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プロデューサーとモルカーと

※モルカーがいる世界線にある315プロの話です。
※もふもふえん担当創作Pが出てきます
※「モモ」という名前のオリジナルモルカーが出てきます

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 そのモルカーは、とある芸能プロダクションのいち社員に飼われていた。

 ぷい、ぷい。もすもす。
 そこはとある雑居ビルの裏口側、道路を挟んだ向かい側にある契約駐車場。
「あっ! モモちゃんだー!」
 おやつのレタスをもすもすと食べているピンク色のモルカーを見て、雑居ビルの裏口から出てきた幼い少年が歓声を上げた。駆け出そうとする少年を、隣に立っている黒いスーツの男がやんわりと肩を叩いて制止する。
「急に走ったら危ないですよ」
「あっ……ごめんなさい、プロデューサーさん」
 少年ははっとして立ち止まり、そして肩を落とした。プロデューサーと呼ばれた男は柔らかく微笑むと少年の肩から手を離す。
「道路は危ないですからね。怪我をしないためにも、そして道路を走るモルカーちゃん達をびっくりさせないためにも、気を付けましょう」
「はーい!」
 少年は元気よく手を上げて、しっかり左右を確認してから道路を渡る。プロデューサーはその隣について歩く。
「えへへ、こんにちは、モモちゃん!」
 そして道路を渡り切った少年はピンク色のモルカーのもとへ一直線で向かうと、その頭をそっと撫でた。
 モモと呼ばれたモルカーはレタスを全て咀嚼し終えてから少年をちらりと見る。そして元気に体を揺らした。ぷいぷい、と鳴くモモに、少年は花の咲くような笑顔を見せる。
「えへへ、モモちゃんふわふわだね〜」
「昨日お風呂に入りましたからね。さあ行きましょう、姫野さん」
「はーい! 今日はよろしくね、モモちゃん!」
 姫野さん、と呼ばれた少年はモモの後部座席に乗り込む。そしてプロデューサーは運転席へ。
「さあ、行きますよ姫野さん」
「はーい! 今日もお仕事、頑張りまーす!」
 元気に返事をするその少年の名は、姫野かのん。職業は、アイドルであった。

 その男は、とある芸能事務所「315プロダクション」の社員であった。アイドルのプロデューサーをして生計を立てている。現在担当しているのは、小学生アイドルユニット「もふもふえん」。岡村直央・橘志狼・姫野かのんという小学生ながら長い芸歴と高い実力を持つ3人で構成され、ファミリー層を中心に高い人気を誇るユニットである。
 プロデューサーにとってのプロデュース業の相棒が、このモルカーの「モモ」である。モモはその名の通り、淡い桃色の毛並みのモルカーだ。プロデューサーが思うに、モモは音楽が好きなモルカーだ。町の通りで流れるアイドルの曲を聞くと楽しそうに体を揺らしてぷいぷいと鳴く。移動中に曲を掛ければ、もふもふえんの3人と一緒にぷいぷいと歌う。そんなわけだからオーナーであるプロデューサーは言うまでもなく、もふもふえんの3人にもとても可愛がられていた。
「今日はお疲れ様、モモ」
 一日の業務を終え、自宅のガレージでモモにご飯を与える。
「なあモモ、仕事楽しいか? 俺は楽しいよ」
 プロデューサーはモモに語りかけるが、モモは聞いているのかいないのか、ただむしゃむしゃと人参を食べている。
「でも、まだまだ未熟な俺に比べたら、やっぱりもふもふえんの3人は凄いんだ。入社3年目の俺より業界に詳しくて、プロ意識も高くて……あの人達に相応しいプロデューサーにならないとなあ」
 仕事は楽しい。だが時に辛く、苦しいこともある。分からないこともある。自分よりよほど長い期間芸能界に関わっている3人に自分は本当に相応しいのかと迷うこともある。プロデューサーとしてアイドル達を支えねばならないと思っているのに、実際は支えられてばかりだと毎日のように痛感する。
 現場で輝くアイドル達の姿を見ればそうした苦労も一気に吹き飛ぶが、それでも日々の疲れは蓄積される。だからプロデューサーは、こうしてその日の事をモモに話しながらガレージでモモと一緒に夕飯(休みの日以外は専らコンビニ弁当である)を食べるのだった。
「なあモモ、今度のライブ、珍しく屋外でやるんだ。モルカー同伴グループ用のエリアも確保出来ることになったから、モモもライブ見れるぞ、まだ生で見たことないもんな。すごいぞ、もふもふえんのライブは。春だし温かいからな、楽しみにしてろよ」
 ぷいぷい、もしゃもしゃ。モモはプロデューサーの話など意に介せずにレタスを食べている。
 聞いてるのかなあ、というか伝わってるのかなあ。まあいいか。
「明日も、一緒に頑張ろうなあ」
 モモにそう言いながらも、自分に言い聞かせるように。プロデューサーはのり弁に乗っていたちくわ天を頬張った。

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ラジオFM◯◯ 「たかしまみのるの怪談らじお・芸能人の実体験SP」 古論クリス出演パート・怪談文字起こし

ラジオFM◯◯
「たかしまみのるの怪談らじお・芸能人の実体験SP」
古論クリス出演パート・怪談文字起こし

古論「では早速ですが、お話しさせていただきます。これは、私がオフを使って沖縄の海へダイビングに行った時の出来事です。その時は確か一月でしたが、ダイビングには申し分ない海水温でした。私は地元の顔馴染みの漁師さんのボートに乗せてもらってダイビングスポットへ向かい、海に潜って、澄んだ海の中を泳ぐ魚達と共に遊泳を楽しみました。ですが、ふと気付いたのです。今日の海は何か様子がおかしい。海が賑やかすぎるのです」
た「賑やかすぎる、というのは」
古「その日は風もなく、また大きな流れのあるエリアを泳いでいたわけでもないので、海は静かなものであろうと私は予測していました。しかし、その日の海はなんだか様子が違いました。海面を通して差し込んでくる太陽光がやけに揺らいでいる上に、魚達の動きもひどく活発であるような気がしたのです。おまけに夜行性の魚までもが姿を見せて泳いでいる。まだ太陽が高く上がっている時間にですよ。私はそれ以前にも何度か冬の沖縄の海で泳いでいるのですが、これは珍しい、いや、少しおかしいのでは? と思いまして」
た「海の様子が違ったんですね、古論さんの知っている海と」
古「はい。海は季節や時間によって様々な表情を見せてくれますが、夜行性の魚が真っ昼間に泳いでいるとなると、何らかの異変を感じずにはいられません。これは私も海から上がって早々に陸に引き返した方が良いのでは、と海面に向かった時です。声が、聞こえたのです」
た「声。海の中で声、ですか」
古「はい。聞こえるはずのない声です。こう言っていました、『うたえ、うたえ』と」
た「どんな声だったのか、とかは覚えてらっしゃいます?」
古「幼い子供の声だったのですが……歳を重ねた方にしか出せない威厳、のようなものもあって。私は思わず振り返りました。すると、十メートルほど下方にある海底に……人が、いたのです」
た「人……ですか。その時ダイビングしていたのは、古論さんの他にはいらっしゃらなかったのですか?」
古「その時そのエリアで潜っていたのは、私だけです。私を運んでくれていた漁師さんもボートに乗っていましたし、潜水する前周りに他のボートは見当たりませんでした。何より異様だったのは、その外見です。十歳前後の男の子が大きな二枚貝の中に腰掛けて、私を見上げているように見えたのです。ダイビングの装備など何一つ着けずに、豪奢な服を身に纏っているように見えましたが……あいにく距離がありましたし水中なので、あまり詳しく見ることは出来ませんでした。しかし沖縄といえど冬の海、海底十メートルです。子供が装備も無しに一人でいていい場所ではありません。どうしたものかと思っていると、その子供が私を見上げました。そしてはっきりと、また聞こえました。『うたえ、うたえ』と。子供が口を動かしているのは分かりましたが、耳から入って来るというより……頭に直接響くような感覚がありました」
た「それで古論さんは、どうしたんです?」
古「海中だと歌えないので、水面に上がることにしました」
た「ほう」
古「そしてボートに上り、漁師さんの演奏する三線と一緒に私の持ち歌を歌わせていただきました」
た「そう来ましたか」
古「はい! あの方は『歌え』、と言っていました。ですからリクエストには答えて然るべきと。私はアイドルなので!」
た「その子供の正体も分からないのに素晴らしいプロ意識ですね」
古「三曲ほど歌った後、どこか楽しそうな子供の笑い声が聞こえてきました。それから海風で少しボートが揺れて、それきり笑い声は聞こえなくなりました。私の歌があの方に届いたのでしょうか、そうであれば嬉しいのですが」
た「しかし、不思議な体験ですね」
古「ええ。ですが、時に海は人智を越えた顔を見せます。もしかしたら私が出会った方も、そうした不可思議な顔の一つだったのかもしれません」
た「沖縄と言えば人魚伝説が各地に残されていますよね」
古「人魚……そうですね。もしかしたら、彼は人魚だったのかもしれません。漁師さんも言っていました、この辺りの海では時々人魚を見る人がいると。しかし人魚であれそれ以外のなにかであれ、私は海で初めて出会った誰かに私の歌を届けられた、それで充分なのです」
た「なるほど、ありがとうございました。いやあ思いがけずほっこりするお話を聞かせていただきました」
古「いえ、私こそ番組の趣旨に沿っているのか不安でしたが、楽しんでいただけたなら何よりです」
た「古論さん海関係の不思議な話だとかを以前別の場所でもされてらっしゃいましたが、海のそういったものに好かれやすいんですかね」
古「さて、どうでしょう。私が海に好かれているのだとしたら、それはとても嬉しいことです」
た「あはは、本当に古論さんらしいですね」

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