明らかに何かに憑かれているが全く気付かない眉見鋭心

 肩が重い。
 鋭心がふとそれに気付いたのは、生徒会の業務を終えて帰宅前に315プロダクションの事務所にでも寄ろうかと考えていた時のことであった。
 姿勢の良さはよく褒められるほどなのだが……と思いながらも軽く肩を回しながら、もしやこれが事務所で山下先生が時々言っている肩凝りというやつか、と気付く。アイドル活動と生徒会長・学業の両立の中で気付かぬうちに姿勢が悪くなっていたのだろうか。
 伸びをしてみても、なかなか肩は軽くならない。しばらくは私生活での自分の姿勢に気を付けて、好転しないようならプロデューサーに相談してみるべきか……そんなプランを軽く組み立てながら、通学鞄を肩に掛ける。
 西日の差し込む生徒会室にはもう鋭心以外の生徒会員は残っていない。皆下校してしまったし、最終下校時刻も近い。鋭心は生徒会室の鍵を手に、生徒会室の外に出た。
 生徒会室の鍵を閉めて靴先を職員室へ向けたその時、背後から音がした。
 こんこん、こんこん、と。それは、硬い靴底で廊下を歩いた時のような足音のように聞こえた。文化祭やオープンキャンパスといった行事での例外を除いて原則土足厳禁である校内では、上履きやスリッパではまず発生しないであろう足音だ。
 鋭心は不審に思いながら振り向いたが、オレンジでほんのり染まる廊下には誰もいない。
 気のせいだったか、と僅かに首を傾げた時、肩の重さが主張を増したような気がした。