明らかに何かに憑かれているが全く気付かない眉見鋭心

「そういえばここのスタジオ、出るらしいですよ」
 スタイリストのその何気ない言葉に、眉見鋭心は首を傾げ……ようとしたが、今はヘアセット中であることを思い出して一つ瞬きをする。
「出る、とは?」
「幽霊ですよ。ここのスタジオ、廃病院を改装して作ったスタジオなんですけどね。その頃から出るって噂があるんだそうですよぉ」
 廃病院を改装したスタジオ、という点はどうも確証があるようだが、出るのか出ないのかいつからなのかという部分は伝聞らしい。
 鋭心は「なるほど」と首は動かさずに相槌を打つ。
「ここは元々本物の病院だったんですね。道理で建物の外観が病院のようだなと」
「そう思いました? まあリアルな病院っぽい施設で撮影出来るのがここのウリですからね」
 スタイリストは世間話をしながらもセットの手を止めない。
「と言っても今日は病院セットでの撮影じゃないですけどね……それでもやっぱり元の建物全体が病院だからどこの部屋にも出るときは出るとかなんとか……はい、出来ましたよ」
 メイクとヘアセットを終えた鋭心は椅子から立ち上がる。首筋にふわりと風が触れたような感触を覚えたが、気にも留めなかった。