新・ポッ●ーの日(再録)(和愁)

 11月11日。虎石はオンナノコとのデート後に空閑のバイト帰りを偶然を装って待ち伏せ、珍しく二人連れ立って寮へ帰ることに成功していた。
 学園のすぐ近くのコンビニの前で、バイクを押していた空閑が急に足を止めた。
「そうだ虎石、朝からずっと気になってたことがある」
「何だよ急に」
 空閑は、コンビニの店内を見ているようだった。
 空閑の視線の先にあるのは、コンビニの店内、レジ前に高く積まれたポッキーやプリッツといったプレッツェル菓子の箱である。
 今日は11月11日。巷ではポッキーの日、などと言う。まさか今日がそうだと愁が知ってるわけ、いやでもそういえばこいつコンビニでバイトしてるし、てかポッキーって言ったらあれじゃね? ポッキーですることってそれくらいしかなくね? などと勝手にドキドキ鼓動がはやり始め、虎石は思わずコンビニの店内と愁の間を何度も視線を往復させた。
「ぽ、ポッキーがどうかしたのかよ、愁?」
 声が上擦る。
 空閑は虎石の様子がおかしいことなどお構いなしに、静かにこう言ったのだった。
「ポッキーって……三本くらい一気に食ったらどうなると思う?」
 どうもこうもねーよ!! 三本一気に食ってもポッキーはポッキーだっつの!!
 などと全力で突っ込みたい衝動をぐっと堪え。
「……そ~~~~いや、今日はポッキーの日だっけな~……」
「は? なんだそりゃ」
「なんだよ愁~ポッキーの日知らねえのか? じゃ、ポッキー食うか」
「?」
 虎石はその場に空閑を残すと、コンビニの中に入っていった。
 五分後、店内から出て来た虎石の手にはポッキーの箱があった。
「よし愁、帰りながらポッキー食おうぜ」
「飯の前だ」
「かてーコト言うなって、どうせ全部食うだろお前。ほら」
 箱と内の袋を開け、ぐいと空閑に差し出すと、空閑はキョトンとした後、すぐに頬を緩めた。
「ありがとな」
「べっつに。今日がたまたまポッキーの日だったから……」
「ああ、そうだな」
 鷹揚に頷きなから、空閑は器用に袋からポッキーを三本引き抜いた。
 ポッキーの日知らなかったくせに、この余裕ありげな笑顔がムカつく。
 俺の気も知らないで、と勝手に拗ねながら、虎石もポッキーを一本袋から引き抜いて食べ始めた。
 店の前に立ち止まったまま、二人向き合ってポッキーを食べる。
 ちらりと空閑を見ると、予想通り、三本一気にぼりぼりと食べていた。三本まとめて口に入れているからポッキーが太く見えて、もうポッキーじゃない別の菓子を食べているように見えてくる。
「……どーだ、愁」
 全てが空閑の口の中に消えていったのを見てから声を掛けてみると、空閑はなんだか満足そうに呟いた。
「……いつものポッキーより贅沢な感じがする」
「そうか~良かったなあ。よし帰ろう」
 また連れ立って、寮までの道を歩く。虎石が歩きながらポッキーを食べていると、空閑が両手でバイクを押しながらぼそりと、
「……虎石、ポッキーくれ」
「ん? バイク俺が押すか?」
「バカかお前。そんなことする必要ねえだろ」
「なんで今馬鹿にした?」
「お前が俺に直にポッキー食わせりゃいい話だろ」
「……はあ?!」
 またとんでもないことを言い出した、と思うと同時に、虎石は気付く。
 これはいわゆる「あーん」の催促なのでは?
 すると急にそわそわしてしまう虎石。
「えっ……あー、ポッキー? ポッキー俺がお前にあげればいいわけ?」
「なんでそわそわしてんだお前」
 お前のせいだけど?!
 と言うのも気恥ずかしく、虎石は若干震える手で袋からポッキーを一本引き抜いた。
「えっと……そんじゃ愁、気持ちこっち見て……前は見ろよ、……口開けて」
 口を開ける空閑。虎石はひどいこそばゆさを感じながら、目はなるべく前に向けつつポッキーの先を空閑の口元に近付けた。
「……ん」
 ぱくり、と空閑がポッキーの先に食い付いた。そのままむしゃむしゃと、歯と舌を駆使しながら器用に口だけで食べていく。ポッキーをゆっくり空閑の口の中に押し込んでいると、なんだか餌付けしているような気分になる虎石。
 全てのポッキーが空閑の口の中に収まった。こくりと喉を上下させて嚥下してから唇に僅かに付いたチョコを舌で舐め取る仕草がやけに色っぽく感じて、虎石は思わず遠くを見て咳払いをした。
「ありがとな。もう一本くれ」
「っ?! っっっっっ……お前なあ~~~~!」
「?」
 自覚が無いのが怖い。早く寮に着いてほしい。
 ポッキーをもう一本出しながら、そう強く念じずにはいられない和泉なのだった。

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こちらと違って2016年に書いたバージョンです。