ポッ●ーの日(再録)(和愁)

和愁中学時代の捏造です。

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夜、スクール帰りにて

 その日は1日中冷え込んでおり、夜9時過ぎにスクールから出た瞬間に愁も和泉もぶるりと身体を震わせた。
「さっむ!」
「……寒いな」
「うー、さっさと駅行こうぜ」
 愁がこくりと頷き、2人は少し早歩きでスクールから駅まで向かった。とは言えスクールと駅は歩いて5分程度しか離れていないので、到着はあっという間だ。
 地元で一番大きなターミナル駅は、これから家に帰るのであろう人達でごった返している。
「腹減ったな~」
 改札口へ向かいながら和泉がぼやくと、愁は呆れたようにじっとりした目で和泉を見る。
「もう夕飯食っただろ」
「お前と違って俺は燃費がわりぃんだよ。売店寄っていい?」
「好きにしろ」
 2人は改札口前の近くにあるコンビニ型の売店に足を踏み入れる。
 店のレジ近くには「11月11日はポッキーの日!」というポップが踊り、プレッツェル系の菓子が積み上げられていた。
「おっ!そっか、今日ポッキーの日か!」
「ポッキーの日?」
「1がポッキーみたいに見えるだろ」
「なるほど」
 あまり感心しているようには見えない抑揚の薄い反応。
 和泉は積み上がっている箱菓子から、スタンダードなチョコレートのものを選んでレジに持って行った。
 売店を出て改札の中に入り、ホームへ降りる。電車が来るまでに
まだ10分はあった。2人並んでホームのベンチに腰掛け、和泉はチョコ菓子の箱を開ける。
「ほらよ」
 箱の中に2袋入っていた片方を躊躇いなく愁に差し出すと、「そんなにいらない」と言われた。
「食べねーの?」
「くれるなら食うけどそんなには食べない」
「じゃあ……ほら」
 袋を開けて差し出すと、愁は手を伸ばして袋からチョコがかかったプレッツェルを一本だけ引き抜いた。
「……ありがとな」
「どーいたしまして」
 和泉は2本一気に口にくわえてサクサクと咀嚼する。プレッツェルの程好い塩気とチョコレートの甘さが、レッスンを終えて疲れた身体に心地好い。
「んー、久々に食うとうまいな」
「ん」
 横目で幼馴染みを見ると、ポッキーの端を摘まんで少しずつ咀嚼しながら、口の中に押し込んでいた。むぐむぐ動いている頬と口元が、まるで小動物のようで。
 何故だか心臓がとくんと高鳴り、和泉は思わず目を反らした。
「? どうした?」
 愁が一旦プレッツェルを齧るのをやめてこちらを見てきた。その手には、プレッツェルがまだ半分くらい残っている。
「なっ、何でもねえ」
 心臓の鼓動が高まり、何故だか頬が熱くなる。ホームに漂う冷気が今ばかりはありがたかった。
 言える筈が無かった。
 その菓子を齧る幼馴染みを、一瞬でも可愛いと思ってしまった、などと。
 和泉はプレッツェルをもう2本袋から出して口にくわえ、一気に噛み砕いた。
 口の中で入り交じるプレッツェルの程好い塩気とチョコレートの甘さは、さっきと違って不思議とほろ苦く感じた。