カテゴリー: ジークアクス

エグザベ君強化人間IF

※エグザベ君が実は強化人間(人工ニュータイプ)だったらという捏造妄想の産物です
※例によってシャアシャリが前提ですがエグシャリと言うにはCP濃度低い気はする

◆◆◆

 フラナガンスクールを「卒業」したニュータイプ達には、日に一度所定の薬を飲むことが定められている。服薬からおよそ一、二時間は副作用で意識が宙を漂っているような心地になり、思考が定まらず視界も霧に覆われたようにぼやけ、生身で宇宙空間のただ中に放り出されたかのように錯覚する。
 そんな状態で一歩でも足を踏み出せば足を上手く床に着地させることも出来ず床に倒れ伏し、宇宙航行中であれば体の安定を維持できずにその身をふわふわと漂わせる羽目になる。
 当然そのような状態で仕事などできるわけもないので、シャア・アズナブル捜索部隊に配属されたエグザべ・オリベ少尉は服薬後の時間はしばらく個室で休むことを許されていた。
 それを許したのは、エグザべの上官であるシャリア・ブル中佐その人であった。
 シャリアはエグザべが優秀な兵士であると同時に盲目的に上官に従うほど馬鹿でもないことを初対面の時には見抜いていたので、長くても二時間程度余計に休みを与えることで彼がより扱いやすくなるのであればそれに越したことはないと考えていた。
 そしてエグザべは真面目な性格であったので、副作用の症状が治まればすぐに自分から部屋から出てくるのが常であった。おまけに副作用の症状が出る時間もそう長くないようで、時間にして早ければ三十分、長くても一時間。なので、
「中佐、エグザべ君が部屋から出て来ないんですが……」
 執務室を訪れたコモリ・ハーコート少尉のその言葉に、「おや」とシャリアは小さく眉を上げたのだった。
「まだ出て来ない? エグザべ少尉が部屋に引っ込んだのは?」
「もう二時間前です。さっき部屋にコールしてみたんですけど応答がなくて……」
「ふむ……確かに珍しいですね」
 エグザベは休憩時間中であっても呼べばすぐに来る、という評判は彼の着任からひと月と経っていない現在すっかりソドン艦内に知れ渡っていた。コモリは心配そうに眉を下げている。
 今でこそそのような話はなかなか聞かないが、かつて人工ニュータイプは投薬や催眠療法による心身不安定が多かったと聞く。エグザべは日頃から薬の副作用症状も控えめで安定しているとは言え、今日たまたまそうなるという可能性も否定は出来なかった。
「ラシット艦長にマスターキーを貰ってきてくれますか。私が直接見てきます」
「了解です」
 コモリが艦橋のラシットの下へ向かう。さて何事も無ければ良いが……と、シャリアは立ち上がりエグザべの部屋へ足を向けた。
 ドアの前まで来てもマスターキーが来ていないのでまだ入れないが、まずエグザべの部屋のドアをノックする。
「エグザべ少尉、起きていますか?」
 中からの応答無し。
 程なくしてコモリがカード型のマスターキーを持ってきた。
 コモリに廊下で待機しているよう言い、シャリアはドアを開錠してエグザべの部屋に足を踏み入れた。
「入りますよ、少尉」
 部屋の中は暗い。全ての照明を落としているようだ。シャリアは部屋の照明を付けずに手元の携帯端末のライトを点灯し、入ってきた扉を閉めた。
 手元のライトを唯一の光源に、シャリアはベッドに歩み寄る。
 ベッドの上には、人型に膨らんだ毛布が乗っていた。近くで見れば、こちらに背を向けるようにしてエグザべが横になっていた。
「……少尉、どこか悪いのですか」
 エグザべの肩に触れて軽く揺すると、びくりとエグザべの体が震えた。
「ッあ……」
 小さなうめき声。同時に、痛い、苦しい、怖い、とそれらが綯い交ぜになった感覚が閃くようにシャリアの脳に伝わった。
 どうやら良くはないようだ。
「失礼、少尉」
 シャリアはベッドサイドの照明を灯して少し部屋を明るくすると、エグザべの肩を引いて仰向けにする。
 無理矢理姿勢を変えられたにも関わらずエグザべからの反応はない。固く目蓋を閉ざし、その顔面は蒼白である。薄く開いた唇からは浅い呼吸が漏れている。熱はないが脈は少し早い。
 兎も角これはメディカルルームへ連れて行った方が良さそうだ……シャリアが船医を呼ぼうとベッド傍の壁に埋め込まれた艦内通信機に手を伸ばしたその時、ぱちりとエグザベの目が開いた。
 目が覚めたのか、とシャリアがエグザベに目をやると、エグザベの口が小さく開いた。
「……とうさん?」
 焦点の合わない目で、幼い子供がどこか夢を見るような声色であった。それと同時にぱちぱちと、炭酸の泡が弾けるように、取り留めのない思念が届いては端から消えていく。甘え、安心、ほんの少しの畏敬……。
(……大佐)
 探し求め続けるあの人が時折自分に向けていた感情とよく似たそれに、懐古、寂寥、哀惜に似たものが胸中に押し寄せてシャリアの呼吸がひととき止まった。
 すぐに我に返り、自分はいったい何を考えているのか、と首を横に振る。
(私はあなたの父親ではありませんよ)
 そう喉まで込み上げてきたが、それをこの青年に向けて口に出すのはあまりにも酷に思えた。そんなことで突き放すのを躊躇するような自分ではないと自認しているのだが。少なくとも今は、シャリアは沈黙を選択した。
 メディカルルームへのコールを終えた頃、ふとエグザベの目の焦点が合った。
「あれ……中佐?」
 その声は少し掠れていた。
「目が覚めましたか、少尉……ああ、起きないでそのまま」
 エグザベが体を起こそうとしたので、肩を押してそのまま寝かせる。
「今医務室にコールしました。念のため診てもらってください」
 シャリアは椅子を引っ張ってきて、腰を下ろす。エグザベの顔色は先よりだいぶ良さそうに見えるが、エグザベはどこか所在無さげに視線を泳がせたのち、「ああ」と呟いた。
「薬ですか……?」
「飲んだのはあなたでしょう」
「そう……ですよね。すみません、ぼーっとしちゃってて」
 だいぶ意識が明瞭になって来たのか、エグザベはどこか決まりが悪そうに目を伏せた。既に先のように彼が自分に向けていた思念は感じ取れない。そのことに思わず安堵する。
 部屋の外が騒がしくなって来た。どうやら船医が部屋の前まで来たようだ。シャリアは立ち上がり、船医を室内に入れる。コモリが我慢できないといった風に室内を覗き込むので彼女を廊下に押し戻しつつ船医と入れ替わりに廊下に出た。廊下には担架ベッドが置いてある。
「エグザベ君、大丈夫なんですか!?」
 コモリが食いつくように聞いて来たので、シャリアは彼女を宥める。
「今診て貰っていますが、意識ははっきりしています。いつも飲んでいる薬の副作用が少し強く出たのでしょう」
「ええ……本当に大丈夫なやつなんですか、その薬……?」
「それに関して私は専門外ですので」
 少なくとも、薬がなければ安定もままならない人工ニュータイプとは可哀想な存在だとは思うがコモリの前では口にしない。
(大佐が目指そうとしていたニュータイプの在り方はこのようなものではなかっただろうに)
 程なくして船医が部屋から出て来る。しばらくは念のためメディカルルームで様子を見るということになったらしい。手を貸して欲しいと言われたのでエグザベを担架ベッドに乗せるのを手伝い、エグザベがメディカルルームへと運ばれて行くのを見送った。
 運ばれていくエグザベに「ゆっくり休んでね」とコモリが声を掛ける。ベッドの上からエグザベが軽く手を振ったのを最後にベッドは角を曲がって見えなくなった。
 ふと、シャリアはコモリに尋ねる。
「コモリ少尉は、エグザベ少尉のことが好きですか?」
「え、セクハラですか中佐」
「違いますよ。同僚としてどうかという話です」
「素直でいい子だし、うちに来てくれて助かるって思ってますけど。あと顔もいいので単純に目の保養になりますし……あ、最後のは内緒ですよ」
「分かってます」
 素直を通り越して明け透けな部下の物言いに思わず苦笑しながら、シャリアはコモリに仕事に戻るよう伝えて自分も執務室へ戻ることにした。
 やりかけの書類仕事に着手しながら、エグザベの経歴を思い返す。
 ニュータイプ研究所であるフラナガンスクール主席、スクール入学以前はルウム出身の難民。あの様子では恐らく親もいないのだろう。
(薬で意識不明瞭になり、私を父親と誤認……たまたまであれば良いのだが)
 父性を勘違いさせたままあの優秀な青年を手懐けることも可能であろう。事実シャリアは一年戦争終結後から今に至るまで、相手が己に求める理想像というものを演じ利用し尽くすことでシャア捜索部隊指揮役という現在の地位を手に入れた。全ては、自身が追い求めるあの人を探すために。
 だがあの青年を相手に父親像を演じるのはどうにも気が進まなかった。あの時彼が向けて来た感情は、嫌でもあの人を想起させる。それでいて、そのように求められることは快くすらあるという事実がシャリアの胸を小さく刺した。
(彼にどのように接していくか、もう少し様子を見るべきか……)
 どの道自分は彼を利用する立場であり、彼は利用される側なのだ。
「……困りましたねえ」
 思考を巡らせながらふと呟く。
 それが誰に対しての言葉なのか、シャリアは考えないことにした。

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Zガンダムを全話視聴したんですよ、それでエグザベ君が強化人間だったら怖いなって思ったっていう話です。こういう話が出来るのも放送前だからですね、明日特別映像が劇場解禁されるらしいです。

少し遅めのランチタイム

(大佐はお若い分私よりよく食べる)

 そんなことを思いながら、向かいに座って大盛りのスパゲティを上品にぱくつくシャアをシャリア・ブルは眺める。
「どうかしたのか、大尉?」
 食事の手を止めたシャアにそう尋ねられ、シャリアは自分が食事の手を止めていたことに気が付いた。
 食堂には他の者はいないが、年若い上官が食べる姿に見惚れていた、などと言うわけにもいかず苦笑とともに返す。
「いえ、健啖でいらっしゃるなと」
「私からすれば君のいつも食べている量こそ少ないように思えるのだが」
「私のこれは通常の量ですよ」
「ふむ……」
 シャアはシャリアの皿と自身の皿を見比べたのち、くすりと笑った。
「私からすれば、君がよくその食事量で体型維持出来ているものだと不思議になるのだが」
 その言葉の意図するところを読み取り、シャリアは溜息とともに返す。
「大佐こそ、そのカロリーはいったいどこに消えていらっしゃるのですか」
 するとシャアは愉快そうに肩を揺らした。
「上官相手にセクハラか」
「先に仕掛けてきたのはそちらです」
「はは、その通り。夜になったら私の部屋に来るが良い」
「……上官であれば、部下の体力をもう少し考慮いただきたく」
 皮肉というわけでもなく、心の底からの本音であった。シャリアとて軍人である故に体力には相応の自信がある。しかし目の前にいる上官は若さゆえにかそれ以上の体力がある。体力を使い果たす可能性を考えていないとも言う。
 果たしてシャアは平然と笑いながらスパゲティを巻く。
「ならば貴公はもう少し体力を付けたまえ」
「三十近い男に何を求めてらっしゃるのですか……」
 こういった時だけ部下の言葉を聞かない振りをするので困ったものだ。ここに他の者がいなくて良かった……と、シャリアは呆れと共にちくりと諫言を呈する。
「私でなければいつか刺されますよ」
「大尉は刺さないのだろう」
 何気ないようなその言葉にたっぷりと含まれた甘えは耳朶を打ち、じわりと脳髄に届いた。この重みが快く、逆らい難いのだ。
「……貴方も人が悪い」
 それだけ呟き、シャリアは再びフォークを動かし始めた。

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 目が覚めた時、どういうわけか彼は自分の部屋の物ではないベッドの上にいた。
 そしてベッドの端には、士官服のジャケットを着ていないベスト姿の上官が腰掛けていた。
「おはよう、少尉。よく眠れましたか?」
 上官……シャリア・ブル中佐は、普段と何ら変わらぬ穏やかで人を安心させる一方でどこか食えない笑顔を浮かべて言う。そしてその向こうの壁には、中佐のジャケットが掛けてある。
 その一連を見て、彼……エグザべ・オリベ少尉はここが上官の部屋であることに気が付いた。
「なっ、ななななな」
 慌てて跳ね起き、それからやけに肌寒いのを感じ、遂には自分が服を着ていないことに気が付いた。
「自分は何故ここに!?」
 シーツを引き上げて前を隠しながら叫ぶように尋ねると、シャリアはベッドから立ち上がる。冷蔵庫からボトルの水を、それからエグザべの服一式をベッド脇の収納から取り出した。
 まず水を差し出しながら、シャリアは言う。
「随分酔っ払っていたんですよ、君」
 酔っ払っていた、全裸で上官の部屋のベッドの上にいる自分。水を受け取りながら、連想されるいくつかの可能性にエグザべの全身から嫌な汗が噴き出した。
「ぼ、僕は何か貴方に対して粗相を働いたということですか!?」
 赤くなったり青くなったりを繰り返すエグザべに、シャリアは「おや」と小さく呟いてから、くすりと笑った。
「……さて、どうでしょう」
「どうでしょうでは困るんですが!?」
「少なくとも私は怒ったり不快を覚えたり、君に何か危害を加えられたという認識はありません。私はそれで良いのですが」
「ッ……」
 シャリアから伝わる感情にマイナスなものは感じられない。シャリア・ブル中佐は自分のような新人士官には憧れの存在ではあるが、彼の開示する心も言葉も本心なのか怪しいとエグザべは常々思っている。それでも上官がそう言うのであれば軍人であるエグザベは飲み込むしか無かった。
「で、君はどうですか?」
 シャリアがどう思っていようと自分が何かしていればやはり寝覚めは悪い。エグザべは必死で記憶を手繰るが、昨晩のことをどう頑張っても思い出せない。
 シーツの下をこわごわ覗いてみるが、何か新しい傷が付いているわけでもなく、体のどこかが痛むこともない。……もうあの頃とは違うのだ。あって堪るかそんなこと!
「思い出せない、です」
 絞り出すように言うと、シャリアは頷きながらシーツの上にエグザべの服一式を置いた。
「それじゃあ良いじゃありませんか。何もなかった、で。お互い気にする必要は無し、と」
 そしてシャリアは踵を返すと、壁に掛かっているジャケットを手に取り袖を通しながらドアへと向かった。
「私はそろそろ出勤時間なので、食堂に行っています。君は今日は遅番でしょう、少しくらいならゆっくりしていても構いませんよ」
「いえっ、すぐに着替えて出ていきます!」
「ご自由に」
 あたふたしている部下に苦笑を残し、シャリアは部屋から出ていった。ドアにオートロックがかかり、これでエグザべが出て行けばこの部屋はまたシャリア以外出入り出来なくなる。
「気にするなって方が無理だろ……」
 思わずそうぼやくと、部屋の隅に置いてある姿見の中の自分と目が合う。いったい何なのだこの状況は、自分は一体何をしたんだ、と溜息をつきながら、エグザべは服を着る。下着まで含まれているがこれは恐らく自分が前夜に着ていたもの。丁寧にも洗濯・乾燥まで済ませてある。憧れの上官に何をさせているのだ自分は。
 どう考えてもとてつもない失態なのだが、シャリア本人はそれを咎めるでもなく飄々としている。まさかとは思うが戦艦勤務ならこういうことはよくあるとでもいうのか。だとしても新人士官でしかない自分には刺激が強すぎる。
 全身の格好を整え、靴はどこかと探すと部屋の入り口の靴置きに揃えて置いてあった。これもあの人が丁寧に揃えて置いていったんだろうな、と思いながら靴を履く。
 出勤までは時間がある。一旦部屋に戻ってシャワーを浴びて……とどうにか頭を日常に戻し、エグザベはシャリアの部屋から廊下へと出た。
 一歩足を踏み出した時ふと、鼻腔を何かの香りが掠めたような気がした。
(木……?)
 木に似ていて、心を安らがせるような香り。つい最近嗅いだような気がする。木の匂いなど、もう長らく嗅いだ覚えはないのだが。
 少し神経を集中してみたが、それきりその香りはしなかった。気のせいだったのだろうか。
 自室の前まで来た時、エグザベは既視感の正体にようやく気が付いた。
(中佐が使ってる香水の匂いに似てる)
 普段は付けていないようだが、ソドンから降りている時に近い距離ですれ違うと仄かに香ることがある。絶対高い香水だよ~とコモリ少尉が妙にはしゃいでいたことも芋づる式に思い出した。
(……なんであの香りがしたんだろう)
 何も分からないまま自室に入って、そのままベッドの上に身を投げ出し顔面をシーツに埋める。
 昨晩何が起きたのか、なぜ自分が香水の香りを思い出したのか、上官はきっと何も教えてくれない。子ども扱いされているという僅かな反発と共に、何が起きていようと自分をこの艦に置き続けるためでもあるのだろうとぼんやり考える。
 必要な人材と思われているのか、素直に言うことを聞く都合のいい駒と思われているのか。
 前者でありたい、と思うのは分不相応だろうか。そうなるための努力は惜しまないつもりでいるが、きっとまだ足りていない。
「……頑張ろ」
 小さく呟いて、シーツを握る。
 胡散臭い上官だが、自分がその引力に惹かれてしまっているのはどうしようもない事実なのだ。

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たわむれ

「シャリア・ブル大尉、君は私の仮面の下に興味はないのか?」
 ソドン内部、シャアの個室。ソファに足を組んで腰掛けたシャアが、ワインを傾けながら言った。
 シャアに招かれて向かいに座っていたシャリア・ブルは口を開く。
「私を慰み者にしようと?」
 こう返したところでこの方は怒りやしないだろうと思っての返事であったが、やはりシャアは小さく肩を揺らして笑った。
「そのようなつもりはないのだが」
「……お戯れを」
「戯れではないさ、私は君に隠し事をするつもりはない」
 戯れではないことを隠しもしないから問題なのだ、とシャリアは思う。
 シャリアの胸中を読まずにか、それとも無視してか。シャアは立ち上がると、シャリアに歩み寄る。シャリアが立ち上がろうとするのを肩に手を置いて制し、背を屈めると耳元で囁いた。
「私は思いの外、君に対して本気になっているようなのだ」
 一番の問題は、言葉上では制止しながらもこうして迫られれば喜んでしまう自分だろう……シャリアがそう理解した時、シャアが笑ったことが顔を見なくても分かった。

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部屋

 強襲揚陸艦ソドンには、ただ一人を除いた全てのクルーが立ち入りを禁止されている部屋がある。
「ここの部屋は誰にも割り当てられてないけどシャリア・ブル中佐以外立ち入り禁止だから、気を付けてね。キー持ってるの中佐だけだから大丈夫だと思うけど」
 着任したばかりのエグザベに、個室エリアの一番奥の扉の前でコモリが言う。
 同い年で同じ階級ではあるがソドンのクルーとしては先輩であるコモリの言葉に、エグザべは首を傾げた。
「中佐の部屋……ということですか?」
「ううん、中佐の部屋は隣の、こっちのドア。ここが何の部屋かは知らない。たまに中佐が掃除で入ってるみたいだけど」
「はあ……」
 エグザべはフラナガンスクールを卒業後にこのソドンが最初の着任先となる。
 こうした艦内ルールの存在が一般的なのかどうかも分からなかったが、彼はとても素直な性格であったので「分かりました」と頷いたのだった。

「あの部屋、《赤い彗星》の部屋ですよね」
 サイド6・イズマコロニー路上。エグザべは一歩先を歩くシャリア・ブルにそう尋ねた。
 シャリアは立ち止まって振り向く。その口元は穏やかな笑みを湛えているが、その目だけが笑っていなかった。
 目を合わせたエグザべが言葉を失っていると、シャリアは口を開いた。
「良い勘をしていますね、少尉」
 その言葉は紛れも無い肯定だった。エグザべにはそう理解出来た。
「……そう、なんですね」
「何か、気になることでも?」
 シャリアの口調はどこまでも丁寧で、誰にでも物腰柔らかな日頃のものと変わらない。しかし、伊達眼鏡越しの瞳には何の感情も伺えなかった。
 この人の目には、ずっとあの部屋の主しか映っていない……そう気付かされ、足が竦む。それなのに、言葉は勝手にこぼれ出る。
「中佐が《赤い彗星》のためにそこまでしたとして、本当に《赤い彗星》が見つかると思ってますか?」
「――――」
 シャリアの目が細められた。
 エグザべは怯みながらも真っ直ぐシャリアの視線を受け止める。
 なぜ自分が上官に対してここまで言う気になったのかエグザベにもよく分かっていなかった。ただ自分はそうしたいという衝動に似たものだけが、新人士官でしかないエグザべを《木星帰りの男》に相対させていた。
 やがてシャリアの目元が僅かに綻んだ。その目に一瞬自分が映ったように見えて、あれ、とエグザベが思う間もなくシャリアが口を開いた。
「君は、面白いですね」
「は、はい……?」
 困惑するエグザベを余所に、シャリアは踵を返した。
「君のような若者は嫌いではないですよ、エグザべ少尉。また今度食事でも奢りましょう」
 それきり、シャリアはまた歩き出した。エグザベは慌ててシャリアの後を追い、二歩踏み出したところで自分の足が動くことに気が付いた。
 シャリアの背中を見ながら、エグザベはシャリアの目に自分が映った瞬間のことを思い返した。
 黒々と広がる宇宙のような、吸い込まれそうな目だった。あの不思議な引力に抗える人なんているのだろうか。
 引力に引かれるようにしてシャリアの後を歩きつつも、写真でしか見たことのない《赤い彗星》のことを思い出す。一年戦争の最中に難民となったエグザベは《赤い彗星》に直接会ったことがあるわけでもなく、《赤い彗星》の捜索を主任務とする部隊に配属されてなおその存在に現実味が湧かない。
 この人の目に映っているのはずっと《赤い彗星》だけで、今日のようにそこに他の誰かが映るのはほんの短い時間なのだろう。
 だとしても、もっと見て欲しい、と思った。
(どうすればこの人は僕をもっと見てくれるんだろう)
 エグザベにはまだ分からなかったが、これから知ればよいと思った。

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ソドン(ホワイトベース)って部屋の数多いし多分シャリアはシャアの部屋全然残してるよな……とファーストを見て思いました。