺から言えるのはそれだけさ……あばよ」
 ジャケットの裾を翻し、ガイは立ち去る。
 俺こっちでのあいつの寝床知ってるんだけどな……と思いながら、ヒカルは残っていたラムネを飲み干した。
 肌寒い季節に飲むラムネはやはり冷たかったが、それを不快には思わなかった。

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あとがき的な

最近の「どうも自分の地球にろくに帰らずあちこち飛び回ってるらしいヒカル≒ギンガ」のきっかけってギャラファイにあると思ってて、そこでニュージェネ唯一の先輩変身者であるガイさんが背中を押していたらなんかいいなあと思っています。

ヒカルは自ら望んでそうしてはいますが、ショウやタロウやギンガ本人がどう思ってるかについてもそのうち考えたいですね