「いいっ……加減にしろ!」
若干上擦った怒声と共に、肩をどつかれた。
20cm以上眼下から俺を見上げる顔は、目を釣り上げ眉間に思い切り皺を寄せ頬を上気させ、詰まる所分かりやすく怒っている。
ついさっきまで俺を取り囲んでいた十人強の不良全員を一人で叩きのめして追い払ったとは思えないほど細身の体躯の全身に怒りを漲らせながら、石田は腕を組んだ。
「茶渡君、君自分がどれだけ他校の不良達から目を付けられてるか分かってるだろ?なのにどうしてこういつもいつも囲まれても誘い出されても無抵抗に……大ごとになったらどうする気だ!」
「いや、お前が出てくる方が大ごとになる気がするのだが……」
夏休み中とは言え石田の現在の肩書きが「空座第一高校生徒会長」である事を思うと、多分俺だけの方が余程穏便に事を片付ける事が出来る。生徒会長が不良相手とは言え暴力沙汰になるなどとんでもない話だ。……ついでに本人の前では口が裂けても言えないが、石田に何かあった場合こいつの親父さんが間違いなく出てくる。石田の親父さんは石田の事を大事にしている分若干──いやかなり──苛烈で手段を選ばない面がある上、大病院の院長という肩書き上この町の「偉い大人」に対しても相当な影響力を持っている。そうなると一番危ないのはどう考えても石田を相手にした不良達だ。
今までの所大ごとになっていないのは、そこらの不良レベルでは石田に太刀打ち出来ず、あまりに簡単に打ち倒された不良達が石田を恐れて寄って来なくなったからに尽きる。
「……だが、いつもすまない」
とは言えいつも心配させているのは事実なので謝ると、少しだけ石田の表情が緩んだ。
「……分かってるならいい。今度他校の不良に呼び出されたら僕を呼ぶように」
そうすると大学受験を控えた石田にはあまり良くないから呼ばないのだが。多分それを言うとやはり怒られる。それでも俺が不良に絡まれたのを察知すればきっと石田は飛んでくるし、一護が不良に絡まれていても積極的に首を突っ込みに行く。井上がタチの悪いナンパに絡まれて近くに有沢がいなかった時に、通りすがりを装って助け舟を出しに来た事もあるという。
石田によれば、霊圧の揺らぎで何となくは分かるらしい。常人に過ぎない不良やナンパに絡まれた時の霊圧の揺らぎなど微々たる物……というか、そうそう揺らがないと思うのだが。石田の霊圧感知能力の高さは俺達の中でも群を抜いているとは言え、ここ最近その精度が更に高まっている。
きっかけがあったとすれば、初夏のあの大戦なのだろう。そこで石田に大きな変化が起きた。……いや、石田自身は何も変わっていない。変わったのは石田の持つ力の部分だ。石田としては複雑な経緯を辿った結果らしいが、石田の力は確かに大戦以前より更に強く、そして鋭くなっていた。
それでもその力は専ら俺達を助ける為に使っているのだから、素直ではないがどこまでも真っ直ぐで友達思いなやつだ、と思う。
「……何を笑ってるのかな」
「ム、すまん」
顔に出ていたらしい。
石田は一つ溜息を吐き出すと、くるりと踵を返した。
「もういい、さっさとここを離れよう」
「ああ」
俺も石田の後を追う。路地裏を出た石田は、人通りの多い商店街へ向かっていた。追ってきた不良がそう易々と手を出せないようにだろう。
「僕は帰るけど、茶渡君はバイトはいいのかい」
「今日は休みだ」
「そう、それじゃ気を付けて帰りなよ。最近物騒だから」
昼下がりの、買い物をする人で賑わう商店街を歩く石田。一歩先を行くその背中が少し小さく見えたような気がして、思わず声を掛ける。
「……石田」
「何?」
「疲れてはいないか?」
そう聞けば、石田は「別に」と緩く首を振りながら淡々と歩を進める。
「見て見ぬ振りをする方が疲れる」
「……そうか」
神経質な石田に、俺達の霊圧の状態が常時必要以上に伝わっている今の状態は少し酷だと思うのだが。
それでも石田は、何ということはないのだという言うように続ける。
「心配してくれてありがとう。でももう少しで、今の状態での霊圧知覚調整に慣れそうだから。気にしないでくれ」
「なら、いいんだが……」
そうは言われても、石田が心配された時に強がるタイプなのをこちらはよく知っている。
外見や性格から想定出来るより遥かに図太く強い心を持つ男だから、抱え込んでしまうのだ。
「そうだ石田」
「ん?」
「昼飯はまだか?美味いラーメン屋を見付けたんだが。お礼に奢る」
「行く」
即答。やはり奢りには弱いらしい。
「どんなラーメン屋さんなんだい?」
「豚骨ラーメンが美味い」
「豚骨ラーメンか!うん、それはいい」
……豚骨ラーメンを好きな理由はまさか、スープが白いからだろうか。
俺が考えている事など露知らず、石田の足取りが少しだけ弾み始める。その事に安堵しながら、俺は少しだけ歩く速度を上げた。
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ブレソル君でチャドの乱舞キャラが実装されたので育成のため鬼のように周回していたのですが、当方のアカウントで一番強くて周回しやすいのが雨竜だったために「このチャドの育成終わったら雨竜がチャドにキレ散らかす話を書こう」と血迷いました。
ブレソル君は周回しやすいところが好きです