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Here comes The SUN(ヒカルとヒロユキ+トラスク)

ヒカルさんがヒロユキのいる地球にひょっこり現れてヒロユキとサシ飲みしたりする話。
捏造多め。
2022年末のEXPOギャラファイナイトSPステージとツブコン2023ニュージェネTHE LIVEタイガ編の内容を踏まえています。
台詞だけ出てくる人→大地、ソラ、アスカ

◆◆◆

それは、念の為ヒロユキの検査した方が良いんじゃないかなあ……トレギアは完全に分離したとは言え、ヒロユキはただの人間だからね。グリムドの細胞片を取り込んで悪影響が無いとも限らないから。
ああ、待って待って。そんなに慌てなくても、君達のそのタイガスパークに、ヒロユキの危険を知らせるサインなんかは来てないんだろ。だったらそんなに焦らなくても、念の為の検査だよ。ウルトラマンに変身する人間には必要だと思うんだ……人間ドックみたいな……あっごめん、こっちの話。
とにかく、検査はそう遠くないうちにしておきなよ。俺が行けたらいいんだけど、俺はそろそろ俺の地球に戻らないと。そうだなあ……ギャラクシーレスキューフォースならこういう時頼れるかも。……うん、それじゃあ三人とも、またね!
……なに、X。タイガ達相手に先輩みたいな顔してたって?いいだろ、別に。

◆◆◆

なるほど、地球人の検査……事情は分かりました。グリムドのデータはうちにもありますし、検査用マシーンはすぐに用意できると思いますよ。
ただ困ったことに今、人間態になれる隊員が出払っていて……トライスクワッドの皆さん、人間態にはなれます?……タイガさんとタイタスさんはなれるけどフーマさんはなりたくない、と。そういうこともありますよね。
でもどうせなら三人揃ってお会いしたいですもんね、どうしましょうか……あ、そうだ!ヘルプお願い出来そうな方を呼んでみます!皆さん、お知り合いですよね?この方なんですけど……

◆◆◆

「で、来る途中で怪獣が暴れ回ってる星があったからあの三人はそっちに行って、結局俺だけ先に来たってわけ」
「な、なるほど……」
「俺も加勢すればすぐ終わっただろうし、一緒に来れば良かったのになあ。いつでも繋がってるから大丈夫、だって」
ここは席のほとんどが半個室になっている、とある大衆居酒屋。
僕の向かいの席に座るその人は、そこまで話してからジョッキに入ったビールをぐいと飲んだ。
「ともあれ、ヒロユキには何の異常もなし。大地やソラちゃんにもデータ送って見てもらったけど問題ないだろうってよ、良かったな」
言葉をそう続けてからジョッキが空になっている事に気づいたらしく、その人──ヒカルさんは、注文用タブレットに手を伸ばした。
「ビール追加で頼むけどヒロユキは?」
「あ、僕は大丈夫です」
半分以上残ったウーロン茶のグラスを指しながら僕がそう言うと、ヒカルさんは注文用のタブレットに慣れた手つきでビールのおかわりを注文した。
「来て検査までしていただいたのはありがたいですし、呑みに誘ってくれたのも嬉しいんですけど……ヒカルさん、こっちの地球のお金持ってます?」
僕が全額奢る可能性も一応考慮して誘いに応じているのだが、ヒカルさんは「気にすんなって」と手をひらひら振った。
「心配しなくても結構あるぜ、前来た時少し稼いだのが残ってるし。今日で使い切れるくらいにはある」
「何してたんですか……?」
「移住とか旅行で来てる宇宙人のボディガードとか用心棒してた。ちゃんと相手は選んだぜ」
「それを聞いて安心しました……」
色んな意味で。
「はは、悪い事なんてするわけないし後輩に奢らせたりもしねーよ。ほらヒロユキ、さっきから全然食べてないぞ」
「ヒカルさんこそビールばっかりじゃないですか」
「食べてたら喋れないだろ」
ヒカルさんはそう言ってから、唐揚げとだし巻き卵を自分の小皿によそった。
すぐにヒカルさんの注文したビールが運ばれて来る。入れ替わりに空のジョッキを下げた店員に軽く会釈してから、ヒカルさんは割り箸を割った。
「結構楽しみにしてたんだぜ、こうやって食事すんの久々だから」
「久々って……」
僕もシーザーサラダをよそう。
「誰かと……ってことですか? お仕事忙しいんですか?」
「あっ、いや」
しまった、とでも言いたげな顔になるヒカルさん。気まずそうな顔をしながらも唐揚げを一つ口に放り込んだが、すぐに目を輝かせた。
仕事柄、そのリアクションには見覚えがある。
長い事まともに食事をしていなかった宇宙人が、久し振りに食べ物を口にした時のそれとよく似ていた。
嫌な予感がするので、僕は取り分けたサラダには手を付けずヒカルさんの言葉を待つ。
ヒカルさんは観念したように唐揚げを咀嚼して飲み込み、またビールを一口飲んでから口を開く。
「誰かとっていうか、食事すること自体が久々。体感で二年ぶりくらいかも」
「……はい?」
耳を疑う。
ヒカルさんは人間のはずだ、人間が二年も食事をせず生きていけるわけがない。
「それは、どうやって……?」
「……ギンガになってるとな、宇宙空間だと光の力だけで生きていけるんだよ。光合成みたいな。あとたまに光の国でプラズマスパーク浴びればまあ、エネルギーはだいたい事足りるし」
「……もしかしてヒカルさん、ずっと変身したまま……?」
「まあ、そういうこと。宇宙から宇宙をあちこち飛び回ってるからさ」
「…………」
僕が何を返せば良いのか分からず黙り込んでいると、ヒカルさんは苦笑いした。
「前にも一回そういう事があってさ、その時は三ヶ月くらい変身しっぱなしで地球にも帰ってなくて、それはショウにしっかり怒られた。それが二年前」
「全然反省してないし悪化してるじゃないですか」
思わずそう突っ込むと、「やっぱそう見えるよなあ」とヒカルさんは嘆息した。
「帰りたくないわけじゃないんだけど……なんか呼ばれてるなーって気がしたら体がそっちに動くんだよな。それに宇宙を冒険するの、楽しいし。それを繰り返してたらいつの間に二年経ってた」
助けを求める声に応えずにはいられない、という気持ちは分かる。
だが僕の眼の前で唐揚げやだし巻き卵や枝豆をぱくぱくと食べている人はそれを二年間、ほとんど人間に戻ることなく家にも帰らず、宇宙規模で続けていたのだという。
凄い人だ、と改めて畏敬の念を抱くと同時に、底知れぬ恐怖も覚える。
この人はそれを、この先も続けていくつもりなのだろうか。
そんなことを考えながらようやく自分のサラダに手を付けるが、味がよく分からないくらいには僕は混乱しているようだった。
「なんか悪いな、びっくりさせちまって」
「いえ……」
僕にも、何年か前にタイガ達と共にウルトラマンとして戦っていた時期がある。そしてほんの数週間前に、久し振りにタイガ達と力を合わせて戦った。けれど、ヒカルさんはそんな僕よりずっと長い期間と密度で、ウルトラマンとして戦っている。
そんなヒカルさんに僕がなにか言う資格があるのかは分からない、けれど……
「……ヒカルさんは、それで大丈夫なんですか?」
「え?」
「上手く言えないんですけど……」
ウーロン茶を飲んで口の中を湿らす。
「ショウさんが怒るのも分かる気がして。半年とか二年とか、そんな長い事家に帰らないで人間にも戻らないでウルトラマンでいるのは……僕は、心配になります。ヒカルさん自身の生活はどこにあるんだろう、って」
「……」
僕の言葉に、ヒカルさんは少しだけ黙り込んだ。だがすぐに、人好きのする笑顔を浮かべる。
「そっか、ありがとな」
何かはぐらかされたような気がしてならなかったが、それ以上深く突っ込むことも出来そうになかった。
それからは互いの近況とか、他のウルトラマンの人達の話をした。
どうやら少し前まで宇宙が色々騒がしかったようで、ヒカルさんもタイガ達には今回の件より更に前に会っていたらしい。先輩の皆さんも基本的に相変わらずなようだった。
居酒屋には日付が変わるぎりぎりまで、およそ三時間近くいたが、ヒカルさんはジョッキ何杯ビールを飲んでも全く酔う気配がない。会計の時には奢ると言われたが固辞して、そっちは酒飲んでないだろと言われ押し切られそうになったがこちらも払わせて欲しいと突っぱね、最終的に微妙に傾斜を付けた割り勘で手を打ってもらった。
「ヒカルさん、この後どうするんですか?僕の家、ソファでよければ泊まれますよ」
居酒屋を出てからそう尋ねると、
「え、いいの?じゃあ邪魔しようかな」
野宿するから大丈夫、などと言われたらどうしようかと思ったけど断られなくて良かった。
自宅までのおよそ一駅分を、歩きながら話す。
「人間に戻ってなかったってことは、お風呂にもしっかり浸かってないってことですよね。僕の家今日風呂沸かしてないんで、近所の早朝までやってるスーパー銭湯行きましょう」
「はいはい」
肩を竦めながらも、ヒカルさんはどこか嬉しそうに見えた。
「ヒロユキは明日の仕事大丈夫なのか?」
「社長が特別に休みにしてくれました」
「お、良かったな理解ある職場で」
「僕のこと以外でも弊社は色々あるので……あっ」
ふと、それなりに重大なことに気が付く。
「そういえばヒカルさんお酒飲んでましたよね、お風呂大丈夫ですか?」
「あ、別に気にしなくていーよ。俺、酒に酔わない……っていうか、酔えなくなってるらしいから」
「酔えない?お酒に…ですか?」
「おう」
ヒカルさんは長い腕を広げ、それから大きく伸びをしつつ空を仰いだ。
「アルコールが人間の体に毒になるからじゃねーかな?全然効かなくなってるっていうか……分解が異常に早くなってるらしい。いくら呑んでも肝臓への負担ナシ。前に一回元の世界に戻った時に検査で分かってさ。ずっとギンガになり続けてたのが多分原因。ウルトラマンの先輩にもそういう人いて、そういうことだろうってその人に教えてもらった。俺はちょっと極端な方らしいけど」
ヒカルさんはそれを、何でもないことのように話した。
重大なことを、ヒカルさんはさっきからあまりに呆気からんと話す。酔っていると言われる方が納得するくらいだ。
……僕に聞いて欲しいのか?
「あの、ヒカルさん」
「何?」
「……ヒカルさんとしては、お酒に酔えないのはどう、なんですか」
ホマレ先輩も地球人の僕と比べれば、お酒にはかなり強い方ではあるけど。それはホマレ先輩が元々宇宙人だからであって……
「その、僕はヒカルさんが元々どれくらいお酒に強いのかは知りませんけど」
「……人並みって感じかな。仕事柄もあるしギンガスパークもあるし、出先では飲まないようにしてた」
それなら僕より少し強いくらいか。それでも全くお酒に酔わなくなったということは、結構大きな変化のはずだ。
「だからまあどうかってのは……外でも飲めるようになって嬉しいぜ?酒の味が分かるようになってからで良かった。ノンアル飲んでるのと変わんねーよ」
「そう……なんですか」
本人がそう言うのなら、僕にはこれ以上何も言えない。
ヒカルさんは「人間」から遠ざかりつつあるんじゃないか……そんな予感を、僕は飲み込むことしか出来ない。
「……ヒカルさんが酔わなくなったの、ショウさんは知ってるんですよね」
「そりゃまあ。……流石に渋い顔された」
「……でしょうね……」
もう少し踏み込むべきなんだろうか。きっと僕は今すぐにでも考えないといけない、ヒカルさんがわざわざ僕に今の状況を正直すぎるくらいに明かしたその意味を。
夜が明ければ、ヒカルさんはまた宇宙へと飛び立ってしまうのだから。
「……あの、ヒカルさん」
「何?」
なので僕は、とてもずるいことであると承知の上で。
「銭湯の後で、僕の家で呑み直しませんか」
アルコールの力を借りることにした。

◆◆◆

酒に酔えなくなった?カフェインも効かない?それは多分、ずっとウルトラマンになってるからだと思うが……ヒカルって今ウルトラマンになって何年目だ?……最初に変身してからは十年くらい、連続でギンガになってるのはそろそろ二年か……短……いや人間基準なら長いのか……?俺も効かなくなって長いけどヒカルはそうなるのちょっと早すぎるんじゃないかって気が……前例があんまないからなあ。ムサシや我夢だっていつも変身してるわけじゃないしガイはそもそも地球人じゃないし…………ま、とりあえずだ。たまには帰って元気な顔見せてやれよ。俺なんか帰れなくなってた間に地元で地球を救った英雄扱いされてたらしいからな。帰れるなら帰れる時に帰って、元気な顔見せてやれ。君の相棒は、地球の方にいるんだろ?

◆◆◆

『ヒロユキ!ヒーローユーキー!』
『ふむ……随分深く眠っているな』
『もう少し寝かしてやった方がいいんじゃねーの?』
僕を呼ぶ三人分の声で意識が引き上げられる。懐かしいけどすっかり聞き馴染んだ声。
「おはよう、三人共……」
『おはよう、ヒロユキ!』
『おはよ、あんちゃん!』
『おはよう、ヒロユキ。ギンガから聞いているぞ。何事も無かったようで何よりだ』
ほんの数年前まで当たり前だったけど、とても久し振りな、トライスクワッド三人からの朝の挨拶だ。
少しだけ頭痛のする頭を起こしたところで、自分がローテーブルの上に突っ伏して眠っていたことに気付いた。
そう言えば昨晩は帰って来てからヒカルさんと晩酌をしていたような……それにしてはローテーブルの上には広げていたはずの缶やおつまみも無く、やけに綺麗だ。ヒカルさんが片付けてくれたのだろうか……と、ここで部屋にいる人間が僕一人であることに気付く。
「……あれ?!ヒカルさんは?!」
『先輩なら、ちょっと野暮用があるってさっき出て行ったけど……』
「野暮用……?!」
まさかもう出発してしまったのでは、と焦って部屋を見渡すと、ソファの上にヒカルさんのジャケットが放ってあった。
ベランダに繋がる窓はよく見れば鍵が開いている。
どこに行ったんだろうと思いながら立ち上がると、卓袱台の上に置いていたスマートフォンが震えた。それと同時に鳴り響く怪獣警報のサイレンの音。
急いでスマートフォンの画面を見ると、出現地区は隣の県だ。速報が出ているはずだとテレビを付けると、防災用ライブカメラのものだという映像が流れていた。
あまり画質の良くないカメラの向こうに、遠くので暴れる怪獣の姿が映っている。
『あれはベムラー……!行くぞヒロユキ!』
タイガの声に、テレビも消さずベランダに駆け出した。
「光の勇者、タイガ──」
『あー待った待った!俺一人で大丈夫だから!』
「えっ」
変身しようとした瞬間、唐突に頭の中に響く声。
「ヒカルさん?!」
『先輩?!』
『テレビで見とけって。ライブカメラくらいならそっちの世界にもあんだろ?』
「確かにありますけど……えっどうやって話しかけて来てるんですか?!」
『タイガに聞いて!』
「タイガ?!」
『ウルトラマンのテレパシーだ!俺達がいるからヒロユキにも聞こえてるんだと思う!』
似たような感じでタロウさんと対面で話したことはあるけど、遠距離でもテレパシー使えるんだ……そんな驚きを覚えながら、ひとまずベランダからリビングに戻って、付けっぱなしのテレビに視線を向ける。
現在怪獣出現地点に向けて自衛隊が出動中、近隣住民はただちに避難を、とキャスターが呼びかけるさなかで、ベムラーの隣に銀色の影が降り立った。
赤と銀の体に、光り輝くクリスタル──ウルトラマンギンガだ。
ギンガは颯爽と立ち、戦闘開始の構えを取ってベムラーに立ち向かっていく。
唖然としてタイガが呟いた。
『ほんとに先輩だ……』
『ベムラーの出現を予測してたってのか?』
『何かしらの予兆があったのかもしれん』
『一応解説しとくと、遊星に乗ったベムラーが地球の周りを飛んでるのが来る時に見えてさ。そろそろ落ちそうだったから……あー、ちょっとこっち集中するから後でな!』
後でと言われても、もうほぼ説明されてしまっている。
あれは三年前に一度だけ目撃されたタイプのウルトラマンでは、とキャスターが興奮気味に語る中、ヒカルさん──ギンガは的確にベムラーの攻撃をいなし、ダメージを与えて行く。
『やっぱり先輩はすげえ……』
『まさしく歴戦の勇者といった戦いぶりだな』
『おおっ、見たか今の流れるような連携技!』
タイガ達はもうすっかりギンガに任せて大丈夫という判断らしい。
本当に大丈夫なのかなあ……とは思うものの、実際ギンガの戦いぶりには迷いも不安もない。
ベムラーの動きが少しずつ弱って行き、やがてギンガはベムラーを頭上に抱えると地上から飛び立ってしまった。
それから間もなくヒカルさんのテレパシーが脳内に響く。
『侵略目的じゃなさそうだし、ちょっと外に放って来る!』
「外?……あっ宇宙にってことですか!」
『そういうこと!すぐ戻る!』
そうしてライブカメラから怪獣が消え、十分ほどの間に警報は注意報に変わり、朝のワイドショーはL字型の注意報画面と共に商店街の名物グルメを紹介し始め、
「ただいまっ!」
ヒカルさんは、颯爽とベランダに降り立って来た。
「ヒカルさん、本当にいつもこんな感じなんですね……」
窓を開けてヒカルさんを部屋に上げると、ヒカルさんは「まあなー」と笑いながらソファに寝転がった。
「ちょっと早起きしたから、一時間くらい寝てから帰るわ」
「えっと……起きたら朝ご飯食べます?良ければ作りますけど」
「食べる!それじゃお休みー」
ヒカルさんは頭からジャケットを被って体を丸めると、あっという間に寝息を立て始めた。
「あのさタイガ……」
そっとソファから距離を取って、以前から薄々予感していたことを、タイガに聞いてみる。
「ヒカルさんってもしかして、人の懐に入るのが物凄く上手い……?」
『それ俺も思った……だってヒロユキと会うのは二回目だろ今回……』
『あー……そういえば昔、父さんが言ってたな。人に好かれる才能は一級品の少年だった、って』
「子供にまで伝えるくらいなんだ……」
『だがこれはこれで、宇宙を旅する者に必要な才能かもしれないな』
「なるほど……」
ヒカルさん本人の性分が、宇宙を旅するのに向きすぎているのかもしれない……そんなことを思いながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見る。トーストとハムエッグくらいは作れそうだ……そう思いつつ自分の分の朝の支度をしている中で、ふと気が付いた。
──そう言えば僕、寝る前にヒカルさんとどんな話したんだっけ?

◆◆◆

「ご馳走様!」
きっちり一時間寝て目を覚ましたヒカルさんは、僕の用意したハムエッグとトーストをあっという間に平らげてインスタントコーヒーも飲み干したかと思うと、こんなことを言った。
「出発の前にちょっと散歩したいんだけど、付き合ってもらっていいか?タイガ達も」
林とかあるところがいい、というヒカルさんの漠然としたリクエストを受けて、カーシェアの車で雑木林や植物園のある近場の大きな公園へと向かった。
「うーーーーん……やっぱ上から見下ろすのとはだいぶ違うなあ」
木漏れ日の降り注ぐ雑木林の小道を歩きながら、ヒカルさんは大きく伸びをした。
「やっぱたまには戻んねーと駄目だな。俺、夕べヒロユキに言われたこと結構嬉しかったんだぜ」
「僕に……ですか?」
「おう。たまには地球に帰れ、お前は人間だろ、ってやつ」
「……えっ僕そんなこと言ってました?!」
まるで記憶にない。全身からどっと汗が噴き出した。僕の反応に、ヒカルさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「あはは、忘れてたのか。明らかに酔っ払ってたもんな〜ヒロユキ」
『おいおいヒロユキまさか、酔っ払ってギンガに説教したのか……?!』
『酔っ払って自分の先輩に説教……なかなかの度胸だな……』
『酔っ払……?』
「フーマもタイタスもちょっと待って、タイガには後で説明するから」
酒に酔えないと僕に明かしてくれたヒカルさん相手に記憶を失うまで酔っ払って説教だなんて、僕はとんでもないことをしでかしていたらしい。
確かにアルコールの力を借りようと決意した記憶はあるにはある、あるけど。そこまでやる気はなかった、なんて言い訳にもならない。
「本当に失礼なことを……!」
「いいっていいって。ま、確かに忘れてたかもって気付いたよ。俺自身は普通の人間でしかないって」
そう言いながらヒカルさんは雑木林の隙間から空を見上げて、少しだけ遠い目をした。その目はどこか寂しそうにも見えたけど、夜空の星を見上げるかのように輝いていた。
「ただギンガと一緒にいるのも、宇宙から宇宙へと冒険するのも、行く先々で色んな出会いがあるのも、タロウから頼りにされるのも、後輩達に会うのも……そういうの全部が楽しくって、嬉しくってさ。夢中になって、他の大切なものを見落とすかもしれないって思った。だからちょっと帰ろうと思う。次の冒険に行くのは、それからだ」
そう言って僕の方を見て笑うヒカルさんの笑顔は、とても眩しく見えた。
僕はヒカルさんと何回も会ったことがあるわけじゃないけど、こうやって笑うヒカルさんは、きっと凄く自然体なんだろうと思った。
「そこでやめるって言わないの、ヒカルさんらしいなと思いました。今回で会ったの二回目なのに」
「ありがとな」
僕の言葉に、ヒカルさんは少し照れくさそうに笑う。
「ヒカルさんは、なんでそこまで僕に話してくれるんですか。人によっては結構デリケートな話になりそうな部分まで話してくれましたよね」
「なんでって……」
ヒカルさんは少しだけ考え込んでから、首を傾げた。自分にもよく分からない、と言いたげだ。
「……ヒロユキには話しときたいって、思ったんじゃねーかな。別の世界にいる滅多に会えない仲間に、礼堂ヒカルは今こんな感じでやってるし、これからもきっとこんな感じ、って、覚えてて貰えればさ」
「覚えてます、絶対に」
ヒカルさん自身ですら気付かないほどの無意識な何かのサインを、受け取るのが僕で良かったのだろうか。
そう思いはするが、受け取ることが出来て良かったとも思う。
「それで次にあった時にはまた一緒に呑んで、ご飯食べましょうね、絶対ですよ。その代わり、また帰らなすぎてショウさんに怒られた報告とかはしないでくださいね」
「……最後のはちょっと約束出来ねえかもなー」
すると、僕とヒカルさんの会話を黙って聞いていたタイガが我慢出来ないと言った風に口を挟んできた。
『ダメですよ先輩、先輩が故郷にあんまり帰らなかったら父さんも心配します。というかこの前ザ・キングダムと戦った後、帰れる時に帰りなさい休みなさいで解散しましたよね?君が一番帰らなさそうで心配だって父さんに言われてましたよね、俺見てましたよ』
そこまで言われてたんだ、そしてしっかりタイガに見られてたんだ……。
「そいつはそうだけど……そこでタロウ持ち出すのはずるいだろタイガ……」
ヒカルさんが珍しく気まずそうな顔をする。やっぱりヒカルさんの弱点はタロウさんみたいだ、薄々察してはいたけど。
「じゃあ、ショウさんにもタロウさんにも怒られない程度には帰る、という約束で」
「お前らなあ〜」
ヒカルさんはほんの一瞬むくれるが、すぐに堪えきれないといった風に笑い始めた。
あんまり笑い事じゃないんですからね!本当に分かってますか先輩!あはは悪い悪い、なんて騒ぐうちに小道は雑木林を抜けて、街全体を見下ろす開けた高台に出た。
空には一点の曇りもなく、僕は眩しさに思わず目を細めたが、ヒカルさんはむしろ全身で太陽の光を浴びるように腕を広げて深呼吸した。
「……よし、帰るか」
そしてヒカルさんは呟いて、僕達の方に振り返った。
「それじゃ、俺は帰るわ。タイガ達は俺より到着遅れた分くらいゆっくりしてけよ」
「ヒカルさんこそ、なるべく寄り道とかしないで帰ってくださいね」
「小学生か、俺は」
軽口を叩きながらも、ヒカルさんは懐から変身アイテムを取り出した。
変身アイテムを力強く天に掲げて高らかにその名を呼べば、ヒカルさんの姿は瞬く間に光に包まれ、巨人──ウルトラマンギンガへと姿を変える。ヒカルさん──ギンガが僕達を見下ろすと、太陽の光を浴びて、その身に宿したクリスタルが煌めいた。
「今回はありがとうございました!他の皆さんにも、よろしくって伝えておいてくださいね!」
僕が声を張り上げると、ギンガは力強く頷いた。
『任せとけ、ヒロユキも元気でな。タイガ達は……ま、そのうちどっかで会えんだろ』
『なんで俺達にはちょっと適当なんですかー!』
タイガが軽く憤慨すると、タイタスとフーマが小さな声で僕に囁いた。
『あれはギンガなりの親しみだ』
『タイガのやつギンガに可愛がられてる自覚なくってなあ〜……』
「そうなんだ……」
『な、なんだよ三人共!』
『あはは、実際なんか困った時はいつでも呼んでいいからな、タイガ。すぐ駆け付けるぜ』
「ほら、ああ言ってるよ」
呼ばれなくても駆け付けてやる、くらいの勢いはあるような気がするけど。
『ぐぬ……それは、ありがとうございます……』
良いように言いくるめられたタイガは少し悔しそうで、なんだか仲の良い親戚同士みたいなやり取りだ。
『それじゃあな!楽しかったぜ!』
ギンガが地表から飛び立つ。
光を宿したその姿が青空に溶けて見えなくなるまで、僕らは何度も手を振った。
急に現れたかと思えばあっという間に懐に入り込んできてついでにサクッと宇宙からの危機を一つ解決して……振り回されたというわけではないけど、今回の件は思い出としては十分に強烈なものになった。時間としてはたった一日にも満たないと言うのに。
「……凄いね、僕達の先輩はさ」
思わずそう呟くと、タイガが反応した。
『そりゃあそうさ、だって先輩は、俺達のリーダーだぜ?』
「それもあるけどさ」
きっとそれだけではない。
あの太陽のような星のような先輩は、地球を飛び出して宇宙から宇宙へと飛び回る冒険をやめたりはしないのだろう。
その姿に危うさは感じるけど、やっぱりどうしようもないくらい眩しい。
だからこそ、その姿を、ヒカルさんが立ち寄った先にいた僕が覚えている事にはきっと意味がある。
「ヒカルさんと沢山話して、僕も僕の場所で頑張ろうって、改めて思ったよ。久し振りに会えて良かった」
『……先輩に手伝ってもらったのは偶然というか、成り行きなんだけどさ。ヒロユキがそう言うなら、手伝ってくれたのが先輩で良かったぜ』
「うん。タイガ達も、ありがとう」
そして、この僅かな時間の滞在を嬉しかったと、楽しかったとヒカルさんが言ってくれたことが、僕は結構嬉しかったのだ。

◆◆◆

……あっショウ?えっうわっちょ……分かった、俺が悪かったって!流石にやばいと思ったから今から帰る!時間どんくらい経ってる?……そっか。なるべく急いで帰るから、隊長達に伝えといてくれ。
ああ、うん、ヒロユキに怒られてさ。元気だったぜ、ヒロユキ。……え、怒られたことのほうが気になる?なんでだよ別にいいだろ……わーったよ話す!帰ったらちゃんと話すから!
嬉しそうって……そうだな、かなり嬉しいかも。帰ったらお前の説教もちゃんと聞きたいからよろしく。いや、気味悪いってなんだよ!思ったこと正直に言ってるだけだからな!

◆◆◆

だから僕思うんですよ、ヒカルさんはちゃんと自分の世界にたまにでも帰ったほうが良いです!僕だって正月にはちゃんと地元に帰ってるんですからましてやヒカルさんは家に帰ってないってことで相当ですからね!もしタイガ達が地元に全く帰って無いって聞いたら流石に心配になりますよ……まあ12年僕と一緒にいたからその時期は帰ってなかったんでしょうけど……。
……な、何笑ってるんですか。僕の他にもいるんじゃないですか、僕と同じようなこと言う人。ショウさんだってヒカルさんが全く帰らなかったら怒ったんでしょ。
それに……体質まで変わって、食事をしなくても大丈夫で……それじゃヒカルさん、人間じゃない時間のほうが長くなってるみたいじゃないですか……失礼なこと言ってるかもしれないけど、ヒカルさん自身は人間なのに……。
……ごめんなさい。ヒカルさんはウルトラマンでありたいと思ってるから、ウルトラマンギンガになってるんですよね。僕よりずっと長くウルトラマンやってる人にこんな事言うのは失礼ですよね……え、そんなことないって?
そんな僕に遠慮し……てるわけないですね、ヒカルさん僕に遠慮してたことないですもんね!だからなんで笑うんですかそこで!
まあ……僕の余計なお節介で笑ってくれたなら、それでいいです。心配してる人がいるってたまに思い出してくれれば……。
僕が言いたいのはそれだけなので……すみません、ちょっと眠くなってきました……ヒカルさんもちゃんと寝てくださいね……

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◆◆◆

次ページ、ヒロユキ視点のために反映しきれてなかったり話とは直接関係ないけど想定してた部分などの補足。
だいたい捏造妄想だし蛇足かもしれないので別に読まなくてもいい。

カレーライス(ヒロユキとトラスク)

「それでなヒロユキ、メビウスが言うにはカレーには肉の種類にルーの種類、入れる野菜で色んな種類があって、ギンガはナスのカレーが好きなんだって!」
「ナス⁉ 渋いな……。ナスは今日は入れないけど……タイガの兄弟子さん達、カレーが大好きなんだね」
「ああ! だから俺、楽しみなんだ! ヒロユキが作るカレーがどんななのかって!」
「そんな大したものじゃないよ……」
「まあまあ兄ちゃん、俺達からしたら地球の料理が珍しいんだからさ」
「そうだな、私も……フンッ、ヒロユキがどのような料理を、フンッ、するのか、興味がある」
「タイタス、まな板の前で筋トレするのやめて」
「あっヒロユキ、それニンジンだろ! ちゃんと見るの初めてだ〜!」
「なー兄ちゃん、カレーにショーユ? ってやつ入れると隠し味になるって前オーブから聞いたんだがほんとか?」
「なんだそれ! なあヒロユキ、ショーユってなんだ!」
「醤油は地球の、特に日本で使用されている調味料だな!」
「へえー!」
「や、やりにくい……」

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