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蜘蛛男と真っ赤な殺し屋(再録)(スパ&デプ)

デップー回(一回目)のあとのスパとデプ。

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「は~、お腹減ったなあ」
 いつものようにニューヨークの悪党を退治し、いつものように警察からお礼を言われ、いつものように新聞社のバイト用に自分で自分の写真を撮る。スパイダーマンことピーター・パーカーの、非日常のようないつもの日常だ。
 今日も町の平和を守った彼は、とあるアパートの屋上に腰掛けて夕日を眺めていた。
「この前はホークアイに奢ってもらったけど、流石に今日もそんなラッキーが続くわけないよなあ。S.H.I.E.L.D.は今てんてこ舞いだろうし」
「やっほーーーーーーーーーーーーーーーー☆☆☆☆☆」
「S.H.I.E.L.D.に所属すればお金が貰えるかな? でも、あんまり世界を飛び回って皆に心配かけるわけにもいかないし。いっそニューヨーク専門のヒーローってことにしといてもらって、その上でS.H.I.E.L.D.所属ってことに出来ないかな?」
「スパイディおっひさーーーー!!ねえねえ聞こえてる?!ねえねえねえ!!!!」
「……今日は、風が騒がしいな……早く帰ろう」
 スパイダーマンはそう呟いて立ち上がり、
「ねえちょっと!!久々に会ったのにひどくない?!」
「ああもう、うるさいよ!」
 スパイダーマンは振り返りざまに叫ぶと、背後に立っていたその男に向かって右手のウェブシューターから勢いよく糸を発射した。
「キャーッ!」
 スパイダーマンに首から上以外を糸で縛り上げられて手足の自由を封じられながらも、その男は水揚げされた魚のようにジタバタ暴れている。
「何の用なのさ、デッドプール!」
「ひどい!ヒドイよスパイディったら!」
「あーはいはい……久しぶり」
 幾度となく一方的に絡まれ、その度に適当にあしらったりたまに一緒に戦ったりしていた男……デッドプールを前に、スパイダーマンはやれやれと首を横に振った。空腹で気が立っていて思わず縛り上げてしまったが、別にそこまでしなくても良かったかもしれないと思いながらも糸を取ることはしない。
「せっかく日本から真っ直ぐここまでスパイディに会いに来たのに!」
「……日本?」
「そ、日本。エキゾチックジャパーン。俺ちゃんちょっとアベンジャーズに会いに行ったりして~、リーダーにして貰えちゃったりしないかな~なんて」
「アベンジャーズに会いに行ったのか?!」
「楽しかった~」
「そりゃ君の性格だったらどこにいても楽しいかもしれないけどさ……アキラ達には良い迷惑だっただろう」
 スパイダーセンスとは少し違う嫌な予感を覚えながら、スパイダーマンはデッドプールの傍にしゃがみ込む。
「ここにいるってことはどうせ断られたんだろ?流石キャップだ、君みたいなのがあの子達の傍にいたらペッパーさんやヒカルが大変だしね」
「時にスパイディ……俺ちゃん、あんたに見せたいものがあるんだけどさ」
「見せたいもの?……言っとくけど、町中でのグロはNGだよ」
「分かってるって~、とりあえずこれほどいてちょー」
「はあ……」
 スパイダーマンは溜息を吐くと、ひとまずデッドプールをそのまま抱え上げて人気の少ない公園に移動することにした。それからデッドプールを糸から解放する。
「んもう、スパイディったら激しいんだからぁ。過剰なお姉さん向けサービスは歓迎されないぞ?」
「うん、ここなら君が多少やらかしても人の迷惑にはならない。さて、で、僕に見せたい物って何?」
「ちょっち待ってー」
 デッドプールの言葉を無視するスパイダーマン。デッドプールはそれも意に介せず、ごそごそと腰のポーチの中をまさぐった。そして、
「てってれてって、てってれてっててー☆ あいあんふぃすとー!」
 妙にしわがれた声を出しながらデッドプールが高々と天に掲げたそれは、平たく角が丸い三角形のような形をしていた。それは、青い色をしていた。その中心には、スパイダーマンもよく知るヒーローの顔が描かれていた。
 デッドプールが持っていたのは、アイアンフィストの封印されたディスクだった。
「な……何やってんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 スパイダーマンは思わず、頭を抱えて空に向かって叫んだ。
「俺ちゃんこれどうしたらいっかなって思ってさ~」
 デッドプールはと言えば、アイアンフィストのディスクを手の中で弄びながらぺらぺらと喋っている。
「あ……あああ……アイアンフィスト……」
「アベンジャーズにあげても良かったんだけど~、それじゃつまんないしい?」
「何てこった、よりによってデッドプールの手に渡るなんて……」
「だからとりあえずスパイディに見せに来ちゃったんだぜ♪てへっ」
「てへっじゃないよ!今すぐ日本に帰ってアベンジャーズに渡して来い!」
「ええ~やだあ、俺ちゃんこれをスパイディに見せに来ただけだし」
「そんなこと言うなら僕が君から力づくでも奪い取る。この町にはアベンジャーズの一員であるホークアイだっているんだ」
「やっだね~」
 スパイダーマンは無言で立て続けにデッドプールに向かって糸を発射した。デッドプールはその全てをひょいひょいとダンスのステップを踏むように避け、スパイダーマンから距離を取る。そしてスパイダーマンに向かって大きく手を振った。
「じゃあなスパイディ!会えて嬉しかったぜ~!」
「僕は全然嬉しくないよ!待てデッドプール!」
「うわははははははははははは!!」
  デッドプールはあっと言う間にどこかへ走り去ってしまった。後を追っても、もうデッドプールがどこに走り去ってしまったのかも分からない。スパイダーマンはがっくりと肩を落として、次いで膝を突いた。
「何てこった……ひとまずアベンジャーズに伝えなきゃ……」
 はあ、と自然と大きなため息が漏れる。
「まあでも、前向きに考えたらどこにあるか分からないよりはデッドプールが持ってる方が安全かな……」
空を見上げ、スパイダーマンはそうぼやくのだった。そうでも考えないと、いくらなんでもアイアンフィストが不憫すぎる。
「アイアンフィスト……うっかりデッドプールに潰されたりしないでね……」
 スパイダーマンの頭の中には、去り際のデッドプールのけたたましい笑い声が響いていた。

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放送時に書いたもの。
ディスウォ時空のスパとデプはいいぞ

夏の日暮(再録)(アカツキ兄弟)

「アキラ、もうすぐバスの時間だぞ」
「うん……」
 ヒカルは腕時計に視線を落とし、墓碑の前に膝を抱えて座り込んだままのアキラに声をかけた。アキラの返事は心ここにあらずといった風で、ヒカルは苦笑いを浮かべた。
 空を見上げれば水色の中にもうオレンジ色がにじみ始めている。セミの鳴き声もいつの間にか、じりじりとやかましいアブラゼミ達のそれから悲しげなヒグラシ達のものになっている。空気も先までのうだるような暑さが少しずつ緩み始めているようだ
 お盆に兄弟二人だけで母親の墓参りに来るのはこれで二度目になる。昨年の母の命日を含めれば三度目だ。渡米中の父親からの連絡は一切なし。時々家に来ては自分たちの世話をしてくれている叔母も夏休みの期間ばかりは自分の家の方で手一杯なので、父が渡米してからは、お盆を含めた夏休みは兄弟二人だけで過ごすのが当然のことになっていた。そもそも父親だって元から研究であまり家にいないのだ、父から一切連絡が来なくなったということくらいしか変わりがない。
 それでも時々、ヒカルの目から見たアキラは寂しそうに見えた。あまりそれを表に出しはしないものの。
「……アキラ。今の時間のバスを逃したら駅まで歩いて行くことになるよ」
 ヒカルはアキラの傍にしゃがみ込み、軽くその肩を叩いた。
 するとアキラが小さく身動ぎした。
「なあ兄さん……」
「何?」
「父さん、今年も連絡して来なかった」
「……そうだね」
「父さん何やってんだろ……何でお盆にも母さんの命日にも、クリスマスにも……俺や兄さんの誕生日にも連絡して来ないし」
「父さんが連絡して来ないのなんて、いつものことだろ」
「そうだけどさあ……」
 自分の腕の中に顎を埋めたアキラの目は、真っ直ぐに母親の墓石を見ていた。
「こういう時くらい連絡して来てもいいじゃんか……」
「じゃあアキラは、父さんが嫌い?」
「むう……」
 アキラが頬を膨らませる。
「兄さんズルい……」
「あはは。さ、帰ろ」
「うん」
 ヒカルは立ち上がり、アキラに手を差し出す。アキラはあっさりヒカルの手を取った。ヒカルに引っ張られ、アキラは立ち上がる。
「荷物持つよ兄さん」
「ありがとう。それじゃ、こっちお願い」
「うん」
 スポンジやたわしが入った小さなバッグをアキラに渡すと、ヒカルはその他諸々の仏具が入ったトートバッグを持ち直した。それから腕時計を覗き込み、表示されている数字にぎょっとした。
「うわ、もうすぐバスが来る! 走るぞアキラ!」
「わあ!! ごめん兄さん!」
「いいから走って!!」
 バス停に向かって走りながらも、バスには間に合わないかなあと頭の片隅でヒカルは思った。
 もし間に合わなかったら、今日の夕ご飯は外食にしよう。久々の外食だ、アキラが食べたいものをお腹いっぱい食べさせてあげよう。
「兄さん、バスが!」
「あっ……ああ~……」
 視界の遥か前方、バス停から既に発車してしまった路線バスの姿を捉え、ヒカルは苦笑いしながら走る速度を緩め、やがて立ち止まった。
「間に合わなかったね……」
「ううっ……兄さんごめん……」
 後から走って来たアキラががっくりと肩を落とすので、ヒカルは「仕方ないよ」とアキラの肩を叩いた。
「駅まで歩こう」
「三十分歩くのかあ……」
「しょうがないだろ。そうだ、帰ってからご飯作ったら時間遅くなっちゃうし、今日はレストランにでも入ろうか。アキラの入りたいところで良いからさ」
「ホント?! やったー!!」
 先までの沈み顔はどこへやら、アキラは満面の笑みを浮かべながら両腕を天に突き上げた。その様子を見てヒカルは胸を撫で下ろす。
 よかった、いつものアキラだ。
「それじゃ、行こうか」
「うん! 早く行こう兄さん!」
 自分より先を歩き始めたアキラの背中を見ながら、ヒカルはその後ろを歩く。
 父の不在でアキラが寂しい思いをしているのは分かっているし、自分ではその寂しさを消せないことも分かっている。それでも、アキラが少しでも寂しい思いを和らげることが出来るのなら、それでいい。
親にはなれなくても、『親代わり』にならなれる。
「父さんには適わないなあ……」
 ほとんど無意識に発せられた蚊の鳴くような呟きは、ヒカル自身の耳にも届くことなくひぐらしの合唱の中に溶けてかき消されたのだった。

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放送時に書いたものです。
兄さん幸せになって

らばとなお

「わあ、お二人こうして並ぶと本当の兄弟みたいですね!」
 着替えやメイクを終え、スタイリストにそう言われた薫が同じく着替えやメイクを終えた直央を見ると、直央は顔を真っ赤にして薫から目を反らした。
 今日の仕事はドラマの撮影。315プロダクション所属・DRAMATIC STARSの桜庭薫ともふもふえんの岡村直央の二人で、兄弟役で一話限りのゲスト出演をすることになった。いずれ二人には一緒にお仕事して欲しいと思ってたんですよ、とプロデューサーには熱弁された。
 ーー桜庭と直央って、なんか似てるよな!
 そんなことを某馬鹿が言っていたな、と薫はふと思い出す。
 名家の長男と年の離れた弟、という設定のキャラクターに合わせた、同じブランドの仕立てのいい服を着て並ぶと、成る程確かに兄弟に見えるのかもしれなかった。
自分以外全員年下の未成年という選抜メンバーと共に仕事をしたことはあるし、直央を初めとするもふもふえんのメンバーとは事務所でよく会う。一緒に仕事をするのは初めてだった。
 「弟」である自分が「兄」の役を演るという不思議な違和感と、自分より年下の直央の方が演技経験は長いというギャップ。今日はむしろ学ばせてもらうくらいの姿勢でいよう、と姿見を見て改めて思う。
「今日はよろしく頼む」
 直央の方を見て言うと、直央は慌てたように、同時に少しだけ怯えたように、
「よっ、よろしくおねがいします!」
 と頭を下げたのだった。
 ーーいいですか薫さん、もふもふえんの子達はまだ僕達より小さいんですから、あんまり怖い顔しちゃダメですよ!
 そういえば柏木にそんなことを言われた、と思い出したのは、そのすぐ後のことだった。

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2016年5月頃に書いたもの。
当時はまだドラもふ共演イベがなく、事務所の寸劇で絡みが描写されていた程度で桜庭と直央の距離感もよくわからず、この二人兄弟みたいだけど絡み少ないなあと思って書いたものです。
執筆当時Privateerに掲載していたのですがあまりに短く単品で別所に公開するにも気が引けてどこにも出さないままだったのでここで公開出来て良かったです。
サッカーイベ最高だった……

ふかきそこから(※クトゥルフ神話パロ)(レジェ)

レジェのクトゥルフ神話パロ?です

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北村想楽はその日、クリスと事務所の待機スペースで向かい合わせに座りながら次の仕事までの時間をどうということない雑談で潰していた。

「深きものども、ですか」
「うん。クリスさん、深きものどもとかダゴンとか、クトゥルフ神話は知ってるのかなーって」
「無論です。海を題材とした神話は数ありますが、海がキーファクターとなる創作神話の中でクトゥルフ神話は最も広く人口に膾炙したものですから」
「ふーん」
この人は海についてなら本当になんでもありだなー、と思いつつ想楽は賢が淹れた番茶をすすった。
「ですが何故突然クトゥルフ神話の話など?」
「この前、バイトしてた雑貨屋にちょっと用があって行ったら、店頭で特集しててねー。TRPGのルールブックとか置いてあって」
「なるほど。そう言えばクトゥルフ神話は、ラヴクラフトやダーレスの作品だけでなくテーブルトークRPGが日本では主流なのでしたね。Call of Cthulhuと言いましたか」
クリスは頷くと、目を輝かせながら身を乗り出す。
「深き海の底に眠るかつて地球を支配した神、その神を信奉し我々の中に紛れて暮らす海を故郷とする者達……大いなる海の神秘を感じませんか?」
「うーん、いつものクリスさんだなー」
苦笑しながらお茶請けのどら焼きをかじる。恐らくこういう話は雨彦の方が相手にするのが得意なのだが、雨彦は到着がもう少し遅れるという。
「クリスさん的にはクトゥルフ神話もアリなんだねー」
「ええ。クトゥルフ神話は、海に纏わる神秘らその可能性の宝庫です……そう、海には大いなる神秘が隠されているのです」
「え?」
クリスの声色がいつもと違う気がして、想楽は思わず長い髪の陰になったクリスの顔を見つめた。
ふと、ぞわりと急に背筋に冷水が流れたような感覚がした。
目の前にいるクリスが何故だか自分がよく知るクリスのようには思えなかった。その長い髪の隙間から覗く目は陰って深い紺色をしているように見え、その目を見ていると想楽は全身に震えが走るような気がした。
決して感じる筈のない嫌悪感のようなものが、今目の前にいる男に対して何故だか体の内から湧き上がって来るように感じてしまう。想楽は寒気を感じながら恐る恐る口を開いた。
「……クリスさん?」
「おっとお二人さん、遅れてすまないな」
聞き慣れた声と共に、ぱきん、と頭の隅で薄氷が割れたような音がした。
「おや、遅かったですね雨彦」
そう言ってクリスが顔を上げる。想楽も釣られて顔を上げると、いつの間に事務所に到着していたのか、雨彦が立っていた。現れた雨彦を見上げるその笑顔はいつものクリスで、嫌悪感のようなものも全く感じられず、想楽は内心で胸を撫で下ろした。
「そうだ古論、プロデューサーが呼んでたぜ」
「おや、ありがとうございます雨彦。では私は少し席を外します、想楽」
クリスは立ち上がり、にこりと笑って立ち去って行った。
ああ、いつものクリスさんだ。改めてそう思い安堵から息を吐き出すと雨彦が立ったままひょいと身を屈めて想楽の耳元で囁いた。
「……北村、『見た』な?」
「っ!」
先の悪寒が蘇り思わず後ずさると、雨彦は「やっぱりな」と苦笑する。
「古論はたまにああなるみたいだな。いつもの海の話くらいならどうってことはないが……ま、その海の神様周りの話は避けることだ」
雨彦はそう言って笑うと、クリスが座っていた位置は空けつつ想楽の向かいのソファに座る。長い足を持て余すようにして組むと、ひょいと菓子盆に盛られたお茶請けのどら焼きに手を伸ばした。
「……雨彦さんは、クリスさんがああなる理由、何か知ってるのかな?」
「いいや、詳しくは知らないさ。古論も自覚はないようだな」
雨彦はどら焼きの封を開けてぱくりと一口、しばし咀嚼し喉仏を上下させてからまた口を開いた。
「俺に出来るのは、ああなったら適度につついて元に戻すことくらいだ」
「……そっかー」
こんな言い方をされれば、この食えない男にどう食い下がっても無駄だろうということは経験上分かっている。そして、本当に雨彦もクリスのあの状態についてはよく分かっていないのであろうことも、経験で分かる。
「……もっとも、どっちが『元』なのかは俺には分からないがね」
「……」
雨彦の言葉が何時になく重く聞こえ、想楽は不安を誤魔化すかのように湯呑に手を伸ばす。番茶はいつの間にか冷め切っていて、冷水が喉を通るような心地がした。
ふと、その温度に想楽は思い出した。

──あの時のクリスさんの目、夜の海に似ていたな。

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