カテゴリー: スパロボUX

【スパロボUX】お互い様(矢島と道明寺)

「……痛み止め効いてるか?」
 早朝。
 昨日から食事時以外は孔明先生の所に入り浸りの道明寺とアルヴィスの廊下で顔を合わせたかと思えば、いきなりこんなことを聞かれた。
 そして俺はと言えば、この男相手に隠し立ては意味が無い事をよく知っているものだから、こう返した。
「この環境じゃ効くものも効かないから飲んでない」
「お〜そっか。あんま無理すんなよ〜」
 ひらひらと手を振りながら、道明寺は俺が歩いて来た方へと歩き去って行ってしまった。お前のその観察眼と遠慮の無さには驚かされてばかりだよ、と思わず溜息を一つ。滅多に主張しない義手の付け根がずきずきと痛む。
 ボレアリオスのミールに攻撃を受けている竜宮島の不安定な環境は、島民だけでなく俺の右腕にも負担となっていた。

 その日の夕方、諸事情あって泥だらけになって戻って来た俺をアルヴィスへの入口で出迎えたのは道明寺だった。
 なんでここに、と言いかけた俺に、道明寺は「ほれ」と、左肩に小さな紙袋を押し付けてきた。
「そろそろ飲んどけ。お前の痩せ我慢もバレる頃だぞ」
 紙袋を受け取って中を見ると、痛み止めの錠剤だった。
「道明寺、お前……」
「少なくとも宗美さんにはとっくにバレてるからな〜」
「えっ」
「ほんとよくやるぜ、JUDA製の義手とナノマシンがあってもなお痛いくせに立上がフェストゥムの墓作るの手伝ってたんだろ」
「それは……放っとけないだろ」
 俺は一度死んでいる。墓に手を合わせてくれる人がいるコトが、忘れられていないコトがどんなに嬉しいか、知ってしまっている。だから立上を手伝った。
 まあ、地面に穴を掘って墓標の石を立てて土を被せて……という一連の作業は確かに腕に負担だったが。義手の付け根痛かったし。でも俺はこれで満足なのだ。
 道明寺はそんな俺を見て呆れたように笑いながら大仰に肩を竦めた。
「お前の自由だけどさ、無理すんなよ」
 いかにも余裕げにこう言うが。
 戦闘の合間に寝る間も惜しんで異なる世界の歴史を勉強してるこいつにだけは言われたくはない。だけど言ってやめるような奴でもない。
 だから俺は、溜息混じりにこう返すのだった。
「……お前もな」

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UXの矢島と道明寺すごい良かったです。

【スパロボUX】デモンベイン系シナリオでSANチェックされてたらやばかったねって

道明寺「しっかしまだ16年しか生きてないのにあの神話の邪神と相対することになるとは。人生何が起きるか分からんもんだなあ」
山下「やっぱ道明寺的にもあーいうの珍しかったワケ?」
「珍しいも何も、拝み屋の端くれが日本で対面することはまずないし、普通対面したら正気を失うわけよ」
「いわゆるSANチェックってヤツ?」
「それ。ダゴンだってブラックロッジが制御出来るようなフォーマットで召喚されてたからまだマシだったっつーか、他の神話生物も鬼械神の形に落とし込まれててよかったっつーか……俺達でも相手出来てよかったなーってカンジ? そうじゃなかったら戦闘の度にSANチェックだぜ」
「そんなのたまったもんじゃないッスよ……発狂したら戦うどころじゃないし」
「まあ森次さんとかは素でSAN99ありそうだから、SAN減らされてもぴんぴんして邪神をボコボコにしてそうだけどな」
「やりかねない……」

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デモンベインは未履修だったのですがクトゥルフ神話が好きなのでデモンベイン系シナリオすごい楽しかったです。
それはそれとしてUXの道明寺は神話技能がえらいことになってたのでこれがクトゥルフ神話TRPGじゃなくて良かったなあと思いました。

【スパロボUX】プレイヤーが競馬に行って帰って来ない

「大変です少尉」
「どうしたんですか、サヤさん」
「プレイヤーが競馬に行ったまま帰って来ません」
「へえ、プレイヤーが競馬に。……なんて?」
「ですから、プレイヤーが競馬に行って帰って来ません。隠しキャラ加入はまだ半分しか達成していないというのに、帰って来ません」
「ちょ、ちょっと待ってくださいサヤさん。え、何、競馬?」
「はい、競馬です。正確には競走馬を美少女に擬人化した最近流行りのゲームです」
「な、なるほど……リアル競馬場に行ったわけではないんですね」
「それはともかく由々しき事態です。何しろプレイヤーは競馬に行ってゲームの進行を著しく遅くしているだけでなく『来るべき対話』のステージでずっとお金を稼いで一向に先に進もうとしません」
「全滅プレイを利用したお金稼ぎについては競馬場関係なくプレイヤーの素のプレイスタイルの問題ですよね……?」
「……プレイヤーはこの周回でアンドレイさんとパトリックさんの加入を狙っており来るべき対話をクリアしなければこの2人は加入しない筈なのですが……」
「……それは……競馬場に意識を持って行かれてるかもしれませんね……」

※アンドレイとパトリックは後日無事加入しました。

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感想というかほぼ日記ですねごめんなさい。
一応ちゃんとアニサヤ微笑ましいな……と思いながらプレイしてました。
オグリとブルボンが好きです。

【スパロボUX】右目と左目(総士)

※本編19話と20話の間
※ゲーム上ではカットされましたが原作のヴァーダントの右目修復→プリテンダー戦での再度破壊の流れがあったという前提の話

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 そこに触れようとした時、手が震えた。
 その理由を知りたかった──いや、知りたかったのは理由ではない。何故手が震えるのか、その意味は何か、ただその疑問を形にしたかった。

「牧部長、お伺いしたいことがあるのですが、少々お時間よろしいでしょうか」
「うん? どうしたんだい、ええと……皆城クン、だっけ」
「はい。ジークフリード・システムを担当している皆城総士です」
 JUDAコーポレーション地下格納庫・通称地下神殿。
 皆城総士がここに足を踏み入れたのは、二度目だった。一度目は竜宮島を離れてここに来たばかりの頃、ファフナーの一時的な格納作業に立ち会った時である。現在ファフナーはこの地下神殿には無く、エルシャンク内部の格納庫に収められている。よって今ここで眠る機体は地下神殿の本来の住人であるマキナ達のみ。そのマキナのうちの一体──先日ここに預けられたばかりであるプリテンダーと向き合っていた牧は、総士が声を掛けると手元のタブレットからすぐに顔を上げた。
「今の作業は急ぎではないし時間も少しは取れるよ」
「ありがとうございます。僕がお聞きしたいのはヴァーダントについてなのですが、可能であればヴァーダントの近くに行けませんか」
「いいよ、見ながら話そうか」
 牧はプリテンダーに背を向けると、総士を先導する。他のマキナ達の前を横切って五分ほど歩くと、ヴァーダントは地下神殿の更に奥に格納されていた。
 総士は改めてその威容を見上げる。どこか鎧武者を思わせるその機体は静かに地下神殿を睥睨している。今は静かだが、一度ファクターを乗せれば、乗り手の圧倒的な技量によって瞬く間に戦場を制圧してしまう。その強さはつい先日の戦いでも目の当たりにしたばかりだ。
「で、聞きたいコトって?」
「マキナについて、そちらから戦術指揮官チーム宛にお渡しされた資料には一通り目を通しました。その上で感じた疑問点があります」
「ラインバレルやディスィーブではなく、ヴァーダントについてかい?」
「はい。……もしかしたらヴァーダントではなく、森次室長に対する疑問点、なのかもしれませんが」
 総士はそう前置きしてからヴァーダントから牧に視線を戻した。
「マキナはいずれの機体も自己修復能力を有している……資料にはそうありました。時間は掛かれど、ほとんどの機体は自力で損傷箇所を修復する事が可能だと。それでは何故、ヴァーダントは右目を修復しないのですか?」
「……ああ、それで森次クンに聞かないでこっちに来たってワケ」
 困ったなあ、と牧は苦笑しながら頭を掻く。
「一応聞いておこうかな、何故右目を修復『出来ない』のか、ではなく『しない』のか、と聞いたのかな?」
「第一に、森次室長はファクターである故に裸眼の視力は両目共に高いことが推察出来ます。第二にマキナがファフナーのように人の手によって戦闘用ロボットとして作られている以上、ヴァーダントが隻眼として設計・デザインされたと考えるのは不自然です。第三にマキナの操作方法はファフナーと極めて近い……マキナとファクターが一体化する必要があるのであれば、マキナ搭乗時のみ視界が奪われるのは戦闘において大きなハンデとなる筈です。……そしてヴァーダントは一度修復したはずの右目を、先日のプリテンダーとの戦闘で破壊されたにも関わらず、全く修復していませんでした。意図的に修復していないのだと見るのが最も自然です」
 総士の推理に、牧は肩を揺らして笑った。
「よく見てるねえ」
「……僕は部隊の指揮を任される者として、部隊に関わる疑問点をなるべく早く解消したいだけです。全力を出し得る状態にあるにも関わらず、森次室長のような人が何故それをしないのかと」
「なるほどね……」
 牧は腕を組み、しばし考え込む。総士の目には、どこまで話すべきかと逡巡しているように見えた。やがて牧は肩を竦める。
「ま、理由は簡単でね。森次クン自身がヴァーダントの右目を修復しようとしないんだよ」
「……あえて、ということですか」
「あえて、というのも少し違うかもなァ。僕はここにいて長いから、森次クンがファクターになってJUDAに来たばかりの頃の様子も知ってるし、何故彼がヴァーダントの右目を積極的に修復しようとしないのか、そこに彼らなりの意味があるコトは察してる」
 意味。
 その言葉を聞いた時ずきりと、左目の傷跡が疼く感覚がした。
「それがどういう意味かは知らないし、仮に知ってても答えないと思うけどね。まあでも、ほら。実際彼がヴァーダントに乗るとコックピットより外を見ても右目側の視界を奪われる状態になるのはこっちでも確認済みだけど。それでも彼は十二分に強い。それは君も知ってるだろう?」
「……そうですね」
 戦闘における森次の非常識なまでの強さはこれまでの戦いで思い知っている。その上で部隊指揮能力も高い。先日の事件で森次の裏切り疑惑が浮上して戦術指揮官チームで緊急のミーティングが設けられた際、本当に敵に回っていた場合の脅威度は間違いなくUXでトップクラスという見解で一致していた。
 結局裏切り行為は偽装であり、戦術指揮官チームが懸念していた「ヨーロッパ組未合流の現行戦力であの人とどこまで戦えるのか?」という問題は水泡に帰してくれたわけだが。
「だからウチとしては、まあ森次クンは強すぎるくらい強いから別にいっか、って感じだし、出来れば君もそういうことにしておいてくれると助かるかなあ」
「……分かりました」
 これ以上聞いても互いのためにはならない。そう結論を下す。
「僕もこれ以上の詮索はしません」
「うん、ありがとう。君の疑問解消の助けにはなったかな」
「……はい。戦術上の懸念は解消されました」
 ありがとうございました、と一礼して地下神殿を後にする。
 エレベーターで地上階に上がり、そのままビルの外に出て、年の暮れの人気少ないビル街の中をあてもなく歩く。
 とにかく一人で考えたかった。
 竜宮島にいた頃、ノートゥング・モデルの起動試験にパイロット候補生として参加した時の事を思い出す。
 あの時、左目が見えている自分を受け入れることが出来なかった。故に皆城総士はファフナーに乗ることは出来ないからと、ジークフリード・システムの搭乗者となった。
 改めて、先の地下神殿の中で知った事を反芻する。あの青い鎧武者が隻眼である理由を。
(戦いの中で十全に力を発揮するよりも、目に負った傷を抱え続けることを選ぶほどの、大きな意味か……)
 余人であればもしかすれば、似ている境遇、と評するかもしれない。
 総士はそうは思わない。比べるものだとも思わない。それぞれに抱えるものも背負うものも異なるのだから。
 ただ、自分の中にある疑問を、形にしたかった。あの隻眼のマキナのことを知れば形になるかもしれないと、思った。
 左目に手を伸ばす。指が傷跡に触れるか触れないかまで近付いた時、背筋に冷たいものが走り、肌が粟立った。
 そしてようやく形になった疑問を、自問自答する。
 ──選んだ筈だ。僕は、ファフナーに乗ることよりも、この傷を選んだ筈だ。
 ──それなのに何故、今になって傷に触れるのが怖い……?
 
 一騎がUXを脱走したのは、その翌日のことだった。

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次ページにこの話を書くに至ったUX本編の感想があります。ネタバレしてます。

【スパロボUX】その痛みは(操と森次)

「ねえ、君に聞きたいことがあるんだ」
 加藤機関との戦いに区切りを付けたアルティメット・クロスがユニオンへと向かう、その前夜。
 JUDAのレストルームで一人ノートパソコンに向き合っていた森次玲二は、自分に掛けられる声のする方にちらりと視線を向けた。相手を視認するとすぐにモニターに視線を戻して短い言葉だけを返す。
「何か?」
 声を掛けた来主操も意に介せず、近くのソファに腰を下ろす。
「総士の知識で君のことを知ってから、君という存在と話したいと思ったんだ」
「……私と?」
「うん。総士の知識で、俺はここにいる人間達の事を知った。その中で君は、俺達の求める物を持っているかもしれないから、興味があるんだ」
 それはまた、珍しい。操の言葉を聞いた森次は一つ息を吐き出すと、ノートパソコンのキーを何度か軽く叩いた。
「聞くだけ聞いておこう」
「君は、生まれつき痛覚がない……つまり、痛みを感じないんだよね。総士はそう認識していた」
「その通りだな」
「それなのに、どうして君は痛みを知っているの?」
「……」
 一瞬、森次の手が止まる。操はそれを気に留めることもなく、言葉を重ねた。
「痛みを感じないなら、本来痛みを知る機会なんてない筈でしょ。それなのに、君は痛みを知っている。矛盾しているよ」
「……そうかもしれないな」
 森次は視線はモニターに向けたまま腕を組んだ。
 真壁一騎以外と対話するならば俺より早瀬の方が余程相応しいだろうに。己の体質の思いがけない難儀さに内心でそう呆れつつ、フェストゥム相手に黙っていても仕方なかろうと己の推測の正否を確かめることにする。
「お前達は世界から痛みを消そうとしている。そんなお前達から見れば、生まれた時から痛みを感じない私の体質はある種の理想型。しかし私は痛みを知っている、その理由を知りたい。そんなトコロか?」
「そう。痛覚というものが人間が痛みを感じる感覚なのだとしたら、俺達からもう一度痛みを消して全ての人間からもそれを奪えば世界から痛みが消えるのかもしれないと思った。そんな人間がいること、君を見て初めて知ったからね。でも総士は、君に痛覚が無いと分かっているのに、君は痛みを知っている人だと認識していて……よく分からなかった。だから、君と接触してみようと思ったんだ」
「……痛覚を持たない人間が痛みを知るプロセスを知りたい、と?」
「そう。俺達は総士によって痛みを教えられるまで、痛みを知らなかったのに……君はどうやって、痛みを知ったの」
「……」
 森次はしばし黙り込んでから、ふとレストルームの入り口に視線をやる。見られているな、と思いながらもノートパソコンを閉じると、今度こそ操を見た。
 さてどのように伝えるべきか、と思案する。
 相手は少年の姿をしているとは言えフェストゥムの使者である。こちらが何を言っても本心を読み取ることが出来るのだ、昔からそうして来たように部下達の話を聞いてそれに言葉を返すのとは訳が違う……そう頭では理解しながらも、それでもそのように対話するのがきっと正しいのだろう。「皆のことよく見てるのは分かるけど表情が動かなすぎるし明らかに言葉が足りてない」、とは最近になって早瀬浩一に言われるようになったが。
 少なくとも目の前の少年相手に言葉の不足を心配する必要はないだろう。
「そもそもフェストゥムと人間とでは、コミュニケーション手段だけでなく、物の感じ方、そして思考プロセスが全く異なっている。存在のあり方も。それを前提であえて言うなら……同じだ、お前達と」
「俺達と? 君は人間なのに?」
 分からない、と言いたげに操は眉をひそめた。そうだ、と森次は頷く。
「皆城総士はお前達に痛みを教えた。存在を奪われることの痛みをその身に刻ませることによって。私もまた、ある人間によって痛みを教えられた。私の存在と同質の存在を奪われて、私は痛みを知った」
「君と、同質の存在を奪われて……?」
 ぴんと来ていないのか、操は怪訝な顔をする。これはまだ理解出来ないか、と森次は説明に適した語彙を探す。
「その存在は『私』そのものではないが、その存在が奪われることで私は私の存在が奪われるのと同等の痛みを負った」
「君の存在が奪われるのと、同等の痛み……」
 操は呟くと、じっと森次を見た。森次は臆するでも無くその視線を受け止める。操はしばし森次を見詰めたが、やがて目を逸らした。
「……君は、とても強いんだね」
「……?」
 操の発言の意図を測りかねて、森次は微かに眉をひそめる。操はどこか悲しげに笑って言った。
「あの大きな火を吐く器を前にしても恐怖を感じない君にも、恐怖という感情はある、存在を奪われる恐怖を知っている……それでも君は、その恐怖からも痛みからも逃げないで戦うことを選んだんだね」
 操の言葉に虚を突かれた森次は僅かに目を見開いた。だがそれは一瞬のことですぐに表情を引き締める。それでも僅かな動揺は伝わっているのだろう、と承知しながらも森次は小さく首を横に振った。
「……それは、私だけではない。UXで戦うコトを選んだ誰もが、そうして恐怖や痛みと向き合ってここにいる」 
「……そうか。君達は……」
 操は森次を再度じっと見て、そして項垂れた。
「誰もが、選べるんだね」
 どこか噛みしめるように呟く。
 ──伝わりは、したのか。
 森次がそれに気付くのと同時に、操は姿を消した。
 森次は誰もいなくなった空間を見詰めてしばらく黙り込む。それから眼鏡を外して目を閉じるとこめかみを押さえ、長く息を吐き出した。疲れを感じることなど滅多に無いが、何ヶ月ぶりかにひどい疲れを覚えた。最後にこれほどの疲れを覚えたのは、そう、宴会場……いや、これ以上思い出すのはやめよう。
 また眼鏡を掛け直しながらレストルームの入り口に視線をやり、そちらに向かって声を投げ掛ける。
「入って来たらどうだ」
 ドアが開くと、ひょこりと顔を出したのは浩一、山下、そして足元に犬のショコラを連れた一騎であった。
「すみません森次さん、立ち聞きするつもりはなかったんですが……」
 三人してレストルームに入って来てからとりあえずといった風に浩一が謝ると、森次は肩を竦めた。
「聞かれて困る話はしていない。……お前達はもう部屋で休んでいるものだと思っていたが」
「来主が部屋にいないようだったので、探していたんです。そしたら早瀬と山下さんに会ったので、一緒に探してもらっていました」
「もーびっくりしたッスよ、森次さんの声がすると思ったら来主と話してるし……」
「山下クンずっとそわそわしてたもんなあ」
「そわそわもするだろ!」
 部下達は相変わらずのようだった。森次は口元を微かに緩めながらも、厳しい言葉を口にする。
「騒いでいる暇があったら寝ろ。明日の出発は早い」
「すいません、俺はもう少し来主を探します。部屋に戻ったとは思いますが……」
「俺は一騎を手伝います」「ボクもそのつもりッス」
 一騎を手伝うと言いつつまだまだ寝るつもりのない部下二人に森次は呆れながらもそれは顔に出さず、閉じていたノートパソコンを開いた。
「……寝不足で使い物にならない、などという事態では話にならない。自己管理は怠るな」
「森次さんも早く休んでくださいよ、UXだと社長と緒川さんが見てないから寝てないんじゃないかって、さっき緒川さんが心配してたッスよ」
 やはりと言うべきか、緒川さんには見透かされているものだ。半分図星で半分外れだ。ほとんど眠らない時もあるが睡眠時間が取れる日は眠るようにしている。
「森次さん寝てない日があるのボクは知ってるんスからね、ほんとに作戦前夜くらいはちゃんと寝てくださいよ」
 どちらにしろ山下にはばれているわけだが。
「善処する」
「寝るつもり無いでしょそれ!」
「もぉーちゃんと休んでくださいよ!」
 森次を心配しながらも一切遠慮のない浩一と山下に、聞いている一騎が小さく笑った。
「それじゃ森次さん、ボクらはこれで。お休みなさいッス♪」
「お休みなさい、ホントにちゃんと寝てくださいよ!」
「ああ、お休み」
 山下と浩一はレストルームから出て行くが、一騎は足を止めたままだ。その足元ではショコラが座って一騎を見上げている。
「どうした?」
 森次が声を掛けると、一騎は森次に向かって小さく頭を下げた。
「ありがとうございました、森次さん。来主と、正面から話してくれて」
「大したコトではない」
「それでも、俺以外にも多くの人と対話することで来主が得るものはあると思うんです。この前も刹那さんと対話したことで、来主の中で何か新しいものがきっと生まれた。だからまだ多くの可能性がある筈だと俺は信じたい。総士も、きっとそう信じています」
 まさかその対話の相手に自分が選ばれるとは思いもしなかったが、一騎の言う事は正しいのだろう、と森次は思う。
 僅かでも対話の積み重ねが人間とフェストゥムの共存に繋がる可能性を生むのなら、世界を背負って戦う我々が対話を恐れるべきではない。
「……ああいう子供の相手は初めてではない。それだけだ」
「俺の時もそうでしたよね」
「……かもしれないな」
 あの時は随分厳しく当たったというのにそう認識しているとは。
「暉にも目を掛けてくれてたみたいで、ありがとうございました」
 続く一騎の言葉に今度こそ呆気に取られ、森次が黙り込む。一騎はそれに気付いているのかいないのか、あっけからんとして言葉を続けた。
「お礼を言いたかったんですが、タイミングを逃していて」
「…………」
 何も言わない森次に一騎は「それではお休みなさい」と一礼すると、今度こそショコラと共にレストルームを後にした。
「やっぱ一騎雰囲気変わったよなあ」「そうか?」「早瀬もちょっとは見習えよなあ」と、三人の賑やかな話し声が遠ざかっていく。
「……全く」
 三人の声が聞こえなくなってから、森次はソファに深く身を預けた。
 これだから素直すぎる子供は困る。早瀬のように厳しく当たって嫌われたと思えばいつの間にかこれだ、幼い頃から面倒を見ていたシズナ・イズナや山下ならばともかく……そんなことを思ううちに、ふと、操に言われた言葉を反芻する。
「……恐怖を知っている、か」
 フェストゥムとは言え、出会って数日の相手に見透かされるとは……そう己を戒めるが、ファフナーに乗れない自分に読心への対策など取りようもない。恐怖を知っていることを見透かされてもなお恐怖を抱えたまま向き合う方が余程建設的である。
 その恐怖の正体も、はっきりと自覚している。積極的に表に出しはしないが、それでも社長辺りには見透かされているのだろう。いや、あいつにも見透かされていたから皆を巻き込んでしまったのだったな、としばし過去の己の不甲斐なさを恥じる。
 その恐怖は自覚の有無に関わらず恐らくほとんど全ての人間が持ち得る。
 だが、来主操は人間ではない。
 生命体の本能として己の存在を失う恐怖は知っていても……己の大切なものを失う恐怖をまだ知らない。
(お前は「綺麗な空」を失う恐怖と向き合い、抱えながら、それでも存在するコトを選び続けることが出来るのか? それを奪おうとするものと戦うことが出来るのか?)
 森次はかつて、初めて知った痛みに耐えかねて己の存在を世界から消すことを望んだ。しかしそれは叶わず、その先での出会いによって己の生き方を選んだ。恐怖と向き合いながらも存在することを、そして守るために戦うことを選んだ。
 故に、彼は思いを馳せる。来主操は、対話の果てに何を選ぶのだろうかと。
 最終的に戦うことになるのであればそれは致し方無し。「JUDA特務室室長」として、躊躇無く戦う用意はある。
(それでも、もしこれ以上奪う痛みを与え合わずに済むのであれば)
 「切実な願い」を胸の内に秘めつつ、森次はまたノートパソコンのキーを叩き始めた。
(私は、対話が実を結ぶコトを願おう)

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次ページにこの話を書くに至ったUX本編の感想があります。めっちゃネタバレしてます。