カテゴリー: ジークアクス

ウィッシュ・ベア

※エグザベの過去捏造がある

 ◆◆◆

「あ、こいつ……」
 サイド7での極秘任務の合間、買い出しの体を取った僅かな非番中。ショッピングモールの一角で、エグザベが足を止めた。
 隣を歩いていたエグザベが足を止めたので自然置いて行く形になってしまい、シャリアはすぐに足を止めて振り向いた。エグザベは、雑貨屋の店頭で足を止めてディスプレイをじっと見ている。
「どうかしましたか、エグザベ君」
「すみません、懐かしいものを見付けて……」
「懐かしい?」
 シャリアがエグザベの視線の先を追うと、店頭に可愛らしくデフォルメされたクマのぬいぐるみのマスコットが並べられていた。色鮮やかなクマたちは皆ポシェットを提げている。
「これ、僕が子供の頃に故郷で流行ってたんです。サイド7にも展開してるんだなあ……」
 エグザベは懐かしむように目を細める。
「故郷ですか」
「ほら、皆ポシェットを提げてるじゃないですか。このポシェットに願い事を書いた紙を入れて誰にも見せずに持ち歩くと願いが叶う、っていう噂がまことしやかに流行って……皆それを信じていたかどうかはもう定かではありませんが、流行ってるからとか、可愛いからとかで。僕くらいの歳だと持ってるやつが多かったんです」
「……君は、持っていたんですか?」
「僕は持ってませんでした。妹に誕生日プレゼントであげたことはあったんですけど」
 懐かしいなあ、と。そう言って笑うエグザベの目尻が微かに潤んだ。この誠実で真っ直ぐな青年の心の柔らかな部分を丸ごと明け渡された心地になり、シャリアは狼狽えそうになるのをぐっと堪えた。
 シャリアはエグザベに恋情を寄せているが、その思いは墓場まで持って行くつもりでいる。しかしそんなシャリアの思いを知ってか知らずか、エグザベは時折こうしてシャリアの心を揺らす。この青年のために何かしてやりたい、とシャリアは常々思っていた。
「折角です、買って行きますか」
「え、あ……」
 シャリアの提案に、エグザベの瞳が揺れる。しかしすぐにその頬がぱっと綻んだ。
「あの、折角ならちゅ……シャリアさんとコモリさんの分も!」
「おや、まるでティーンのようですね」
「お嫌ですか……?」
 シャリアが軽くからかったものだからエグザベがしょぼんと肩を落とす。濡れた小犬のようなその寂しげな佇まいにシャリアはこれまた動揺を堪えながら、ゆったりと微笑んだ。
「まさか、嬉しいくらいですよ」
 そうしてエグザベは手ずから三人分のマスコットを選んだ。エグザベの分はオレンジ、シャリアの分は緑、コモリには青。欲しいのは僕だから絶対に自分が払うと言って聞かなかったので、シャリアは財布になるのを諦めざるを得なかった。
 マスコットを三つ持って、エグザベは店内のレジに向かう。シャリアが雑貨店の外で待っていると、程なくして小さなショッパーを手にしたエグザベが戻って来た。
「あの、今キャンペーンやってるみたいでこれ貰いました」
 エグザベが、シャリアの分の緑のクマと共に小さなカードを差し出した。ハートに型抜かれたそのカードはよく見ればクマの提げているポシェットに収まる大きさをしている。
「ポシェットの中に入れる、願い事を書くカードだそうです」
 そのカードは字を書くには小さすぎるような気がしたが、兎も角そうしてシャリアの手の中には、可愛らしいクマのマスコットとハートのカード。
「そいつのこと、大事にしてくださると嬉しいです」
 エグザベが輝かんばかりの笑顔でそう言うものだから、シャリアは「ええ、勿論」と頷いた。あまりに何気なく贈られたエグザベからのプレゼントが手の中にはあって、目の前には喜色満面のエグザベがいる。
 この状況で浮かれてしまう私が一番ティーンじみているのではないか……シャリアがそんなことを思ってしまうのも致し方ないのだった。
 その夜、サイド7で拠点としているモーテルの一室で、シャリアは同室のエグザベがシャワーを浴びている隙にデスクに向かった。持っている中で一番細いペン先のペンを手に取って、あの小さなハートのカードに、小さな文字で。

『エグザベ・オリベの生涯が幸福なものでありますように』

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エグシャリ(?)のプリパラパロ

Twitterでボソボソ呟いた、プリパラパロのまとめ。エグシャリと言うよりそれぞれ単体の方が多い。多分まだ増える。

 ◆◆◆

私が今見たいパロはエグザベくんとシャアが男プリに行ったらエグザベくんは15歳くらいの姿の「おりべくん」 に、シャアは10歳前後の姿の「きゃすばるくん」になったのでマネージャーのシャリ(たぬき)が「なるほど…………………………………………」みたいな顔してるやつです
おりべくんときゃすばるくんはなんやかんやを経てユニットを結成します

 プリパラ、それは夢の世界。
 なりたい自分になれる場所。
 み~んなトモダチ、み~んなアイドル!
「……とまあ、こう言ったコンセプトのメタバースの試作開発が弊社では進んでおりまして」
「はあ……」
 イオマグヌッソでの「事故」後に退役して民間企業に就職したシムスから協力してほしいことがあると言われたので何かと思えば、待ち合わせたカフェでやけにキラキラと派手な装丁のパンフレットを渡されそのようなことを熱弁された。
 軍人時代からそうであったように低体温のまま、淡々とそのメタバース「プリパラ」とやらを熱弁するシムス。
 何に携わっているかは一度置いておいて元気そうで良かった、とシャリアはサングラス越しにシムスとパンフレットの中身を交互に見ながら思う。
「私は主にハード面を担当しているのですが現在、様々な年齢・性別・職業・国籍のモニターを募っている最中なのです」
「ふむ……それで私にモニターになれと」
「ああいえ、私がお願いしたいのは中佐ではなく」
「おや」
「エグザベ少尉、今は確かあなたの部下ですよね?」
(書こうとして途中で我に返ったプリパラパロ。シムス大尉の中の人がプリマジスタなのはこれ書いてから一か月後くらいに知りました)

エグザベ・オリベ、性格はトゥインクルリボンなのに適性がブリリアントプリンスの男

シャリア・ブルって絶対クール系ブランドなんだけど(似合うけどセレブ系ではない)ホリックトリックかホリックトリッククラシックかは議論の余地があると思うんですよ
ザベはなんか性格がセレブじゃなさすぎるのにセレブ系ブランドが妙に似合うから着せられてる

メルティーリリーのシャリア・ブル、 多分29がプリパラチェンジしたら34になって現実世界に戻った29が我に返って「は?」ってなってるやつ

めが姉ぇ「今日のコーデはエレガンスギャンコーデね! 純白のドレススーツに金色の刺繍が映える、まさに白磁の騎士! 踊る度に揺れる腰のスカーフが華やかなアクセントになっているわ! 優雅で凛々しい騎士のコーデで、みんなを魅了して♪」
ザベ「エレガンスギャン、ハクジコーデ!」

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エグシャリのトップをねらえパロ(ツイまとめ)

Twitterでボソボソ呟いた、エグシャリのトップをねらえ!パロとかのまとめ。元ネタは基本無印。トップをねらえ!はいいぞ

 ◆◆◆

スタジオおよび監督・シリーズ構成コンビの好きな女女およびおねショタの傾向を23歳男性軍人と34歳ヒゲ男性軍人に当てはめたのがエグシャリであるという可能性を否定できないまま放送日になってしまった

真面目(?)な話、お姉様に対する後輩/妹分とか女子高生/謎の女に対する男子小学生といった勾配で風下に来る存在が攻めをやってるみたいなそういうのがずっと好きだなこの人達みたいなところがある一方でgqxのサンコイチは全員17歳で さて彼らと別勢力にしっかりいますね年齢差のある上官と部下が

でも行くところまで行くって行ったの監督だし……その監督の代表作はおねショタと擬似姉妹シスターフッドだし……

↑ジークアクステレビ放送開始日のツイート。フリクリとトップ2のおかげでエグシャリを確信したみたいなところがありますね、なんでだよ

↓ここから放送終了後のツイート

攻め受け平等先天性女体化エグシャリのこと考えてたけどやっぱりトップをねらえ!すぎるな エグシャリって監督達の好きなシスターフッド男体化なんじゃないのか

エグシャリでトップをねらえ無印6話パロが見たすぎるんですよね
宇宙軍の学校で教官をしていたシャリ(40−50代)が宇宙怪獣の大量出現に伴って戦列に復帰するため昔の相棒のザベに10年以上ぶりに再会するんだけどずっと宇宙にいたザベ(実年齢30代見た目は20代のまま)はウラシマ効果でシャリとは体感せいぜい半年ぶりの再会のやつ

ザベはシャリアとの温度感の違いに戸惑いながらシャリアさんはやっぱり綺麗だなぁ……って思っていて欲しいし戦闘になれば違和感も帳消しになるくらいあの頃と同じで安心して欲しいし二人きりで地球を救って一万年後の地球に辿り着いて欲しい

この場合地球には「パパがパパの友達と会えますように」と七夕の短冊に書いているミゲルの息子がいます、あのシーン大好き

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エグザベ・オリベのプリズムアフレコ(小ネタまとめ)

Twitterでボソボソ言ってた小ネタ(キンプリ(アニメ)パロ)のまとめ+αです。

◆◆◆

キシリア派に指導されていた時は心が何かに縛られているような気がしてせいぜい二連続までしか跳べなくて才能あるのに鳴かず跳ばずだったエグザベ君がシャリアに一時的に預けられたところ四連続跳べるようになるやつをですね。ジャンプと言ってもプリズムジャンプの話なんですが……

エグザベ・オリベのプリズムアフレコ、相手役がどう見てもザベより体格いい男だし髭も生えてる

♡(M)「デートの終わりにエグザベ君の部屋に招待された」
エ「あっあの、シャリアさん!」
♡「な、なんでしょう」
エ「僕、幸せです。これで本当の意味で貴方と二人きりになれた」
♡「エグザベ少尉……はっ!」
エグザベ、♡に抱き付く。
エ「今だけは、世界の全てからあんたを独り占めさせてください」
♡「きゅ〜ん!」

エグザベ君って絶対王道アカデミー系のショーをやりますよね

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公国最強NTは可愛い部下に絶対脱がせたくない

※最終回後、ブロマンスのシャアとシャリア
※多分一応エグシャリ(ややコモエグ)

 ◆◆◆

「エグザベ少尉に脱がせないために私と一緒に脱いでください」
「なんだって?」

 カレンダーの撮影に協力して欲しい──ジオン公国はアルテイシア公王のシークレットサービスよりそう書かれた書簡が地球に滞在中のシャア・アズナブルの下に届いたのは、シャアが日雇い労働の土木作業に勤しんでいる最中のことであった。
「シャアさん何かやらかしたの?」
 書簡を届けに来たアマテ・ユズリハ及びニャアンのじっとりとした視線に、シャアはさてと首を傾げた。
「心当たりはないな」
「ホントにぃ?」
「本当だとも」
 その書簡はこの時代に珍しく直筆の手書きで、その筆跡には見覚えがあった。かつての部下であり、MAVであり、そしてシャアをジオンから放り出した張本人──シャリア・ブルのものだ。
「まあいい、随分回りくどいことをする男だ。あんな口を叩いておいて私の力が必要になったということであれば馳せ参じてやろうじゃないか」
「ヒゲマンに拳骨されそう」「懲りてないのかも」
 マチュとニャアンが何やらこそこそ言っているが、シャアはどこ吹く風であった。
 端的に言ってこの時シャアはちょっと浮かれていた。あのような別れ方をしたとは言え、友人である男にこうして頼られる己に酔っていたと言い換えることも出来る。
 それゆえ、元軍人として思ってしまったのだ。カレンダーの撮影とやらは何かの隠語であろうと。
 それが字義通りの依頼である可能性など何一つ考慮せず、シャアは数年ぶりにサイド3に「シロウズ」という偽名で渡り、書簡に指定されたビルへ足を踏み入れ、エントランスで来客として案内されたフロアに通され、そうして冒頭のやり取りに至った。
 そこにあったのはスクリーンバック、カメラ、レフ板。そして慌ただしく動くスタッフ達、そして黒を基調としたシックな服に身を包んだシャリア・ブルが、そこにいた。
「まずこちら、ジオンの財政状況をまとめた書類です」
 楽屋でシャアはシャリアと二人向かい合っていた。シャリアはシャアにタブレットを見せる。タブレットには表やグラフの載せられた画面が映っている。
「現在のジオンは非常に懐が苦しい状況にあります。ザビ家による旧体制下における軍備増強、中でもビグ・ザムなどという金食い虫が量産されおまけにイオマグヌッソなどという愚か千万の巨大兵器が建造されたことが大きな原因として挙げられます。イオマグヌッソに至っては先の『事故』に伴い各国への賠償金支払いも発生しまして、ええ、率直に申し上げて火の車です。現在アルテイシア様が財政立て直しに尽力なさっておりますが、それでもまだまだ厳しくはあります」
「な、なるほど」
 シャリア・ブルの目は据わっていた。今だけではない、今日初めて顔を合わせた時から、その目は何か凄まじい覚悟を決めいてるかのようであった。
「そこでアルテイシア様が考案なされました。『ジオン軍人カレンダー』を作って売ろうと」
「なんだって?」
「連邦でもそのような物があるそうで。軍人の中でも特に顔や体格の良い者を集め、脱がせ、あるいは美しい格好で着飾らせた写真でカレンダーを作る。当然売り上げは国の物になります」
「ふむ、それで財政の一助にしようというわけか」
 我が妹ながらなかなか思い切りのよいことを考えるものだ……と感心するが、そこではたと気付く。そのカレンダーの撮影現場に自分が呼ばれているということは、自分はそのカレンダーの被写体に選ばれているという事ではないのか。
「そして、アルテイシア様からの伝言です。『兄さんがイオマグヌッソに搭載した予算度外視びっくりどっきり変形機構でイオマグヌッソの建設費は当初の三倍に膨れ上がったことが調査で判明しました。職業体験ついでに多少なりとも体で支払ってこれまでの所業を反省してください』。伝言は以上です。貴方をこの企画に呼ぶことを提案したのはアルテイシア様です」
 シャアは絶句した。
 最初に自分を脱がせようとしたのは妹だった。
「アルテイシア様は貴方のことを心配しておられる。なので見張るついでに定期的に様子を見ろと私に仰りますが、それも貴方がソロモンをグラナダに落とそうとしていた件は未だに許しておられないゆえです。多少なりとも償う意思をここで見せておくのが得策と存じますね。でないとアルテイシア様が貴方を殺してしまう」
「……それが、軍人カレンダーだと。素顔で」
 何故。何重かの意味で。
「亡命中のガルマ様は貴方のご友人、ミネバ様はザビではなくお母方の姓を名乗っておられる。ダイクン家に敵対するザビ家は事実上消滅しています、貴方の素顔を見られたところで困ることもないでしょう。困ることになれば我々が動きますし」
「……そう、だな」
 言われてしまえば、その通りであった。長年の習慣として常にサングラスを掛けているが、それ本当に要りますか? とララァ・スンには何か見透かしたような笑顔と共にいつも言われている。
「とは言え貴方は公王庁関係者の一般モデルとして参加することになっていますし、顔が完全に出ないような形での撮影も可能と聞いていますから、そこの選択は貴方にお任せします」
「……まあ、私に多少選択の自由があるのなら良いだろう」
 強引なようで妙に気配りされているのを感じ、それが有難い一方で気に食わないような心地でシャアは鼻を鳴らした。
「で、なんだ。アルテイシアではなく貴様が私を脱がせようとする理由をもう少し詳しく聞かせろ。可愛い部下のためだと?」
「はい」
 シャリアは頷くとタブレットを引っ込め、手元で軽く画面を叩いた。
「お察しの通り、彼もこの企画に呼ばれていましてね。私は上官権限で断るつもりだったのですが、どうしてもと企画部に土下座までされてしまい、エグザベ少尉本人が折れて参加する形になりました」
 シャアはエグザベ・オリベと直接の面識はないが、コモリという少尉共々シャリアが随分可愛がっている部下らしい、ということはマチュとニャアン越しに聞いている。
 シャリアが再度差し出したタブレットには、少尉の制服を着た若い男の写真が表示されていた。休憩中の瞬間なのかソファに座って菓子を手にしているが、どうにも笑顔が硬い。
「こちらが彼の写真です。見ての通り写真は苦手なのですが、とても大衆受けする顔をしていましてね。企画部は彼を脱がせる気満々でした。しかし私及びコモリ少尉は、彼に軽々に脱いで欲しくないのですよ。我々が彼を可愛がっているというのもありますが、彼の情緒はまだカウンセリング通いが必要なレベルなもので」
「……なるほど」
 話が見えて来た。エグザベ少尉を脱がせたい企画部、そして脱がせたくないシャリア・ブル。その間でどのようなやり取りがあったのか、考えても無駄だろうとシャアは思った。
 この強情な男が企画部相手に弁論で切った張ったした結果が自分そして「公王庁関係者の一般モデル」の半裸なのだろう。
「そういうわけなので大佐。エグザベ少尉とアルテイシア様のため、向こう一年だけ私と一緒に人身御供になってください」
 これから挑むのが軍人半裸カレンダーでなければ最高に心ときめく殺し文句と言えたかもしれない……とシャアは自分の目が遠くなるのを感じた。私のMAVはあまりにも逞しすぎるな……としみじみしたところで、ふと閃いた。
「……『灰色の幽霊』相手にその条件で飲んだ企画部も一体何者だ?」
「前線を退いた独立戦争従軍者揃いです」
「尚の事何者なんだ」
 自分に逃げ場がないことを悟ったシャアは深々と溜息を吐き出した。しかしそれは思いの外嫌ではなく、アルテイシアやシャリアが自分を案じた結果でもあることを思うと愉快ですらある。
 顔を出す出さないは好きにしろと言われたが、仮面を脱いだ素顔を世間に晒すのは心に未だ巣食う『赤い彗星』という呪縛からの解放であり、己は最早何者でもないという自由の表明のように思えた。それはなんと清々しいことか。
「……いいだろう。貴様の提案を飲んでやる、シャリア・ブル」
 知らず知らずに笑みを浮かべながら、シャアは正面のシャリアを睨む。そしてシャリアもまた、口角を上げる。
「ご協力感謝します」
 こうしてジオン独立戦争の二人の英雄は、少なくともシャアはそうと知られることなくジオン軍人カレンダーでその鍛え上げられた、あるいはしなやかなその肉体を被写体としてカメラの前に晒すことになった。
 軍人カレンダー発売後、しなやかに筋肉の付いた裸身を晒す美しい顔の半分を長い前髪で隠した物憂げな金髪の男(正体不明)の登場に、ジオンのSNSは大いに湧いた。
 そしてシャアの撮影現場を見ていたシャリアは、カメラマンの要望に片っ端から応え何なら少し調子に乗ってすらいたシャアを見て、何事も体験だからとやらせてはみたがこの人に芸能関係の仕事をやらせると大衆の偶像が形成されてしまう恐れがあるな……とひっそり学んだのだった。
 
 さて、一方企画部肝入りとして、エグザベ少尉は全身かっちりとした白い燕尾服に身を包んで教会を背景に撮影を行い、こちらの写真は「軍人カレンダーの脱いでない方バージョン」の六月に使用された。
 これはこれでシャリア・ブルとコモリ・ハーコートが大騒ぎすることとなり、そんなシャリアにシャアは呆れ果てることになったのだが、それはまた別の話。

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少年と幽霊

※ショタザベ(人間)×木星シャリ(怪異)の現パロ。
※CP要素はまだ薄め。続くかもしれないし続かないかもしれない。続いたらエグシャリになる。

◆◆◆

 エグザベが「ゆうれいさん」の存在に気付いたのは、間もなく小学生になろうかという頃だった。

 休日に家族で公園に遊びに行った時、木立の中に紛れるようにしてその男は立っていた。
 伸び放題の髭とぼさぼさの髪に汚れた作業着を着ているその男は、灰色だった。まるでその男がいる場所だけ、世界から色が無くなったかのように。
 父親とキャッチボールをしていたエグザベはその男に気付いて、ボールを手にしたままその男を見詰めた。その男の存在はこの明るい昼下がりの公園において間違いなく異質であり恐ろしいと感じたのに、エグザベは男から目を離せなかった。
 その灰色の男はどこを見ているのかも分からなかったが、ふとゆっくりと首を動かした。伸びた前髪から、男の目が覗く。ぱちり、と目が合った。その男の目が、全てを吸い込む底なし穴のように見えて。エグザベが小さく息を飲んだ時、父が自分の名を呼ぶ声がした。すると辺りからはしゃぐ子供の声や鳥の鳴き声がエグザベを包み込むようにわっと湧き上がり、エグザベはこの時、自分はしばらくの間何も聞こえなくなっていたのだと気付いた。
 父の方に視線を向けると、数メートル先でグローブを着けた父親が立ってグローブをはめた方の手を振っていた。エグザベは慌ててボールを投げ返してから、また木立の方を見る。先までそこに立っていた筈の男の姿は既になく、エグザベは目を瞬かせた。
 自分は何を見たのだろう、と首を傾げながらも、エグザベはそのまま父親とのキャッチボールを続けた。
 それから、その灰色の男はその後時折エグザベの行く先々に現れた。そして自分以外にこの灰色の男は見えないのだとエグザベが気付くのにもそう時間は掛からなかった。
 あの人は「ゆうれい」なのではないか……テレビで放送される心霊特集バラエティを見て、エグザベはそう考えた。テレビの中の「ゆうれい」はそこにいるだけで人々に怖がられ、あるいは手形を壁やガラスに残したり、誰もいないはずの場所で物を動かしたりしている。そして「ゆうれい」は、見える人と見えない人がいる。
 だからテレビが言うようにあの男の人はきっと「ゆうれい」なんだ。でも何か悪いことをするわけでもなく、ただ黙ってそこにいて、時々僕を見るだけだ。
 ──ぼくだけにみえる、ゆうれいさん。
 そう思った時、どういうわけか胸がとくんと鳴った。
 そしてこれは「ときめき」と呼ばれるのだと……そう、単語だけは知っていた心の動きを、エグザベは生まれて初めて自覚したのだった。

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「あなたに首ったけ」

 あまりにも浮かれているのではないか、と。

 恋人に贈るプレゼントが入った紙袋をショップで受け取りながら、シャリアはそう我に返った。
 明日は交際を初めてから初めて迎えるエグザベの誕生日であった。
 せっかくなら何か特別なものを、と考えたシャリアは、エグザベの喜びそうな、それでいて実用的なものを、と考えてネクタイを贈ることにした。
 それもただのネクタイではなく、シャリアが愛用しているブランドの物を。
 そうしてショップに足を運ぶと、自分のネクタイと色違いの新作が出ているのを発見してしまった。黒にペールグリーンのコントラストが美しく、自分が使うには少し若すぎる気がするが、エグザベのような若く美しい青年にはとても良く似合うだろうと思い、シャリアはそれをプレゼントとして選んだのだ。
 ところがいざ美しい化粧箱に入ったそのネクタイを店員に見せられ、包装紙に包まれたその箱をショッパーごと受け取ったシャリアは今更に我に返り、そして気恥ずかしさが込み上げてきたのだった。
 そうは言っても当日は誕生日祝いのディナーの予約が入っている。エグザベはモビルスーツの調整のために出勤予定なので、レストランに入っているホテル前で待ち合わせてディナー後は部屋まで取ってあるのだが……冷静に考えて、自分は何から何までは浮かれ倒して恥ずかしいことをしているのでは? と、我に返ってしまったことをきっかけに自分が組み立てた予定を次から次へともう一人の自分が指摘してしまう。
 お揃いのネクタイを贈った挙句ホテルの部屋を取ってあるのは、それはもう……十一も歳下の恋人相手にやりすぎ浮かれすぎなのではないか。
 プレゼントとしてネクタイを贈る意味をエグザベが知っているかどうかは怪しいが、ホテルに部屋まで取られたらもうあまりにも分かりやすいのではないか。いやしかし、自分にはろくな恋愛経験がないので加減とか程度というものが分からない。三十代半ばの人間がする恋愛であればこれくらいはごく一般的なのでは?
 地下鉄に乗っている間から慣れた家路までぐるぐるとそんな益体もない思考を巡らせながら帰宅すると、トマトスープの良い匂いがする。合鍵で入ったエグザベが夕飯を作っているようだ。
 ショッパーをそっとクローゼットの奥にしまってからキッチンへと足を運ぶと、エプロン姿のエグザベがまさに火に向き合っているところだった。
「ただ今帰りました」
「あ、シャリアさん! お帰りなさい」
 声を掛けると、エプロン姿のエグザベが振り向いた。
「間もなく出来るので、少し待っていてください。今日はハンバーグとミネストローネです」
 お玉を手にそう言って微笑むエグザベは、古典的表象における若妻とはかくやと言わんばかりの可愛らしさ。抱かれているのは自分の方なのだが。待て、なんだこのホモソーシャルに染まったあまりにも中年くさい思考は。自分はまだそこまでの歳ではないはずだ。
 キッチンがよく見えるダイニングテーブルに腰を下ろし、いそいそと動くエグザベをアイスティーを飲みながら眺める。
 交際を初めてから、一人だと食事を適当に済ませてしまうシャリアのためにエグザベは料理を練習して、共に過ごせる時は手作りの食事を用意してくれるようになった。
 初めはホットサンドとインスタントのスープだったのがみるみる腕を上げ、今や手作りハンバーグとミネストローネである。そんな努力がいじらしいのもあり、シャリアは完全に胃袋を掴まれてしまった。
 キッチンからハンバーグの焼ける匂いが漂い初め、シャリアは目を細めた。
 初めての恋人にここまでされてしまっているのだから、浮かれてしまうのも仕方ないか、と。ひとまず、今日はそんな自分を受け入れることにしたシャリアなのであった。

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10 years after

 ジオン公国のアルテイシア総帥即位から十年が経っていた。
 アルテイシア自身が初めからそう望んでいたようにジオンはゆっくりと共和制に推移し、「ジオン共和国」成立から五年経った今では、ジオン国内の治安は随分と安定を取り戻したと言える。
 そうしてジオンの安定を認めたエグザベ・オリベとシャリア・ブルもまた、人生の転換点を迎えた。
 荷物を新居に運び込み終えた引っ越し業者のトラックを見送り改めて新居のドアをくぐりながら、エグザベはつい頬が緩みそうになるのを必死で堪えた。もう三十三になるというのに、ことシャリアのことになると感情が素直に表に出てしまうのを抑えられない。それは君の可愛いところでもある、とシャリアは笑うが、もう出会ってから十年経つのだ。ピカピカの新卒少尉であったあの頃とは違うのだと見せ付けてやりたい思いくらいはある。
 リビングに足を踏み入れると、ソファに腰を降ろしているシャリアがローテーブルに置いたケトルで湯を沸かしていた。エグザベが戻って来たのを認めたシャリアは、柔らかな微笑みを浮かべる。
「疲れたでしょう、インスタントですがコーヒーを用意します」
「ありがとうございます」
 エグザベはシャリアの隣に腰を降ろし、その体に緩く腕を回す。初めて出会った頃、そして正式に恋人関係となった頃と比べると随分痩せた。最近はデスクワークが増えたとは言え政権交代後の数年間は激務に次ぐ激務を潜り抜けてきたのだ、その頃に失った体重はまだ完全に戻っていない。自分がそうさせたという自覚もあってエグザベは少し複雑な思いと共にシャリアを抱き締める。
「こら、コーヒーが淹れられないでしょう」
 エグザベの思いを知ってかあえて無視してか、シャリアは呆れたようにエグザベの手をぺちんと軽く叩いた。勿論痛くもなんともない。エグザベはそれがとてもむず痒く思えて、誤魔化すようにシャリアの耳元で囁いた。
「お湯が沸くまで……」
「すぐに沸きますよ」
 シャリアは呆れて言いながら、エグザベの髪を梳くように撫でた。その感触が心地よくて、小さく喉を鳴らす。
 シャリアの言う通りにケトルはすぐに湯が沸いたことを知らせ、エグザベは渋々シャリアから体を離す。シャリアは丁寧な手つきで、二人分のマグカップに湯を注いでインスタントコーヒーを淹れていく。インスタントとは言えシャリアが気に入っている銘柄のそれは豊かな香りをリビングに立ち昇らせた。
 右手でマドラーを持ったシャリアはカップを押さえながらコーヒーをかき混ぜる。カップを押さえる左薬指に光る銀色の指輪に、エグザベは思わず言葉を詰まらせた。
「どうしました、エグザベ君?」
 シャリアがエグザベにマグカップを差し出した。九年前だったか、シャリアの監視という名目で同じアパートに住んでいた頃に買った、色違いの揃いのマグカップの片割れ。シャリアはオリーブグリーンを、エグザベはオレンジを。それらは今もシャリアの手の中にあって、新居で初めて飲むコーヒーで満たされていた。
 長かった、と、シャリアからマグカップを受け取りながらエグザベは思う。
 思いを自覚してから十年、恋人関係になってから九年、それから正式に籍を入れるのにこんなに時間が掛かるとは思わなかった。それでも、どれだけ時間が掛かっても、確かにここまで来たのだ。
「……今日この日を迎えられて、本当に良かった」
 エグザベが呟くと、シャリアは目を細めて「そうですね」と笑った。
「我々がプライベートを優先しても問題ないくらい、ジオンは安定しました。君とコモリ大尉が頑張ってくれたお陰でもあります」
「貴方が一番働いていたじゃないですか。僕とコモリ大尉にどれだけ怒られても、そんなに痩せるまで」
 涙声になりながらエグザベはコーヒーを口に運ぶ。コーヒーはゆっくりと喉を通り、体を温めていった。
「でも、もういいんです」
 エグザベはマグカップをローテーブルに置いて、シャリアの膝にそっと手を乗せた。エグザベの左薬指にも、シャリアと揃いの指輪が光る。
「道程はどうあれ、僕達はここまで来た……僕達はやっと、家族になれたんです。僕はもう、それだけで幸せです」
 シャリアもマグカップを置くと、エグザベの手にそっと己の左手を重ねた。重なる温かな体温にエグザベは口元を綻ばせ、そっとその手を掬い上げると手の甲に口付ける。
「……改めて、これからは家族として。よろしくお願いします、シャリアさん」
 エグザベの言葉にシャリアは顔を赤くしながらも、「こちらこそ」と珍しくはにかむような笑顔を見せたのであった。

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with you.

 ここではない何処かに行きたい、とまでは言わない。
 ただ漠然と、見たことのないものをこの目で見てみたい。

 エグザベの中にそんな想いが芽生え始めたのは、ジオンが新体制となってから一年ほど経った頃だった。
 正式なジオン国籍を取得しているとは言え、難民上がりゆえにいつでも吹けば飛ぶような価値の命で生きるために失敗は許されなかった旧体制下。その頃と比べれば今の職場は随分恵まれていて、真っ当に人として扱われていると感じる。
 だからなのか、同僚のコモリ曰く「極まった無趣味」であったエグザベは少しずつ趣味や好きなものを意識するようになり、その中で風景写真を見るのを好むようになった。
 雄大な山脈や果てしなく広がる海原、鏡のように光る湖と、それらは主に地球の風景を写した写真であったが、一際エグザベが心惹かれたのは極地や雪原……雪景色の写真だった。
 自分のギャンを思わせる白銀の雪。地球の一部地域では、冬になると大気の作用によって空から雪が振り、世界を白く染め上げるのだという。恐ろしくもあるが、なんと美しいのだろう。
 雨はコロニー内部で降ることもあるが、雪をわざわざ降らせるようなコロニーは観光用途以外で存在しない。きっとほとんどのスペースノイドがそうであるように、エグザベは雪を見たことがない。
(いつか、見てみたいな……) 
「なるほど、君が今興味を持っているのはそれですか」
「わっ!?」
 背後から声を掛けられ、ソファの上で跳び上がるエグザベ。その拍子に膝の上に乗せて読んでいた写真集がカーペットの上に音を立てて落ちたので慌てて拾い上げた。図書館で借りてきた物なのだ、傷つけるわけにはいかない。それから振り向くと、同居人にして恋人のシャリアがバスローブ姿で立っていた。
「驚かせてしまい申し訳ない……と言いたいところですが、珍しく気付かないとは随分集中してようですね」
「あ、いえ、集中といいますか……」
 四人掛けソファのすぐ隣にシャリアが腰を下ろす。シャワー上がりの高い体温がすぐ側にあるので、エグザベの心臓がつい跳ねた。しかし動揺している事を押し隠すポーズくらいは取りたくて平静を装う。
「今日、図書館で借りてきた写真集の写真があまりに綺麗だったので。いつかこの目で見ることが出来たら、と」
 エグザベは写真集を持ち上げて、シャリアに表紙を見せる。『地球・雪の世界』というシンプルなタイトルのその写真集を見て、シャリアは顎に手をやった。
「ふむ……地球ですか。以前任務とマチュ君達の訪問を兼ねて訪れたのは赤道に近い地域でしたから、こうした景色とは無縁でしたね」
「はい。僕の中での地球って、ああいう青い空と海に高い気温と湿った空気ってイメージだったんです。学生時代の地球降下訓練は一瞬でしたし……だからこんな景色があるとは思わなくて、図書館で写真集を借りてきてしまいました。いつかこの目で直接見てみたいです」
 エグザベは写真集を開くと、山の中に建つ古城が雪で白く染まった写真を撫でた。この写真は一際気に入っていた。
「そうですか。渡航時期を選ぶ必要はありそうですが……君ならすぐに旅費も貯められそうだ」
 どこか他人事のようなシャリアの言葉に、エグザベの胸がじりりと焦がされた。
 もうとっくに恋人関係だと言うのに、少なくともエグザベはそう思っているのに、この人は時折こうしてやけに他人行儀な態度を取る。距離を取るような、わざとエグザベから離れようとするかのような……これが試し行為ならまだ良かったのだが、残念ながらシャリアのこれは無自覚だ。
 いい、分かってる。こんなの今に始まったことじゃない。だから何度だって。エグザベは写真集から顔を上げて、眼前のシャリアを睨むように見詰めた。
「あんたの旅費も僕が稼ぐからな」
 シャリアは何も言わずエグザベを見詰め返している。その翡翠の瞳の中の虚無のその更に奥にまで届かせるように、エグザベは啖呵を切った。
「あなたも一緒に来るんだ。……僕の見たいものを、あなたにも見てほしい」
「……」
 シャリアの長い睫毛が揺れて瞼が降りる。また瞼が上がった時、その瞳の奥には小さな光が灯っていた。そしてくすりと肩を揺らして笑う。
「……やっぱり、君には敵いませんね。そう言われると、私分の旅費は私が持つので一緒に行きますと言いたくなる」
「言えばいいじゃないですか、僕より稼いでるだろ」
「ええ、そうですね。……君の旅に、私がついて行っても?」
「付いて来いってさっきから言ってます」
 子供みたいな拗ね方をしている自覚はあった。そしてそんな自分の子供じみた仕草をシャリアがいたく好んでいることも知っている。
 だけど少し拗ねて見せるくらいは許して欲しいとエグザベは思う。どれだけ思いを伝えればこの人に全部伝わるというのだ。
「……ありがとう、エグザベ君。楽しみにしています」
 そんなエグザベに、シャリアは更に距離を詰めてその身体に両腕を回した。慈しむような抱擁に、エグザベの中の拗ねる思いはあっという間に萎んでいく。
(僕だって、こういう時のこの人には敵わない)
 だから僕は、この人と一緒に旅をしたいのだ──その思いはきっと筒抜けているのだろうが、構うことなくエグザベもまたシャリアを抱き締めた。

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日の出前、君の帰りを待ちながら

「落ち着いてください」
「……落ち着いていますよ」
「嘘言わないでください」
 アルテイシア陛下直通の報告書を作成していたタブレットから顔を上げて拳三つ分ほど空けて隣に座る上司を横目で見ると、先までずっと落ち着かない風に手足を組み替えながら手術室の扉を睨んでいたシャリア・ブル中佐は動きを止めた。それから膝に腕を付き、床を見ながら深々とため息を吐き出した。
「……申し訳ない。そうですね、今の私は酷く平静を欠いています」
 中佐のこんな姿を見ることは珍しい。私と中佐、そしてエグザべ君のスリーマンセルを基本単位として行動するようになってから、中佐は随分感情表現豊かになった。初めは驚いたが、ソドンにいた頃の何を考えているか分からなかった中佐よりずっと好感が持てると部下として思う。
 けれど、ここまで悲壮感も顕に動揺している姿は、それでも珍しいのだ。
「信じましょう、エグザベ君ならきっと大丈夫です」
 扉の向こうから死の匂いは感じられないし、どれほど悲惨な目に遭おうと生き抜いてきた彼が、こんなところで死ぬわけがない。
 私の言葉に、中佐は俯いたまま「そうですね」と呟き、マスクで隠れていない口元をどこか不器用に歪めた。
 
 事が起きたのは、およそ二時間前。
 私達三人は、連邦でも悪名高い極右派閥と旧ザビ派がコンタクトを取るという情報をキャッチしてジオン国内のとあるコロニーで行われるパーティに潜入した。
 お約束と言うべきか、私達の潜入は連邦側のニュータイプ──中佐が言うには強化人間、人工ニュータイプというやつらしい──に察知され、ちょっとした銃撃戦にまで発展した。その中でスナイパーからの狙撃から中佐を庇ったエグザべ君が(スーツの下に防弾チョッキを着ていたとは言え)重傷を負って病院に担ぎ込まれた形になる。
 連邦側の強化人間の少女は中佐によって発見次第拘束、銃撃戦をおっ始めた連中もエグザベ君を撃った狙撃手を含めて待機していた別働隊によって早々に全員拘束された。彼らは現行犯扱いで警察署行き、私達の任務の目的であった危険勢力の情報入手も完了し、それらは既に総帥府へ引き渡された。
 私達の今日の仕事は既に終わっていて、だからこうして病院の廊下で二人並んでエグザべ君の手術が終わるのを大人しく待てるわけだ。
 実際、手術室の扉の向こうから仄かに感じられるエグザべ君の気配からは、あの背筋が薄ら寒くなるような死の匂いのようなものは感じられない。私ですらそう感じられるのだから、エグザべ君が死にそうにないこと中佐に分からないはずがない。
 ただそれでも、理屈でなく恐ろしいのだろうと思う。この不器用な上官は、部下である私やエグザべ君のことを本当に大事にしていて、特にエグザべ君はこの人にとって人生のパートナーになるかもしれない……何よりも大事な人だ。それくらい大切な存在が自分を庇って倒れたのだから中佐とて取り乱しもするだろう。
「エグザベ君の手術が終わって容体を聞いたら、仮眠を取ってください。エグザベ君に付いていてもいいですが……とにかくちゃんと休んでください。エグザベ君だってきっとそう言います」
 陛下への報告書を送信してからはっきり言い聞かせるようにすると、中佐は私の方に顔を向けた。肉眼では見えないけれど、きっと仮面の下は潤んでいる。
「……ありがとう、コモリ中尉」
「中佐のお目付け役として当然のことを言っているまでです」
 私の言葉に、中佐の口元が緩む。落ち着いてくれたようだ。
 それからお互い何も言わずに時が過ぎるのを待ち、そうして一時間経った頃。
 流石に疲労が勝ち始めて舟を漕ぎ始めた頃に手術室の向こうから微かな安堵の思念を感じたのではっと目を覚ます。
 思わず背筋を伸ばして中佐の方を見ると、その目は既に扉の方へ向いていた。仮面を着けていても分かるくらいにその表情には安堵が溢れていて、少し気が早いような気もしたのだけれど。よく頑張ったエグザベ君、と私も思わず呟いていた。
 それからしばらく経って、全身麻酔から目を覚まして話せるようになったエグザベ君が「ずっと二人が傍にいるような気がしていました」と照れる様子もなく言ったものだから。私も中佐も、大怪我をしていても変わらないその笑顔の眩しさに見事に焼かれる羽目になるのだった。

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交際マイナス一日目

※監視役をやっているエグザベと同じ家で監視されているが満更でもないシャリアがまだ付き合ってないやつ

===============

 体の丈夫さにだけは自信があったというのに、朝目が覚めると全身が奇妙に熱い。
 熱を測ってみれば38.4℃。
 体を起こそうとしたが、ずきずきと鈍い痛みが体重を掛けたところから存在を訴える。無視するな、お前は今風邪を引いているんだぞ、と。
 エグザべはバタンとベッドの上に倒れ込んだ。
「……あー……」
 意味をなさない呻き声を上げ、熱で上手く回らない頭の片隅で同じ屋根の下に住む思いを寄せる人のことを考える。
 いつから風邪を引いていたんだろう、うつしていないといいけど……そんなことを思っていると、コンコンとノックの音がした。
「エグザべ少尉、何かありましたか」
 ドアの向こうから、監視をある種口実に同じ屋根の下に住んでいる上官の声がする。
 風邪ひきました。うつしたくないので来ないでください、と苦手な感応で伝えようと試みる。するとガチャリ、と部屋のドアノブが下がる音がした。
「なるほど、入りますよ」
 なんでだよ!?
 思わずそう叫ぼうとした瞬間、喉がつかえて勢いよく噎せた。

 ◆◆◆

 部下のコモリに今日は自分もエグザべも出勤できない旨を連絡してから、シャリア・ブルは開けたフルーツの缶詰の中身を皿に乗せてエグザべの部屋へと向かった。
「コモリ少尉に我々二人分休みの連絡を入れて来ました。ナシの缶詰を開けましたよ、気分はどうですか」
「……」
 額に氷嚢を乗せたエグザべは、ぼんやりした目でシャリアを見る。
「あなたまで休まなくても……」
「ウイルス性だったらコモリ少尉に移すわけにもいかないでしょ。まあ元より君は明日非番予定でしたから、今日一日様子を見ても熱が下がらないようなら明日病院へ行きましょう」
 ベッドの脇に持ってきた椅子に座り、シャリアはフォークに刺したナシを軽く持ち上げる。
 エグザべはどこか不服そうな顔をしながら体を起こした。
「どうぞ。まず何かお腹に入れましょう」
 シャリアの差し出したナシに、エグザべは口を開けて齧り付く。
「食べ続けられそうですか?」
 咀嚼し終えるのを待ってから尋ねると、ぼんやりした声色で答えが返ってきた。
「……甘いです」
「はは、シロップ漬けされてますからそりゃあね。後で栄養ゼリーを買ってくるので、昼はそれを食べましょうか」
 こくり、とエグザべは頷いてからまた口を開けた。どこか抜けてはいるものの根本的にしっかり者であるエグザべのその甘えるような仕草が新鮮で、シャリアはそのまま全てのナシを手ずから食べさせた。
 救急セット内で手付かずであった風邪薬を飲んだエグザべは、肩までタオルケットをかぶってまた横になる。
「それでは少し買い物に出ます。すぐ戻りますが、何かあったら呼んでください」
「うぅ……あなたを一人で外に出すなんて……」
「薬局に行くだけです。どこにも行きやしませんよ」
 シャリアは笑いながら、首に下げたドッグタグをちらりと揺らした。
「私の居場所なんて、君にもコモリ少尉にも常時筒抜けなんですから」
 そんなシャリアにエグザベは少しだけ不服そうな顔をしてから、寝返りを打ってシャリアに背を向けた。
 そうして自宅のフラットを出たシャリアが薬局で買い物を終えて帰宅すると、エグザべはベッドの中ですっかり寝入っていた。
 氷嚢の氷を入れ替え、肌に浮く汗を拭いながらその寝顔を見守る。普段からコロコロとよく変わる表情の持ち主であるために幼い印象すらあるが、初めて見る寝顔は随分精悍だ。
 少しはだけてしまっていたタオルケットを引き上げてやると眠っていたエグザべのまつ毛が震え、瞼が上がった。
「ん……中、佐」
「ああ、起こしてしまいましたか」
「いえ……眠りが浅いのはいつものことなので……」
 そう言いながらエグザべは欠伸を一つ。首筋に触れて熱を見ながら、シャリアは小さく眉をひそめた。熱はまだ下がっていないし、日頃から睡眠が浅いというのも心配だ。
「それは心配ですね」
「大丈夫です、睡眠時間は確保できていますから」
「睡眠は質も重要ですよ、医者からの受け売りですが」
「……あなたも、睡眠のことで医者にかかったりするんですね」
「私を何だと思ってます?」
 苦笑しながら、エグザべの額を撫でて汗で張り付いた前髪をどけてやる。
「これでも戦後しばらくは不眠が続いたんですよ。二年もすればマシになりましたが、薬がないと眠れない時期もありましたね。ご希望ならクリニックを紹介します」
「……検討しておきます」
「睡眠は健康の資本、健康は全ての資本です。自分を大事にする意味でも、重視してください」
「……自分を大事に、ですか」
 うっすらとエグザベの瞳が潤んだ。じりり、とエグザベの心が粟立つのが分かる。
「考えたこと、なかったな……」
「少しずつ慣れてみてください。私やコモリ少尉が大事にしている君が君自身を大事にしていなくては、我々も寂しいですよ」
「大事に……」
 シャリアの言葉でざわ、とエグザベの心の内に波が立つのと同時に、エグザベの目尻から一筋涙が零れた。
「ほんとに、いいんですか。僕が、自分を大事にして、大事にされて」
 ぶわり、と、風に煽られた花の香が眼前に舞うようにエグザベの心の片鱗がシャリアの脳を擽る。人好きのする青年を心の芯まで巣食う虚無に胸を締め付けられ、シャリアはエグザベの手を握っていた。
「当たり前です。自分を大事にする権利は万人にある。まして君はいつも他人のことばかりでしょう、私に生きろと叫んだ時だってそうだ。例えそれが君の選択であったとしても……君の中に、君がいない」
 きっと私が言えたことではない、とシャリアは思う。シャリアがセルフケアを覚えたのは、ただ理想とする世界のためにそうするのが都合が良く、その時が来るまで死ぬわけにはいかなかったからだ。打算でセルフケアを心掛けていた自分が、エグザベには自分を素直に大事にして欲しいと願うのはきっとエゴでしかない。
 それでもこの願いを恋や愛と呼ぶことを許されるのなら、喜んでそう呼ぼう。例え自分から告げることが無くても、君にそれを捧げることで少しでもその心の穴を埋められるのならば、きっと悪くない。
「〜〜〜〜ッ、うぅ、」
 何かが決壊したかのように、次から次へと涙を零すエグザベはしゃくりあげながら背中を丸めた。まるで幼い子供のように、けれど声は押し殺して。そして縋るようにシャリアの手を握り返す。
 風邪で体調を崩し心のガードが緩んでいるせいか、握った手からとめどなくエグザべの感情が流れ込んで来た。
 痛い、怖い、苦しい、寂しい、辛い、悔しい、助けて、許して……ずっと蓋をしていた穴から溢れ出すかのように次々溢れるそれらの感情をシャリアはすべて受け止め、涙が伝う頬にそっとタオルを当てた。
 己の命に見切りをつけ再び虚無へ還ろうとしていた自分に新たな光を灯したこの青年が、これまでの人生でどれほど傷付いてきたかを思う。どれだけ世界に裏切られ傷付けられ利用されることが生存戦略になってしまっても他者を思いやり対話をやめようとせず、それなのに自分を大事にするという発想もないこの青年への愛おしさと哀しみにじりじりと胸を焦がされながら、手に力を込めた。エグザベから溢れる思いごと包み込むように、抱き締めるように、どうかこの青年が幸せであるようにと。
 エグザベはシャリアに縋ったまま、しばらく声を殺して泣いていた。
 エグザベが落ち着いてから、シャリアは水を注いだグラスをエグザベに差し出す。エグザベは体を起こすと目を擦り、グラスを受け取った。ちびり、と水を飲んでから、「ありがとうございます」と少し掠れた声で呟いてから洟をすすった。
「……中佐」
「なんですか」
「風邪、治ったら、あなたに伝えたいことがあります」
「今ではなく?」
「……今だと、あなたに甘えてしまいそうで」
 エグザベがグラスを握る手に小さく力を込める。発熱している上に泣き腫らしたばかりの目は真っ赤だが、何か覚悟でもしたかのように力強い目をしていた。
 いよいよこの時が来るか、とシャリアは目を細めた。
「後悔するかもしれませんよ」
「しないし、させません」
 そう言い切るエグザベの声は掠れているが、とても力強い。伝わる思念も、熱でまともな思考も難しいだろうに雑念の無い澄んだ覚悟に満ちている。
 自分はとっくのとうにこの青年に恋をしているというのに、それでも将来のために自分を選ばないで欲しい、などという考えはこの青年からすればきっととても身勝手なものなのだろう。受け止める覚悟をしなければならない──シャリアはそう心を決めると、「分かりました」と頷いた。
「待っています、あなたが良くなるのを。それでも心変わりがないなら、聞きましょう」
 覚悟を決めて、そしてきっと彼は逃げないと分かった上でまだ逃げ道を用意する自分は卑怯なのだろう、とシャリアは自嘲する。しかしシャリアの言葉を聞いたエグザベは、サイドボードにグラスを置いて脇に退けていた氷嚢を手に取りながらそれでも笑った。
「逃げませんよ。あんたからは絶対に逃げないって、決めてるんで」
「────」
 その真っ直ぐな目に射抜かれる。主にシャリアに対してだけ発揮されるエグザベの勘の良さに、今回ばかりは叶わない、と思わず笑いが込み上げた。
「……分かりました、待っています。早く良くなってください」
 これ以上病人に無理をさせるべきではない、とエグザベの肩に手を置く。エグザベは笑って自分からベッドに横たわると、シャリアに向けて小指を立てた手を差し出した。
「すぐ良くなってやりますから、待っていてください。約束です」
「ええ、待っています」
 小指に小指を絡めて、二度三度と揺らす。
 どこか睦言にも似たその指切りで、ふと甘いものが食べたくなる。次の休日には二人でカフェにでも行こうかと年甲斐もなく浮かれてしまったシャリアは、そんな自分に苦笑いを抑えられない。
 しかし同時に、小指を繋いだエグザベがあまりに幸せそうなので、今からそんなに幸せになってしまって君はこの後どうするんですか、と、苦笑いを浮かべるより先に声を上げて笑い出してしまったのだった。

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恋人が姫騎士メイド服を買ってきたもので

※攻めの女装と受け優位

===============

「……また凄いものを買ってきましたね」
 ベッドの上に広げられたそのドレス……否メイド服……ワンピース……? とにかくその一見レディースものに見える服を見て、シャリアはなんとコメントしたものか困り果てた。
「これを私に着ろと」
 床に正座している若き恋人に尋ねると、エグザベは小さくなりながら答えた。
「う……いやその、福袋に、入ってて……」
「何買ってるんですか」
 改めてその服を見て、シャリアは呆れてしまった。白いサテン生地で作られたロングワンピースに更に白いフリルエプロンが重なるような意匠で、ワンピースの裾は金刺繍のテープで縁取りがされている。ワンピースには深いスリットが入っており、ご丁寧に一の腕が隠れる手袋や白いニーハイソックスまで添えてある。
 偶然にしては出来すぎな気もするが、エグザベの愛機にそっくりな配色である。
「たまには何か未知に挑戦してみろとあなたがいつも仰るので……」
「だからってこれが入ってるような福袋を買いますか……」
 そう言いつつエグザベが空恐ろしくなるほどの無趣味であることを思い出し、シャリアは痛む頭を押さえた。無趣味が極まるとこれを偶然買うことがあるのか、とつい感心してしまう。
 エグザベは目を逸らしながらぼそぼそと呟くように言い訳をしている。
「メンズサイズとあったので、その、あなたに着て欲しいなあ、などと……」
 一つ訂正。エグザベは無趣味だが、一般人であれば映画や本や音楽、スポーツに向くような興味関心は概ねシャリア・ブル一人に向いている。あれをシャリアさんに着て欲しい、これをシャリアさんにやって欲しい。つまり「趣味:シャリア・ブル」。それを知るのはシャリアとシャリアの部下にしてエグザベの同僚であるコモリ少尉くらいなのはまだ社会的に真っ当と言えなくもない。
 若いうちからこれなのはちょっとよろしくないのでは? とシャリアとしても思い、折を見てはあれこれ趣味の取っ掛かりになりそうなことをエグザベにやらせてみているのだが、この様子を見るにその努力が実っているとは言い難いらしかった。
 長い目で見てやらねばならないとは思うのだが、たまに出す自我がこれなのでエグザベの望むままにするのも考えもの……とシャリアはしばし考え、一つ閃いた。
「私にこれを着て欲しい、とのことですが。これ、私が着られるようなサイズなんですよね?」
「え、はい。サイズ表記を見るかぎりでは」
「なら、あなたも着られますよね」
「…………えっ」

 ◆◆◆

「……着れました」
 ドアの向こうからのエグザベの声に、シャリアは部屋へ足を踏み入れる。
 部屋の中央には、先の白いワンピースドレスを着ているエグザベが困惑も隠さず立っている。
 頭に飾られているヘッドドレスを見るに、どうもメイド服という最初の印象は間違っていなかったらしい。喉仏は付け衿で、一の腕までは白い手袋で隠されているものの、アームドレスから覗く筋肉質な肩と腕や凹凸の少ない胴体には男らしさがどうしても滲み出ている。深いスリットとニーハイソックスの隙間から僅かに覗く太腿も男らしく硬い。エグザベの体格はむしろ細身な方なのだが、軍人として付くべき筋肉は付いているのが思いがけず女装によって露わになった形だ。
「姫騎士メイド、らしいです。コンセプト」
「属性過多ですねえ。姫でメイドってなんなんですか」
 キシリア・ザビの騎士たれと育てられ真っ当な人生を剥奪されたこの青年が自我の再獲得の中で偶然得た服が姫騎士メイドとは。益々不謹慎な笑いが込み上げてくる。
「……あんた何か変なこと考えてません?」
「ふふ、すみません、考えていました」
「深くは聞きませんけど……」
 どうせ碌でもないことを考えているんだろう、とエグザベの顔に書いてある。シャリアはベッドに腰掛けると、自分の膝を叩いた。
「こちらへどうぞ、姫騎士メイドさん」
「むぅ……」
 エグザベは頬を膨らませながら、シャリアの膝の上にまたがるようにして腰を降ろした。
「そうですね……折角あなたがお洒落をしているのですから、ロールプレイでもしますか」
「ロールプレイ、ですか?」
「ほら、君は今『姫』であり『騎士』であり、『メイド』なのでしょう?」
「っ……」
 エグザベの顔が羞恥でいよいよ真っ赤になる。
 その姿に、日頃ほとんど顔を出すことのない加虐心がつい煽られ、シャリアはエグザベの顎を掬った。ああこれがキュートアグレッションというやつか、と知識だけはあった単語の意味を実感する。
「ね、お返事は?」
「……仰せのままに、ご主人様」
 首を傾げて返事を促すと、エグザベの目が据わった。私好みの目だ、とシャリアは口角を上げる。
「ん、いい子ですね」
 唇を緩く重ね合わせ、白いサテン地で覆われた腰骨のラインを撫でる。
「私の言うことを聞ければ、ご褒美をあげます」
「貴方の望むままに」
 シャリアが差し出した手をエグザベは掬い上げ、甲に一つキスを落とした。堂に入ったその仕草に思わず背筋がぞくりと粟立つ。だが今はドレスを着せられ膝の上に跨るというなんとも煽情的な姿勢をしているので、そのアンバランスがおかしくて堪らなかった。
 いつしかエグザベから伝わる思念は困惑以上にシャリアへの直向きな愛情が勝り始めている。こんなわけの分からないプレイををしているというのに相も変わらず感情の切り替えが早くて、それを笑うべきか嘆くべきかシャリアにも分からない。分からないままにエグザベをベッドに引き倒し、その腰を抱いた。
「ああそうそう、さっきのはときめいてしまったのでノーカウントとしますが、今日はご主人様である私の許しが出るまで勝手に私に触れてはいけませんからね」
「ええ!?」
 腕の中のエグザベが心底残念そうな声を上げたので、シャリアは愉快に思いながら腕の中のエグザベをぎゅうと抱き締めた。
 さてこの「姫騎士メイド」をどうやって可愛がってやろうか、などと不埒なことを考えながら。

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ザベギャンを発売日に買えなかったので書きました。