「……なんだ、これは」
「何って、誕生日プレゼントだけど」
テーブルの上に置かれた物を見て、竜弦は眉間に皺を寄せている。
それが何なのかは知識として知っているが、自分の生活に入り込むことはまるで想像していなかった物体を目にして当惑しているといったところだろうと、雨竜は手にしたティーカップをソーサーに置きながら分析する。
掌に収まるほどの藍色の鉢に植えられた、小ぶりながらその枝葉を天に伸ばそうとしている松の木。
世間一般ではそれを「盆栽」と呼ぶ。
「渡す瞬間まで僕の部屋の方に置いていおくつもりだったんだけど、あんたの帰りが遅いからここまで持ってきた」
時刻は既に22時を回っている。帰りは20時と聞いていたのだが。
これは今日はここに泊まりだな、と、雨竜は立ったまま困惑する竜弦を他所に立ち上がる。
「夕飯温めてくるから、少し待ってろ」
そう言い残し、キッチンに足を向ける。
スープ、サラダ、ローストビーフと付け合せ、バゲットを皿に盛り、今日のために買ってきたワインを搭載したカートを押してダイニングに戻ってみれば、竜弦はまだ立ったまま盆栽と睨めっこしていた。
「まだ見てるのか?」
「……お前の考えることは分からん」
「分からないなら分からないでいいさ、大事にはして欲しいけど。道具も一緒に買ってあるから後で渡す」
雨竜はてきぱきと皿をテーブルに並べ、グラスにワインを注ぐ。
「……」
竜弦は盆栽から顔を上げて怪訝そうに雨竜を見たが、雨竜が食事を並べ終えたのを見てようやく椅子に腰を下ろした。雨竜も向かいの椅子に座る。
これだけじゃ伝わらないか、と、静かに食事をしている竜弦を見て思う。
(長生きして欲しいだけなんだけどな)
誕生日に松を贈るというのは我ながら直球すぎるかと思ったものの。
この松がもう少し育つ頃に伝わっていればそれで良いか、と、雨竜は飲みかけのカモミールティーに口をつけるのだった。
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《自らが輝く》、ヤエヤマヤシ、それから(石田親子)
※雨竜が二十越えたあたりの話
◆◆◆
『昼十一時に迎えに来る』
まだ何も予定がないのであればこの日は丸一日空けておけ、と父に言われたのが二週間前。そして、具体的に何があるのかも伝えられないままにそう短いメッセージが送られてきたのが、今……つまり、約束の日の前日の夕方六時。
本当にこっちの都合を考えないな、と呆れつつ、何か服装の指定とかは、と返信する。返信が送られてきたのは三十分後であった。
『度を過ぎたカジュアルでなければどうとでも』
さてどこへ連れて行かれるのやら。
竜弦の指定でまず思い出したのが、誕生日だからと少し前に竜弦から贈られた服に含まれていたセットアップであった。高級ブランドのショップに連れて行かれ、着せ替え人形のようにあれこれ着せられては店員と竜弦の間でお似合いですよ否こうではないと言葉が飛び交い、気が付けば全身竜弦の好みにコーディネートされ、目の飛び出るような総額のそれを丸ごと贈られた。それはどういうわけか「雨竜の」誕生日ではなく、「竜弦の」誕生日に発生したイベントなのだが、こういったイベントはその後も何度か発生している。
竜弦は三月生まれなのであの時は春物中心のコーディネートとなったが、今は寒波襲来と連日ニュースで騒がれる真冬である。しかし幸いにもあのセットアップはオールシーズン使えますよと言われた記憶があるし、真冬に別のブランドのショップに連れて行かれたこともある。
とにかくあれを中心にすれば何か言われるようなこともないだろう……と、雨竜はセットアップほか竜弦から事あるごとに贈られている服でコーディネートを組み立て、翌朝十時五十分には綺麗に身支度を終えて自宅アパートで待機していた。
父の金遣いは決して荒いわけではないのだが、根本的に金銭感覚が世間ずれしているというのは家を出て一人暮らしを始めてから実感したことだった。
病院経営だけでなくどこぞに持っている土地やマンションあるいは株なんかの資産運用によって得ている莫大な収入の使い道と言えば、今は竜弦が一人で暮らしている屋敷の維持費用(馬鹿にならない額である)と食費に水道代に光熱費といった基本的な生活費が中心で、それ以外は竜弦が必要最低限の社会生活を営むのに必要な細々とした出費……と聞いている。
どうもその「細々とした出費」の中には息子を着せ替え人形にするあの奇怪な趣味費が含まれているらしく、その一回分の値段だけで雨竜からしたら数か月分の食費を賄えてしまうところを、竜弦は些細な出費だと涼しい顔をしているのだった。もっと他の趣味を見つけろと一度思わず怒鳴ってしまったが、竜弦の顔はやはり涼しいものだった。
あいつ家計簿とか付けてるのかな、と本人に言えば余計なお世話と一蹴されそうな心配を巡らせていると、竜弦の霊圧が近付いて来るのに気が付いた。
竜弦を玄関で出迎えると、まず竜弦は雨竜を頭のてっぺんから爪先まで眺め、そしてどこか満足げに頷いた。
「……よし。行くぞ」
「殴られても文句言えないからな、今の」
踵を返して近くに停めている車の方へ向かう竜弦に呆れながらそう声をかけ、雨竜は後を追いかけた。
本気で息子を着せ替え人形にしたいのかこの男は。
学生向けや単身者向けのアパートが多く立ち並ぶ住宅街にはどこか不釣り合いな高級車は、そのまま駅前を通り過ぎて都心方面へと雨竜を連れて行く。
「で、どこに行く気なんだ?」
晴れ渡った冬空の下のクラシカルな巨大駅舎を窓の向こうに認めながら訪ねると、竜弦は短く「まずは昼食だ」とだけ答えた。
竜弦は駅の近くの立体駐車場に車を入れると、近くの高級ホテルの方へと雨竜を連れて来た。雨竜の誕生日にこうした場所のレストランに連れて行かれたことはあるが、今日のような「何でもない日」に来ることは初めてであった。
「ランチってまさかここ……」
「他に何だと?」
上階へと向かうエレベーターに乗る竜弦の表情は平然としている。この父らしいと言えばこの父らしいが、と雨竜は思わず溜息を一つ。
エレベーターが止まった階にあったのは、ビュッフェ形式のレストランであった。竜弦が受付で名前を告げると席に案内される。東京の街を見下ろせる窓辺の席に通された。
「意外だな。あんたは食べ放題とか好きじゃないのかと思ってたけど」
「今日は私の都合でお前を連れ回すのでな」
「……ふうん」
ランチくらいは好きなものを食べろ、ということらしい。気の使い方がどうにもずれている気はするが、そういうところは今に始まったことではない。
雨竜は遠慮なく(ただし上品に)、好きなものを好きなだけ食べることにした。
これは自分でも作れそう、味付けは、これ後でもう一度食べよう……などと考えながら取ってきた料理を丁寧に食べている雨竜を、竜弦は雨竜に比べて少ない量を食べながら、険の無い──何か掌の上で小さく輝いているものを見るような目で見ていた。
食事を終えると、そのまま徒歩で向かったのは現代的な外観をした高層ビル――その中にある美術館だった。
「今日の目的ってここ?」
「そのうちの一つだ」
さてこの父に芸術を嗜む感性があったのだろうか……と雨竜は若干失礼なことを考えながら、事前に予約していたらしいネットチケットで入館する竜弦の後に続いた。
壁に掛けられているキャプションを見るに、この美術館に収蔵されているのはどうやら近現代の作品が中心らしい。
雨竜はこうした美術館に自発的に足を運ぶことはほとんど無かった。小学校から高校にかけての校外学習の類で連れて来られて目にした絵や彫刻を何となくいいな、と思うことはあれど、私生活においては美術館から縁遠い。
竜弦はどのような絵を好むのだろう、と横目で観察しているうちに分かったのは、どうも人物画や静物画よりも風景画や抽象画を好むらしいということだった。明らかに絵の前にいる時間が長い。
「こういうの好きなんだな」
種々の色鮮やかな図形がキャンバス上に配置されたカンディンスキーの絵をじっと見ている竜弦の隣に立って話しかけてみると、竜弦は雨竜を見た。
「可笑しいか」
「そうは言ってないだろ。意外ではあるけど」
竜弦は絵に視線を戻すと、呟くように言った。
「……こういった絵には、物語も信仰もない」
理由を言ってきたことに驚きつつ、なるほど、そうなると風景画や抽象画なのかもしれない……と、雨竜は納得する。そして、この美術館に展示されている時代以前の絵画は宗教色の強いものが多いという漠然とした知識を思い出す。
「そうか、そういう絵が好きなんだ」
「嫌いではない」
竜弦らしい……雨竜はそう思い、そのまま竜弦の隣りに立って絵を眺めた。
そうやって一時間ほど掛けて、ゆっくりと館内の絵を全て見て巡った。
ミュージアムカフェを見つけたので、次に行く前に少し休憩しよう、と雨竜が提案すると、竜弦はあっさり承諾した。
「次はどこに行くんだ?」
そう尋ねると、竜弦はアールグレイのカップを傾けながら「黙ってついてこい」とだけ答えた。
さっきの素直さはどこに行ったのやら、と雨竜は呆れながらもハーブティーを味わうのだった。
◆◆◆
竜弦の車は雨竜を乗せて、湾岸部へと向かう。
竜弦が車を停めたのは、海からほど近い大きな公園の駐車場であった。
駐車場から少し歩いて、竜弦は大きなドーム型の屋根を持つ建物の前で足を止めた。ドームから透けている緑色を見て雨竜はすぐその建物の正体に気が付く。温室──植物園だ。
入り口で二人分のチケットを買った竜弦は、建物に入る前に一度振り向いた。
「中は暑いぞ」
「来たことあるのか?」
「お前が生まれる前に一度と、お前が一歳にならないくらいの頃に」
その言葉とどこか懐かしむような目に、成程と合点がいった。
「もしかして、あの美術館も?」
「前の建物だった頃に一度。お前は生まれていなかった」
「……そう」
つまり今日巡っているのは、父と母がデートした場所で……その中でも、父がもう一度足を運びたいと思っていた場所、ということだ。
そのことに僅かなむず痒さを覚えるが、同時にこれは竜弦なりに心を開いているのだと分かるので、可愛いところあるな、と一歩先を歩く背中を見て思ってしまった。
建物に足を踏み入れ、ショップやカフェのあるロビーを通って温室の方へと入っていく。
竜弦の言う通り、緑の草木が生い茂るドームの下は外の冷気とは裏腹に南国の如き暑気に満ちていた。なるほどこれは……と、雨竜は早々にコートを脱いだ。
「僕は流石に覚えていないんだけど……アルバムを探せばここに来た時の写真はある?」
「何処かにあるだろうな」
背の高い熱帯植物や色鮮やかな花がそこかしこに咲いている。人工滝の水音も聞こえて来て、どこか日本ではないような雰囲気を醸し出していた。
「南国の植物が好きなんだ?」
「冬でなければ、別の場所も候補に入った」
「……植物が好きなのはなんとなく感じていたけど。そういえば動物はそんなに好きじゃないよな、あんた」
「何を根拠に」
「小さい頃、母さんやお手伝いさんと一緒に動物園に行った記憶はあるんだけど。あんたはいなかったなっていうのも覚えてて」
「……仕事があった」
「ふうん……まあ、いいんだけど」
温室の中をゆっくりと見て回る。ところどころに立っている解説パネルも、竜弦は丁寧に読んでいた。
ふと、ドームの天井まで届くほどのヤシの木を見上げる竜弦に尋ねてみる。
「で、植物だとどういうのが好きなんだ?」
すると竜弦はまた素直に答えてきた。
「……木と、長い葉」
「木と長い葉」
「それと、花。あまり主張しない花がいい」
「大雑把だな……」
「詳しいわけではないのでな」
「……だとしたらここ、あんたの好みと逆じゃないか?」
木と葉はともかく、この温室の中で咲いている花はどちらかといえば大ぶりで派手なほうだ、と思う。
「そうでもない、今は冬だ。……それに、叶絵がここを気に入っていた」
「……冬以外にここに来たことがあるのか?」
「いや、冬にしか来たことがない」
「じゃあ次は、別の季節に来よう」
雨竜の提案に、竜弦はヤシの木から視線を外して雨竜を見た。
「別の季節に来れば、違う花が見られるだろ。まあ、あんたの好みではないかもしれないけど、少なくともこの木は変わらずここにあるんだろうし」
そのような提案を思い付いたことに、雨竜も少し驚いていた。だがすぐに自分が以前竜弦に対して趣味を見つけろと怒鳴った時のことを思い出し、苦笑しながら続けた。
「今日のルート、あんたの好きなもの……というか、趣味候補とかだろ。年に何回か来てもいいんじゃないのか。少しくらいは付き合うさ。趣味を見つけろってあんたに言ったのは僕だからね」
「……随分邪推が上手くなったものだな」
「あんたの息子やってれば嫌でもそうなるよ」
竜弦はしばらく何も言わなかったが、やがて、何か諦めたようなため息を吐き出してヤシの木の前から踵を返した。
そして温室内を眺めながら、どこか独り言のように、しかし隣を歩く雨竜に向けて語り始めた。
「私は長く、世界を知らなかった。学校には通っていたが、通っていただけだ。初めて空座町から出たのは、大学入試の日だった」
「ああ、だから無趣味な上たまに世間知らずなんだ」
「……」
思い切り苦虫を噛み潰したような顔をされた。竜弦にしては珍しく感情がありありと表に出ているが、雨竜は先を促した。
「で?」
「……私よりは、叶絵の方が世界を知っていた。だから彼女は、私がただの人間でいられるようなものを見つけようとしてくれた。結局仕事にばかりかまけてしまい、何も定着しなかったが」
「酷いなあんた……」
「全くだ……お前に言われるまで忘れていたのだから」
今日訪れた場所も、それ以外に行ったのであろうデートの場所も、母が不器用で世間知らずの父のために選んだのだろう。
母さんはそういう人だ……と、雨竜は遠い記憶の中の母の顔を思い出す。家にいる時も仕事ばかりの父をいつも心配していた。
「……良かったな、母さんがあんたを見捨てないでくれて」
「……そうだな」
ほんの少しだけ、竜弦の口角が上がった。
おや、と思ったが、それはほんの一瞬のことで、竜弦はすぐにいつもの仏頂面に戻っていた。
「それじゃあここ以外も手伝おうか、あんたの趣味探し。まずは今日の美術館とここを起点にしてさ。いいじゃないか、あんたの人生はまだ先も長いんだし」
「……服を見立てられるのがそんなに嫌だったか……」
「いい歳した男の趣味が二十過ぎの息子依存なのは如何なものかと思っただけだ」
気恥ずかしいと言うのは、勿論多分にあるが。
「せめて頻度をなんとかしろ……年に一回くらいなら付き合ってやるから」
「……そうか」
その声色は随分と柔らかかった。
温室の出口に近付いた頃、竜弦がふと思い出したように言った。
「……幼い頃のお前をあちこち連れて行こう、何でもさせてみようと最初に提案したのも叶絵だった」
「そうなんだ」
「そうしたらお前にはしっかりと残った」
「……手芸のこと?」
手芸を始めたきっかけは母だ。幼い頃、母と一緒に簡単な編み物をした記憶が微かに残っている。
「ああ」
竜弦は頷いてから、ぽつりと呟いた。
「……お前が私のようにならなくて良かった」
その声はとても小さく、雨竜に聞かせるつもりもなかった言葉が無意識に零れたもののように聞こえた。なので雨竜は、聞こえなかった振りをした。
温室から出ると、あんなに青かった空の大部分がオレンジ色に染まっていた。吹き抜ける冷たい風に、思わず肩を竦ませる。
「で、今日はもう終わり?」
「そのつもりだが」
「夕飯はどうするつもりなんだ?」
「……何が言いたい」
「作ってやるよ、そっちが何も考えてないならだけど」
「……お前に任せる」
「じゃあ鍋にするから、帰りにスーパー寄ってくれ」
竜弦の運転する車は海に背を向けて、空座町へと帰っていく。
雨竜は窓の外を流れていく景色が少しずつ暗く、そして電気の灯が灯り始めるのを眺めながら、今日の竜弦の様子を思い出す。
竜弦が、雨竜が生まれる前……それどころか母と結婚する前、まだ家の管理下にある子供でしかなかった頃の話を自発的にするのは珍しいことだった。黒崎家と親戚関係にあったことは知っているが、それにしたって黒崎一心に教えてもらったくらいで、竜弦本人の口からほとんど何も聞いていない。なので、竜弦が初めて空座町を出たのが大学入試の日、というのは初耳だった。つまり小学校から高校に至るまで、いや、幼稚園まで遡って、遠足も修学旅行も行ったことがなかったのだろう。
そりゃ世間知らずにもなるわけだ、と、無論それ自体は竜弦に責任がないとは言え雨竜は納得してしまった。
竜弦としてもその話をするつもりは無かったのだろうが……息子に対してもう少し心を開く気になれた、というところなのだろうか。あるいは、そういう重苦しい過去を出汁にしてまで惚気話をしたかったか。案外後者かもしれない。
「なあ竜弦」
「なんだ」
「結構頑張ってたんだな、あんた」
「……どうだかな」
そう呟いた竜弦の顔がどこか晴れやかだったので、雨竜は思わず父さん、と呼び掛けそうになった。だが慌てて口をつぐむ。
こんないい日に事故でも起こされては堪らない、と思ったのだ。
Moment of disappearance
※千年血戦篇アニメ11話Cパートの会話の妄想
◆◆◆
痩せ細っている、というのが、第一印象であった。
僅かな灯りのみが道を照らす夜闇に降りしきる雨の中、外套も羽織らずにユーグラムの生まれた頃から千年ほど下った時代の服を着たその男は、憔悴したような目で数メートル先に立つハッシュヴァルトを見ている。
「……もう一度言おう、石田雨竜。陛下はお前を必要としておられる」
雨音の中でも確かに届くよう、言葉に術式を乗せる。
彼が今、何を考え何を思っているのかはハッシュヴァルトが考慮するべきことではない。ただ命じられた通りに、この石田雨竜という名の男を帝国へ連れて行くことのみが現在の彼に課せられた使命であり責務であった。
「拒絶する権利はお前にはない。お前に選択肢はなく、全ては陛下がお決めになることだ」
「……何故……」
初めて石田雨竜が口を開いた。
「何故、父ではなく僕なのですか」
「……」
雨に打たれ下がった体温故かその声は震えていたが、確かな芯を持っていた。
己が何者であるか、滅却師の定めとは何か。それらを何も知らされることなく、狭い箱庭の中で育てられた男。真実を知り、雨の中立ち尽くしていた男。だが、決して愚かではない。ハッシュヴァルトは、石田雨竜に対する認識を僅かに引き上げる。
「その問いへの答えを、私は持たない」
「『陛下』のみが、それに答えられると?」
「その問いに答える権利を、私は持たない」
「………」
石田雨竜は沈黙し、ハッシュヴァルトから視線を逸らすように俯いた。
ハッシュヴァルトもまた、黙って石田雨竜の返答を待つ。
しばし、雨音だけが空間を包む。ハッシュヴァルトの外套が雨を吸って重くなり始めた頃、石田雨竜が顔を上げた。
「……分かりました」
その言葉と共にひどく静かな瞳が、真っ直ぐにハッシュヴァルトを見た。
「案内してください、陛下の下へ」
雨音の中、何の術式にも乗せていないはずの声はやけにくっきりとハッシュヴァルトの耳に届く。
そして一歩、石田雨竜がこちらに向けて足を踏み出した。
その顔にはあらゆる感情もなく、声に震えはなく。ただ研ぎ澄まされた刃のような、静かで強固な意志だけがあった。
「────」
あまりに迷いのないその姿に、ハッシュヴァルトは言葉を失いかけた。しかし己を押し殺し、頷く。
「それで良い」
──この男に、『陛下に従う』以外の選択肢はない。
──だが、本当にそうなのか?
浮かぶ疑念に蓋をして、すぐ真正面まで近付いてきた石田雨竜を見下ろす。
「これよりお前は、その人生において築いたもの全てと訣別し、陛下の御為に身を捧げることのみが許される」
「構いません」
用意していた言葉にも、石田雨竜は迷う素振りも見せず首肯してみせた。そして濡れそぼった前髪の向こうから、真っ直ぐにハッシュヴァルトを見る。
その目に、胸の奥がざわめく。それでもハッシュヴァルトは己を殺す。
「……それでは、お前を『影』に迎え入れよう」
ハッシュヴァルトは『影』を呼び出す。その刹那に解放される力をこの男の父親に気取られるのに、そう時間は掛からないだろう。だが、初めから盤の外に弾き出されている者に用はない。
ハッシュヴァルトはこちらに近付くその霊圧を無視し、石田雨竜ごと自身を『影』で覆う。
その霊圧には石田雨竜も気付いていたであろう。しかし彼は何も言わなかった。
視界が『影』に鎖され、雨音もその霊圧も感覚から消える。
この瞬間がこの男にとって、慣れ親しんだ筈の世界との永劫の別れになる──それを指摘したところで、今更この男は自分に付いて来ることをやめはしないだろう。
奇妙ではあるが、ハッシュヴァルトはただそれだけを確信していた。
【実写版軸一護+雨竜】「ただのクラスメイト」【映画見た人向け】
「なあ、オレとお前ってなんで知り合いになったんだ?」
「……」
まず目に入ったのは目の前に突き出された購買部のビニール袋。中身はパンと紙パックのジュース。視線を上げれば、オレンジの髪が目に入る。
詰まる所、昼休みに屋上で静かに本でも読もうと思っていたら急に黒崎に絡まれた。
僕は一つため息を吐き出す。
「またその話か……自分で思い出せって何回も言ってるだろ。それとそのパンは何だ」
「思い出せそうで思い出せないから聞いてんだ。パンは俺の奢りだ。お前、たまに昼飯食ってないだろ」
僕の返答を待たずに、ビニール袋が音を立てて僕の太腿に置かれる。今日昼食を持って来ていないのもたまにそういう日があるのも事実なのだが、黒崎に気を遣われているという点も奢りで釣ろうとしている向こうの魂胆もなんとなく癪である。
「気にすんな、俺も今日は購買で買ったからついでだ。6時間目体育だろ、食わなきゃ倒れるぞお前」
そう言いながら黒崎は僕の向かいに座り、自分の分の袋からコロッケパンを取り出した。
「……生憎、君が思ってるほど僕は虚弱じゃない」
「飯を抜くのはそれ以前の問題だろ」
本当にお節介だな、この男は。
しかしありがたいのは事実だし、突き返すのも申し訳ない気がしてしまって、僕は袋の中を見た。焼きそばパン、ジャムパン、りんごジュース。焼きそばパンとりんごジュースのパックを取り出す。
焼きそばパンを齧ると、無視していた空腹感が存在を訴え、しかし直ぐに薄れていく。
「……まあ、少しなら質問に答えてやらなくもない」
本当は、黒崎が自力で思い出すのが1番だと思うが。
黒崎は少し考え込んだ後、口を開いた。
「聞き方変える。お前さ、どうしてそんな急にオレの事気にして来るようになったわけ?」
「…………」
そう来たか。
「オレとお前は、1週間前まではただのクラスメイトだった。なのに急にお前が朝挨拶して来るようになって……てか、その1週間前までの記憶もちょっとモヤモヤしてんだよ。なあ、何があったんだよ」
黒崎が身を乗り出してくる。ここ一週間毎日のように聞いた質問だ。
「……何があったかについては、何回も言ってるけど君が自分で思い出すべき事だ」
「ああ、何回も聞いた。だから、せめて何でオレとお前がダチみたいになってるのかは知りたい」
「は?」
ダチ。友達?君と僕が?
「それは無い。君と僕はただのクラスメイトだ」
友達では、ない。断じてない。
この男の持つ力や人の良さは認めていない事も無い、だが彼が一時とはいえ死神だった以上、友達になる事は無い。例え戦場で力を貸し合う事はあってもだ。
「……そっか。違うのか。オレはなんか、お前とダチになったような気がしてたんだけどな」
黒崎はやや不満そうな顔をしながらコロッケパンの最後の一欠片を口に押し込んだ。
「…………」
ダチになったような気がしていた、って。なんだそれは。そこまで思い出していながら朽木ルキアの事は思い出せないのか。やはり馬鹿なのかこの男。
少し腹が立ってきたが、わざわざそれを言ってやる事も無い。
思い出すべき時が来たら思い出すだろうし、思い出せなければそれで終わり。これは多分、それだけの話だ。後者であれば黒崎は、ただの霊感が強い人間として生きていくのだ。死神になりさえすれば誰でも守れるようなその力を振るうことなく。
……その事を、死神を憎みながらも惜しいと思ってしまうのは、僕のエゴなのだろう。今はただの人間である黒崎が虚と戦う必要なんて、どこにもないのに。
「……一つだけ、教えてやる」
「ん?」
「僕は、君に記憶を取り戻して欲しいと思っている」
だから、これを言わないのは、酷く不誠実な気がした。
別に、黒崎が僕の言わんとする事の意味を理解する必要は何処にもないのだが。最悪一生理解しなくても良い。
ほら、現に黒崎はキョトンとした顔をしている。人の気も知らないで。
やっぱり腹が立つ。
「……なあ石田」
「何」
「お前、分かり難いだけで良い奴なのか……?」
「はあ?」
急に何を言い出すんだこいつ。
唖然とする僕を尻目に、黒崎はチョコパンの封を開ける。
「いや、お前が1番詳しいんだと思ったんだけどさ。お前がそう言うなら多分オレは自分で何とかした方が良いんだろうな。もうお前に聞くのやめるわ、自分で思い出せるようにしてみる」
そう言って、黒崎は何でもなかったかのようにパンを齧る。
何でもないような顔をしてはいるが、きっと本気で僕のことを頼りにしていたのだろう。僕は胸にちくりとした痛みを覚えながらそれに目を瞑り、残半分となった焼きそばパンに齧り付いた。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
原作軸のこの話と対にしています。
この2人は媒体が変わってもこうなんだろうなあ、と思います。
実写版すごく良かったんですけどもうこの2人が最高すぎましたね……ええ……映画その物の出来も良かったしアクションは本当にカッコよかったし何はともあれ石田の顔が良かったのが最高でした……見事なガワの実装本当にありがとうございました……
【石田親子】三月某日(再録)
「……遅い」
「は?」
むっとしながら玄関で家主を出迎えると、随分間の抜けた返答が返って来た。
「とりあえずお帰り。ご飯なら用意してある、お風呂も用意してあるけど今のあんたは入浴してそのまま寝て溺れそうだから駄目だ。まずはさっさと、ちゃんとご飯を食べろ」
「……分かった」
何が起こっているのか分かっていなさそうな顔で頷かれる。仕事が余程忙しくて帰宅するなり頭の回転が鈍ったのか、それとも今日は僕がいるということを完全に忘れていたのか。後者だな、と一人で納得しながら竜弦から鞄と薄手のコートを受け取った。
ダイニングで待っているよう言ってからそれらを竜弦の寝室まで運んでやる。
広い家だ。僕が生まれる前までは使用人も何人かいたらしい。二年と少し前までは僕と竜弦の二人だけが住んでいて、最近は僕がたまに帰るようになった。つまりその間はあいつ一人だったわけだが。
──本当に、僕がいない間どうやって生きていたんだこの父親は。
率直に言って、久し振りに足を踏み入れた時のこの家にはあまりにも生活感がなかった。僕が嫌々ながらまだこの家で生活していた中学時代までの方が僕が家事をしていた分まだまともだった。掃除も洗濯も何もかもが家事代行サービス任せで食事は基本外食だと言われた時は流石に頭が痛くなったし冷蔵庫にもなんとペットボトルの水と酒しか入っていなかったのだが、同時に竜弦が二年間どれだけ家に帰らなかったのかも感じて少しだけ罪悪感は湧いた。竜弦に、ではなくこの家に対して、だけど。
竜弦は家事が出来ない。いや、正確には、出来ないことはないがやっても出来が酷い。母さんは体が弱かったから、たまに母さんが体調を崩した時に手伝おうとしていた記憶はあるにはあるのだが、竜弦が何かしようとすると母さんが起き出して来た。あれは多分不安で見ていられなかったんだと思う。
母さんが死んですぐの頃は、定期的に竜弦の知り合いの人が家に作り置きのおかずなんかを持って来てくれていた。その間に僕も家事に色々慣れることが出来た。元より母さんから色々教わっていたのもある。……あの時の「知り合いの人」が黒崎のお父さんだったと知ったのは、ついこの前のことだ。
一人で生きていけそうなこの父親が意外と色々な人に心配されて生きてきたことを、家に帰るようになってから実感した。
鞄とコートを然るべき場所に置いてからそそくさとダイニングに戻る。
「そうか、今日はお前がいる日だったな」
ようやく頭が動いてきたのか、ダイニングテーブルに着席していた竜弦は僕を見るなりそう言った。
「そうだ。最近随分物忘れが激しいんじゃないか」
僕が帰ってくる日も忘れるなんて、気が抜けすぎだ。
呆れてそう返してやりながらダイニング併設のキッチンで鍋の中のスープを温め始める。冷蔵庫から下拵えした魚と白ワインと適当に作ったおつまみを出して、ワインとおつまみは竜弦のところへ持って行く。
「……気が抜けている、か」
僕がワインをグラスに注いでいるのを見ながら竜弦は呟いた。
「もう常時気を張る必要もないだろう」
「…………」
それを言われてしまうと、何も言い返せなくなりそうになる。それでも言わないといけないことはあるのでしっかり言わせてもらうことにする。
「だとしても僕がいる日くらいは把握しておいてくれないか、僕がやりづらくなる。僕が食事を用意しているのに外で食べてきたとかやられても困るんだよ」
「善処する」
これは反省していないな、と全く悪びれていない顔を見て判断する。
そういう時のために、こういう日でも無いときは意識的に作り置き出来る物ばかり作っている。幸いにも今までは、その日の夕飯のために作ったものは全てその日のうちに完食されているが。
僕はキッチンに引き返すとさっさと夕飯を仕上げた。
魚はホイル焼きにして、付け合わせの野菜で彩りを添える。スープはコンソメとタマネギ。洋風のメニューに合わせて皿にご飯を盛る。量は控えめだがもう夜九時を回っているからこれくらいの方が良い。自分はともかく向こうはもう若くないと言われ始める年だ。……本当は七時に帰って来ると聞いていたのだが、それはともかく。
二人分の皿をテーブルに並べていくと、竜弦が意外そうに僕を見た。
「お前もまだ食べていないのか」
「あんたが帰って来るのを待ってたんだから当たり前だろ」
「……そうか」
何故だかその声はいつもより少しだけ柔らかく聞こえた。夜遅い帰りにしては珍しく機嫌がいいみたいだ。
「いただきます」
「……召し上がれ」
竜弦が静かに食卓に手を合わせる。家に帰るようになって思い出したことなのだが、世の全てを嫌っていそうなこの男でも、食前には手を合わせる。
二人きりの食卓に、会話はほとんどない。それでも、僕が中学生になってからは二人で食卓につくこと自体がほとんどなく、高校に上がると同時にそのまま家を出たことを考えると大した進歩だと思う。
竜弦は黙々と食べている。普段竜弦から料理に対してまともな反応を貰えることなどない。ただ作ったものは毎回完食するし作り置き用にタッパーに詰めて残しておく物も必ず全てなくなるので、それが答えだと思っている。
それでも今日のホイル焼きは思うところあって選んだ料理だったので、僕も食事を進めながらそっとその様子を伺った。
「……雨竜」
「な、何」
唐突に竜弦が声を出したので思わず声がつかえる。竜弦は口元に手を当て、真剣な目でホイル焼きが乗った皿を見ていた。
しばしの沈黙の後、竜弦はまたナイフとフォークを手に取った。
「……いや、なんでもない」
「そう、か」
「……うまいな」
「えっ」
ぽつりと、こぼれるような言葉だった。それでも初めて聞く言葉に思わず心臓が跳ねる。
竜弦は一口、また魚を切って口に運ぶ。咀嚼して、喉を上下させ、
「うまい」
噛み締めるように竜弦はもう一度呟いて、微かに口元を緩めた。
それはもう何年も見ていない、いや、ほとんど生まれて初めて見る竜弦の笑顔で。
頭が真っ白になった僕は、床から響いた金属音でフォークを手から滑り落としたことに気が付いた。
【石田家】November 6th, PM11:06
「はい、今日の夜ご飯はオムライスとポテトサラダ、それから雨竜と一緒に作った雨竜の誕生日ケーキです」
「ありがとう、いただきます……今年も間に合わなかったな」
「雨竜、頑張ってたのよ。お父さんが帰ってくるまで起きてるんだって。結局、寝ちゃったけど」
「……息子の誕生日会にもろくに立ち会えない父親か。雨竜にはいつか怨まれるな」
「雨竜はちゃんと分かってるわよ、医者が忙しい仕事だってことくらい。それにプレゼントだってすごく喜んで……」
「それでもだ。父である私より祖父の方に懐いても仕方がない」
「竜弦さん……」
「もう少し、病院内での地位が上がれば休みも取りやすくなるんだろうがな」
「お願いだから、無理はしないでください。私も旦那様もいるとは言え……その、旦那様はお年を召していらっしゃるし……」
「ああ、分かっている。……叶絵、お前もしばらく体調はどうなんだ。寒暖の差が激しくなってきたが」
「私は最近は調子が良くて……きっと、晴れた日が続いているからね」
「そうか、それは良かった。……ところで、このポテトサラダ……」
「なに?」
「人参が随分と可愛らしい形をしているな。これは、星か?」
「雨竜の誕生日だもの、少しくらい特別にしてみるのもいいかしらって思って。型抜きも雨竜と一緒にやったのよ」
「そうか」
「雨竜は、私が縫い物をしている時ずっと傍で見てるから、きっとこういう細かい事とか、何かを作るのが好きなのね。幼稚園でも、工作は人一倍頑張ってやっているみたいだし」
「職人やデザイナーが向いているのかもしれないな」
「でもこの間、将来の夢はお医者さんだって絵に描いてたじゃない」
「……そうだったな」
「……ねえ、あなた……、!」
「! ……起こしてしまったか」
「雨竜の部屋まで聞こえるわけはないんだけど……」
「……んんー……おとうさん……?」
「雨竜、どうしたの? もう十一時よ」
「おとうさん、かえってきた……?」
「ああ、さっきな。ただいま」
「えへへ、おかえりなさい」
「……雨竜、お父さんが帰ってきたって、どうして分かったの?」
「……? わかったから……」
「……そうか。誕生日おめでとう、雨竜」
「おとうさん、プレゼントありがとう……」
「もう遅いから寝なさい」
「んー……」
「ほら、しっかり掴まって」
「うん……」
「寝かせてくるよ」
「ええ……」
「ほら、お休み雨竜」
「ねえおとうさん……」
「なんだ?」
「おかあさんとつくったサラダとケーキ、おいしかった?」
「もちろん、とてもおいしかったよ。さあ、明日も幼稚園だろう、もう寝なさい。ちゃんと布団を被って、目を閉じて」
「おやすみなさい……」
「ああ、おやすみ」
「ん…………。……」
「……眠ったか」
「お帰りなさい。……ねえ、さっきの雨竜……」
「分かっている。……霊圧感知能力の成長が、思っていたよりも早いな」
「私、ちゃんと確認したのよ。九時にはもうちゃんと……」
「眠っている間でも感覚として捉えてしまうんだろう。……雨竜が眠っている間は、もう少し霊圧を抑えた方が良さそうだな。それから、霊気避けの結界も用意しよう。私が帰ってくる度に起きるのでは、雨竜の体に良くないだろう」
「……早すぎる、と思うのは気にしすぎかしら? だって雨竜は純血じゃないのよ、なのにこんなに……」
「それでも滅却師としての能力は十分すぎると言うことだ……出来ることなら、滅却師としては育てたくないのだが」
「でもそれは、」
「分かっている。……分かっている、この町で生活する限り整も虚もついて回る、何も教えないのは酷だ」
「……それでも、あの子には滅却師になってほしくない。そうでしょう?」
「……」
「ごめんなさい、ご飯食べてる時にこんな話……」
「いいんだ、いつかはしなければならない話だ。……いつか雨竜自身が選択できるようになれば、それに越したことはないんだが」
「……そうね」
「……しかしこのケーキ、随分と甘いな」
「雨竜に合わせてるから……それにあの子、張り切ってクリームを厚く塗りすぎちゃったみたいで」
「だが随分丁寧に塗られているな……そうだ、雨竜になにか手芸でも教えてみたらどうだ。針を使わないことから何か……」
「それはいいかもしれないわね、もうすぐ寒くなるし、一緒に手編みのマフラーでも作ってみようかしら。あの子物覚えがいいから、きっとすぐ上手くなるわよ」
「それは楽しみだな。……ごちそうさま。うまかったよ」
「お粗末様でした、食器は私が片付けるからそのままにしておいて。お風呂湧いてますよ」
「ありがとう。お前もあまり遅くまで起きていると体に障る、片付けたら私のことは気にしないで早く寝た方がいい。……いつも言っているだろう、私の帰りは待たなくて良いと」
「ええ。でも今日くらいは、ね?」
「……まあ、そうだな」
「ふふ。明日は夜勤だったかしら?」
「そうだ。午前の間は家にいる」
「なら、今からゆっくり体を休めて」
「ああ、ありがとう……お休み、叶絵」
「……お休みなさい、竜弦さん」
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2016年の石田誕に間に合わせるために最終巻発売日から2日で特急で書きました。
真面目に計算していたら気付いたのですが雨竜が幼稚園児の時の竜弦って下手したらまだ研修医とかでは……?